環境法令ガイド

生物多様性基本法 Basic Act on Biodiversity

法律のあらまし

わたしたち人類は、生物多様性の恩恵を受けて生存しています。しかし、現在世界各地でさまざまな生物をおびやかす開発が進み、多くの動物や植物が姿を消し、生態系も破壊され続けています。また、外来種による生態系の破壊、地球温暖化による影響など、生物多様性の危機的状況に直面しています。
生物多様性基本法は、わが国で初めて生物多様性の保全を目的とした法律です。環境基本法の下に位置づけられています。

■総則(第1条~第10条)
・基本原則(第3条)
■生物多様性戦略(第11条~第13条)
・生物多様性国家戦略の策定等(第11条)
■基本的施策
・国の施策(第14条~第26条)
・地方自治体の施策(第27条)
用語一覧(五十音順:別ウインドウ)
■全条文(e-Gov)
世界の絶滅危惧植物ショクダイオオコンニャク(燭台大蒟蒻、Amorphophallus titanum サトイモ科コンニャク属)インドネシア・スマトラ島の限られた場所に生えます。世界でもっとも大きい花序をつける植物といわれています。

  人類は、地球生態系の一員として他の生物と共存しており、生物を食糧・医薬品などに幅広く利用しています。その一方で、国際的に、1970年代頃から野生生物の種の絶滅やその原因となっている生物の生息環境の悪化および生態系の破壊に対する懸念が深刻なものとなりつつあるため、個別の野生生物種や特定地域の生態系を保護する複数の条約が採択されました。しかし、それだけでは不十分であると考えられるようになり、生物多様性を包括的に保全し、生物資源の持続可能な利用を行うための国際的な枠組みを設ける必要性が国連等において議論されるようになり、1992年に 生物多様性条約 が採択されました。


  わが国は1993年に生物多様性条約を締結しました。また、1993年に制定された環境基本法では、「生態系の多様性の確保、野生生物の種の保存その他の生物の多様性の確保」を基本的施策の1つに位置づけました(環境基本法14条2号)。

  この時点で政府は、既存の複数の法律を組み合わせることで生物多様性が確保され、生物多様性条約を批准する要件を十分に満たしているとして、新法の制定を検討しておりませんでした。これに対し、 鳥獣保護法(現在は鳥獣保護管理法)種の保存法外来生物法(リンク:環境法令ガイド)などで野生生物の保護はなされているが、法律の保護対象から漏れている野生生物が多いという指摘や議論も多く存在しました。その指摘や議論を踏まえて、生物多様性の確保に特化した法律として、2008年に「生物多様性基本法」が議員立法により制定、公布されました。


  生物多様性基本法は、環境基本法の下に位置づけられており、生物多様性が人類の生存基盤のみならず文化の多様性を支えており、国内外における生物多様性が危機的な状況にあること、わが国の経済社会が世界と密接につながっていることを明示し、本基本法の必要性を主張しています(生物多様性基本法前文より)。

  その上で、生物多様性の保全および持続可能な利用に関する施策を総合的かつ計画的に推進することにより、豊かな生物多様性を保全し、その恵沢を将来にわたって享受できる自然と共生する社会の実現を図り、地球環境の保全に寄与することを法律の目的としています(生物多様性基本法1条)。


  基本原則として、予防的・順応的取り組みを挙げていることが本法の特徴です(生物多様性基本法3条)。また、目的の実現に向けた国、地方公共団体、事業者、国民および民間団体の責務が明らかにされています。具体的には、国と地方公共団体による基本原則にのっとった施策の策定および実施、事業者・国民・民間団体による基本原則にのっとった活動等への努力などが責務として示されています(生物多様性基本法4~7条)。


  この法律では13の基本的施策が示されています(生物多様性基本法14~27条)。注目されるのは、例えば、事業計画の立案段階での生物多様性に係る環境影響評価の推進の規定が入れられたことです(生物多様性基本法25条)。また、生物多様性戦略(国家戦略、地域戦略)の策定が義務づけられています(生物多様性基本法11条)


基本原則(第3条)

生物多様性基本法は、生物多様性の保全と持続可能な利用について基本原則を明らかにして、その方向性を示しています。
生物多様性や生態系にはまだ科学的に解明されていないことも多く、また、一度損なわれた生物多様性は再生することが困難であるという視点から、「予防的な取り組み」と「順応的な取り組み」が特に注目されます。

  生物多様性基本法は、生物多様性の保全と持続可能な利用について基本原則を明らかにして、その方向性を示しています。


  3条1項では、生物多様性の「保全」と「持続可能な利用」をバランスよく推進することが求められています。保全について、野生生物の種の保全等が図られるとともに、多様な自然環境を地域の自然的社会的条件に応じて保全することが求められます。


  一方、3条2項では、利用について、生物多様性におよぼす影響が回避されまたは最小となるように、国土および自然資源を持続可能な方法で利用することが求められます。特に影響の回避・最小化が重視されています。

