さまざまな生態系

 「生態系」とは、食物連鎖などの生物間の相互関係と、生物とそれをとりまく無機的環境(水、大気、光など)の間の相互関係を総合的にとらえた生物社会のまとまりのことを示す概念である。生態系には、広大な森林から小さな池まで様々な大きさのものがあり、時として地球全体を一つの生態系と見ることもある。

森林生態系 ~生態系保全と資源利用のバランスが大切~

 世界の陸地の30%を占める森林は、光合成によって二酸化炭素を吸収し、有機物を蓄積することから、地球の炭素循環の上で大きな役割を果たしている。また、森林の内部は、高さの異なる樹木や草によって階層的な空間構造となっており、多様な生物の生息地となっている。さらに、人間にとって有用な資源(木材、医薬品成分など)を供給するほか、植物や土壌が水分を保持することで、水資源を保全する機能なども備えている。
 食物連鎖に着目すると、「生産者」である植物をはじめ、「消費者」としての草食性生物(昆虫、小型の鳥類・ほ乳類など)や肉食性生物(両生類、は虫類、鳥類、ほ乳類など)、さらに「分解者」としての土壌中の生物(ミミズ、微生物や菌類など)によって、豊かな生態系が形成されている。
 森林が国土の約2/3を占める日本では、緯度や標高による気候条件(気温、降水量)の違いに対応した植生分布が見られる。このうち東北日本を中心とする「夏緑広葉樹林」では、ブナなどの“秋に落葉する”広葉樹が主に見られ、西南日本を中心とする「常緑広葉樹林」では、シイやカシなどの“秋に落葉しない”広葉樹が主に見られる。なお、この植生分布は人為的な影響を受けない場合のもので、実際には、スギやヒノキなどの人工林に変わっている場所も多く存在する。こうした人工林においても、適切な間伐などの持続可能な森林管理によって、豊かな生態系を保全することが求められている。

日本の自然植生図

出典:第6回・第7回自然環境保全基礎調査 植生調査
 日本の自然植生図
  原典:日本の植生、宮脇昭 編、昭和52年
 日本の高度・緯度による自然植生図
  原典:「Natural and semi-natural vegetation in Japan. Blumea, 20」
   (Numata M., Miyawaki A and Ito S, 1972)を改変)

夏緑広葉樹林

夏緑広葉樹林
出典:情報処理推進機構
教育用画像素材集「白神山地

常緑広葉樹林

常緑広葉樹林
出典:林野庁 近畿中国森林管理局

干潟の生態系 ~陸と海をつなぎ、変動しやすい環境~

 干潟とは、沿岸に堆積した砂や泥が、潮の干満などにより、水面に覆われたり干上がったりする地形のことである。  干潟では、堆積した砂や泥(これを底質という)の表面に生息する底生藻類や海藻などを「生産者」とし、ゴカイなどの底生動物、魚類、鳥類などを「消費者」とする食物連鎖が成り立っている。また、さまざまな生物の産卵・生育場所としても機能している。そのため、干潟は生物多様性の観点から重要な場となっており、さらに、川から供給される有機物や栄養塩を吸着・分解する水質浄化の場所としても機能している。
 しかしわが国では、おもに高度成長期以降、工業用地や港湾整備などの目的で沿岸の開発が進み、それまでに存在した干潟の約4割が埋め立てられて消失している。
 干潟などの湿地を保全するための国際的な取り組みとして、1971年にラムサール条約が採択され、日本は1980年に加入している。干潟をはじめとする湿地は、渡り鳥の生息地、越冬地あるいは渡りの中継地としても重要な意味を持っており、わが国では、2008年11月現在で37箇所がラムサール条約に登録されている。

干潟生態系における物質循環の模式図

干潟生態系における物質循環の模式図
出典:環境省「干潟生態系に関する環境影響評価技術ガイド」

ラムサール条約にも登録されている藤前干潟(愛知県名古屋市)

ラムサール条約にも登録されている藤前干潟(愛知県名古屋市)
提供:辻淳夫さん

サンゴ礁の生態系 ~海の生物たちの楽園は、とても“もろい”~

 熱帯を中心にみられるサンゴ礁では、褐虫藻と呼ばれる植物プランクトンがサンゴの体内に共生している。この褐虫藻の光合成によって生産される有機物は、サンゴの成長に欠かせない栄養の一部となり、サンゴが石灰質の骨格をつくるのにも役立っている。サンゴ礁は、こうして形成されたサンゴの骨格などが、長い年月をかけて厚く堆積してできたものである。
 サンゴ礁には、サンゴから出る粘液やそこに付着する有機物を食べる微生物や甲殻類、サンゴを隠れ家とする魚介類などが集まり、多様な生態系を形成している。サンゴ礁の総面積は約60万km2と地球の表面の0.1%にすぎないが、世界の生物種約170万種のうち9万種を超える生物が確認されており、種の多様性がきわめて高い生態系といえる。
 一方、サンゴ礁は、数℃の海水温上昇などのわずかな環境変化にも影響を受けてしまうもろい生態系でもある。サンゴはストレスに対して敏感に反応し、組織内の共生藻を追い出してしまう。するとサンゴの白い骨格が透けて見える。これがサンゴの白化と呼ばれる現象であり、白化が長引いて共生藻が戻らなければ、サンゴは栄養分が得られずに死滅する。サンゴが死滅すると、多様な生物も生息できなくなり、豊かな生態系が失われてしまう。こうした現象を防ぐため、世界的にサンゴ礁保全の取り組みが進められている。