「後輩たちへ引き継がれるデータの蓄積 ~生き物調査で地域の環境変化を知る~」

茨城県立竹園高等学校

 「研究学園都市」つくば市にある茨城県立竹園高校(以下、竹園高校)では、学校近くの川の生態調査を13年間も続けています。ときには地元の研究機関の協力も得ながら、地道に積み重ねてきたデータから見えてきたものは何でしょうか。

きっかけはダイオキシン問題

【写真1】竹園高校正門風景

【写真1】竹園高校正門風景

 竹園高校が環境保全の取り組みを開始したのは1991年12月。きっかけは、ごみ焼却炉の排煙に含まれるダイオキシンの問題からでした。当時、一部のごみ焼却施設が、十分な高温で焼却する能力がないなどの理由で、有害なダイオキシンを発生させるおそれがあるとの報告がなされ、全国的に対策の必要性が叫ばれていました。
 その頃、竹園高校の焼却炉でも、校内で発生するさまざまなごみを燃やしていたのですが、ダイオキシンによる健康被害が社会問題になったのをきっかけに、保健委員会が校内のビン・缶、紙などのリサイクルを始めました。そして、それを学校周辺のごみ拾いに広げました。当時の生徒たちは、実際にごみを拾うことで、散乱ごみの意外な多さに気づいたとのこと。
 保健委員会は通常、生徒会活動として学校生活での生徒の健康をまもるのが役割であり、環境保全に取り組むのは珍しいことです。しかし竹園高校では、ダイオキシンによる健康被害への問題提起がきっかけだったので、健康という視点から保健委員会のなかに環境班がつくられ、環境活動が始まったのです。

近くの川で生き物調査を開始

【写真2】毎年、6月の学校祭のときに行われる『環境展』のようす

【写真2】毎年、6月の学校祭のときに行われる『環境展』のようす

【写真3】展示パネルは先輩から引き継いだデータと新しい調査結果を合わせて詳しくまとめられています

【写真3】展示パネルは先輩から引き継いだデータと新しい調査結果を合わせて詳しくまとめられています

【写真4】環境展の報告書には卒業してゆく3年生の思いが綴(つづ)られています

【写真4】環境展の報告書には卒業してゆく3年生の思いが綴(つづ)られています

 1995年6月、保健委員会環境班では、自分たちが行ったごみの分別や削減、リサイクルなどの活動成果を一般の人にも知ってもらおうと、学校祭で初めて「環境展」を企画しました。ところが、一生懸命に発表準備をした生徒たちの思いに対して、まわりの反応はいまひとつ。冷やかし半分で発表をのぞきにくる人や「こんなことやったって何も変わらないよ」と言う人もいました。これに対し、生徒たちは意気消沈するのではなく「こんなことではいけない。もっとみんなに環境の大切さをわかってもらうために活動を続けたい!」と、がぜんやる気になりました。生徒たちの熱意に押され、これからどんな活動ができるのかと、保健委員会顧問の養護教諭・田上公恵先生は、つくば市内にある国立環境研究所の研究者に相談しました。そして、学校近くを流れる花室川の生き物調査を勧められ、さっそく調査方法等の指導を受け1996年3月から調査活動がはじまりました。
 それから毎年、月一回の生き物調査は継続して行われ、先輩から後輩に研究データが引き継がれています。保健委員会環境班が毎年つくる活動記録集には、卒業する3年生が「環境班に参加して本当によかった」「後輩たちにも調査をずっと続けてほしい」というコメントを寄せており、充実した活動ぶりがうかがえます。
 顧問の田上先生に長続きの秘訣をうかがうと、「最初は乗り気でない生徒たちも、いったん川に入ると目が生き生きしてくるんです。だから、川に連れて行きさえすれば大丈夫。それから、打ち解けやすいようにグループを作ったり、作業が終わったらみんなでお茶を飲んだりするなど、堅くなりがちな調査研究活動が楽しいものになるよう工夫してきました。さらに、やりがいや達成感を感じてもらうため、毎年6月の学校祭で環境展を企画しています」との答えが返ってきました。そしてもうひとつ、年によって人数が減ることもある部活動でなく、毎年必ず定員分、各クラスから委員が選出される委員会活動だったことも、コンスタントに活動を続けられた理由だそうです。

