POPs処理技術

 毒性が強く、難分解性、高蓄積性、長距離移動性をもち、人の健康や環境へ悪影響を及ぼすおそれがある残留性有機汚染物質(POPs)を成分とするPOPs農薬は、国内法で製造・販売が禁止されたことを受けて、1970年代に埋設処理されました。その後、2001年にPOPs条約が採択されたことに伴い、埋設された農薬は掘削・回収され、適正な容器で保管する対策がとられることになりました。今世紀に入り、POPs農薬の無害化処理技術の発展など、POPs農薬を適正処理するための環境が整いつつあり、民間による無害化処理事業も始まっています。POPs農薬の無害化処理技術について、背景や経緯を踏まえて、最新動向を解説します。

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1.POPs農薬とは?

 残留性有機汚染物質(POPs)とは、Persistent Organic Pollutantsの略で、環境中で分解されにくく、生物体内に蓄積しやすく、地球上で長距離を移動して遠い国の環境にも影響を及ぼすおそれがあり、いったん環境中に排出されると私達の体に有害な影響を及ぼすおそれがある物質のことです。「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」(以下「POPs条約」)によって、意図的につくられたもの、非意図的に生成されたものを含めて、DDTやディルドリン、PCBなど12種類がPOPs物質として指定されています(表1、図1)。

表1 POPs条約が指定しているPOPs物質
(出典:農薬工業会「農薬の種類と使用実態」をもとに編集)

○意図的生成物

・農薬
アルドリン、ディルドリン、エンドリン、DDT、ヘプタクロル、クロルデン、HCB(ヘキサクロロベンゼン)、マイレックス、トキサフェン
・工業化学物質
PCB(ポリ塩化ビフェニル)類

○非意図的生成物

PCDDs(ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン)、PCDFs(ポリ塩化ジベンゾフラン)

  ※ HCB及びPCBは、非意図的に生成される場合もあります。

図1 POPs12物質(群)の構造式

図1 POPs12物質(群)の構造式
(出典:(独)国立環境研究所「大気中の残留性有機汚染物質を測る」をもとに編集)

 これらのうち、日本国内では、DDT、エンドリン、ディルドリン、アルドリン、クロルデン、ヘプタクロルが、農薬の有効成分として過去に使用されていました(表2)。
 しかし、人や環境に対する安全性の観点から、1971年に農薬取締法が改正され、急性毒性の強い薬剤や残留性の高い薬剤は、農薬としての登録が認められず、製造や販売が禁止されました。
 そして、すでに製造されていたPOPs農薬については、農林水産省の指導・支援により、ドラム缶等に封入してコンクリート製の槽の中に入れたり、ビニルシートを敷いた穴の中に入れて、シートで包んだりセメントモルタルをかけるなどの埋設処理が行われました(図2)。

表2 国内で過去に使用されていたPOPs農薬(出典: 農林水産省資料

農薬用途農薬登録年失効年
DDT殺虫剤1948年1971年
エンドリン殺虫剤1954年1975年
ディルドリン殺虫剤1954年1975年
アルドリン殺虫剤1954年1975年
クロルデン殺虫剤1950年1968年
ヘプタクロル殺虫剤1957年1975年
図2 埋設農薬の代表的な例

図2 埋設農薬の代表的な例
(出典:環境省「埋設農薬調査・掘削等暫定マニュアル改定版」(2005年3月))

 また、有害な化学物質による環境汚染を防止するために、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(以下「化審法」)が1973年に制定されました。この法律は、化学物質の製造・輸入事業者は事前に分解性、蓄積性、人毒性、生態毒性などのデータの提出が義務づけられ、国が審査を行い、その結果に応じて、製造、輸入、使用等について必要な規制を行うことを定めています。これに基づいて、1980年代には、農薬以外の用途を含めたPOPsの製造・輸入・使用が事実上禁止されました。

2.POPs条約とPOPs農薬の埋設処理

 POPsは、環境中に放出されると、偏西風やグラスホッパー現象(蒸発と凝結を繰り返し、徐々に極域へ移動する現象)などを通じて、国境を移動すると考えられます。このため、これまでにPOPsを製造したり、使用したことがない極域に生息するアザラシなどからPOPsが検出されています。このようなPOPsの地球規模での移動と汚染を防ぐため、2001年に採択されたのがPOPs条約です(2004年5月発効)。POPs条約では、各国がとるべき対策を表3のように定めています。

