テレメトリ

 テレメトリとは、野生動物の身体に発信機を装着し、地上のアンテナや人工衛星などとの間で送受信される電波の情報から動物の移動を追跡する技術である。テレメトリは、自然の中での生息状況の把握が困難な動物を調査するのに有用であり、移動経路や生息域、中継地点等の野生動物の保存のために重要なデータを得ることが可能となる。
 テレメトリによる野生動物の追跡は1960年代から本格的に行われるようになり、これまでに、ほ乳類、鳥類、魚類をはじめとする多くの野生動物の調査に利用されている。追跡方法としては、放送用にも使われているVHFの電波を用いた方法や、人工衛星を用いたアルゴスシステムのほか、カーナビに使われているGPSを用いたシステムなどが開発されている。最近は、発信機の小型軽量化や電源(バッテリー)の長寿命化が進んでいるため、小型動物にまでテレメトリが利用できるようになってきている。
 テレメトリによる追跡情報は、野生生物保全の現場でも活用されており、最近では、環境省によって、佐渡で試験放鳥されたトキの追跡(下図)や、伊豆諸島鳥島から小笠原諸島聟(むこ)島に移送したアホウドリの追跡にGPSを用いた衛星テレメトリ技術が利用されている。

GPSを用いたモニタリングにより探餌行動が確認されたトキ

GPSを用いたモニタリングにより探餌行動が確認されたトキ
出典:環境省 トキ放鳥記念パンフレット
http://www.env.go.jp/nature/toki/pamph/0811/3.pdf

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1.背景

 テレメトリ(telemetry)は、「遠い」、「ある距離を離れて伝達する」という意味のteleと「測定(法)」をあらわすmetryを合成して作られた言葉で、元々は遠隔測定法といった意味の造語であるが、生物分野では、(1)野生動物に発信機を取り付け、その行動を追跡する技術、(2)動物に計測器を取り付け、体温、脈拍などの生理的情報を測定する技術、の2つの意味をもつ。ここでは、主に生態学分野で用いられる(1)の意味について説明する。
 テレメトリは1960年代から生態学分野で本格的に利用されるようになった手法であり、自然の中での行動パターンや生息範囲の把握が困難な動物を調査するのに有効な手段である。実際の調査では、動物個体を捕獲して、その体に電波の発信機を取り付け、動物を放したのち、その動きを追跡する(図1)。追跡のための発信機は動物の行動に影響を与えないことが必須であるため、体重の3%以下にすることが望ましい。なお、発信機内に各種のセンサーを組み込むことで、位置情報のほかに温度、気圧等の付加的情報を収集できるため、動物が実際にどのような環境を移動しているのかを知ることもできる。
 生物に対してテレメトリ(遠隔測定法)を利用するという意味で、バイオテレメトリと呼ばれることもある。また、追跡には一般に電波が用いられるので、ラジオテレメトリ(radio telemetry)、ラジオトラッキング(radio tracking)、ラジオタギング(radio tagging)と呼ばれることもある。

図1 送受信機をつけたアホウドリを放鳥する様子

図1 送受信機をつけたアホウドリを放鳥する様子
出典:(財)山階鳥類研究所「アホウドリを調べる」
http://www.yamashina.or.jp/hp/yomimono/albatross/04shiraberu.html

2.技術の概要

1)テレメトリの分類

 テレメトリは、使用する電波の種類等によっていくつかの方法がある。

(1)VHF(超短波、Very High Frequency)

 VHF(周波数30~300Mhz)の電波を用いるテレメトリは、地上波テレメトリ法とも呼ばれ、機材が比較的安価であること(一台数万円)などから、これまで汎用的な手法として利用されてきた。この方法は、VHF発信機をバッテリーとともに動物に取り付け、携帯型あるいは固定型のアンテナで、発信機からの電波を探知しながら追跡し、三角測量によって位置を特定するというものである(図1)。

図2 携帯型アンテナを用いたVHFテレメトリの様子

図2 携帯型アンテナを用いたVHFテレメトリの様子
出典:トヨタ白川郷自然學校「トヨタ白川郷自然學校とは」
http://www.toyota.eco-inst.jp/concept/project.html

