酸性雨調査の説明

酸性雨調査について

環境省による調査

環境省(庁)では、昭和58年度に第1次酸性雨対策調査を開始し、大気、土壌・植生、陸水の各分野で酸性雨モニタリングを実施した。平成14年度までの計20年間の調査結果は平成16年6月に「酸性雨対策調査総合とりまとめ報告書」としてとりまとめられ、平成15年度からは、広域的かつ長期的な酸性雨モニタリングを継続的に実施していくため、「酸性雨長期モニタリング計画」を策定してこれに基づくモニタリングが実施されている。

また、国内外における越境大気汚染問題への関心の高まりを受け、酸性沈着のみならず、オゾンやエアロゾルも対象に越境大気汚染を監視することを明確にする観点から、平成21年3月に「越境大気汚染・酸性雨長期モニタリング計画」を策定し、平成21年度からそれに基づくモニタリングが開始されている。

酸性雨対策調査データ及び酸性雨長期モニタリングデータ
年度報告書調査結果
平成11(1999) 酸性雨対策調査総合取りまとめ報告書 第4次酸性雨対策調査結果(平成10年度~)
平成12(2000)
平成13(2001)
平成14(2002)
平成15(2003) 酸性雨長期モニタリング報告書 平成15年度酸性雨調査結果
平成16(2004) 平成16年度酸性雨調査結果
平成17(2005) 平成17年度酸性雨調査結果
平成18(2006) 平成18年度酸性雨調査結果
平成19(2007) 平成19年度酸性雨調査結果
平成20(2008) 越境大気汚染・酸性雨長期モニタリング(平成20~22年度)中間報告

越境大気汚染・酸性雨長期モニタリング報告書(平成20~24年度)
平成20年度酸性雨調査結果
平成21(2009) 平成21年度酸性雨調査結果
平成22(2010) 平成22年度酸性雨調査結果
平成23(2011) 平成23年度酸性雨調査結果
平成24(2012) 平成24年度酸性雨調査結果
平成25(2013) 越境大気汚染・酸性雨長期モニタリング報告書(平成25~29年度) 平成25年度酸性雨調査結果
平成26(2014) 平成26年度酸性雨調査結果
平成27(2015) 平成27年度酸性雨調査結果
平成28(2016) 平成28年度酸性雨調査結果
平成29(2017) 平成29年度酸性雨調査結果
平成30(2018) 平成30年度酸性雨調査結果
令和元(2019) 令和元年度酸性雨調査結果
令和2(2020) 令和2年度酸性雨調査結果

(2022年8月現在)

全国環境研協議会による調査

地方公共団体の環境研究所を会員とする全国環境研協議会(全環研)では、日本を網羅する全国調査が平成3年度から共同で実施されている。環境省調査が国際的・全国的見地から遠隔地等における酸性雨原因物質の長距離輸送の把握等を目的としているのに対して、全環研調査は地域の環境保全の見地から都市域及び田園地域等における酸性沈着の評価・解析に重点が置かれている。

平成3年より、3カ年計画で百数十地点で全国調査を実施し、第3次調査では、これまで十分に評価できていなかった乾性沈着に関する情報を得るために湿性沈着と乾性沈着を個別に調査し、第4次調査では、急増する中国の SO2 および NOx 排出量の影響も考慮し、これまでの3年間で一区切りの調査期間を3ヵ年延長して調査が実施された。第5次調査では第4次調査に引き続き、湿性沈着と乾性沈着それぞれについて効率よく評価するための調査が実施され、乾性沈着調査では、大気中のガス成分と粒子状成分をそれぞれ精度よく測定できるよう、2つの手法(フィルターパック法及びパッシブ法)による調査が行われた。平成28年度からは新しいフェーズとして、第6次調査が開始された。