  また、「持続可能な利用」とは、現在および将来の世代の人間が生物多様性の恵沢を享受し、人類の存続の基盤である生物多様性が将来にわたって維持されるように、生物多様性の構成要素を利用することをいいます。生物多様性の持続可能な利用となるように、生物多様性の構成要素や生物多様性の恵沢の長期的な減少をもたらさないことが重要となります。


  3条3項には、生物多様性の保全と持続可能な利用をバランスよく推進するにあたって、具体的な考え方が示されています。

  まず、「保全と利用」は、生物多様性が微妙な均衡を保つことによって成り立っており、科学的に解明されていない事象が多いことおよび一度損なわれた生物多様性を再生することが困難であることに鑑みた、予防的・順応的取り組みです。


  順応的な取り組みは、事業等の着手後においても生物多様性の状況を監視し、その監視の結果に科学的な評価を加え、これを当該事業等に反映させる順応的な取り組み方法により対応することを旨として行われなければならないとしています。これは、順応的管理(アダプティブ・マネジメント)という管理手法の現れとされます。順応的管理とは、例として当初の予測では想定していなかった事態に陥ることをあらかじめ管理システムに組み込み、目標を設定し、計画がその目標を達成しているかを絶えずモニタリング(監視)と最新・最善の科学的データによって検証しながら、その結果に合わせて、目標や事業内容の見直しを行うこと(フィードバック)をいいます。



  また、3条4項では、長期的な観点から生態系等の「保全および再生」を行うことが求められています。

  さらに、地球温暖化が生物多様性に深刻な影響をおよぼすおそれがあり、他方では、生物多様性の保全は地球温暖化の防止等に資する、という認識の下での温暖化対策との連携です(生物多様性基本法3条5項)。


  これら原則の中で、特に注目されるのは、「予防的な取り組み」と「順応的取り組み」です。予防的な取り組みは、科学的知見の充実に努めつつ、生物多様性を保全する予防的な取組方法により対応することを旨として行わなければならないとして、 予防原則 に触れているとされます。


(基本原則)
第3条 生物の多様性の保全は、健全で恵み豊かな自然の維持が生物の多様性の保全に欠くことのできないものであることにかんがみ、野生生物の種の保存等が図られるとともに、多様な自然環境が地域の自然的社会的条件に応じて保全されることを旨として行われなければならない。

2 生物の多様性の利用は、社会経済活動の変化に伴い生物の多様性が損なわれてきたこと及び自然資源の利用により国内外の生物の多様性に影響を及ぼすおそれ があることを踏まえ、生物の多様性に及ぼす影響が回避され又は最小となるよう、国土及び自然資源を持続可能な方法で利用することを旨として行われなければ ならない。

3 生物の多様性の保全及び持続可能な利用は、生物の多様性が微妙な均衡を保つことによって成り立っており、科学的に解明されていない事象が多いこと及び一 度損なわれた生物の多様性を再生することが困難であることにかんがみ、科学的知見の充実に努めつつ生物の多様性を保全する予防的な取組方法及び事業等の着 手後においても生物の多様性の状況を監視し、その監視の結果に科学的な評価を加え、これを当該事業等に反映させる順応的な取組方法により対応することを旨 として行われなければならない。

4 生物の多様性の保全及び持続可能な利用は、生物の多様性から長期的かつ継続的に多くの利益がもたらされることにかんがみ、長期的な観点から生態系等の保全及び再生に努めることを旨として行われなければならない。

5 生物の多様性の保全及び持続可能な利用は、地球温暖化が生物の多様性に深刻な影響を及ぼすおそれがあるとともに、生物の多様性の保全及び持続可能な利用は地球温暖化の防止等に資するとの認識の下に行われなければならない。

生物多様性国家戦略の策定等(第11条)

生物多様性国家戦略は、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する国の基本的な計画です。
 
 
 
 
生物多様性国家戦略は、生物多様性基本法制定以後、法律に基づくものとなり、施策や目標など着実な実行が求められるようになりました。

  生物多様性国家戦略は、生物多様性条約および生物多様性基本法に基づいた、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する国の基本的な計画です。計画策定後、毎年、計画の進捗状況について点検が行われています。


  わが国の生物多様性国家戦略は、従来は、生物多様性条約6条(生物多様性の保全および持続可能な利用を目的とする国家戦略・計画の策定に関する規定)に直接基づくものでした。


  1995年に、将来世代においても生物多様性の恵みを受けることができるように、基本方針と今後どのように国が施策を行うか(施策の方向)を定めた、「生物多様性国家戦略」が策定されました。その後、その時期確認された生物多様性の危機、社会経済の変化、国内における生物多様性保全に関係する個別法の改正・制定の動向、生物多様性保全に関係する国際的な動向にあわせて見直されてきました。


  2002年には「新・生物多様性国家戦略」、2007年には「第三次生物多様性国家戦略」が策定されています。


  生物多様性基本法が2008年に制定され、政府は、生物多様性の保全および持続可能な利用に関する基本的な計画(生物多様性国家戦略)を定めなければならないとされました(生物多様性基本法11条)。