 この方法の特長は、安価であることに加え、小型軽量の発信機の実用化が進んでいることである(図3)。一方、データ取得時に電波の届く範囲が短くなること、地形によっては電波がさえぎられるため、広域に移動する動物を追跡する場合には自動車や軽飛行機が必要となり、多大な時間と労力がかかること、電波法によって使用が制限されることなどが課題とされている。
 測定されるデータの位置精度は、使用する波長、地形やコンクリート構造物の配置状況、調査員の技術力などに左右され、数百mの誤差が含まれる場合もある。

図3 VHFテレメトリによる魚類などの水生動物の追跡

図3 VHFテレメトリによる魚類などの水生動物の追跡
(発信機:長さ約14mm、重さ約0.4g)
出典:(株)テクノ中部「バイオテレメトリーによる水生生物調査
http://www.techno-chubu.co.jp/services/new-tech/new-tech1.html

(2)アルゴス(ARGOS)システム

 アルゴスシステムは、1978年にフランスとアメリカによって共同開発された環境データの収集・測位システムである。このシステムでは、動物などの観測対象に取り付けた発信機からの電波を、アルゴス装置を搭載した人工衛星が受信し、地上受信基地を経由して情報処理センターにデータが転送される。そして、電波のドップラー効果を利用して位置情報(緯度・経度)が算出され、センターから利用者にデータが提供される(図4)。
 2002年には、日本もアルゴス装置を搭載した環境観測技術衛星ADEOS-IIを打ち上げ、アルゴスシステムの運営に加わった。ADEOS-IIでは、それまで発信機から衛星への送信機能だけであったシステムを改良し、初めて逆方向の送信(ダウンリンク)機能を実現することで、発信機の電源切替え(ON/OFF)やサンプリング間隔の変更などを可能にした。ADEOS-IIは残念ながら2003年に故障して利用できなくなったが、ダウンリンク機能はその後のアルゴスシステムの衛星装置に受け継がれている。

図4 アルゴスシステムのしくみ(イラスト:重原美智子)

図4 アルゴスシステムのしくみ(イラスト:重原美智子)
出典:東京大学大学院 生物多様性科学研究室(樋口広芳教授)ウェブサイト
http://www.justmystage.com/home/hhiguchi/sub7.html

 アルゴスシステムは、VHFテレメトリと異なり、自動的にデータを収集することができる。ただし、位置精度が数百m~数km程度であることから、比較的広範囲を移動する動物の追跡に適している。例えば、国立環境研究所では、渡り鳥であるコウノトリの追跡データをもとに、繁殖地(ロシア・アムール川流域)から越冬地(中国・揚子江流域)までの渡り経路の接続性について解析を行い、渡り経路の断片化を防ぐために優先的に保全すべき中継地などをまとめている(図5)。
 なお、アルゴスシステム用の発信機としては、現在15~20g程度の軽量サイズが開発されているが、小型の鳥類やほ乳類の追跡には、さらなる小型軽量化が求められている。また、機器や衛星回線の使用料が高価である点も課題とされている。

図5 コウノトリの追跡データに基づく渡り経路網の接続性解析

図5 コウノトリの追跡データに基づく渡り経路網の接続性解析
出典:環境省 地球環境研究総合推進費 研究実績
http://www.env.go.jp/earth/suishinhi/wise/j/pdf/J03F0410.pdf

(3)GPS(全地球測位システム、Global Positioning System)

 カーナビや携帯電話で利用されているGPSは、野生動物の追跡にも応用されている。
 GPSは、人工衛星から受信機までの電波の到達時間をもとに3次元測位を行い、位置情報を算出するもので、複数のGPS衛星から電波を受信する必要がある。そのため、VHFテレメトリやアルゴスシステムとは異なり、動物には受信機を装着する。
 受信機に蓄積されたデータを回収する方法としては、直接回収方式と遠隔回収方式がある。直接回収方式は、タイマーや遠隔操作、あるいは動物の再捕獲により、受信機を取り外し、回収する方法である。一方、遠隔回収方式は、VHFやアルゴスシステムなどを併用してデータを送信する方式であり、双方向通信によりデータの取得頻度などを変更することも可能である。実際の装置としては、図6のように、GPS受信機とともにVHF発信機を備えた首輪などが開発されている。

