環境法令ガイド

環境基本法 Basic Environment Law

法律のあらまし

環境基本法は、環境に関するすべての法律の最上位に位置する法律です。環境保全に向けた基本的方向を示しています。

■総則(第1条~第13条)
・環境の恵沢の享受と継承等(第3条)
・環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築等(第4条)
・国際的協調による地球環境保全の積極的推進(第5条)
■環境の保全に関する基本的政策(第14条~第40条の2)
・環境基本計画(第15条)
・環境の保全上の支障を防止するための経済的措置(第22条)
■環境の保全に関する審議会その他の合議制の機関等(第41条~第46条)
■用語一覧(五十音順:別ウインドウ)
■全条文(e-Gov)
日本の固有植物のヤマザクラ(山桜 Cerasus jamasakura バラ科サクラ属 落葉高木)。分布地は本州・四国・九州で、山地に自生しています。日本の野生桜の代表種で、古くから人々に親しまれています。

 環境基本法は、環境保全に向けた枠組みを示した基本的な法律です。環境に関するすべての法律の最上位に位置します。環境の保全に向けて、環境法の基本理念(条文解説「3・4・5条」参照)を明らかにし、社会の構成員それぞれ(国、地方公共団体、事業者、国民)の役割を定め、環境保全のための施策の基本となる事項や方法を定めることで、現在だけでなく、将来の国民の生活の確保、さらには人類の福祉に貢献することを目的としています。


環境保全関係の歩み

 1960年代・・・ 四大公害事件
 1967年  ・・・ 公害対策基本法
 1970年  ・・・ 公害国会
                   (公害関係14法の整備・改正)
 1972年  ・・・ 自然環境保全法
 1993年  ・・・ 環境基本法

 1960年代に起こった四大公害事件(熊本水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそく)の体験を経て、公害法に重点が置かれるようになりました。


 1960年代半ばころまでは、戦後の経済成長の過程で公害が各地に発生し、個別法での取り組みが行われましたが、これらは対症療法的な対応のみであり、十分なものではありませんでした。その後、1960年代半ばから1970年代にかけて公害対策の充実化が図られてきました。1967年には公害対策基本法が制定され、1970年の臨時国会(いわゆる公害国会)では14の公害関係の法律の整備・改正が行われ、公害対策基本法から 経済調和条項(⇒用語説明の小窓)が削除されました。 個別法が制定されるとともに、公害対策基本法と、1972年に制定された自然環境保全法によって、公害法と自然保護法の体系が確立しました。
 公害対策基本法と、自然環境保全法の政策原則部分を取り入れて、1993年に環境基本法が制定・施行されました。こうした枠組みの転換の背景には、環境問題をめぐる時代や経済社会の変化があります。


 大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済活動が定着したことで、都市型・生活型公害や廃棄物の排出量が増加し、酸性雨やオゾン層の破壊や地球温暖化のような地球環境問題が発生しました。このため、環境基本法を制定し、2つの法体系に分かれていた公害法と自然保護法を総合的な法体系として統一し、廃棄物問題や地球環境問題に対処するために、規制手段のみならず、種々の施策を計画的に推進する法的枠組みであることが求められたのです。


 環境基本法について特に注目されるのは、 「持続可能な発展」(⇒用語説明の小窓)の考え方を取り入れたことです。 (条文解説、 大量生産・大量消費・大量廃棄の社会からの経済の見直しで、環境の保全に向けた大きなパラダイム転換(従来の世界観、考え方を見直し新しいものに転換すること)になっています。そのほか、規制的手法だけでなく経済的手法も取り入れたこと、環境基本計画を法定計画として定めたことが注目されます(条文解説「15条」参照)


四季折々にすばらしい景観を見せてくれる日本の豊かな自然。中禅寺湖湖畔に咲く日本固有種のオオヤマザクラ。

環境保全の基本理念(第3条~5条)

環境基本法は、環境問題に対応した環境法の3つの「基本理念」を示しています。
 
 
 