酸性雨全国調査データセット
年度報告書参考文献
平成11(1999) 第3次酸性雨全国調査データセット 第3次酸性雨全国調査報告書(平成11年度)全国環境研会誌 Vol.26(2)2001 p66-105(PDF, 2.9 MB)
平成12(2000) 第3次酸性雨全国調査報告書(平成12年度)全国環境研会誌 Vol.27(2)2002 p68-115(PDF, 3.5 MB)
平成13(2001) 第3次酸性雨全国調査報告書(平成11〜13年度まとめ)全国環境研会誌 Vol.28(3)2003 p126-185(PDF, 4.5 MB)
平成14(2002)
平成15(2003) 第4次酸性雨全国調査データセット 全国環境研協議会酸性雨調査研究部会; 第4次酸性雨全国調査報告書(平成15年度), 全国環境研会誌, 30(2), 58-135, 2005 (PDF, 8.7 MB)
押尾敏夫; 第4次酸性雨全国調査報告書(平成15年度)—(II) 付表編—, 全国環境研会誌, 30(3), 177-197, 2005 (PDF, 392 KB)
平成16(2004) 全国環境研協議会酸性雨調査研究部会; 第4次酸性雨全国調査報告書(平成16年度), 全国環境研会誌, 31(3), 118-186, 2006 (PDF, 1.5 MB)
全国環境研協議会・酸性雨調査研究部会事務局; 第4次酸性雨全国調査報告書(平成16年度)—(II) 付表編—, 全国環境研会誌, 31(4), 234-256, 2006 (PDF, 457 KB)
平成17(2005) 全国環境研協議会酸性雨調査研究部会; 第4次酸性雨全国調査報告書(平成17年度), 全国環境研会誌, 32(3), 78-152, 2007 (PDF, 3.6 MB)
全国環境研協議会・酸性雨調査研究部会事務局; 第4次酸性雨全国調査報告書(平成17年度)—(II) 付表編—, 全国環境研会誌, 32(4), 223-245, 2007 (PDF, 478 KB)
平成18(2006) 全国環境研協議会酸性雨調査研究部会; 第4次酸性雨全国調査報告書(平成18年度), 全国環境研会誌, 33(3), 126-196, 2008 (PDF, 2.1 MB)
平成19(2007) 全国環境研協議会酸性雨広域大気汚染調査研究部会; 第4次酸性雨全国調査報告書(平成19年度)(1), 全国環境研会誌, 34(3), 193-223, 2009 (PDF, 997 KB)
全国環境研協議会酸性雨広域大気汚染調査研究部会; 第4次酸性雨全国調査報告書(平成19年度)(2), 全国環境研会誌, 34(4), 262-291, 2009 (PDF, 1.7 MB)
平成20(2008) 全国環境研協議会酸性雨広域大気汚染調査研究部会; 第4次酸性雨全国調査報告書(平成20年度)(1), 全国環境研会誌, 35(3), 88-138, 2010 (PDF, 6.2 MB)
全国環境研協議会酸性雨広域大気汚染調査研究部会; 第4次酸性雨全国調査報告書(平成20年度)(2), 全国環境研会誌, 35(4), 179-199, 2010 (PDF, 380 KB)
平成21(2009) 第5次酸性雨全国調査データセット 全国環境研協議会酸性雨広域大気汚染調査研究部会; 第5次酸性雨全国調査報告書(平成21年度), 全国環境研会誌, 36(3), 106–146, 2011 (PDF, 7.9 MB)
平成22(2010) 全国環境研協議会酸性雨広域大気汚染調査研究部会; 第5次酸性雨全国調査報告書(平成22年度), 全国環境研会誌, 37(3), 110-157, 2012 (PDF, 2.6 MB)
平成23(2011) 全国環境研協議会酸性雨広域大気汚染調査研究部会; 第5次酸性雨全国調査報告書(平成23年度), 全国環境研会誌, 38(3), 84-126, 2013 (PDF, 3.5 MB)
平成24(2012) 全国環境研協議会酸性雨広域大気汚染調査研究部会; 第5次酸性雨全国調査報告書(平成24年度), 全国環境研会誌, 39(3), 100–146, 2014 (PDF, 4.7 MB)
平成25(2013) 全国環境研協議会酸性雨広域大気汚染調査研究部会; 第5次酸性雨全国調査報告書(平成25年度), 全国環境研会誌, 40(3), 98–142, 2015 (PDF, 6.3 MB)
平成26(2014) 全国環境研協議会酸性雨広域大気汚染調査研究部会; 第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度), 全国環境研会誌, 41(3), 2–37, 2016 (PDF, 2.2 MB)
平成27(2015) 全国環境研協議会酸性雨広域大気汚染調査研究部会; 第5次酸性雨全国調査報告書(平成27年度), 全国環境研会誌, 42(3), 83–126, 2017 (PDF, 3.4 MB)
平成28(2016) 第6次酸性雨全国調査データセット 全国環境研協議会酸性雨広域大気汚染調査研究部会; 第6次酸性雨全国調査報告書(平成28年度), 全国環境研会誌, 43(3), 79–119, 2018 (PDF, 4.1 MB)
平成29(2017) 全国環境研協議会酸性雨広域大気汚染調査研究部会; 第6次酸性雨全国調査報告書(平成29年度), 全国環境研会誌, 44(3), 74–115, 2019 (PDF, 3.8 MB)
平成30(2018) 全国環境研協議会酸性雨広域大気汚染調査研究部会; 第6次酸性雨全国調査報告書(平成30年度), 全国環境研会誌, 45(3), 85–121, 2020 (PDF, 3.4 MB)
令和元(2019) 全国環境研協議会酸性雨広域大気汚染調査研究部会; 第6次酸性雨全国調査報告書(令和元年度), 全国環境研会誌, 46(3), 75–114, 2021 (PDF, 6.0 MB)

