ヒートポンプ

 大気など周囲の熱を取り込んで別の場所へ移動させて放出するヒートポンプは、省エネやCO2削減効果が期待され、高い関心を集めています。空調機器や給湯器などについて、ヒートポンプの利用状況と現在の技術動向を整理します。

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1. ヒートポンプとは

 ヒートポンプとは、低温の熱源から熱を集めて高温の熱源へ送り込む装置で、まさに「熱を汲み上げるポンプ」といえます。おもに住宅やビルの冷暖房や給湯用に利用されており、熱源には、空気中の熱や工場の低温排熱、河川水や工場排水、地中熱など、これまで利用価値がなかった熱エネルギーが利用されることから、省エネ技術としてだけでなく、未利用エネルギーの活用という側面からも関心が高まっています。
 わが国では、業務部門や家庭部門におけるCO2(二酸化炭素)排出量が、1990年以降増加傾向にあり(図1)、両部門におけるCO2排出量削減が求められるようになっています。こうした中、エネルギーの使用内訳で大きな割合を占める冷暖房及び給湯(図2)における、エネルギー利用の高効率化を実現する技術のひとつとして、ヒートポンプが期待されています。

図1 二酸化炭素の部門別排出量(電気・熱配分後)の推移

図1 二酸化炭素の部門別排出量(電気・熱配分後)の推移
 (出典:国立環境研究所地球環境研究センター「日本国温室効果ガスインベントリ報告書(別添8)」) 
出典URL:http://www-gio.nies.go.jp/aboutghg/nir/2007/nir2007ver5.0j.pdf

図2 エネルギー使用内訳

図2 エネルギー使用内訳
(出典:総合科学技術会議「最近の科学技術の動向」民生部門における革新的なエネルギー技術による温暖化対策技術)
出典URL:http://www8.cao.go.jp/cstp/siryo/haihu73/siryo3.pdf

2. ヒートポンプの種類

 現在、実用化されているヒートポンプは、圧縮式と吸収式に分類することができます。
 圧縮式の場合は、冷媒(熱移動の仲立ちをする物質)を圧縮することによって凝縮熱を得て、この熱を水や空気に移動して給湯や暖房に利用します(図3)。また、逆に冷媒を膨張・減圧させると、冷媒は気化して周囲から熱を奪うため、冷房として利用されます。熱を移動させるエネルギー源としては、電気モーターやガスエンジンなどが利用されており、家庭用や業務用の冷暖房や給湯などに広く使われています。
 一方、吸収式の場合は、蒸発、吸収、再生、凝縮といったサイクルによる水の気化熱を利用した仕組みとなっており、冷媒には水、吸収剤には吸湿性が高い臭化リチウムが用いられます。具体的には図4に示すように、熱源水からの熱を奪いながら冷媒(水)を水蒸気へと気化させる「蒸発器」、水蒸気を吸収液に吸収させる「吸収器」、吸収液を加熱して水分を蒸発させ、吸収液を濃縮させる「再生器」、再生器で発生した水蒸気が水に戻される「凝縮器」で処理サイクルを繰り返し、吸収器及び凝縮器で発生する熱が利用されます。熱を移動させるエネルギー源としては、水蒸気や高温水などが利用され、電力は補助源としてのみ用いられるため、電力消費量が少ないという特長があり、産業用や地域熱供給などに広く利用されています。

図3 圧縮式ヒートポンプの概念図

図3 圧縮式ヒートポンプの概念図
(出典:北海道ガス(株)「環境報告書」)
出典URL:http://www.hokkaido-gas.co.jp/ir/kankyo2003/p12.pdf

図4 吸収式ヒートポンプの概念図

図4 吸収式ヒートポンプの概念図
(出典:北海道ガス(株)「環境報告書」)
出典URL:http://www.hokkaido-gas.co.jp/ir/kankyo2003/p12.pdf

