燃料電池自動車(FCV)

2014年12月から燃料電池自動車(FCV)の一般販売が始まりました。燃料である水素の供給を担う水素ステーションの整備も急ピッチで進められており、政府は2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、水素の可能性を世界に発信したいとしています。来るべき水素社会の重要なピースとして位置づけられているFCVについて解説します。

※掲載内容は2016年3月時点の情報に基づいております。
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1. 燃料電池と燃料電池自動車

ここではまず、燃料電池と燃料電池自動車の概要について説明します。

1.1 燃料電池とは

燃料電池(FC、Fuel Cell)とは、水素と酸素の電気化学反応によって電力を得る発電装置です。実用化やさらなる性能向上を目指して研究が進められている主なものは、「リン酸形燃料電池(PAFC)」「溶融炭酸塩形燃料電池(MAFC)」「固体電解質形燃料電池(SOFC)」「固体高分子形燃料電池(PEFC)」の4タイプです。この分類は、FCで最も重要な電解質に使われている物質によるものです。

図1 燃料電池の種類と適応発電容量・用途
出典:水素・燃料電池実証プロジェクト「燃料電池(FC)とは?:燃料電池の種類」
http://www.jari.or.jp/portals/0/jhfc/beginner/about_fc/index.html

このうち、高分子膜を使用するPEFCは、動作温度が約70~90℃であり、200~1000℃で動作するほかの燃料電池に比べ、比較的低温となっています。PEFCは小型化による効率低下が小さい、低温動作のため起動時間が短く間欠運転にも対応しやすいなどのメリットがあり、家庭用や自動車用の電源として実用化されています。

形状としては、電気化学反応を担う最小単位である「セル」を、複数枚積み重ねた「セルスタック」として、車両に搭載されています。

図2 燃料電池スタックの構造
出典:水素・燃料電池実証プロジェクト「燃料電池(FC)とは?:固体高分子形燃料電池のしくみ」
http://www.jari.or.jp/portals/0/jhfc/beginner/about_fc/index.html

1.2 燃料電池自動車(FCV)とは

燃料電池自動車(FCV、Fuel Cell Vehicle)とは、FCを電源とする電気自動車のことです。FCそのもののエネルギー変換効率が高いため、全体として高いエネルギー効率が期待できます。走行時に温室効果ガスや大気汚染物質を発生しないなど、地球温暖化対策や大気環境保全にも役立つため、次世代自動車として期待されています。

ただ、FCや水素タンクなどのコストが高く、車両そのものも高価になってしまうため、当初はリース販売が主でしたが、2014年12月に世界で初めて乗用車タイプのFCV(トヨタ自動車)の一般販売が始まりました。普通自動車やバスのほか、試作車としてFCで走るスクーターも発表されています。

1.3 FCVの技術

FCVの性能や安全を支える技術を紹介します。

1) 高圧水素タンク
FCVは、気体の水素を貯蔵する高圧水素タンクを搭載しています。水素をより多く貯蔵できるほど、1回の充填で走れる距離は伸びるため、より高圧に耐える水素タンクが求められてきました。
一方で、水素ガスは分子のサイズが小さいため容器から漏洩しやすい気体です。また、金属の原子と原子の間にもぐり込んで、機械的強度を低下させる「水素脆化」を引き起こします。さらに、大気中の酸素と爆発的燃焼を起こす可能性があります。このような性質をもつ水素を扱うFCVでは、安全性は常に最重要の技術課題となってきました。単に安全に貯蔵するだけでなく、事故時の衝撃でも漏洩や爆発に至らないような構造が求められます。
現在では、規格を満たしたタンクには70MPa(約700気圧)での水素ガス充填が認められています。
たとえば、トヨタ自動車のFCVの水素タンクは、ガスバリア機能を持つプラスチックライナー、高強度のCFRP(炭素繊維強化プラスチック)、表面を保護するGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)3層構造となっており、タンクそのものの性能向上で漏洩を防ぐとともに、漏洩をすぐさま検知する仕組みや、漏洩したガスがすぐに車外に拡散するような構造上の工夫がなされています。
2) セルスタック
FCは、電気化学反応を担う最小単位の「セル」を複数枚積み重ねて作られることから、「セルスタック」とも呼ばれます。内部では、電解質の高分子膜で隔てられた水素と酸素が、イオンや電子をやりとりします。燃料である水素の封止(シール)方法や、スムーズに反応が進む流路形状など、重要な技術ノウハウの塊と言われています。
3) パワーコントロールユニット
FCVは電気自動車の一種ですので、発電して余剰となった電力や回生(*)で得られた電力を貯めるバッテリー(あるいはキャパシタ)を搭載しています。バッテリーの充放電や駆動モーターへの電力供給を制御するパワーコントロールユニットをはじめ、駆動モーターに供給する交流電流をつくるインバーター、電圧を上げる昇圧コンバーターなどの性能が、システム全体の性能や機器の寿命を左右します。

