ITS(高度道路交通システム)と自動走行システム

ITS(高度道路交通システム、Intelligent Transport System)とは、ICT(情報通信技術、Information and Communication Technology)を活用し、円滑で安全な道路交通を実現するシステムのことをいいます。また、自動走行システムとは、自動運転車(ロボットカー)を走行させる技術体系のことであり、安全運転支援システムとともにITS技術の重要な一部と位置づけられています。

日本では、国家戦略の一環として、重点的にITSが推進されてきました。2015年6月の「官民ITS構想・ロードマップ2015」では、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年までに「世界一安全な道路交通社会」をめざした技術開発を行い、そこで得られたITSの成果を最先端技術のショーケースとして世界にアピールしようとしています。さらに、2030年を目途に「世界一安全で円滑な道路交通社会」の構築を目指しています。

ITSが目的とする「渋滞や事故の少ない安全で円滑な交通」は、運輸部門における二酸化炭素や大気汚染物質(NOx、PMなど)の排出削減にもつながっていきます。そうした観点から、ITSは広い意味で環境技術に含めることができると言えるでしょう。

※掲載内容は2016年3月時点の情報に基づいております。
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1. 環境技術としてのITS

ITSにより円滑で安全な自動車交通が実現すれば、事故の減少やCO2排出量の削減など、大きな効果が期待できます。

1.1 日本全体のCO2排出量

日本のCO2総排出量のうち、運輸部門は全体の17.1%となっており、そのうち9割近くを自動車が占めています。つまり、日本全体で見ると、CO2の約15%が道路交通から排出されていることになります。

図1 運輸部門における二酸化炭素排出量
出典:国土交通省
http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html

1.2 自動車の走行に伴うCO2排出

電気自動車や燃料電池車以外の自動車は、走行に伴いCO2を排出します。CO2排出量は走行時間や走行距離のほか、渋滞や急加速、急発進といった速度の変動要因などの影響を受けることになります。あるモデルによれば、自動車からのCO2排出量Eは以下の式で表されます。

E: 走行時間Tに対する二酸化炭素排出量(kg-C)
T: 走行時間(sec)
D: 走行距離(m)
K: 速度計測点数
δk: 直前の計測点より速度大のとき1、それ以外のとき0
Vk: 第k点における走行速度(m/sec)
Kc: 排出係数 CO2 0.00231kg-c/ガソリンcc(平成11年 環境省)

出典:大口・片倉・谷口(2002)「都市部道路交通における自動車の二酸化炭素排出量推定モデル」 土木学会論文集. No.695/IV-54. 125-136. http://doi.org/10.2208/jscej.2002.125

この式は、走行時間Tが長いほど、また走行距離Dが大きいほど、CO2排出量は大きくなることを示しています。第3項(0.056Σ~の部分)は、走行区間ごとの排出量の和を表したもので、その値は区間ごとの速度変化が大きい場合、CO2排出量も大きくなります。一方、走行速度が一定の場合、この第3項はゼロとなります。

つまり、できるだけ一定の速度で走行し、短時間に目的地まで到達するほうが、CO2排出量が少なくなると、このモデルから考えることができます。すなわち渋滞のないスムーズな道路交通の実現がCO2排出量削減に貢献することになります。

1.3 実走行時の排ガス計測

国立環境研究所では2001~2003(平成13~15)年度にかけ、「車載型機器による実走行時自動車排ガス計測・管理システムの実証」を、環境省からの委託により実施しました。自動車排ガスの測定は通常、シャシーダイナモと呼ばれる屋内の大型装置を用い、走行状態を模擬して行われていましたが、この方法では実走行時の排ガス発生状況の再現に限界がありました。

そこで、自動車に搭載可能な排ガス計測装置を開発し、実際に川崎市内の交差点の近辺で自動車を走行させながら、排ガスの発生状況を調査しました。

調査で明らかになったのは、発進停止を伴う交差点の通過時のNOxの発生量は、距離当たりの排出係数にして定常走行時の5~10倍程度となることなどでした。

こうした調査結果から、ITSの活用により交差点付近での交通を円滑にすることが、NOxなどの排出ガス中の大気汚染物質やCO2の削減に効果的であることが分かります。

図2 車載型計測機器による実走行時の排ガス測定実験の実施地点(神奈川県川崎市)
出典:国立環境研究所 平成16年度社会系セミナー「車載型機器による走行動態及び排ガスの計測 -交差点通過時の排ガス排出量の変動-」(近藤美則)
http://www.nies.go.jp/social/seminar/H16/pdf/kondou_200410.pdf

コラム◆VW問題を受け、再注目

2015年12月に国土交通省と環境省は、フォルクスワーゲン社による排出ガス不正事案(ダイナモ上での試験状態を検知し、燃焼制御プログラムを変更した疑い)を受け、国内外6社8モデルのディーゼル車について、実走行状態での排出ガス調査の実施を発表しました。車載型の計測装置は、“不正を抑止する機能”をはからずも持つことになったわけです。