図6 GPSテレメトリ(GPS首輪)の構成例

図6 GPSテレメトリ(GPS首輪)の構成例
出典:「GPS テレメトリーの測位成功率及び測位精度の評価」(宇野裕之ほか)
http://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalianscience/42/2/42_129/_article/-char/ja

 GPSを用いたテレメトリは、以前は装置が約2kgと重かったことから、シカやクマなどの大型動物の追跡に限られていた。しかし近年は、装置の小型軽量化が進み、鳥類など中型動物への利用も可能となっている。GPSの位置精度は、数m~数十m程度と他の方法に比べて高いため、移動範囲が狭い動物の追跡にも適用することができる。また、アルゴスシステム同様、自動的にデータ収集が可能である。
 一方、装置が比較的高価であること、対象地域の植生や地形(樹木が密生する林内や、急峻な谷底など)によってGPSの受信状態が悪くなる場合があることなどが課題とされている。

(4)PHS(Personal Handy Phone System)

 小型電話機などに用いられているPHSも、動物の追跡に利用されている。
 PHSで使用する電波は1.8~1.9GHzと高く、基地局から最大数百mの範囲でのみ通信可能である。位置精度は約100mとされ、都市部など基地局密度が高い地域では位置精度が向上する。このようなことから、都市部に住む動物の追跡に適しており、タヌキやカラス、あるいは野生化した外来種などの行動の解析に用いられた例がある。
 図7は、神奈川県で分布を拡大している外来種のタイワンリスを対象に、PHS法を適用した事例である。小雀公園(神奈川県)にてタイワンリスを捕獲し、総重量30g弱のPHS端末を装着(図7左)し、その行動範囲を9~21日間、追跡した結果の一部(4個体を追跡調査しているうちの1個体分の結果)が、図7右である。
 こうした研究は、人間と都市動物の共生のあり方を考える上での重要なデータを提供する。

図7 PHSによるタイワンリスの移動追跡の研究事例

図7 PHSによるタイワンリスの移動追跡の研究事例
(左)PHS端末を装着したタイワンリス、(右)PHS端末を装着したタイワンリスの移動範囲(点:タイワンリスが観測された地点、影:樹林地、Aは小雀公園、BとCは近隣の樹林地)
出典:田村・園田・樋口(2005)「PHSを用いた都市域におけるタイワンリス(Callosciurus erythraeus)の移動追跡」
http://www.jstage.jst.go.jp/article/ece/8/1/8_35/_article/-char/ja

3.テレメトリの応用事例

 テレメトリによる行動追跡は、国内では以下のような多くの野生動物で行われている。

  • 魚類(サケ、ヒラメ、アマゴ、イワナ、ニゴロブナ等)
  • 両生類・は虫類(アカウミガメ、イシガメ、モリアオガエル等)
  • 鳥類(トキ、アホウドリ、マナヅル、ナベヅル、コウノトリ、イヌワシ、クマタカ、ハシブトカラス、マガモ、オオハクチョウ等)
  • ほ乳類(ヒグマ、ツキノワグマ、ニホンジカ、タヌキ、ムササビ、イタチ、テン、イリオモテヤマネコ、ツシマヤマネコ、ニホンザル等)

 テレメトリによって明らかになった生息域、移動経路、中継地点等についての情報は、野生動物の保全のための重要な知見を与える。また、最近では、鳥インフルエンザの発生にともなって、感染源となる野鳥の移動経路を明らかにする上でもテレメトリが使用されており、動物感染症の研究にも活用されている。
 以下、衛星テレメトリ技術が野生生物の保全に活用されている事例として、環境省によるトキ、アホウドリの保全への取組について紹介する。