表3 POPs条約が定める各国がとるべき対策
(出典: 環境省「POPs-残留性有機汚染物質-」パンフレット

表3 POPs条約が定める各国がとるべき対策

 POPs条約の採択を受けて、日本政府はPOPs農薬の在庫管理と廃棄物の適正処理を迫られました。農林水産省が2001年に公表した「埋設農薬の実態調査の結果について」によると、過去に埋設処理されたPOPs農薬等のうち、埋設場所が特定されたものは全国174カ所(総数量約3,680トン)でした。また、環境省が2001年に行った「農家段階でのPOPs農薬等の保管実態にかかるモデル調査」では、1~2%程度の農家がPOPs農薬を保管している可能性があると報告されました。
 2001年当時は、POPs無害化処理技術が確立されていませんでした。このため、環境省が策定した「埋設農薬調査・掘削等暫定マニュアル」(以下「旧暫定マニュアル」)では、埋設農薬を掘削・回収し、数年間保管しても密閉性、堅牢性、耐腐食性などが維持できる定められた容器で保管することを求めています。
 その後、1)無害化処理技術の進歩、2)POPs条約発効と国内実施計画の策定、3)農林水産省による「埋設農薬最終処理事業」の開始(2004年から)などの条件がそろったことで、埋設POPs農薬を適正に処理するための環境が整ってきました。また、旧暫定マニュアルは2005年3月に改訂されました。

3.POPs農薬無害化処理技術の概要

 過去に埋設されたPOPs農薬(POPs廃農薬)の適正な処理方法を確立するため、農林水産省では2000年度から、環境省では2001年度から検討会を設置し、POPs廃農薬の分解処理に関する実証試験を行ってきました。
 この結果、POPs廃農薬が確実に分解され、かつ、ダイオキシン類の排出が基準値以下である技術として、環境省は「POPs廃農薬の処理に関する技術的留意事項」(2004年10月)において、表4にあげる8つを示しました。POPs廃農薬は、このいずれかの技術で処理しなければならないことになっています。8つの技術のうち、真空加熱法以外は、廃棄物処理法施行規則において廃PCB等の分解施設に用いられる方式としても定められています。
 環境省ではこれらの処理方法を活用して、2004年度から5年計画で、POPs廃農薬の適正処理を進めています。

表4 環境上適正なPOPs農薬の処理方法
分解方式の名称内容
焼却高温(約1,000℃以上)で熱分解する技術
BCD法
(アルカリ触媒分解法)
有機塩素系化合物に水素供与体、炭素系触媒アルカリを添加し、窒素雰囲気下、常圧下で加熱(300~500℃)し、脱塩素化して分解する技術
金属ナトリウム分散体法有機塩素系化合物を、金属ナトリウム微粒子を油中に分散した分散体で脱塩素化する技術
水熱分解法高温・高圧で亜臨界状態にある水中で、有機化合物を酸化的に分解する技術
超臨界水酸化法超臨界水中で酸化反応を起こし、有機物を炭素ガス、水、塩酸に分解する技術
メカノケミカル法ボールミルで物質を粉砕する際に化合物の結合状態が化学的に活性化されることを利用して、有機塩素系化合物を常温・常圧で無害化する技術
ジオメルト法処理対象物に挿入した電極間に通電し、生じた高熱(約2,000℃)によって、有機塩素化合物を分解する技術
真空加熱法汚染土壌を減圧しつつ過熱(600~800℃)することによって、ダイオキシン類の生成を防ぎつつ、熱分解する技術

(出典:環境省「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約に基づく国内実施計画」(2005年6月))

4.進む無害化処理技術の検証

 8つの技術のうち、焼却はコストが安く、大量の処理に適しています。環境省のPOPs等農薬無害化処理技術検証事業では、焼却処理について、実規模焼却処理による実証試験が行われました。1)直接溶融ロータリーキルン方式、2)外熱式乾留路+ニ次燃焼炉方式、3)ロータリーキルン方式廃棄物焼却炉、の3方式を対象に行った結果、どの方式でもPOPs成分を99.999%以上分解できることが確認されています。
 実処理の現場では、POPsに汚染されたびんやコンクリートガラ、汚染水などや、POPs農薬の掘削・回収現場で発生する混ざり物も処理対象になります。本検証事業では、ロータリーキルン方式の廃棄物焼却炉による混焼試験が実施され、どの対象物も無害化処理できることが確認されています。
 また、日本各地に埋設されたPOPs農薬は、水銀などが同じ時期に埋設されていた可能性があります。そのため、水銀を含むPOPs農薬の無害化燃焼処理についての検証も行われ、その99.999%以上が分解できることがわかりました。しかし、排ガス処理工程でダイオキシン類が再合成される結果が得られたため、排ガス処理設備などについて検討がなされ、熱交換器の増設と活性炭容量の増加により、ダイオキシン類の排出抑制効果が高まることが確認されています。このほか、掘削現場で水銀剤の有無や含有量を確認するため、簡易分析法の開発が進められています。

5.民間企業による無害化処理に関する取組み事例

 POPs廃農薬を適正に処理するための環境が整ってきたことで、民間企業によるPOPs農薬無害化処理事業への参入も始まっています。
 2007年7月に京都で開催された国土交通省近畿地方整備局研究発表会で、(株)間組が発表した「溶融分解方式によるPOPs廃農薬の無害化」は、ジオメルト法によるものです。
 ジオメルト法はもともと米国エネルギー省が開発した技術です。あらゆるPOPs農薬の処理ができ、水銀を含む農薬の処理も可能とされています。ジオメルト法は、電気抵抗熱(ジュール熱)で加熱して対象物を溶融し、処理物中の有機物を熱分解します(図3)。処理は、汚染対象物を詰め込む「前処理」→通電し熱を加えて有機物を分解する「溶融無害化処理」→固化体の「後処理」の手順で行われます。固化体は、溶融体を冷却することによって固まったガラス質で、この中に揮発しない重金属類を封じ込めることができます。埋設農薬の掘削は写真1のように行われます。

