環境技術解説

バイオロギング

野生生物に装置を取り付け、その生態を明らかにする

野生動物に行動記録計(データロガー)やGPS装置などの機器をとりつけ、動物自身の生態や周囲の環境情報などを記録する手法を「バイオロギング」という。アザラシやイルカなどの海産哺乳類やペンギンなどの鳥類、サケやサメなどの魚類といった様々な動物でバイオロギングを利用した調査が行われており、これまで追跡が困難だった動物の行動や生態、生理が明らかになっている。

写真1 データロガーをつけたコイによる調査(国立環境研究所琵琶湖分室)
「絶滅のおそれのある地域個体群」としてレッドリストに掲載されている琵琶湖の日本在来ゴイについて、滞在深度や経験水温、活動量などのデータを収集。非繁殖期(秋〜冬)における生息深度や一日の行動パターンといった未解明の生態を明らかにする。

※掲載内容は2019年3月時点の情報に基づいております。
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『 コイ目線のびわ湖映像アーカイブス 』
コイの背中に動物搭載型のビデオカメラをとりつけて撮影した
"コイ目線"の琵琶湖の水中映像を紹介しています。

1.バイオロギングの登場と進化

バイオロギング(bio-logging)とは、Bio(生物)とLog(記録する)を組み合わせた造語であり、現在では学術用語として定着している。バイオロギングが生態学の分野で使われはじめたのは1960年代のことで、野生のアザラシに水圧計を装着し、潜水深度を測定したのが始まりである。当初の装置は約1kgもあったため、アザラシやウミガメなど大型動物に利用が限られた。1980年代にアナログ式記録計が開発されて装置が小型化されると、ペンギンなどにも使われるようなった。

1990年代にデジタル技術が進歩すると装置の小型化がさらに進み、海鳥や魚類にも装着が可能になった。記録容量の増大、多様なセンサーの開発、衛星利用測位システム(GPS)装置の小型化といった技術面でのめざましい進歩により、多様なデータが得られるようになってきた。近年では、画像や音響情報を記録する装置も導入されている

なお、野生動物に発信機を取り付け、その行動を追跡する技術を「テレメトリ(遠隔測定法)」あるいはバイオテレメトリと呼ぶことがある(環境技術解説「テレメトリ」の項も参照)。また、追跡には一般に電波を用いるため、ラジオテレメトリ(ラジオトラッキング、ラジオタギング)と呼んで、区別することもある。近年では、動物に装置を装着する技術全般をバイオロギングと呼ぶことが多い。

写真2 ロガーを付けて泳ぐキングペンギン(写真:東京大学大気海洋研究所 佐藤克文)
出典URL:https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/f_00084.html

2.センサーの用途および使用上の留意点

動物の「動き」の情報を得るには、加速度センサー(動作や姿勢)やプロペラセンサー(対水速度)を、周囲の環境情報を得るには、温度センサー(温度)や光量センサー(照度)を使う。動物の「位置」に関する情報は、記録計に内蔵した圧力センサー(深度)や磁気センサー(地磁気や方位)、あるいは GPS装置により知ることができる。GPS は、人工衛星から受信機までの電波の到達時間をもとに、三次元測位を行って位置情報を算出する。電波の透過しない水中ではGPSを使うことができないため、代わりに超音波発信器(ピンガー)と受信機を用いた音響テレメトリ(acoustic telemetry)によって位置情報を得る。

一方、動物の「体内」にセンサーを挿入することで、温度センサーにより体温の情報を、電位センサーにより心拍数、筋電位や脳波の情報が得られ、動物の生理状態が分かる。また、「イメージセンサー」の導入により、人間の目視では確認できなかった空間の撮像や、高画質な静止画・動画の取得が可能となっている。

動物の行動への影響を抑えるため、装着する GPS装置や各種の記録計の重さは動物の体重の 3~5%以内に抑えることが望ましい。また、動物に装置をとりつける方法や記録計の回収方法は、対象動物の種類や調査地ごとに工夫する必要がある。

3.バイオロギングの応用事例

ペンギンなどの鳥類、アザラシやイルカなどの哺乳類からサケやサメなどの魚類まで、現在は100種類を超える生物についてバイオロギング調査が行われている。

こうした調査により、動物の潜水行動、遊泳行動や飛翔行動、あるいは採餌行動など、これまでの方法では追跡できなかった生物の生態が明らかになっている。また、動物の体温や心電図、血中酸素濃度を測定して生理状態を把握したり、動物にカメラを装着して環境データを集めたりする活用も進んでいる。

