有害大気汚染物質調査結果データの説明

有害大気汚染物質対策について

有害大気汚染物質とは、大気汚染防止法第2条第9項にて「継続的に摂取される場合には人の健康を損なうおそれがある物質で大気の汚染の原因となるもの(ばい煙及び特定粉じんを除く。)」と規定されている。これらの物質は、健康被害の未然の防止の見地から、行政は物質の有害性、大気環境濃度等に関する基礎的情報の収集整理に努めるとともに、事業者等は自主的に排出等の抑制に努めることが期待されるものである。

平成8年5月に大気汚染防止法が改正され、低濃度ではあるが長期曝露によって人の健康を損なうおそれのある有害大気汚染物質の対策について制度化がなされた。これを受け、同年10月の中央環境審議会答申(第二次答申)において、「有害大気汚染物質に該当する可能性がある物質」として234物質、その中でも有害性の程度や大気環境の状況等に鑑み健康リスクがある程度高いと考えられる物質として22の「優先取組物質」がリスト化され、平成10年度から、大気汚染防止法に基づき、地方公共団体(都道府県及び大気汚染防止法の政令市)において優先取組物質のモニタリングが本格的に実施されている。

上記リストについては平成22年10月の中央環境審議会答申(第九次答申)において、「有害大気汚染物質に該当する可能性がある物質」として248物質、「優先取組物質」として23物質に見直されている。

平成28年9月26日の『「大気汚染防止法第22条の規定に基づく大気の汚染の状況の常時監視に関する事務の処理基準について」の一部改正等について』により、水銀及びその化合物は有害大気汚染物質から除かれ「優先取組物質」は22物質となったが、従来通り測定を実施、指針値も活用することとなった。

有害大気汚染物質モニタリング調査について

測定対象物質

22の優先取組物質のうち、ダイオキシン類については、ダイオキシン類対策特別措置法に基づき別途モニタリングが実施されており、「六価クロム化合物」及び「クロム及び三価クロム化合物」については形態別分析方法が確立されていないことから「クロム及びその化合物」として測定しているため、最終的に「水銀及びその化合物」を含めて21物質を測定対象としている。(2020年9月現在)

・ 環境基準が設定されている物質(4物質)
ベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタン
・ 環境中の有害大気汚染物質による健康リスクの低減を図るための指針となる数値(指針値)が設定されている物質(11物質)
アクリロニトリル、塩化ビニルモノマー、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、水銀及びその化合物、ニッケル化合物、ヒ素及びその化合物、1,3-ブタジエン、マンガン及びその化合物、アセトアルデヒド、塩化メチル
・ その他の優先取組物質(6物質)
クロム及びその化合物、酸化エチレン、トルエン、ベリリウム及びその化合物、ベンゾ[a]ピレン、ホルムアルデヒド

環境GIS「有害大気汚染物質調査結果Light版」では、環境基準が設定されている4物質について年平均値データを表示している(2000年度、2005年度、2010年度、2015年度、2020年度、2021年度)。一方、「環境GIS+」では、上記の21物質すべてのデータを表示している(2000年度以降の毎年度)。

測定地点

各都道府県及び政令市において選定され、測定項目ごとに「一般環境」、「固定発生源周辺」、「沿道」および「沿道かつ固定発生源周辺」の4種類に区分している。

ア 一般環境
固定発生源や自動車による直接的な影響が及びにくい地点として、当該地域における有害大気汚染物質による大気汚染の状況を把握することを目的に選定される測定地点のこと。
イ 固定発生源周辺
比較的規模の大きな固定発生源(工場・事業場)や小規模な発生源の集合体からの直接的な影響の程度の把握を目的として、それらの発生源の近傍に選定される測定地点のこと。なお、固定発生源周辺とされる測定地点は次のいずれかの条件を満たすものとする。
(a) 大規模な発生源により影響を受ける可能性のある地域
(b) 複数の小発生源(群小発生源)と住居等が混在する地域
(c) その他、特定の物質についてa)又はb)と同等の排出が見込まれる場合
※ 「固定発生源周辺」の属性は、物質ごとに一定量以上の優先取組物質の排出が見込まれる事業所等から最大5 ㎞以内にある測定地点に対して付与することとする。
ウ 沿道
道路を走行する自動車等からの直接的な影響の程度の把握を目的として、道路近傍に選定される測定地点のこと。
注 : 固定発生源周辺と沿道の両方に該当する地点を「沿道かつ固定発生源周辺」としている。

