環境技術解説

浄化槽

浄化槽とは、主として住宅のトイレから排出されるし尿と、台所・洗濯所・洗面所・風呂場などから排出される生活雑排水を、各戸毎に処理し、一定の水質まで浄化してから放流する設備です。その構造は、例えば、(1)汚水中の浮遊物・固形物を沈殿させるとともに、嫌気性微生物により有機物の一部を分解する「嫌気槽」、(2)送風機(ブロワ)で空気を送り込み、接触材に付着した好気性微生物により大部分の有機物を分解する「好気槽」、(3)処理水中に含まれる汚泥と上澄み液を分離する「処理水槽」などからなります。

本体はFRP(ガラス繊維強化プラスチック)などを使用し、工場で一体的に製造。各戸の駐車場などに埋設され、浄化した放流水は側溝や河川などに放流されます。その性能は、BOD除去率90%以上、処理水質BOD20mg/L以下で(窒素、リン除去に対応した高度処理型もあります)、下水道と同等の性能を有しており、水環境保全上重要な施設であることから、設置に対する国、都道府県、市町村による助成制度があります。

合併処理浄化槽の特徴
「浄化槽による地域の水環境改善の取組み」(環境省)をもとに作成
https://www.env.go.jp/recycle/jokaso/basic/pamph/water_improvement.html

※掲載内容は2017年3月時点の情報に基づいております。
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1.浄化槽の特長

1)下水道との比較

生活排水を処理し、浄化して放流する施設である浄化槽を、下水道と比較すると以下のような特長があります。

  • 浄化槽は生活排水が発生する場所に設置し、その場で浄化して放流するため、下水道のように排水を収集するための排水管網を必要としない
  • 下水道では処理水の排出が下水処理場の放流口に集中するため、河川水量の局所的な変化が大きいのに対し、浄化槽は生活排水を少量ずつその場で処理して放流することから、地域の河川や水路などにおいて大きな水量の変化を与えない
  • 排出後、小水路などを通り、河川などの流域に流れ込む間に、さらに植生などの自然環境を介して自然浄化作用を効率的に利用することから、二重の浄化作用を持つとともに、自然の水循環に近い状況を作り出すことができる
  • 適切に処理した処理水は、散水、便所洗浄水、災害時の緊急用水などとして利用可能である。また工業排水が混入しないため、汚泥も重金属などの含有量が少なく、再利用しやすい
  • 日常生活の身近なところで生活排水を処理しており、住民の環境意識を高めることができる。
  • 下水道などの処理施設は、人口の少ない市町村で整備すると人口1人当たりの整備費用が高くなるが、浄化槽はそうした影響をほとんど受けず、人口の少ない市町村でも効率的な整備が可能
  • 設置のためのスペースは、自動車1台分程度の広さ(の地下)であり、敷地の限られる大都市中心部を除けば、設置場所や地形・地質による影響を受けにくい。
  • 個別分散型施設であるため、人口の減少などの変動に対応し、適正規模の整備が可能

2)合併処理浄化槽

家庭から排出される生活排水は、1人1日あたり約200Lであり、汚濁物質として約40gのBOD負荷量を有しています。このうちトイレから排出される汚濁物質は約13g、台所や洗濯所、風呂場、洗面所などから排出される雑排水は約27gです。

高度経済成長期の頃は、トイレを水洗化するために、し尿のみを処理する単独処理浄化槽が多く普及していました。しかし、この場合、台所排水や洗濯排水などの生活雑排水は未処理のまま放流され、また、浄化槽自体の性能も現在のものほど良くなかったため、多くの汚濁物質を環境中に排出していました。

これに変わって開発・普及が進められた合併処理浄化槽は、トイレの排水に加え雑排水も同時に処理する日本独自の技術です。排水負荷(量・質)の時間変動への対応能力が高い「生物膜法」を浄化槽に適用し、昭和50年代に技術が確立し、その後、改良が加えられることにより、他の処理施設と遜色ない水準まで技術的な進歩を遂げてきました(図1)。

図1 単独処理浄化槽と合併処理浄化槽の違い
出典:環境省「浄化槽による地域の水環境改善の取組み」
https://www.env.go.jp/recycle/jokaso/basic/pamph/water_improvement.html

このため、国、都道府県、多くの市町村は、住民が合併処理浄化槽を新設する場合に、その設置費用の一部を助成する制度を創設し、普及を図ってきました。浄化槽法が改正、施行された平成13年4月1日からは単独処理浄化槽の設置が原則禁止されたため、現在は浄化槽とは合併処理浄化槽を指し、過去に設置された単独処理浄化槽は「みなし浄化槽」と呼ばれています。同改正では、みなし浄化槽(単独処理浄化槽)の使用者は浄化槽(合併処理浄化槽)への転換などに努めるものとされており、入れ替えにかかる費用を補助するなどの支援制度により普及が図られています。

2.処理の仕組み

合併処理浄化槽の処理は、微生物による生物処理が主であり、他の下水道などの排水処理と同様の原理です。具体的には、例えば図2のような構造の浄化槽においては、以下のような手順で処理が進みます。

図2 浄化槽の概略図
(通常、浄化槽は地中に埋められ、マンホールのみが見えている)
出典:国立環境研究所ニュース26巻第2号「分散型の生活排水対策としての浄化槽」
http://www.nies.go.jp/kanko/news/26/26-2/26-2-04.html

1)嫌気槽

嫌気槽では、通常、排水中の浮遊物・固形物を沈殿させ、分離するとともに、嫌気性微生物(酸素を嫌う微生物)により、排水中の汚濁物質の一部を分解します。メーカーにより異なりますが、様々な形状のろ材に微生物を付着させ、処理効果を高めています。