(*)回生:減速時に車両の運動エネルギーを電力に変換すること。この際、駆動モーターは発電機の役割を果たします。

1.4 FCVのメリット

FCVの主な利点をまとめると次のようになります。

1) 排出ガスがクリーン
FCVの走行中に排出されるのは基本的に水(水蒸気)のみです。温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)や、大気汚染物質となる窒素酸化物(NOx)、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、浮遊粒子状物質(PM)の排出はありません。
2) 高いエネルギー効率
ガソリンエンジンで走る自動車のエネルギー効率(10数%程度)と比較し、FCVは2倍以上(30%程度)の高いエネルギー効率を実現しています。ガソリン車では効率がさらに落ちる低速域でも、FCVならば高効率を維持できます。
3) 多様な水素源が利用可能
水素は、天然ガス(主成分はメタン)やエタノールなどの炭化水素の改質により得ることができ、石油以外の多様な燃料が利用可能です。また、最近では、太陽光発電や風力発電等の再生可能エネルギーを利用した海水の電気分解、バイオマスや下水汚泥などから発生するメタンの改質なども研究されています。
4) 騒音が少ない
電気モーターで走行するため、騒音が低減されます。
5) 充電が不要
水素充填にかかる時間は3分程度と、電気自動車への充電と比べると圧倒的に短時間であり、ガソリン車に給油するのとほとんど時間は変わりません。また、1回の充填による走行距離も650~700kmと電気自動車よりは長く、やはりガソリン車とほぼ変わりません。
6) 非常用電源になる
電力を外部に供給できる機能を備えている車種では、災害時には車両そのものを非常用電源装置として利用することができます。

2. 水素ステーションとは

FCVに高圧の水素ガスを供給するのが水素ステーションです。水素ステーション網の充実はFCV普及の鍵となっており、官民が一体となって整備を進めています。

水素ステーションは、水素を貯めるタンクのほか、水素ガスの圧力を高める圧縮機、圧縮にともなう温度上昇を避けるため事前にガスを冷却するプレクーラー、ディスペンサー(注入機)などから構成されます。

また、敷地で水素を製造する「オンサイト型」、ほかの場所から運び込む「オフサイト型」、機器一式をトレーラーに積載した「移動式」の3つに分類できます。

図3 水素ステーションの構成
出典:水素エネルギーナビ「水素ステーションの仕組み」(NEDO「水素利用技術研究開発事業」)
http://hydrogen-navi.jp/station/system.html

2.1 商用水素ステーション

経済産業省が自動車メーカーや水素供給事業者とともに2002年度から開始した「水素・燃料電池実証プロジェクト」(JHFC)が、本格的な水素ステーション建設の始まりです。水素供給・利用技術研究組合(HySUT)により研究開発用の水素ステーションが北九州市などで運営されているほか、各地で商用水素ステーションの整備が進められています。

図4 商用水素ステーション情報(2016年6月)
出典:燃料電池実用化推進協議会
http://fccj.jp/hystation/

2.2 水素ステーションへの助成金

一般社団法人次世代自動車振興センターは、「燃料電池自動車の普及による早期の自立的な市場を確立」するなどの目的のため、水素ステーションを建設する事業者に対する補助事業を行っています。

平成26(2014)年度補正予算「燃料電池自動車用水素供給設備設置補助事業」では、水素供給能力が300Nm3/hのオンサイト型水素ステーションの場合、上限額として2億9,000万円または補助対象経費の2分の1のいずれか低い金額の助成金が交付されます。4大都市圏を中心に、平成26(2014)年度予算で24件、平成26(2014)年度補正予算で36件の助成金交付が決定しています。

3. 水素社会に向けて

2014年4月に閣議決定された「エネルギー基本計画」には、水素社会の実現に向けたロードマップが示されています。

このロードマップでは、2020年の東京オリンピックで「水素の可能性を世界に発信」するために、「家庭用燃料電池の140万台普及」と、FCVにおける「ハイブリッド車の燃料代と同等以下の燃料価格」を実現させるとしています。FCVは家庭用燃料電池と並んで、水素社会の実現を引き寄せる大きな役割を期待されています。

3.1 普及に向けたシナリオ

燃料電池実用化推進協議会(FCCJ)が2010年に、FCVと水素ステーションの普及に向けたシナリオを発表しました。このシナリオでは、2025年にFCVと水素ステーションがビジネスとして成立するという目標を設定し、それに向け、いつの段階で何が必要となるかを示したものです。