図3 ジオメルト法の原理

図3 ジオメルト法の原理(出典:(株)間組「溶融分解方式によるPOPs廃農薬の無害化」)

写真1 埋設農薬の掘削・回収状況

写真1 埋設農薬の掘削・回収状況
(写真提供:(株)間組 木川田一弥氏)

 2005年11月には、三重県伊賀市内に、ジオメルト法によるPOPs農薬無害化処理設備が建設されました(写真2)。この設備は、電力供給設備、溶融設備、オフガス処理設備から構成されており、溶融にともなって発生する排ガスはオフガス処理設備に送られ、冷却・除塵・洗浄の工程を経たのち、HEPAフィルタ及び活性炭を通して、大気中へ放出されます。
 なお本技術は、ダイオキシン類やPCBなどの農薬以外のPOPsの無害化にも適用できます。(株)鴻池組では、2004年9月に、和歌山県橋本市にジオメルト技術による土壌浄化処理施設を完成させ、ダイオキシン類の土壌浄化を行っています。

写真2 溶融分解技術によるPOPs農薬無害化処理設備

写真2 溶融分解技術によるPOPs農薬無害化処理設備(三重中央開発(株)建設・運用)
(写真提供:(株)間組 木川田一弥氏)

6.おわりに

 これまで見てきたように、国内でのPOPs農薬の無害化処理技術は、実証段階を経て、実用化の段階に入っています。今後、国内実施計画に基づき、POPs農薬の無害化処理が進むことが期待されます。
一方、国際的な動向を見ると、POPs条約の対象物質について、表5に示す9物質を追加することが検討されています。こうした動きに積極的に対応するため、わが国でも現在、各物質の健康・環境影響に関する情報提供などの取り組みが進められています。

表5 POPs条約の対象物質への追加が検討されている物質
(出典:環境省 平成18年12月11日報道発表資料「残留性有機汚染物質(POPs)検討委員会第2回会合の結果について」
物質名主な用途提案国
クロルデコン農薬欧州連合
リンデン(γ-HCH)農薬メキシコ
ペンタブロモジフェニルエーテルプラスチック難燃剤ノルウェー
ヘキサブロモビフェニルプラスチック難燃剤欧州連合
パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)撥水撥油剤、界面活性剤スウェーデン
短鎖塩素化パラフィン難燃剤欧州連合
ペンタクロロベンゼン農薬、非意図的生成物欧州連合
オクタブロモジフェニルエーテルプラスチック難燃剤欧州連合
α-HCH及びβ-HCHリンデンの副生物メキシコ

 また、地球規模に及ぶPOPsの拡散状況を把握するためのモニタリング調査も進んでいます。わが国のPOPsモニタリング調査の水準は高く、(独)国立環境研究所では、沖縄県にある波照間モニタリングステーションのハイボリウムエアーサンプラーにより、大気中のPOPs捕集と分析を行っています(写真3、図4)。

写真3 波照間モニタリングステーション屋上のハイボリウムエアーサンプラー(左)とその内部構造(右)

写真3 波照間モニタリングステーション屋上のハイボリウムエアーサンプラー(左)とその内部構造(右)
(出典:(独)国立環境研究所「大気中の残留性有機汚染物質を測る」)

図4 クロルデン類およびDDT類の月別濃度変化

図4 クロルデン類およびDDT類の月別濃度変化
(出典:(独)国立環境研究所「大気中の残留性有機汚染物質を測る」)

 さらに、日本の環境省が中心となって行われている「東アジアPOPsモニタリング調査」の結果も明らかになりつつあり、国内における無害化処理技術に関する研究開発の成果が、アジアをはじめ世界のPOPs削減と無害化に活用されていくことが望まれます。

引用・参考資料など

1)環境省
「POPs廃農薬等無害化処理技術関係報告書」
2)環境省
「埋設農薬調査・掘削等暫定マニュアルの改定について」
3)環境省
「POPsのページ」
4)農林水産省
「販売禁止農薬・使用禁止農薬とは?」(農薬関係ホームページ)
5)農林水産省
「埋設農薬の実態調査の結果について」(PDFファイル)
6)外務省
「ストックホルム条約」
7)経済産業省
「POPs条約」
8)(独法)国立環境研究所
「特別研究報告『化学物質環境リスクに関する調査・研究(終了報告)』」
9)農薬工業会のホームページ
「農薬の種類と使用実態」(みんなの農薬情報館)
10)日本POPsネットワーク(エコケミストリー研究会)
「日本 POPs(残留性有機汚染物質)ネットワーク」
(2007年12月現在)