生分解性プラスチック

生分解性プラスチックは、微生物と酵素の働きによって最終的に水と二酸化炭素にまで分解されることから、廃棄物処理問題の解決につながると期待されています。現在、開発されている生分解性プラスチックの種類について整理し、幅広い用途の可能性を紹介します。

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1. 生分解性プラスチックとは

 プラスチックは現代社会で幅広く利用され、社会活動に大きな恩恵をもたらしており、その利便性の高さから需要が増大し、生産量及び廃棄量が大幅に増えました(図-1)。

図-1 プラスチックの生産量と排出量

図-1 プラスチックの生産量と排出量
(出典:環境省「環境統計集」から作図)
出典URL:http://www.env.go.jp/doc/toukei/contents/index.html

 使用されたあとのプラスチックごみは、量がかさばるため廃棄物処理の大きな負担になります。また、自然環境中へ捨てられたり散逸した場合、腐食しにくいためにいつまでも残ってしまうという問題があります。このため1980年代から、従来と同じ用途に利用でき、なおかつ自然界で微生物によって分解される「生分解性プラスチック」の研究・開発が積極的に進められてきました。
  生分解とは酵素を触媒とした分解で、自然環境中では微生物を介在して行われます。つまり、酵素の働きと微生物の働きがともに作用することによって、もとの化合物がほかの物質に変化します。生分解性プラスチックはこうした生分解が可能とされるもので、一般的に「使用するときには従来のプラスチック同様の性状と機能を維持しつつ、使用後は自然界の微生物などの働きによって生分解され、最終的には水と二酸化炭素に変換されるプラスチック」と定義1)づけられています。

図-2 生分解性プラスチックの循環概念図

図-2 生分解性プラスチックの循環概念図
(出典:「グリーンプラの特長」日本バイオプラスチック協会)
出典URL:http://www.jbpaweb.net/gp/gp_merit.htm

写真-1 生分解性プラスチックの分解のようす

写真-1 生分解性プラスチックの分解のようす
(出典:「グリーンプラの特長」日本バイオプラスチック協会)
出典URL:http://www.jbpaweb.net/gp/gp_merit.htm

 なお、生分解性プラスチックと混同されやすいプラスチックに「バイオマスプラスチック」があります。バイオマスプラスチックは、再生可能資源であるバイオマスを原料にするもので、化石資源に依存してきたプラスチック製造からの転換によって、CO2の排出削減と枯渇の危険性をはらむ化石資源からの脱却をねらったものです。
  生分解性プラスチックが製品化後の機能に焦点を当てているのに対し、バイオマスプラスチックは製造原料の種類によって規定されます。本来は異なる概念のプラスチックであり、石油系のプラスチックのなかには生分解性のものがあったり、バイオマス系のなかに非生分解性のものがあったりして、必ずしも両者が合致するものではありませんが、ともに循環型社会に適合する素材として高い関心を集めています。

2. 生分解性プラスチックの種類

 現在までに、生分解性プラスチックはさまざまな種類のものが開発されていますが、製造方法によって分類すると、主に次の3種類に区分できます。

表1 生分解性プラスチックの種類
分類内容
微生物系微生物が酵素の働きで体内に蓄積するポリエステルなどを利用した高分子から製造
  • ポリエステル(P(3HB)など)
  • ポリアミノ酸
  • 多糖類(バクテリアセルロース、カードラン、プルランなど)
天然物系植物や動物がつくる天然の高分子から製造
  • セルロース
  • でんぷん
  • キチン、キトサン
化学合成系 化学合成によってつくられる高分子から製造
  • 脂肪族ポリエステル及びその変性系
  • ポリビニルアルコール

参考資料:『入門 生分解性プラスチック技術』生分解性プラスチック研究会編、オーム社(2006年)

 これらの代表的な生分解性プラスチックの技術概要について、以下に紹介します。

1)微生物系

(1)微生物産生ポリエステル
 微生物の多くは、体内にエネルギー貯蔵物質としてポリヒドロキシアルカノエートと呼ばれるポリエステルを蓄積します。P(3HB)はその一種で、ポリプロピレンに近い融点や破壊強度を持っています。しかし脆いという欠点があるため、別の成分モノマーを導入してさまざまな共重合ポリエステルが開発されています。硬質射出成形品やフィルム、シートなどの原料に利用されます。

(2)ポリアミノ酸
 微生物によってつくられたアミノ酸の結合による高分子です。微生物のうち、例えば納豆菌からはポリ(γ-グルタミン酸)というポリアミノ酸が、放線菌からはポリ(ε-リジン)という高分子がつくられます。アルカリ性ポリマーとして、食品や化粧品、医薬品などのほか、紙おむつに利用されています。