  2010年には、この規定に基づいた初めての法定計画として、「生物多様性国家戦略2010」が策定されました。現在は、2012年に策定された「生物多様性国家戦略2012-2020」の下にあります。


  「生物多様性国家戦略2010」を見直し、「生物多様性国家戦略2012-2020」を策定した経緯には、2010年の生物多様性条約第10回締約国会議で採択された 愛知目標 や、2011年3月の東日本大震災の発生があります。「生物多様性国家戦略2012-2020」は、愛知目標に向けたわが国のロードマップ、また、東日本大震災を踏まえた今後の自然共生社会の実現に向けた具体的な戦略を示しています。


  第1部の「戦略」では、自然共生社会実現のための基本的な考え方として、自然のしくみを基礎とする真に豊かな社会を作ることが提示されました。


  生物多様性の現状と課題について、まず、生物多様性の4つの危機として、第1の危機「開発など人間活動による危機」、第2の危機「自然に対する働きかけの縮小による危機」(例えば、 里地里山 )、第3の危機「外来種(⇒法令解説の外来生物法参照)など人間により持ち込まれたものによる危機」、第4の危機「地球温暖化や海洋酸性化など地球環境の変化による危機」が位置づけられました。


  現状を確認した上で、①生物多様性に関する理解と行動、②担い手と連携の確保、③ 生態系サービス でつながる地域を「自然共生圏」として捉え、生態系の保全・回復等の取り組みを地域間の連携・交流によって進めていく考え方の認識、④人口減少等を踏まえた国土の保全管理、⑤科学的知見の充実、が5つの課題として挙げられています。


  その上で、2050年までの長期目標は、生物多様性の維持・回復と持続可能な利用を通じて、わが国の生物多様性の状態を現状以上に豊かなものにするとともに、生態系サービスを将来にわたって享受できる自然共生社会を実現することとしました。


  2020年までの短期目標は、生物多様性の損失を止めるために、愛知目標の達成に向けたわが国における国別目標の達成を目指し、効果的かつ緊急な行動を実施することです。そこで、2020年までの重点施策の大きな方向性として、①生物多様性を社会に浸透させる、②地域における人と自然の関係を見直し、再構築する、③森・里・川・海のつながりを確保する、④地球規模の視野を持って行動する、⑤科学的基盤を強化し、政策に結びつける、という5つの基本戦略を示しています。


●5つの基本戦略
(2020年度までの重点施策)

1 生物多様性を社会に浸透させる


2 地域における人と自然の関係を見直し、再構築する


3 森・里・川・海のつながりを確保する


4 地球規模の視野を持って行動する


5 科学的基盤を強化し、政策に結びつける




世界で最も生物多様性が豊かといわれている
熱帯雨林(ブルネイ)

  第2部の「愛知目標に向けたロードマップ」では、自然生息地の損失速度およびその劣化・分断の顕著な減少など13の国別目標と、その達成に向けて、2020年までに生息地の劣化・分断の減少のための取り組みの実施や、鳥獣による農作物被害対策や森林被害対策の推進など48の主要行動目標を掲げました。この国別目標の達成状況を把握するため、可能なものについては81の指標を設定しています。


  第3部の行動計画では、おおむね今後5年間の政府の行動計画として、約700の具体的施策を記載し、達成状況を把握するため、可能なものについては50の数値目標を設定しています。


(生物多様性国家戦略の策定等)

第11条 政府は、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する基本的な計画(以下「生物多様性国家戦略」という。)を定めなければならない。

2 生物多様性国家戦略は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策についての基本的な方針
二 生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する目標
三 生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
四 前三号に掲げるもののほか、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項

3 環境大臣は、生物多様性国家戦略の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。

4 環境大臣は、前項の規定により生物多様性国家戦略の案を作成しようとするときは、あらかじめ、インターネットの利用その他の適切な方法により、国民の意見を反映させるために必要な措置を講ずるとともに、中央環境審議会の意見を聴かなければならない。

5 環境大臣は、第三項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、生物多様性国家戦略を公表しなければならない。

6 前三項の規定は、生物多様性国家戦略の変更について準用する。

参考文献など

●参考文献
大塚直『環境法BASIC』(有斐閣、2013年)、畠山武道『考えながら学ぶ環境法』(三省堂、2013年)、吉村良一・水野武夫・藤原猛爾編『環境法入門―公害から地球環境問題まで―[第4版]』(法律文化社、2013年)、及川敬貴『生物多様性というロジック―環境法の静かな革命』(勁草書房、2010年)、黒川哲志・奥田進一編『環境法のフロンティア』(成文堂、2015年)

みんなで学ぶ、みんなで守る 生物多様性 Biodiversity(環境省)

「生物多様性国家戦略」(環境省)

「生物多様性国家戦略2012-2020」の閣議決定について(平成24年9月28日)