探究ノート

大気と水の循環

 地球上では、太陽エネルギーをエネルギー源として、大気や水が絶え間なく循環している。こうした循環で熱や物質が移動することにより、1つのまとまった「システム」として地球環境のバランスが保たれている。

大気大循環 ~熱を運び、雨や風をもたらす大気の流れ~

 赤道と北極・南極とを比べると、赤道の方が太陽の高度が高く、日差しも強い。そのため、赤道の方が地表面に届く太陽エネルギーは大きくなり、気温も高くなる。こうして生じる温度差を少なくするため、赤道から高緯度地域に向けて熱を運ぶ大気の流れが生じる。これが大気大循環の基本である。
 ただし、実際の大気大循環では、地球の自転の影響(コリオリ力)を受けて、大気の流れは少し複雑になり、緯度方向に3つの循環に分かれる。つまり、北半球、南半球それぞれの低緯度(約30°以下)で見られる「ハドレー循環」、高緯度(約60°以上)の「極循環」、そして、その間の中緯度の「フェレル循環」である。これらの循環によって、地表面では、低緯度で「貿易風」、極地で「極偏東風」と呼ばれる東寄りの風が生じる。また、コリオリ力の強い中緯度では循環が明確ではなく、大きく蛇行した西寄りの風「偏西風」が吹く。
 大気大循環は熱や水蒸気の移動をともなうため、地球規模の気温や降水量の分布に大きな影響を及ぼす。また、熱帯性低気圧や前線などが定常的に発生する要因にもなっている。

海洋大循環 ~コンベヤーベルト理論と海洋水の流れ~

 海洋における水の流れは、海面を吹く風の働きによって生じる「風成循環」と、水温や塩分濃度からくる密度の違いによって生じる「熱塩循環」とに分けられる。
 このうち風成循環は、深さ数百m程度までの表層の流れ(表層流)であり、日本近海の「黒潮」「親潮」と呼ばれる海流も、北太平洋をめぐる風成循環の一部といえる。
 一方、熱塩循環は、数百m以深の深層の流れ(深層流)であり、秒速1cm程度で極めてゆっくり流れながら、平均1,000年(最長2,000年)程度の時間をかけて全海洋を循環すると考えられている。一般に、海洋の表面水温は北極や南極に近い高緯度地域で低温となり、塩分濃度は大西洋の方が太平洋よりも高いことがわかっている。そのため、低温で塩分の高い水、つまり密度が高く“重い”海水は、北大西洋のグリーンランド沖などに多く分布し、そこで表層から深層への強い沈み込みが発生すると考えられている。
 こうした海洋大循環は、膨大な量の水や熱、各種の化学物質を輸送する役割を果たすとともに、長期的な気候変動にも影響を及ぼすといわれている。地球温暖化によって、海水温の上昇や、氷河・氷床の融解による塩分濃度の低下が進むと、海洋大循環が変化し、地球の気候が大きく変化する可能性が懸念されている。

海洋大循環の概念図(コロンビア大学 ブロッカー博士のコンベヤーベルト理論による)
出典:日本海洋学会教育問題研究部会「海の教室」

地表面からの熱放射 ~リモートセンシングで見る海面水温の分布~

 地表面に届く太陽エネルギーの大部分は、熱として地表面に吸収される。そして、暖められた地表面から再び、赤外線として大気中に熱が放出される。これを熱放射という。
 下の図は、地球上の海面から放出される熱(赤外線)の大きさを人工衛星で観測し、そのデータをもとに地球規模の海面水温を推定した結果である。図をながめると、水温は東西方向にほぼ一様に分布し、赤道域から極域に行くほど低温になることが読み取れる。また、東太平洋の赤道域(南米のペルー沖)は、周囲よりも水温が低くなっている。これは、その周辺を吹く貿易風によって海洋深層から冷たい水が湧き上がるためである。この貿易風が弱まり、冷たい水の湧き上がりが少なくなると、世界各地に異常気象をもたらす「エルニーニョ現象」が生じるといわれている。
 このような海洋・気象状態をはじめ、森林や砂漠の現状などを広域的に観測するために、リモートセンシングという技術が活用されている。リモートセンシングとは、人工衛星などに搭載したセンサー(測定器)を用いて、対象物が反射・放射する電磁波を遠隔(remote)から計測(sensing)することにより、物体の形状や性質などを識別する技術であり、土地の管理や災害監視などにも役立っている。

エルニーニョ/ラニーニャ現象 ~「神の子」による地球規模の気候影響~

 太平洋赤道域の中央部(日付変更線付近)から南米のペルー沖にかけての広い海域で海面水温が平年に比べて高くなり、その状態が半年から1年半ほど続く現象を「エルニーニョ現象」と呼んでいる。逆に、同じ海域で海面水温が平年より低い状態が続く現象は「ラニーニャ現象」と呼ばれる。なお、“エルニーニョ”はスペイン語で「男の子(神の子)」、“ラニーニャ”は「女の子」という意味である。
 通常、太平洋のペルー沖では、海面付近の暖かい水が、貿易風によって西側に吹き寄せられるため、海洋深層の冷たい水が海面に湧き上がりやすく、周囲よりも水温が低くなっている。そのため、貿易風が弱まると海面水温が通常より高くなり(エルニーニョ現象)、貿易風が強まると海面水温が通常より低くなる(ラニーニャ現象)。
 これらの現象が発生すると、太平洋全域の海水温分布が変化し、これが気圧配置に影響を及ぼし、世界各地でさまざまな気候影響が現れる。日本ではエルニーニョ現象の発生時に冷夏や暖冬になりやすく、また夏と冬に多雨となる傾向がみられる。ヨーロッパ南部での夏の多雨による河川の氾濫や、アフリカでの小雨による干ばつなど、エルニーニョの気温や降水量への影響は人間生活にも大きな影響を与える。

エルニーニョ/ラニーニャ現象による太平洋赤道域の海面水温の変化
左:エルニーニョ現象(1997年11月) 右:ラニーニャ現象(1988年12月)
※平年に比べて高温の場合は赤(暖色系)、低温の場合は寒色系(青)で表示
出典:気象庁 気象統計情報「エルニーニョ/ラニーニャ現象とは」