「研究学園都市」の利点を活かす

 今では、環境班の活動に興味をもって、学校祭の環境展を毎年見に来る人もいます。また、校内で発表の機会を持つだけでなく、外部の研究発表の場を利用して評価を得てきたことも生徒のやる気と自信につながりました。科学の甲子園とも呼ばれる日本学生科学賞への出品(2008年・1等入選)や日本教育弘済会の教育論文応募(2006年・最優秀賞)、NPOが主催するアースデイつくばの環境パネル展で研究成果の展示、つくば市内の中学、高校が集まったつくば生物研究コンテストへの参加など、積極的に行っています。
 環境班の活動にとどまらず、竹園高校全体としても2003年から2007年までの5年間、文部科学省が指定するスーパーサイエンススクール(SSH)に指定され、学校として科学、環境学習に取り組む態勢が強化されました。SSHでは、主につくば市内の大学や研究機関の専門家からアドバイスを受けて継続的な研究を行う「スーパーサイエンスクラブ」や海外の高校と科学をテーマにした交流を行いながら国際感覚を養う「海外科学セミナー」、大学の先生の講義を聴く「先端科学講話」などを実施。研究学園都市つくばの高校、という利点を活かした豊富なカリキュラムが目をひきます。生徒たちは、大学や研究機関、自治体が連携してつくば市を省エネルギー・低炭素の科学都市として構築する研究に取り組むことを目的に2007年に発足した『つくば3Eフォーラム』の会議にも参加しています。
 SSHに指定されたことをきっかけに、部活動の1つとしてスーパーサイエンス(SS)部が創部されました。保健委員会環境班もSS部として認められ、保健委員会の定員(各クラス4名)を超える希望者が集まった場合は、SS部にだけ所属する生徒もいます。SSHの期間中は、これまで以上に外部の評価が加わるので成果が求められるようになり環境班にとってもプレッシャーとなりましたが、そのぶん研究を深められたとのこと。

13年間続けたからわかったこと

【写真5】花室川での生き物調査のようす

【写真5】花室川での生き物調査のようす

【写真6】ヨシノボリの解剖調査のようす

【写真6】ヨシノボリの解剖調査のようす

【写真7】ヨシノボリの異常個体の写真

【写真7】ヨシノボリの異常個体の写真

 環境班では川の生き物調査の一環で、川辺に住むハグロトンボの調査を13年続けています。蓄積したデータによって個体数の変動が大きいことがわかったときは、河床の水草(沈水植物)の量と個体数の増減の関連性について考察しました。すると、河床が護岸工事によってコンクリートになっているので水草が深い根を張れず、大雨などで流されやすい構造になっていることがわかりました。水草が減少すれば、そこで生息や産卵をする生物も減少するわけで、トンボの産卵数が減っているのも護岸工事との関連があるかもしれないと推測できたのです。先輩から後輩に受け継がれてきた13年の研究の積み重ねがあったからこそわかったことでした。
 生徒たちは、調査の過程で気になることがあったら専門家の意見を聞くようにしています。ハグロトンボと水草の関連について研究したときは、トンボの専門家にアドバイスを受けました。また、ハゼ科のヨシノボリという魚の腹部や体側部分がふくらんだ異常個体を発見したときには、国立環境研究所の研究者に相談し、解剖の仕方を教わったり、異常個体の生殖線を調べてもらったりしました。その結果、ヨシノボリの異常個体は、メスの体内に卵がたまった「過熟卵」によるものであることがわかりました。
 生徒の保護者が手を貸してくれることもあります。ある年は、魚の研究をしている研究者の協力を取り付け、内容の濃い調査を実施できたこともありました。花室川から始まった生き物調査は、SSHをきっかけに範囲を広げ、周辺の清明川や恋瀬川でも行われています。