表1 バイオロギングの事例
対象となった生物 明らかになった事象 取得した行動情報
(使用したセンサー)
出 典
アデリーペンギン
キングペンギン
採餌するときに、潜る深度にあわせて吸い込む空気量を調節し、遊泳コストを節約している。 ●深度(圧力)
●遊泳姿勢・羽ばたき強度(加速度)
●遊泳速度(プロペラ)
Sato et al. (2002) J Exp Biol
キタゾウアザラシ
バイカルアザラシ
水平移動に浮力を使い、遊泳コストを節約している。 ●深度(圧力)
●遊泳姿勢・遊泳強度(加速度)
●遊泳速度(プロペラ)
Sato et al. (2013) Sci Rep
ヒラシュモクザメ 体を横に60度ほど傾けて泳ぐことで水の抵抗を軽減し、遊泳コストを節約している。 ●深度(圧力)
●遊泳姿勢・遊泳強度(加速度)
●遊泳速度(プロペラ)
Payne et al. (2016) Nat Commun
オオミズナギドリ
ワタリアホウドリ
滑空飛行(ソアリング)で長距離移動するときに、横風を受けることで効率よく飛翔している。また、海鳥の飛翔データから、海面近くの風向や風速を推定できる。 ●水平位置(GPS)
●高度(圧力)
●飛行姿勢・羽ばたき強度(加速度)
Yonehara et al. (2016) PNAS
Goto et al. (2017) Sci Adv
マンボウ 深海にすむクダクラゲ類を主食とし、水の冷たい深層で冷えた体を温めるために海面付近に浮上する。 ●深度(圧力)
●遊泳姿勢・遊泳強度(加速度)
●遊泳速度(プロペラ)
●海水温・体温(温度)
●静止画(カメラ)
Nakamura et al. (2015) J Anim Ecol
アカウミガメ
アオウミガメ
海中を漂うクラゲ類を主食とするアオウミガメは、貝やカニなどの底生動物を主食とするアカウミガメに比べて、ポリ袋などの海洋ゴミを誤飲しやすい。 ●水平位置(アルゴス発信機)
●深度(圧力)
●遊泳姿勢・遊泳強度(加速度)
●遊泳速度(プロペラ)
●動画(ビデオ)
Fukuoka et al. (2016) Sci Rep
サケ 河川を遡上する際、流れの速い直線区間は一気に通過し、流れのゆるやかな蛇行区間で休息している。産卵の瞬間には心拍が停止し、数秒後に再開する。 ●筋電位・心拍(電位) 牧口ほか (2014) 比較生理生化学

写真3 三陸沖を飛行するオオミズナギドリ
(写真:東京大学大気海洋研究所 後藤佑介)
出典URL:https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/f_00084.html

4.今後の展望

技術の進歩による装置の小型化や大量生産による低価格化が進み、バイオロギングの調査対象はますます広がると考えられる。そのためには装置の装着・回収方法の改良に加え、得られる大量のデータを解析する技術も必要である。

今後はAIやIoTの活用による技術革新により、動物の行動や周囲の環境に関する情報が遠隔かつリアルタイムで手に入るようになり、こうしたデータの気象予測への利活用なども期待されている。

引用・参考資料など

・Fukuoka et al. (2016) The feeding habit of sea turtles influences their reaction to artificial marine debris. Scientific Reports 6: 28015

・Goto et al. (2017) Asymmetry hidden in birds’ tracks reveals wind, heading, and orientation ability over the ocean. Science Advances 3: e1700097

国立極地研究所プレスリリース(2016年7月29日)「横に傾いて泳ぐ奇妙なサメを発見し、理由を解明」

馬渕浩司 研究紹介:データロガーを用いた日本在来コイの琵琶湖沖合における行動パターンの解明(平成29年度)

・牧口ほか(2014)小型記録計・発信機を用いた魚類の行動・生理解析.比較生理生化学31: 113-118

・内藤康彦ほか「バイオロギング」成山堂

・Nakamura et al. (2015) Ocean sunfish rewarm at the surface after deep excursions to forage for siphonophores. Journal of Animal Ecology 84: 590-603

日本バイオロギング研究会ウェブサイト

・日本バイオロギング研究会編「バイオロギング、最新科学で解明する動物生態学」「バイオロギング2、動物たちの知られざる世界を探る」京都通信社

Payne et al. (2016) Great hammerhead sharks swim on their side to reduce transport costs, Nature Communications 7:12289

・Sato et al. (2002) Buoyancy and maximal diving depth in penguins: do they control inhaling air volume? , Journal of Experimental Biology 205: 1189-1197

・Sato et al. (2013) Neutral buoyancy is optimal to minimize the cost of transport in horizontally swimming seals. Scientific Reports 3: 2205.

・高橋晃周・依田 憲 (2010)「バイオロギングによる鳥類研究」日本鳥学会誌 59(1), 3–19

東京大学プレスリリース(2013年7月16日)「水平移動するアザラシの移動コストは中性浮力の時に最小となる ―バイオロギングによる野外操作実験から―」

東京大学ウェブサイト(2018年5月18日)「動物の知られざる生態に迫るバイオロギング 動物の行動データを使って将来的には天候予測の向上も」

・依田 憲 (2018)「バイオロギングによる行動学: 海洋動物の長距離ナビゲーションを例として」動物心理学研究68,49-56

・Yonehara et al. (2016) Flight paths of seabirds soaring over the ocean surface enable measurement of fine-scale wind speed and direction. PNAS 113: 9039-9044


<コンテンツ掲載について>
2019年5月:初版を掲載