 
特に、「持続的発展が可能な社会の構築」を掲げたことは、大きなパラダイム転換です。

 環境基本法における基本理念として、①健全で恵み豊かな環境の恵沢の享受と継承(3条)、②環境負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築(4条)、③国際的協調による地球環境保全の積極的推進(5条)という3つを掲げています。


 第一(3条)に、人類の存続基盤である環境は生態系の均衡によって成り立っているが、人為活動による環境への負荷によって損なわれるおそれが生じているという認識を示しました。その上で、現在および将来世代の人間が健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受するとともに、これが将来にわたって維持されるようにすべきであるとしています。良い環境を享受するというのは環境権に通じる考え方ではありますが、権利として 環境権(⇒用語説明の小窓)は明示されてはいません。

 

 第二(4条)に、持続的発展が可能な社会の構築と、未然防止を示しています。

 持続的発展が可能な社会の構築については、従来の大量生産、大量消費、大量廃棄型の社会を見直し、そこからのパラダイム転換がなされています。この「持続的発展な社会の構築」には、「持続可能な発展」の考え方が表れています。


 1992年に開催された「環境と発展(開発)に関する国連会議」で採択されたリオ宣言で、 「持続可能な発展」(⇒用語説明の小窓)がキーワードとして用いられました。持続可能な発展概念は、それぞれの宣言・条約等によってニュアンスは異なりますが、現在のところ、経済・社会・環境を統合する(これらすべてが持続可能でなければならないとする)原則という理解が一般的になっています。この考え方を表し、環境基本法4条では、健全で恵み豊かな環境を維持しつつ、経済の発展は環境への負荷の少ないものとしなければならないとしています。


 また、環境汚染が生じてから対策をとるのではなく、科学的知見に基づき環境汚染が生じるのを未然に防ぐべきとする、未然防止の考えが示されています。環境基本法で 未然防止原則(⇒用語説明の小窓)がはっきりと明示された形となっています。

 

 第三(5条)に、地球環境保全を国際的協調の下で行わなければならないとしています。これは地球環境保全が人類共通の課題であるとともに、わが国の国民の福祉を確保する上でも必要であること、わが国の経済社会が国際社会の相互依存性の中で営まれていることを根拠としています。


 これら基本理念の下に、国・地方公共団体・事業者には、それぞれ環境の保全のために果たすべき責務が存在しています。


この美しい地球環境の保全が人類共通の課題となっています。写真は、日本科学未来館にある地球の姿をリアルに映し出すGeo-Cosmos(ジオ・コスモス) 。面上を流れる雲の映像は、気象衛星が撮影したデータを毎日取り込んで反映させています。

(環境の恵沢の享受と継承等)

第3条 環境の保全は、環境を健全で恵み豊かなものとして維持することが人間の健康で文化的な生活に欠くことのできないものであること及び生態系が微妙な均衡を保つことによって成り立っており人類の存続の基盤である限りある環境が、人間の活動による環境への負荷によって損なわれるおそれが生じてきていることにかんがみ、現在及び将来の世代の人間が健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受するとともに人類の存続の基盤である環境が将来にわたって維持されるように適切に行われなければならない。


(環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築等)

第4条 環境の保全は、社会経済活動その他の活動による環境への負荷をできる限り低減することその他の環境の保全に関する行動がすべての者の公平な役割分担の下に自主的かつ積極的に行われるようになることによって、健全で恵み豊かな環境を維持しつつ、環境への負荷の少ない健全な経済の発展を図りながら持続的に発展することができる社会が構築されることを旨とし、及び科学的知見の充実の下に環境の保全上の支障が未然に防がれることを旨として、行われなければならない。


(国際的協調による地球環境保全の積極的推進)

第5条 地球環境保全が人類共通の課題であるとともに国民の健康で文化的な生活を将来にわたって確保する上での課題であること及び我が国の経済社会が国際的な密接な相互依存関係の中で営まれていることにかんがみ、地球環境保全は、我が国の能力を生かして、及び国際社会において我が国の占める地位に応じて、国際的協調の下に積極的に推進されなければならない。


環境基本計画(第15条)