図5 FCVと水素ステーションの普及に向けたシナリオ(2010年3月)
出典:燃料電池実用化推進協議会
http://fccj.jp/pdf/22_csj.pdf

このシナリオでは「官民の緊密な協調」「技術開発」「規制見直しの取り組み」などを必要条件として上げたうえで、2015年を「商用ステーションの設置開始」と、「FCVの一般ユーザー普及を目指す」という、節目の年と位置づけていました。

2014年12月、トヨタ自動車は、量産車として店頭で販売される初めてのFCVの一般販売を開始しました。

さらに、2015年1月、同社が保有する燃料電池関連の特許実施権を無償で提供すると発表しました。FCV導入の初期段階では他社他業種との協調が重要であるとの考えに基づくもので、特許の内訳は、審査継続中のものを含め、燃料電池スタック関連で約1,970件、高圧水素タンク関連で約290件、燃料電池システム制御関連で約3,350件となっています。FCCJのシナリオに示された「2015年」を、文字通りの節目の年とする出来事でした。

2016年3月には、FCCJがこれまでの進展と直近の状況も踏まえ、今後の温室効果ガス排出削減に貢献するための本格普及を目指したシナリオを発表しました。

  • トヨタ自動車「トヨタ自動車、燃料電池関連の特許実施権を無償で提供-燃料電池自動車導入期において普及に貢献するため、世界で約5,680件の特許を対象-」2015年1月6日
    http://newsroom.toyota.co.jp/jp/detail/4663446/
  • 燃料電池実用化推進協議会「FCVと水素ステーションの普及に向けたシナリオ2016」2016年3月11日
    http://www.fccj.jp/pdf/28_csj.pdf

引用・参考資料など

[1] 水素・燃料電池実証プロジェクト. 燃料電池(FC)とは. http://www.jari.or.jp/portals/0/jhfc/beginner/about_fc/index.html, (参照 2016-02-01).

[2] トヨタ自動車. トヨタの最新技術 CO2排出ガスゼロという新たなるイノベーション:燃料電池自動車. http://toyota.jp/technology/powerunit/fuel_cell_hybrid/, (参照 2016-02-01).

[3] トヨタ自動車. TOYOTA、セダンタイプの新型燃料電池自動車「MIRAI」を発売. 2014-11-18. http://newsroom.toyota.co.jp/en/detail/4197769/, (参照 2016-02-01).

[4] JHFCプロジェクト. 燃料電池自動車のしくみ. http://www.jari.or.jp/Portals/0/jhfc/beginner/about_fcv/, (参照 2016-02-01).

[5] 本田技研工業. 新型燃料電池自動車「CLARITY FUEL CELL」市販予定車を「第44回東京モーターショー2015」で世界初披露~2016年3月に日本でリース販売を開始~. 2015-10-28. http://www.honda.co.jp/news/2015/4151028.html, (参照 2016-02-01).

[6] 環境省. "次世代自動車一覧:燃料電池自動車". 次世代自動車ガイドブック2014. p20-23. 2014-12-25. http://www.env.go.jp/air/car/vehicles2014/LEV_chapter2-1.pdf, (参照 2016-02-01).

[7] テクノバ. "水素ステーションの仕組み". 水素エネルギーナビ. http://hydrogen-navi.jp/station/system.html, (参照 2016-02-01).

[8] 燃料電池実用化推進協議会. 商用水素ステーションの普及状況. http://fccj.jp/hystation/, (参照 2016-10-05).

[9] 経済産業省. 水素・燃料電池戦略ロードマップ概要. 2014-06-23. http://www.meti.go.jp/press/2014/06/20140624004/20140624004-1.pdf, (参照 2016-02-01).

[10] 経済産業省. 「水素・燃料電池戦略ロードマップ改訂版」をとりまとめました. 2016-03-22. http://www.meti.go.jp/press/2015/03/20160322009/20160322009.html, (参照 2016-10-05).

[11] 燃料電池実用化推進協議会. FCVと水素ステーションの普及に向けたシナリオ. http://fccj.jp/pdf/22_csj.pdf, (参照 2016-02-01).

[12] 燃料電池実用化推進協議会. FCVと水素ステーションの普及に向けたシナリオ2016. http://www.fccj.jp/pdf/28_csj.pdf, (参照 2016-10-05).

[13] トヨタ自動車. トヨタ自動車、燃料電池関連の特許実施権を無償で提供-燃料電池自動車導入期において普及に貢献するため、世界で約5,680件の特許を対象-. 2015-01-06. http://newsroom.toyota.co.jp/jp/detail/4663446/, (参照 2016-02-01).

(2016年3月現在)
2007年10月:掲載
2016年10月11日:改訂版に更新