(2022年8月現在)

酸性雨と測定物質について

酸性雨

工場や自動車から排出された二酸化硫黄 (SO2) 、窒素酸化物 (NOx) 等のガス状の汚染物質は、様々な化学的、物理的過程を経て最終的に地上に沈着する。

光化学反応によって大気中に生成された水酸化ラジカル (OH) などの酸化性物質により、SO2 やNOx は硫酸や硝酸という強酸に変換される。一方、大気中にはアンモニアや炭酸カルシウムなどの塩基性物質も存在し、これらの物質は硫酸や硝酸を中和し、硫酸アンモニウムや硝酸アンモニウムなどの弱酸性の塩や硫酸カルシウムや硝酸カルシウムなどの中性の塩を生成し、地上へ沈着する。

大気中の汚染物質の地上への沈着には乾性沈着と湿性沈着の2つの過程がある。ガスや粒子状物質が雨や雪などに取り込まれ、地上へは水に溶け込んだ形で沈着する過程が湿性沈着であり、ガスや粒子状物質が風で輸送されるときにそのままの形で森林表面などに沈着する過程が乾性沈着である。「酸性雨」という環境問題は、湿性沈着及び乾性沈着を併せたものとして捉えられており、両者の合計である総沈着量の評価が最近の課題になっている。

酸性雨による影響としては、土壌の酸性化による森林の衰退、湖沼の酸性化による陸水生態系の被害、銅像等の文化財や建造物の損傷等が指摘されている。この影響は、酸性沈着の量によって決まるため、例えば雨の場合、酸性度を示すpH だけではなく、そのときの降水量も考慮した沈着量に着目する必要がある。

沈着量はイオン成分濃度 × 降水量で計算され、降水によって単位面積あたりに沈着したイオン成分の量を示している。

オゾンは、人の健康や植物への悪影響が知られる大気汚染物質であるが、二酸化硫黄や窒素酸化物を酸化する反応性の高い酸化性物質でもあり、酸性雨の生成メカニズムは、オゾンの生成とも密接なつながりがある。

このように、「酸性雨」は種々の物質が関わる総合的な大気汚染として捉えることが大切であり、降水だけではなく、二酸化硫黄、窒素酸化物、オゾン、アンモニアなどのガス及び関連する粒子状物質等を観測する必要がある。

測定項目及び測定物質

測定項目測定物質単位
湿性沈着(濃度)pH
硫酸イオン SO42-μ mol/L
硝酸イオン NO3-
アンモニウムイオン NH4+
カルシウムイオン Ca2+
非海塩性硫酸イオン nss-SO42-
非海塩性カルシウムイオン nss-Ca2+
降水量mm
湿性沈着量硫酸イオン SO42-m mol/m2
硝酸イオン NO3-
アンモニウムイオン NH4+
非海塩性硫酸イオン nss-SO42-
非海塩性カルシウムイオン nss-Ca2+
乾性沈着(粒子濃度)硫酸イオン SO42-n mol/m3
硝酸イオン NO3-
アンモニウムイオン NH4+
カルシウムイオン Ca2+
乾性沈着(ガス濃度)二酸化硫黄 SO2n mol/m3
硝酸 HNO3
塩酸 HCl
アンモニア NH3