環境基本計画は、環境基本法制の柱となっています。
 
 
 
 
今後数年間にわたって、政府はどのような環境保全の施策を実施すべきかについて、大枠となる計画が策定されます。

 環境の保全に関する多様な施策を総合的・計画的に推進する中心的な手段となるのが、環境基本計画です。国レベルにおける環境行政の総合化のための枠組みとなる同様の種類の計画は、環境基本法制定以前にも環境庁単独によるものが存在しました。しかし、環境基本計画は、環境省(以前は、環境庁)だけでなく政府全体としての環境保全の政策の基本的方向を示した計画になっています。


 環境基本計画は、政府自らが行う施策についての計画であり、政府の取り組みの方向を示したものですが、それとともに、地方公共団体、事業者、国民のあらゆる主体に期待される取り組みが定められていることが特徴として挙げられます。

 また、環境基本計画は、法定計画として位置づけられたことが注目されます。環境大臣が中央環境審議会の意見を聴いて案を作成し、閣議決定によって定められます。この策定過程において、国民・各種団体が意見をする機会も与えられています。計画策定後、毎年、計画の進捗状況について点検が行われています。そして、現在のところ、6年ごとに改訂がなされています。


 1994年12月、最初の環境基本計画が策定されました。その後、2000年12月に第二次環境基本計画、2006年4月に第三次環境基本計画が策定され、現在は、2012年4月に策定された環境基本計画(環境省ホームページ参照)の下にあります。


 第四次環境基本計画は、環境基本法およびそれ以前の環境基本計画の基本的な理念となっている、持続可能な社会の構築を引き続き目指すとしています。しかし、環境や社会経済の状況が変わっており、持続可能な社会の姿の捉え方は変化しているとされています。そのため「低炭素社会」・「循環型社会」・「自然共生社会」の各分野を統合的に達成することが持続可能な社会を構築するために必要であるとしました。それに加え、「安全」が確保される社会がその基盤であると位置づけました。


 「第四次環境基本計画において目指すべき持続可能な社会とは、人の健康や生態系に対するリスクが十分に低減され、『安全』が確保されることを前提として、『低炭素』・『循環』・『自然共生』の各分野が、各主体の参加の下で、統合的に達成され、健全で恵み豊かな環境が地球規模から身近な地域にわたって保全される社会である」とされています(第四次環境基本計画 「第1部第1章第2節(2)目指すべき持続可能な社会の姿」参照)


「持続可能な社会」の概念図
第四次環境基本計画の参考資料(パンフレット)の付図を一部加筆修正)

(環境基本計画)

第15条 政府は、環境の保全に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、環境の保全に関する基本的な計画(以下「環境基本計画」という。)を定めなければならない。


2 環境基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 環境の保全に関する総合的かつ長期的な施策の大綱
二 前号に掲げるもののほか、環境の保全に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項


3 環境大臣は、中央環境審議会の意見を聴いて、環境基本計画の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。


4 環境大臣は、前項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、環境基本計画を公表しなければならない。


5 前2項の規定は、環境基本計画の変更について準用する。


環境の保全上の支障を防止するための経済的措置(第22条)

環境基本法では、環境政策の手法として、伝統的な規制的手法(⇒用語解説の小窓)規制的手法とは異なる「経済的手法」の導入の可能性が示されています。
 
 
 
 
 
従来の規制的手法では対応が困難な環境問題への対処方法です。

 規制的手法は、汚染者の行動を直接統制し、行政機関が排出者に与える命令を内容とするものです。それに対し、経済的手法は、市場を用いて汚染者の活動を間接的に統制するものです。


 環境基本法では、助成措置(22条1項)と、経済的な負担を課す措置(22条2項)が挙げられています。前者は、補助金などの経済的インセンティブ(誘引)を与える措置であり、後者は、税・賦課金、排出枠取引(排出量取引)、デポジット制度などの経済的ディスインセンティブ(抑止効果)を与える措置になります。