3. 技術開発の動向

1)COP(エネルギー消費効率)の向上

 ヒートポンプの特長は、少ない電気エネルギーで効率的に熱エネルギーを得ることができるという点です。例えば同じ暖房装置でも、電気ストーブなどの場合は、電気エネルギーから熱エネルギーを得ようとすると最大100%までしか得ることができませんが、ヒートポンプでは、大気や排水・排熱などの熱を取り込んで有効利用することにより、使用する電気エネルギーの300~600%に相当する熱エネルギーを取り出すことができます。この効率をCOP(エネルギー消費効率)といい、例えば300%の場合はCOP3といいます。
 最近、冷暖房兼用のヒートポンプタイプのエアコンの普及が進んでいますが、こうしたエアコンの高性能機種のなかにはCOPが6を超える製品も登場するなど、わが国におけるCOP向上の成果にはめざましいものがあります。これはひとつには、省エネ法の改正を受けて1999年から導入された「トップランナー方式」による効果と考えられています(図5)。

図5 COP(エネルギー消費効率)向上の推移

図5 COP(エネルギー消費効率)向上の推移
(出典:総合科学技術会議「最近の科学技術の動向」民生部門における革新的なエネルギー技術による温暖化対策技術)
出典URL:http://www8.cao.go.jp/cstp/siryo/haihu73/siryo3.pdf

2)エコキュートの普及

 2001年に、CO2を冷媒に利用した自然冷媒ヒートポンプ給湯機(エコキュート)が発売されました。これは、ヒートポンプの原理により、電気(夜間電力)を使って大気中の熱を自然冷媒(CO2)に集め、その熱を利用してお湯を沸かす給湯器です(図6)。エコキュートでは、従来の燃焼式給湯器と比較して、一次エネルギー使用量を約3割、CO2排出量を約5割削減することができます。また、2001年の発売開始時のCOPは3.46でしたが、2007年には5.1の製品も発売され、エネルギー効率の向上が進められてきています。
 エコキュートに関するその他の技術開発としては、寒冷地対応や小型化のほか、給湯に加えて、床暖房や浴室暖房・乾燥にも対応する多機能型エコキュートの商品化などが進んでいます。
 国内メーカーによるエコキュートの国内出荷台数は2007年度に120万台を突破し(図7)、2005年4月にとりまとめられた京都議定書目標達成計画では、2010年に累計446~520万台の普及を目標としています。こうして急速に普及が進んだ要因としては、2002年度から、エコキュート設置の際に国の補助金制度が導入されたことが挙げられます。

図6 自然冷媒(CO2)ヒートポンプ給湯器の仕組み

図6 自然冷媒(CO2)ヒートポンプ給湯器の仕組み
(出典:環境省「省エネルギー住宅ファクトシート」給湯(熱源・給水))
出典URL:http://www.jccca.org/component/option,com_docman/task,doc_details/gid,384/Itemid,622/

図7 家庭用ヒートポンプ給湯機の国内向け累積出荷台数の推移

図7 家庭用ヒートポンプ給湯機の国内向け累積出荷台数の推移
(出典:日本冷凍空調工業会データをもとに作成)
出典URL:http://www.jraia.or.jp/statistic/index18.html