測定結果

長期曝露による健康リスクが懸念されている有害大気汚染物質のモニタリングにおいては、原則として月1回以上の頻度で測定を実施し、年平均濃度を求めることとしている。調査地点によっては、必要とされる測定頻度の測定を実施していない場合もあることから、大気環境基準値との直接的な比較はできないものもある。

平均値については当該地点における複数回の測定結果の算術平均値を求めることとしている。ただし、検出下限値未満のデータが存在する場合には、原則として、当該検出下限値に1/2を乗じて得られた値を用いて平均値を算出することとしている。

環境基準及び指針値について

環境基準

環境基準とは環境基本法に基づき設定される、人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準である。環境庁告示第4号にて数値が定められ、その中で「継続的に摂取される場合には人の健康を損なうおそれがある物質に係るものであることに鑑み、将来にわたって人の健康に係る被害が未然に防止されるようにすることを旨として、その維持又は早期達成に努めるものとする。」とされている。

物質環境上の条件
ベンゼン1年平均値が 3μg/m3 以下であること。
トリクロロエチレン1年平均値が 130μg/m3 以下であること。
テトラクロロエチレン1年平均値が 200μg/m3 以下であること。
ジクロロメタン1年平均値が 150μg/m3 以下であること。

(2018年12月現在)

有害大気汚染物質による健康リスクの低減を図るための指針となる数値(指針値)

指針値は、平成15年7月の中央環境審議会答申(第七次答申)において初めて4物質に対して設定され、その後も追加されている。有害性評価に係るデータの科学的信頼性において制約がある場合も含めて検討された、環境中の有害大気汚染物質による健康リスクの低減を図るための指針となる数値であり、現に行われている大気モニタリングの評価にあたっての指標や事業者による排出抑制努力の指標としての機能を果たすことが期待されるものである。

物質環境上の条件
アクリロニトリル1年平均値が 2μg/m3 以下であること。
塩化ビニルモノマー1年平均値が 10μg/m3 以下であること。
クロロホルム1年平均値が18μg/m3 以下であること。(H18.11.8追加)
1,2-ジクロロエタン1年平均値が 1.6μg/m3 以下であること。(H18.11.8追加)
水銀1年平均値が 40ng Hg/m3 以下であること。
ニッケル化合物1年平均値が 25ng Ni/m3 以下であること。
ヒ素及びその化合物 1年平均値が 6ng As/m3 以下であること。(H22.10.15追加)
1,3-ブタジエン1年平均値が 2.5μg/m3 以下であること。(H18.11.8追加)
マンガン及びその化合物1年平均値が 140ng Mn/m3 以下であること。(H26.4.30追加)
塩化メチル1年平均値が 94μg/m3 以下であること。(R2.8.20追加)
アセトアルデヒド1年平均値が 120μg/m3 以下であること。(R2.8.20追加)

(2020年9月現在)

補足説明(環境GIS+)

環境GIS+で表示できる有害大気汚染物質調査結果の属性テーブルにおいて、「○月の測定値」では、欠測は「-9999.00000」と表記している。
また「○月の測定値の情報」の値の内容は以下の通り。

コード内容
ND定量下限値未満
*検出下限値以上かつ定量下限値未満
>定量下限値以上。
An月に n 回測定。定量下限値未満、検出下限値以上かつ定量下限値未満、定量下限値以上の測定値が存在
Bn月に n 回測定。定量下限値未満、定量下限値以上の測定値が存在
Cn月に n 回測定。検出下限値以上かつ定量下限値未満、定量下限値以上の測定値が存在
Dn月に n 回測定。定量下限値未満、検出下限値以上かつ定量下限値未満の測定値が存在
En月に n 回測定。定量下限値未満の測定値が存在
*n月に n 回測定。検出下限値以上かつ定量下限値未満の測定値が存在
>n月に n 回測定。定量下限値以上の測定値が存在