図3 車載式排出ガス測定システム(PEMS)を用いた路上走行等における排出ガスサンプリング調査対象車種について
出典:国土交通省報道発表資料
http://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha10_hh_000158.html

2. ITSの要素技術

ITSとは、カーナビ、VICS、ETC、中央官制システム、路車間通信、車車間通信など、さまざまな要素技術を包括する概念です。主要なものについて、その仕組みと環境への寄与について解説します。

2.1 ETC(自動料金収受システム)

路車間通信の代表的な利用例がETC(自動料金収受システム、Electric Toll Collection System)です。料金所を通過する自動車を停止させることなく、無線通信により料金徴収を行うETCは、2000年に初めて東関東自動車道に導入され、その後急速に全国の高速道路や有料道路で設置が進みました。

利用のためには、ETC車載器を購入・セットアップし、クレジット会社から発行されるICカードを車載機に挿入する必要があるなど、ハードルは低くはありません。しかし、高い利便性や料金割引などが支持され、新規セットアップ件数で4,700万件超、高速道路での利用率は89%を超えています。

これにより、ETC導入前に高速道路での最大の渋滞要因だった料金所部での渋滞が、ほぼ解消されるという目覚ましい効果が現れました。また、このことによるCO2削減効果は年間22万トンと試算されています。

図4 料金所渋滞の解消
出典:国土交通省「ETCの利用状況、導入効果等」(p.4)
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/pdf/7.pdf

2.2 ETC2.0

ETCを料金収受だけではなく、ドライバーに有益となる情報提供のために高度化させたサービスがETC2.0です。

高速道路やサービスエリア・道の駅などに設けられた道路側の通信アンテナ「ITSスポット」から5.8GHz帯の電波を発信し、走行車両との間でDSRC(Dedicated Short Range Communication:スポット通信)を行います。従来のETCに比べ格段に大容量の通信を行い、安全運転支援や災害時の運転支援に関わる情報の他、より広域で詳細な渋滞情報を提供することで、渋滞緩和と道路交通の円滑化を目指します。

2.3 カーナビとVICS(道路交通情報通信システム)

GPS(全地球測位システム)などを使い、デジタル地図上に車両の現在地や目的地までの経路を示すカーナビゲーションシステムは、約7割の乗用車に搭載され、2013年の出荷台数は546万6,000台となっています(JEITA調べ)。一方、ほぼすべてのカーナビゲーションシステムが対応しているVICS(道路交通情報通信システム、Vehicle Information and Communication System)は、事故による交通規制や渋滞情報などを自動車に知らせてカーナビ画面に表示させることで、目的地までのスムーズな走行を支援するシステムです。1996年度からサービスが始まり、対応車載機の出荷台数は累計で4,700万台を超えています。

一般財団法人道路交通情報通信システムセンターの調査によると、VICSの活用により最大20%の時間短縮、最大10%のガソリン節約が実証され、このことからVICSの活用で年間約214万トンのCO2削減効果があったとされています。

また、通信機能を備えたカーナビ搭載の車両からリアルタイムの走行情報を集約し、こうして集められた「ビッグデータ」の解析により、より精度よく渋滞情報を把握して、移動距離が最短となる経路や、移動時間が最短となる経路、あるいは省燃費ルートの案内を行う仕組みも整えられつつあります。

2.4 ACC(車間自動制御システム)とCACC(協調型ACC)

高速道路で下り勾配から上り勾配へ変化する区間は「サグ部」と呼ばれます。都市間高速道路における渋滞の約6割が、この「サグ部」で発生しています。上り坂が始まる箇所での速度低下を引き金に、車間距離の短縮と速度低下が連鎖して後方に波及、渋滞が発生・成長すると考えられています。

その対策として、車両に搭載したレーダーなどを使って、自動的に一定の車間距離を維持するACC(車間自動制御システム、Adaptive Cruise Control)や、さらに他車の加減速情報を通信で共有して車間制御に役立てるCACC(Cooperative ACC)などの研究が進められています。

図5 高速道路サグ部等の渋滞箇所への効果的な交通円滑化対策の実現に向けて
出典:国土技術政策総合研究所「路車連携した高速道路サグ部等における交通円滑化に関する研究」
http://www.nilim.go.jp/lab/qcg/japanese/2reserch/1field/36smoothingsag/

また、CACCは「隊列走行」の実現のための中核的な技術となっています。隊列走行は、車間距離の低減による道路そのものの輸送力向上で、渋滞を緩和する効果も期待されています。大型トラック4台を使った時速80km/h、車間4mでの隊列走行では、空気抵抗が低減される効果などにより約15%の燃費削減が見込まれるとの研究成果が出ています。車車間通信の技術を環境対策に役立てる一例となっています。

図6 隊列走行実験
出典:産業技術総合開発機構「エネルギーITS推進事業」(2008~2012年度)
http://www.nedo.go.jp/activities/FK_00023.html