「環境の保全上の支障を防止するための経済的措置」の構造

 税・賦課金制度は、汚染物質の排出や原料物質の投入等について、その量に応じて税・賦課金を課するものです。特に、地球温暖化防止のための温室効果ガスの排出削減や廃棄物の削減において効果的な制度です。例えば、地球温暖化の分野では、2012年に地球温暖化対策税が導入されています。この税は、石油・天然ガス・石炭といったすべての化石燃料の利用に対し、CO2排出量に応じた額を上乗せして課税するものです。


 廃棄物に関しては、ゴミ(一般廃棄物)の有料化が進められています。また、地方自治体によっては、産業廃棄物税も実施されています。


 排出枠(排出量/排出権)取引制度は、各工場が汚染物質を排出できる量(排出枠)をあらかじめ定め、その割当量を超えて排出しようとする企業については、余裕のある他の企業から排出枠の一部を買うという制度です。国際的な排出枠取引は、気候変動枠組条約の第3回締約国会議で採択された京都議定書で導入されたことで、地球温暖化対策の一つとして国際的な注目を浴びました(環境法令ガイド「温対法」参照)。日本国内では、地球温暖化対策として二酸化炭素を対象とし、東京都、埼玉県で排出枠取引制度が導入されました。


 デポジット制度は、環境負荷をもたらす可能性のある製品(飲料容器など)に預かり金を上乗せして販売し、消費者が使用済み後回収システムに返還する際に、預かり金の払い戻しがなされる制度です。容器などの廃棄物の回収率が上がり、ゴミ散乱防止につながるインセンティブになります。


 規制的手法には、①一律規制であるため、規定レベルまでの汚染削減をするにあたって高額費用を要する事業者であっても、その費用をかけて自ら実現しなければならない、また、②削減レベルを達成した時にそれ以上の削減を継続するインセンティブは存在しない、という欠点があります。


 これらの欠点を補うものとして、経済的手法が注目されています。経済的手法は、事業者間での排出枠取引を認めたり、汚染物を排出している限り賦課金を課したりすることで、汚染削減を実現する効率性と環境保護のインセンティブ効果を有しています。


 一方で、経済的手法には、適正な賦課料率や排出枠の割当ての決定が困難であるという問題や、賦課金では緊急な汚染物質の削減や局所的な汚染の改善には適さないという問題があります。経済的手法は、それだけを用いるのではなく、規制的手法等と対象分野に応じて適切に使い分け、効果的に組み合わせることが求められています。


石油・石炭といった化石燃料の利用に対し、地球温暖化対策税が導入されています。(東京電力品川火力発電所)

(環境保安上の支障を防止するための経済的措置)

第22条 国は、環境への負荷を生じさせる活動又は生じさせる原因となる活動(以下この条において「負荷活動」という。)を行う者がその負荷活動に係る環境への負荷の低減のための施設の整備その他の適切な措置をとることを助長することにより環境の保全上の支障を防止するため、その負荷活動を行う者にその者の経済的 な状況等を勘案しつつ必要かつ適正な経済的な助成を行うために必要な措置を講ずるように努めるものとする。


2 国は、負荷活動を行う者に対し適正かつ公平な経済的な負担を課すことによりその者が自らその負荷活動に係る環境への負荷の低減に努めることとなるように誘導することを目的とする施策が、環境の保全上の支障を防止するための有効性を期待され、国際的にも推奨されていることにかんがみ、その施策に関し、これに係る措置を講じた場合における環境の保全上の支障の防止に係る効果、我が国の経済に与える影響等を適切に調査し及び研究するとともに、その措置を講ずる必要がある場合には、その措置に係る施策を活用して環境の保全上の支障を防止することについて国民の理解と協力を得るように努めるものとする。この場合において、その措置が地球環境保全のための施策に係るものであるときは、その効果が適切に確保されるようにするため、国際的な連携に配慮するものとする。


参考文献など

●参考文献
大塚直『環境法BASIC』(有斐閣、2013年)、大塚直『環境法[第3版]』(有斐閣、2010年)、畠山武道『考えながら学ぶ環境法』(三省堂、2013年)、 阿部泰隆・淡路剛久編『環境法[第4版]』(有斐閣、2011年)