3)地中熱の利用可能性

 ヒートポンプシステムのうち、地中や地下水等を熱源とするタイプは、地中熱利用ヒートポンプといわれています。このヒートポンプでは、地中で熱交換を行う「地中熱交換型」が一般的に採用されています。これは、地中50~100mの深さまで掘削を行った後、地中熱交換器を埋設し、交換器のなかで水や不凍液を循環させて熱交換を行うものです。
 地下は年間を通じて温度変化が少ないことから、地中熱利用ヒートポンプでは、夏の冷房時に外の空気より低い温度の地中に熱を放出し、冬の暖房時には外の空気より暖かい地中から熱を取り出すことができます。
 今日、欧米では1980年代から普及が進んでいる一方で、日本では地質構造が複雑で掘削費用がかかるため、地中熱利用ヒートポンプの普及はほとんど進んでいません。
 しかし、地中熱利用ヒートポンプは、空気を熱源としたヒートポンプと異なり、冷房時に大気中への熱放出がなく、ヒートアイランド対策の観点からも効果が期待されることから(図8)、今後国内でも普及が進む可能性が考えられます。
 なお、環境省では平成18年度から、地中熱や地下水を利用したヒートアイランド対策技術について、有効性の確認と同時に地中の微生物への影響や地下水位の変動などを分析・評価する「クールシティ推進事業」を実施しており、環境への悪影響を及ぼさない実施条件の確立を目指しています。

図8 地中熱ヒートポンプの利点

図8 地中熱ヒートポンプの利点
(出典:環境省「地中熱ヒートポンプシステムとは?」)
出典URL:http://www.geohpaj.org/information/library/image/envgojp.pdf

4)その他の動向

 ヒートポンプは、冷暖房・給湯用のほか、産業用では加熱・乾燥、冷蔵・冷凍などの分野、あるいは寒冷・積雪地における道路や駐車場などの融雪用、農業ハウス栽培用などにも一部利用されています。しかし、これらの分野での普及拡大を図るためには、高効率な熱回収、高温化が技術課題となっています。
 2008年4月に資源エネルギー庁は、「省エネルギー技術戦略2008」を策定しました。この技術戦略では、2020年過ぎまでに「排熱利用120℃レベルのヒートポンプ」、2030年までに「高性能化(期間COP10以上)、潜熱・顕熱分離」の実現をめざすほか、寒冷地にむけて2030年までに「低外気温(-25℃)での稼動(COP8)」、2030年までに「地中熱利用ヒートポンプ給湯・暖房機」の開発をめざしています。
 また、環境負荷が小さい冷媒を利用したヒートポンプの技術開発も求められており、自然界に存在する水や空気、CO2、アンモニア、水といった自然に存在する冷媒が注目されています。

表1 自然冷媒の種類と用途
種類用途
自然冷媒アンモニア冷凍倉庫など
炭酸ガスカーエアコン、給湯器
炭化水素冷蔵庫、(エアコン)
産業用冷凍機、製氷
空気冷凍倉庫

(出典:「今後の技術開発の方向性」より抜粋。『ヒートポンプ・蓄熱白書』(財)ヒートポンプ・蓄熱センター編、オーム社、2007年)