3. 自動走行システムの展望

自動車に搭載したカメラやセンサーの情報をもとに、自動車自身が交通状況を判断し、走行する自動運転車(ロボットカー)の開発が進んでいます。自動走行システムは「安全で円滑な道路交通社会」の実現に大きな貢献が期待されます。その普及が、ひいては環境負荷低減につながることも期待される、自動走行システムについて解説します。

3.1 自動走行技術の概要

「自動走行システム」とは、ドライバーの行う運転操作の一部または全部を機械が行うものです。機械が関与する割合から、日本では以下のように定義されており、それぞれの市場化期待時期も示されています。

図7 自動走行システムの実現期待時期
出典:内閣府「自動走行システム研究開発計画」(2015年5月)(p.4)
http://www.sip-adus.jp/ps_rd/rd_program/doc1.pdf

3.2 自動走行の実現に向けた環境整備

自動走行システムの実現に向けては、レーダーやカメラなどセンサー技術のほか、路車間や車車間の通信技術、さらに、それらを統合して交通状況を判断する人工知能や、運転者の意図を読み取る人間工学の技術など、従来の自動車技術の枠を超えた高度で学際的な技術領域の活用が必要とされます。また、自動走行システムの高度化のためには、詳細な道路地図に加え、道路標識や信号・車線などの情報を確実に提供することが必要とされ、各種機器の不具合や天候の変化・落下物などによりそうした情報が適切に得られない場合には、ドライバーによる対応を要請しなければなりません。

完全自動走行システムについては、ロボットカーなどとも言われるように、従来の自動車の概念とは全く異なる存在の自動車が、同じ道路上を走ることになります。そのような自動車をどのように社会に受け入れていくのか、保有や利用の形態はどうなるのか、高速道路・市街地・過疎地といった道路環境に応じてどのような広がりを見せるのか、急速に議論が進んでいます。また、法律や保険など制度面での検討も必要とされています。

3.3 光ビーコンとUTMS(新交通管理システム)

赤外線技術を応用し、走行中の車両と双方向通信を行う「光ビーコン」は、すでに全国で5万5,000基設置されています。そうした高度な路車間通信インフラを使い、現在の交通管制システムを進化させたUTMS(新交通管理システム、Universal Traffic Management Systems)の普及が待たれています。UTMSのサービスの中には、渋滞緩和のための信号制御や、渋滞列の後続車両に迂回を促す「交通公害低減システム(EPMS)」も含まれています。

図8 交通公害低減システム(EPMS)
出典:一般社団法人UTMS協会
http://www.utms.or.jp/japanese/system/epms.html

引用・参考資料など

[1] 国土交通省. 運輸部門における二酸化炭素排出量. http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html, (参照 2016-03-15).

[2] 大口敬, 片倉正彦, 谷口正明. 都市部道路交通における自動車の二酸化炭素排出量推定モデル. 土木学会論文集, No.695/IV-54,125-136, http://doi.org/10.2208/jscej.2002.125, (参照 2016-03-15).

[3] 近藤美則. 車載型機器による走行動態及び排ガスの計測 -交差点通過時の排ガス排出量の変動. http://www.nies.go.jp/social/seminar/H16/pdf/kondou_200410.pdf, (参照 2016-03-15).

[4] 国土交通省. 車載式排出ガス測定システム(PEMS)を用いた路上走行等における排出ガスサンプリング調査対象車種について. 2015-12-22, http://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha10_hh_000158.html, (参照 2016-03-15).

[5] 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO). エネルギーITS推進事業(2008~2012年度). http://www.nedo.go.jp/activities/FK_00023.html, (参照 2016-03-15).

[6] 国土交通省. "料金所渋滞の解消". ETCの利用状況、導入効果等. http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/pdf/7.pdf, (参照 2016-03-15).

[7] 高速道路サグ部等交通円滑化研究会. 高速道路サグ部等の渋滞箇所への効果的な交通円滑化対策の実現に向けて. 国土交通省国土技術政策総合研究所. 2015. http://www.nilim.go.jp/lab/qcg/japanese/2reserch/1field/36smoothingsag/, (参照 2016-03-15).

[8] 内閣府SIP(戦略的イノベーション創造プログラム). 自動走行システム研究開発計画. 2015. http://www.sip-adus.jp/ps_rd/rd_program/doc1.pdf, (参照 2016-03-15).

[9] 一般財団法人 道路交通情報通信システムセンター. http://www.vics.or.jp/, (参照 2016-03-15).

[10] 一般社団法人UTMS協会. http://www.utms.or.jp/, (参照 2016-03-15).

[11] 総務省. "特集 ICTがもたらす世界規模でのパラダイムシフト/第1節 ICTの進化によるライフスタイル・ワークスタイルの変化/(2) 車とICT". 平成26年度版情報通信白書. http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h26/html/nc141320.html, (参照 2016-03-15).

(2016年3月現在)
2010年3月:掲載
2016年8月31日:改訂版に更新