「酸性雨調査結果Light版」と「環境GIS+」について

酸性雨調査結果Light版」では上記の測定項目のうち、湿性沈着(濃度)および降水量を確認することができます。一方、「環境GIS+」では、上記のすべての測定項目を確認することができます。

「環境GIS+」で表示できる酸性雨調査結果の属性テーブルにおいて、年平均値及び月平均の値として、「-999.00」は欠測、「-888.00」は NA もしくはデータなし、「-777.00」は定量下限値未満であることを表しています。また、「○月の測定値の状態」において、「0」は正常、「1」は信頼に欠ける(参考値)、「2」は欠測を表しています。

用語解説

用語解説
酸性沈着 工場や自動車から排出された二酸化硫黄、窒素酸化物等の大気汚染物質は、大気中で硫酸や硝酸に酸化され、再び地上に戻ってくる(沈着)。その形態には2種類あり、雨や雪に溶け込んで沈着する場合(湿性沈着)と、そのままガスや粒子(エアロゾル)の形で沈着する場合(乾性沈着)がある。
このため、「酸性雨」という環境問題は、湿性沈着及び乾性沈着を併せたものとして捉えられており、より科学的には「酸性沈着」という。
pH ( ピーエッチ、ペーハー ) 酸である水素イオン (H+) 濃度を示す指標。
水素イオン濃度は溶けている他のイオンのバランスにより決まる。水素イオン濃度は当然のことながら生態系や建築物などに対して影響するのでわかりやすい指標だが、水素イオンだけが影響を及ぼすわけではない。 例えばアンモニアが降水に取り込まれると、pH を上昇させる(水素イオン濃度を低下させる)ことになるが、この成分は土壌において酸化される課程で水素イオンを放出するため、土壌の酸性化を促進する働きがある。
このようなことから、pH の値だけでなく、他の成分濃度や降ってくる総量(沈着量)を評価しなければならない。
nss (non-sea salt 非海塩由来) 日本は海に囲まれているため海塩成分の割合が高くなる。硫酸イオンとカルシウムイオンは海塩とそれ以外の発生源の両方を持つため、ナトリウムイオンを基準としてそれぞれの割合を計算し、非海塩分には nss- を付けて表している。
窒素酸化物 (NOx) 一酸化窒素 (NO) や二酸化窒素 (NO2) の総称あるいは総和。
森林火災や雷、土壌中の微生物活動などからも生成されるが、都市部では自動車排ガスの寄与が大きいと考えられている。生成においては、化石燃料中の窒素分や空気中の窒素ガスが空気中の酸素と結合して生成される。
降水中では硝酸イオン (NO3-) となる。
硫黄酸化物 (SOx) 一酸化硫黄 (SO) や二酸化硫黄 (SO2) などの総称あるいは総和だが、一般環境では主として SO2 を指す場合が多く見られる。
火山などからも放出されるが、化石燃料中の硫黄分と空気中の酸素と結合して生成される。
降水中では、硫酸イオン (SO42-) となるが、海塩成分と区別し、nss-SO42- となる。
mol (モル) 0.012kg の12C に含まれる原子と等しい数(アボガドロ数)の構成要素を含む系(原子、分子、イオン、電子等)の物質量。
mol (+) は、土壌中の陽イオンの量を正電荷のモル数で示すもの。

データの利用について

本サイトよりダウンロードしたデータを使用して論文等を公表される場合は、

国立環境研究所 環境GIS「環境の状況/酸性雨調査」(https://tenbou.nies.go.jp/gis/)
   環境省「該当年度酸性雨調査結果について」(https://www.env.go.jp/air/acidrain/)
   全国環境研会誌「該当年度報告書」並びに https://db.cger.nies.go.jp/dataset/acidrain/

を利用した旨を明記してください。

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