1)放鳥されたトキの追跡

 環境省では、トキの野生復帰に向けて、平成19年7月から、佐渡トキ保護センター野生復帰ステーションで5羽のトキの野生順化訓練を開始した。その後、平成20年2月には10羽を追加し、計15羽で訓練を進めた。その結果、平成20年9月に野生復帰ステーション近くの水田で、野生順化訓練を受けた15羽のうち、健康状態が良好な10羽のトキ(オス5羽、メス5羽)を放鳥した(図8)。
 放鳥されたトキには、個体識別のための番号と色が付けられており、10羽のうち6羽にはGPSが装着されている。放鳥されたトキはGPSによる追跡に加えて、トキ・モニタリング専門チームによる観察、市民からの目撃情報をもとに、その位置と行動が逐一調査されている。
 GPSによる位置確認の結果(図9)、平成21年3月1日現在、5羽の個体は放鳥場所から半径10km程度の範囲に分散しているが、一部の個体は15~25km程度離れた地点にも移動していることが明らかになった。
 なお、このトキ放鳥計画の実施にあたっては、国立環境研究所において、トキと同じコウノトリの仲間(コウノトリ目)に属するサギ類の分布情報などをもとに、トキに必要な生息環境をモデル化するとともに、GPSを用いてサギ類やツル類の位置と行動を記録する予備調査を放鳥前に行い、再導入されたトキの個体群の存続可能性分析などを行っている。

図8 GPSを用いたモニタリングにより探餌行動が確認されたトキ

図8 GPSを用いたモニタリングにより探餌行動が確認されたトキ
出典:環境省 トキ放鳥記念パンフレット
http://www.env.go.jp/nature/toki/pamph/0811/3.pdf

図9 放鳥されたトキの確認地点

図9 放鳥されたトキの確認地点
出典:環境省 報道発表資料(平成20年10月28日)別紙2
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=10336

2)アホウドリの保全への応用

 アホウドリは、かつて鳥島及び小笠原諸島、尖閣諸島の島々で繁殖していたが、羽毛採取のための乱獲と鳥島の噴火により、一時は絶滅したと考えられていた鳥である。昭和20年代に伊豆諸島鳥島で数十羽が再発見された後、国の特別天然記念物指定や保護増殖事業などの様々な保護対策が進められ、個体数は現在、約2,150羽まで回復している。しかし、大半の個体が生息する鳥島は活火山の島であり、噴火により繁殖地が破壊される危険に常にさらされている。
 そこで環境省では、(財)山階鳥類研究所と共同で、小笠原諸島聟島(むこじま)におけるアホウドリの新繁殖地形成事業を進めている。この事業では、伊豆諸島鳥島から聟島までアホウドリのヒナを移送し、聟島に新たな繁殖地を作ることを目指している。
 平成20年2月には、伊豆諸島鳥島で捕獲したヒナ10羽をヘリコプターに載せて、小笠原諸島聟島まで移送し、(財)山階鳥類研究所の研究員が巣立ちまで給餌を行った。10羽のヒナは5月25日までに全てが巣立った。ヒナ10羽のうち5羽には衛星発信機(GPSとアルゴス発信機が一体化したもの)が装着され(図10)、6月30日現在、このうち4羽の位置が確認された。その結果、最も遠くまで渡っているもので聟島から約3,900kmの地点(カムチャッカ半島基部の東方)、最も近いものでも、鳥島から約1,100kmの地点(北海道の東方)まで到達していることが明らかになった。また、飼育されたヒナと野生のヒナとの渡りに大きな違いがないことも確認された(図11)。

図10 衛星発信機を装着したアホウドリ

図10 衛星発信機を装着したアホウドリ
出典:(財)山階鳥類研究所「アホウドリを調べる」
http://www.yamashina.or.jp/hp/yomimono/albatross/04shiraberu.html

図11 アホウドリ(ヒナ)の衛星追跡結果

図11 アホウドリ(ヒナ)の衛星追跡結果
出典:環境省 報道発表資料(平成20年7月3日)
http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=11776&hou_id=9944

引用・参考資料など

(2009年6月現在)