(3)多糖類
 ある種の酢酸菌からセルロースがつくられ、これをバクテリアセルロースと称しています。バクテリアセルロースの繊維は植物セルロースに比較して細く、緻密な網目構造をもっていることから、工業用汎用素材、食品工業素材、医療材料として期待されています。商業化された例として、音響振動板や創傷被覆剤などがあります。
 このほか微生物によってつくられるグルコースを結合した多糖類に、カードランやプルランがあり、これらは食品分野で使われていますが、まだプラスチックには応用されていません。

2)天然物系

(1)セルロース誘導体
 植物によってつくられるセルロースの加工性(汎用有機溶媒への可溶化、成形に適した熱可塑性)を改良した、さまざまなセルロース誘導体が開発されています。生分解性を高めるための研究が進められ、半硬質タイプの生分解性プラスチックとして実用化されたものがあります。

(2)でんぷん
 トウモロコシなどの穀類やジャガイモなどのイモ類に含まれるでんぷん(グルコースポリマー)は、結晶性に乏しいため、単独ではプラスチックの性質をもっていませんが、ほかの生分解性プラスチックとブレンドすることによってフィルムなどに製品化されています。

(3)キチン・キトサン
 キトサンはエビやカニ、昆虫、貝類などの外殻に含まれるキチンから誘導した多糖類です。このキトサンにセルロースやでんぷんを用いて生分解性プラスチックをつくる技術が研究され、フィルム・シートなど農業や漁業用資材への応用が試みられています。

3)化学合成系

(1)脂肪族ポリエステル及びその変性系
○ポリ乳酸
 でんぷん発酵などによってつくられたL-乳酸を、化学重合法で合成した高分子をポリ乳酸(PLA)といい、透明性や物理特性にすぐれているため、工業用材料としてさまざまな製造技術が開発されています。各種樹脂とのアロイ(複数のポリマーを混合することで新しい特性を持たせた高分子)によって、汎用成型品への応用が期待されています。なおポリ乳酸は、乳酸を原料としているため、微生物系と化学合成系の中間的な存在と位置づけられています。

写真-2 生ごみから生分解性プラスチックの原料となる乳酸を発酵・回収する装置

写真-2 生ごみから生分解性プラスチックの原料となる乳酸を発酵・回収する装置
((独)国立環境研究所 循環・廃棄物研究棟内)

○ポリカプロラクトン
 ε-カプロラクトンの合成によって得られた高分子をポリカプロラクトン(PCL)といい、低い融点(60℃)の熱可塑性のプラスチックとして、フィルムへの実用化が実現し、マルチフィルムやコンポスト用袋などに使われるほか、バラ緩衝材や釣り糸、魚網などにも使われています。

○PBS、PBSA
 コハク酸またはアジピン酸と、1,4-ブタンジオールからの重合によってつくられる高分子で、前者がPBS、後者がPBSAと呼ばれています。最近はコハク酸の製造をバイオマスからつくる技術が開発されています。軟質系プラスチックとして実用化されています。

○その他
 脂肪族ポリエステル類の生分解性プラスチックとしてはこのほか、ポリグリコール酸(PGA)やテレフタレート変性系、ポリエチレンサクシネート(PES)などが開発されています。


(2)ポリビニルアルコール
 ポリ酢酸ビニルを加水分解してつくられるポリビニルアルコール(PVA)は、ビニロン繊維の原料や工業用原料として従来から幅広く利用されている高分子です。難溶解性フィルムなどに加工し、包装材料などに実用化されています。

3. 生分解性プラスチックの用途

 生分解性プラスチックの利用は、欧米において先行しており、1980年代末以降、シャンプーボトルや食品包装、簡易食器具、キャラクター商品、コンポスト用袋などが実用化されています。ドイツでは、法規制によって未処理の有機性廃棄物は埋立てが禁止されていることから、多くの家庭で有機性廃棄物のコンポスト化が定着しており、生分解性プラスチックによるコンポスト用ごみ袋の需要が多くなっています。
 わが国でも、コンポスト用ごみ袋への利用が生分解性プラスチックの主流を占めていました。その後、農業用マルチフィルムや園芸用資材、土木工事用資材についても利用が進み、現在では各種成形に耐えられる物理・化学性状や、製品化されたときの耐熱性、耐衝撃性、難燃性などの向上によって、さまざまな用途への可能性が広がっています(写真-3)。

写真-3 生分解性プラスチックの製品例

写真-3 生分解性プラスチックの製品例
(出典:「グリーンプラ」グリーンジャパン)
出典URL:http://www.greenjapan.co.jp/seibunkaiplastic.htm