4.ヒートポンプの普及と効果

 以上のようにさまざまな技術開発が進められているヒートポンプに対し、国でもさまざまな施策を打ち出して、その普及促進に取組んでいます(表2)。

表2 ヒートポンプの導入促進施策
実施者事業名対象者要件等
経済産業省エネルギー需給構造改革投資促進税制事業者、個人対象設備を取得、事業の用に供した場合に適用(ただし、税額控除は中小企業者等に限定)
http://www.eccj.or.jp/enekaku/index.html
環境省地方公共団体率先対策補助事業地方公共団体地中熱利用で、ヒートポンプの加熱能力が50KW以上のもの
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/biz_local/19pamph/01.pdf
地球温暖化を防ぐ学校エコ改修事業地方公共団体地方公共団体が設置している学校の、 CO2 排出削減効果を持つ省エネ改修、代エネ機器導入等の最も効果的な組み合わせによる施設整備事業
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/biz_local/19pamph/01.pdf
温室効果ガスの自主削減目標設定に係る設備補助事業事業者省エネ等によるCO2排出抑制設備の導入への補助で、補助の費用効率性が高い事業者を優先的に採択
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/biz_local/19pamph/01.pdf
地域協議会代エネ・省エネ対策推進事業民間団体(NPO等)民生部門の温暖化対策に効果のある設備を、地域において集団的に導入推進する地域協議会の事業に対して補助
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/biz_local/19pamph/01.pdf
業務部門二酸化炭素削減モデル事業事業者他の施設への波及、CO2削減効果、経済性を考慮し、より優れた提案に対し、設備導入等に対して補助
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/biz_local/19pamph/01.pdf
省エネ型低温用自然冷媒冷凍装置の普及モデル事業事業者既存の冷凍装置を更新あるいは新設する際に、省エネ型自然冷媒冷凍装置を導入する事業
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/biz_local/19pamph/01.pdf
(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構住宅・建築物高効率エネルギーシステム導入促進事業事業者、個人高効率エネルギーシステム(空調、給湯、太陽光等発電で構成)を既築、新築、増築及び改築の住宅、民生用建築物等に導入の場合
http://www.nedo.go.jp/itaku-gyomu/hojo_josei/index.html
エネルギー供給事業者主導型総合省エネルギー連携促進事業地方公共団体、事業者、民間団体(NPO等)、個人既築、新築、増築、又は改築の住宅、民生用建築物等に省エネルギーシステムを導入の場合
http://www.nedo.go.jp/itaku-gyomu/hojo_josei/index.html
(財)ヒートポンプ・蓄熱センター先導的負荷平準化機器導入普及モデル事業費補助金制度事業者新設、既設の工場・事業所における、蓄熱式空調システム(セントラル空調方式)で、高い負荷平準化効果が見込まれる需要側設備の導入事業
http://www.hptcj.or.jp/koubo/index.html
資源エネルギー庁
(事務局:日本エレクトロヒートセンター)
エコキュート導入補助金制度事業者、個人CO2冷媒ヒートポンプ給湯器の住宅等への設置、使用に対する補助
http://www.jeh-center.org/ecocute/e-index.html
高効率空調機導入支援事業事業者、個人高効率空調機(蒸気圧縮式のヒートポンプ技術を用いた空気調和設備の室外機あるいは熱源機)の民生・業務用途の建築物等への導入に対する補助
http://www.jeh-center.org/koukouritsu/k-index.html

 一方、(財)ヒートポンプ・蓄熱センターがまとめたデータによると(図9)、現状のヒートポンプの普及率は、産業部門の熱利用(100℃未満)では4割程度であり、家庭部門では、冷房での普及率が極めて高くなっているものの、暖房や給湯用では依然として燃焼式機器が多く利用されています。また業務部門でも、冷暖房では30%程度まで普及が進んでいますが、給湯用はまだ普及していません。

図9 ヒートポンプの普及率

図9 ヒートポンプの普及率
(出典:(財)ヒートポンプ・蓄熱センター)
出典URL:http://www8.cao.go.jp/cstp/siryo/haihu73/siryo3.pdf

 今後、こうした普及の余地がある部門・用途でヒートポンプの普及が進んだ場合、わが国における2030年のCO2排出量削減量は約5,400万トンと見込まれており5)、さまざまな導入促進施策を利用して、地方公共団体、事業者、民間団体(NPO等)、個人が導入・活用を図ることにより、ヒートポンプがさらに普及することが期待されます。

引用・参考資料など

1)(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構
「新エネルギーガイドブック2008」(2008年3月)
2)環境省
「平成19年版環境・循環型社会白書」
3)(財)ヒートポンプ・蓄熱センター
ヒートポンプ・蓄熱情報Web Site
4)(財)ヒートポンプ・蓄熱センター編
『ヒートポンプ・蓄熱白書』(オーム社、2007年7月)
5)内閣府
「民生部門における革新的なエネルギー利用による温暖化対策技術」
6)(社)日本冷凍空調工業会
「ガスヒートポンプ」
7)全国地球温暖化防止活動推進センター
「省エネルギー住宅ファクトシート」
8)全国地球温暖化防止活動推進センター
「省エネルギー家電ファクトシート」
9)(特活)地中熱利用促進協会
(2008年6月現在)
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