 具体的な生き物調査の手順を環境班のメンバーが教えてくれました。
 「月に1回、花室川に行って、魚河岸のおじさんが着ているような胴長(防水、ゴム製のつなぎズボン)を着て川に入り、手網を使って足で生き物をおどしながら追い込んで捕まえます。それを岸にいる人に渡して、種類ごとに分類します。同様に、水質や水温、流速などの環境観測をします。学校に戻ったら、魚やザリガニの種類と個体数を確認し、重さや大きさを測って記録してから川に放流します」

勉強だけではない“何か”を見つけた生徒たち

【写真8】保健委員会環境班の2年生と顧問の田上先生

【写真8】保健委員会環境班の2年生と顧問の田上先生

【写真9】「環境かるた」は言葉もイラストも環境班で考えました

【写真9】「環境かるた」は言葉もイラストも環境班で考えました(読み札制作:2006、2007年度 保健委員会環境班/絵札制作:2007年度環境班3年 奥島麻子さん)  
環境かるたのホームページ:
http://www.takezono-h.ed.jp/sp/carta_kaisecu/carta_3.html

 環境班では、生き物調査のほかにも、“エコ”な学校生活を目指す「竹高ECOプロジェクト」を立ち上げて、節電、ごみ分別の徹底、紙のリサイクル、紙を大切に使うこと、節水、お弁当・水筒の持参、自転車や公共交通機関利用の奨励などを推進しています。2007年度は、「環境かるた」を作成して、つくば市内の小中学校などに寄贈しました。
 保健委員会環境班2年生のメンバーに、竹園高校を選んだ理由や環境班に参加した感想などを聞いてみると、こんな答えがかえってきました。
 杉山あゆ美さんは、環境班の活動が「おもしろそうだった」ので参加。高校に入ったときは文系に進もうと思っていたけれども、今では理系に進路を変更したとのこと。杉山さんのように、環境班に入ったことで進路を変えた生徒はこれまでも何人かいるようです。環境系の学科に進もうと思っている生徒もいます。
 岡田恵美さんが竹園高校を選んだ理由は、受験だけに力を入れている学校ではないところ。運動部、文化部の活動も盛んで、自由な雰囲気が気に入っています。「JRC部(ボランティア部)もあるんですよ」と教えてくれました。
 テニス部に所属しながら、環境班にも参加している森英樹君と傳田晨矢君は、テニス部と環境班の活動が重なったら「環境班を優先するかな」と、顔を見合わせて答えてくれました。
 大学では経済の勉強をしようと考えている町田大介君は、環境班の活動をはじめとして学校生活が充実していることが、竹園高校に入って一番よかったことだと少し恥ずかしそうに、でもしっかりと応えてくれました。
 他に話を聞いた生徒たちも、それぞれが、いわゆる授業で学ぶ勉強だけではない“何か”を見つけているようすが見て取れて、それを横で聞いている顧問の田上先生もとてもうれしそうでした。

学校プロフィール

茨城県立竹園高等学校
茨城県立竹園高等学校

竹園高校正門風景

  茨城県立竹園高等学校は、「研究学園都市」つくば市に1979年に設立された普通科(文系・理系)と国際科を併設する高校です。「国際社会をリードする人材の育成」を目標とし、ほぼ100%が大学に進学する一方、部活動も盛んで、吹奏楽部や陸上部、テニス部などが関東大会やインターハイで活躍しています。2003年度から2007年度まで、科学技術・理科・数学教育を重視した研究開発校、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定されて活動したほか、2003年度から3年間は、県のイングリッシュ・シャワー・プログラム(ESP)の研究指定を受け、その後も「英語が使える高校生」の育成を目指した「ACE(Approach to Communicative English)プログラム」を実施しています。多くの研究・開発機関がある学術・研究のメッカにある学校らしく、保護者に研究者が多いのも特徴です。生徒数は960名。

(2008年10月現在)