表2 生分解性プラスチックの実用化・利用の拡大が期待される分野
分野用途
環境中で利用される分野農林水産用資材 マルチフィルム、移植用苗ポット、釣り糸、魚網等
土木・建築資材 断熱材、山間・海中等回収困難な土木工事の型枠、土留め等荒地・砂漠の緑化用、工事等の保水シート、土嚢、植生ネット等
野外レジャー製品等 ゴルフのティー、釣り(疑似餌等)
日常生活で利用される分野 食品包装用フィルム・容器 生鮮食品のトレイ、即席食品容器、ファーストフード容器、弁当箱等
衛生用品 紙オムツ、生理用品等
事務用品・衣料その他 ペンケース、芯ケース、髭剃り、歯ブラシ、コップ、ごみ袋、水切り、クッション材、衣服等
特殊機能を活かした分野 除放性を利用した被覆材 医薬品・農薬・肥料・種子等の被覆材
保水性・吸水性を利用した用途 砂漠・荒れ地等での植林用素材、コンポスト化の水分調整材
生体内分解性を利用した医療関連製品 手術用縫合糸、骨折固定材、医用フィルム、医用不織布等
低酸素透過性・非吸着性を利用した機能性包装資材 食品用包装フィルム、飲料用パックの内部コーティング等
低融点を利用した接着剤 包装・製本・製袋の際に用いる接着剤

(出典:「生分解性プラスチック」(社)政府資料等普及調査会)
出典URL:http://www.gioss.or.jp/current2/cr031222.htm

4.普及への取組と課題

図-3 「グリーンプラ識別表示制度」のシンボルマーク

図-3 「グリーンプラ識別表示制度」のシンボルマーク
(出典:「グリーンプラ識別表示制度」日本バイオプラスチック協会)
出典URL:http://www.jbpaweb.net/
gp/gp_sikibetsu.htm

 生分解性プラスチックの開発が本格化するにともなって、製造時における高分子化や成形などをめぐる技術的課題はもとより、生分解度を計測する試験法や、分解生成物の安全性の評価手法を確立することも求められました。
  わが国では1989年に、生分解性プラスチックに関する技術の確立、実用化の推進を目的として、樹脂製造メーカーや加工メーカー、最終製品メーカー、商社などによって、生分解性プラスチック研究会(現在の日本バイオプラスチック協会(JBPA))が設立され、国際的連携を進めながら生分解性と安全性に関する識別標準として「グリーンプラ識別表示制度」を設けました。この制度は、有害重金属類を基本的に含まず、生分解性と安全性が一定基準以上あることが確認された材料のみから構成されるプラスチック製品をグリーンプラ製品と認定し、製品にシンボルマークをつけることを許可する制度です。生分解性については、国際標準分析法に基づいた生分解速度で60%以上のものなどに限定し、安全性についても、使用有機化合物は、天然有機物、食品添加物として登録されているもの、あるいは一定の安全性が確認されたものに限るとされています。

 また、(財)日本環境協会が実施するエコマーク制度においても、農林業用資材、造園・緑化用資材、コンポスト用資材として使われる生分解性プラスチック製品について、別途認定基準書を作成するなどして、エコマーク製品の品質保証と普及に努めています。
  このように、認定制度を通じて生分解性プラスチックの品質の確保が図られていますが、普及についての進展はけっして順調とはいえません。これは、(1)価格面で従来のプラスチックに比べて高価であること、(2)物性や成形性、性能について従来品を凌駕すると評価されるものが少ないこと、(3)コンポスト施設の整備が遅れていること、などの課題が残されていることによります。

5.最近の研究開発動向

 生分解性プラスチック原材料の新たな分野の開拓として、日立造船(株)では、バイオディーゼル燃料の製造時の副産物であるグリセリンを高温高圧水中で反応させることによって、ポリ乳酸に転換する装置の開発をスタートさせています。
  一方、生分解性プラスチックの分解制御は難しく、強力な分解菌を利用した分解促進技術が望まれています。(独)農業環境研究所では、生分解性プラスチックを効率よく分解する微生物(酵母菌)をイネの葉の表面から発見したことを発表しました。この酵母菌(シュードザイマ属酵母)は、常温では分解されにくいポリ乳酸も常温で分解することから、今後の技術開発の基礎として期待されます。
  この他、生分解性プラスチックそのものの機能を向上させることで用途分野を拡大する取組も進められています。日本精工(株)では、機械部品のベアリングへの利用ができるレベルに耐熱性・強度を向上させた生分解性プラスチック製品を開発しました。この製品は、耐熱性に優れるポリビニルアルコール(PVA)系樹脂に、強度を向上させる繊維状補強材と柔軟性改良剤を配合した同社の開発材料が用いられています。
  生分解性プラスチックは、バイオマスプラスチックとあわせて循環型社会を実現するための重要な鍵を握っているといえるだけに、更なる研究開発と普及への取組に対する関心は高いといえます。

引用・参考資料など

1)『入門 生分解性プラスチック技術』
(生分解性プラスチック研究会、オーム社、2006年10月)
2)『生分解性ケミカルスとプラスチックの開発』
(富田耕右監修、シーエムシー出版、2005年11月)
3)「機能性プラスチック」 (特許庁)
4)日本バイオプラスチック協会
5)(社)日本有機資源協会
6)(財)バイオインダストリー協会
(2008年7月現在)