2)好気槽

好気槽は、処理の主体である好気性生物による処理を行う装置です。外部に設置した送風機(ブロワ)から、槽の底部に細かい気泡状の空気を送り込み、接触材の表面に付着した好気性微生物(酸素を好む微生物)の膜により、排水中の大部分の汚濁物質を分解します。

図3 有機質を分解する微生物の例
出典:環境省「快適な生活と美しい環境をつくる 合併処理浄化槽」
http://www.env.go.jp/recycle/jokaso/basic/pamph/index.html

下水道では微生物を浮遊させる活性汚泥法が主流ですが、浄化槽では生物膜法が主流です。生物膜法では、活性汚泥法と異なり、汚泥微生物が反応槽内に保持されるため、汚泥返送が不要で、また自己酸化の促進によって余剰汚泥の発生量が少ないなどのメリットがります。生物膜処理には、好気性ろ床法や接触酸化法などの好気性処理と嫌気性ろ床法などの嫌気性処理とがあります。

[環境技術解説] 下水道
下水道で主流の活性汚泥法については、こちらの解説を参照してください。

好気性ろ床(ろしょう)法

粒状ろ材を充填したろ床に上部から排水を流入させ、下部から処理水を得る方法です。ろ過によって排水中の浮遊物質を除去できるほか、ろ材に付着した微生物によって溶存有機物の生物処理が行われます。微生物の増殖などによる充填槽内の閉塞を回避するため、一定間隔での逆洗が必要になります。維持管理が容易であるほか、反応時間が短いことなどが特徴です。

回転生物接触法

この方法は回転する円板に生物膜を付着させるもので、回転円板の約40%が液中に浸漬していて、残りが大気中に露出しています。円板の大きさは直径2~5mで、円板の回転速度は1~5rpmとゆっくりです。大気中で酸素を取り込み、液中では回転による攪拌力で基質や酸素の拡散を容易にして生物学的な浄化を進行させます。生物膜は微生物の増殖によって肥大化し、微生物に寿命が来ると、生物相が変わり、剥離・更新されます。回転生物接触法で用いられる回転円板のイメージを図4に示しました。なお、回転生物接触法は浄化槽では一般的ではなく、小規模な下水処理場などで使われます。

図4 回転円板の断面イメージ
出典:ジャペックス(株)「STK回転円板」
http://www.jpex-net.co.jp/page2.htm

接触酸化法

充填材を水槽内に沈めて、散気装置により充填材表面の微生物に酸素を供給して処理する方法です。

円筒系の水槽が二重筒状に仕切られている構造が代表的で、内筒部に原水流入口と空気挿入口、外筒部に微生物が付着する担体(セラミックやプラスチックの小片)が充填されています。外筒部の下から空気の気泡を送ってばっ気することで、水と一緒に担体を流動させ微生物による目詰まりを防止します。

また、固定された波板などを担体とし、下から気泡を送り込んでばっ気する接触ばっ気法もあります。

3)沈殿槽

処理水槽(沈殿槽)では、増殖した微生物などからなる汚泥を沈殿・分離します。分離後の上澄み液は、合併処理浄化槽の性能に応じて浄化された水質となっています。その後、小規模な消毒槽で固形の消毒剤と接触させ、殺菌した上で放流します。

なお、図2の緑色の「P」は、処理槽の底に貯まった汚泥の一部を嫌気槽に循環させるためのエアリフトポンプです。これは有機物(BOD成分)だけでなく、湖沼などの富栄養化の原因となる窒素分も除去するための装置で、高度処理型合併処理浄化槽といわれるタイプです。

図2 浄化槽の概略図(再掲)
出典:国立環境研究所ニュース26巻第2号「分散型の生活排水対策としての浄化槽」
http://www.nies.go.jp/kanko/news/26/26-2/26-2-04.html

3.浄化槽の種類

合併処理浄化槽には、その性能や処理方式により、様々なタイプがあります。例えば、その放流水質について、標準的なBOD 20mg/L以下とするものの他、10mg/L以下、5mg/L以下にするものがあり、また、窒素やリンを除去できるタイプもあります。

さらに、処理方式では、図2に示した「嫌気ろ床接触ばっ気方式」がもっとも普及していますが、この他、例えば「好気槽」の接触材の替わりに「担体流動部」と「生物ろ過部」を設置し、処理効率を上げて全体の容量をコンパクトにした「担体流動・生物ろ過方式」などがあります。

浄化槽の規模は、処理対象人員を想定した「人槽」という単位で区分されていて、最も小さい「5人槽」をはじめ、住宅の大きさなどにあわせて「7人槽」、「10人槽」というように大きさが決められています。

また下水道が整備されていない区域では、商業施設や公共施設などの排水に大規模な合併処理浄化槽を用いる場合があり、1万人以上を対象とした大きなものもあります。この場合は実質的に下水処理場と同種の設備ですが、法律上は浄化槽として扱われます。

図5 合併処理浄化槽(嫌気ろ床接触ばっ気方式)の外観
出典:環境省「浄化槽管理者への設置と維持管理に関する指導・助言マニュアル」
https://www.env.go.jp/recycle/jokaso/data/manual/manual03.html

4.浄化槽に関する制度

合併処理浄化槽については、「浄化槽法」で製造・工事、維持管理のルールや適正な実施のための資格制度などが定められています。また、その性能、構造は、建築基準法に基づき定められます。なお、浄化槽法上の「浄化槽」は前述の単独処理浄化槽を含みますが、新設は認められていません。

浄化槽がその性能を発揮するためには、適正な維持管理が重要であり、浄化槽法では、浄化槽の管理者(設置者)に、定期的な保守点検、清掃、法定検査の受検などを義務づけています。

また、浄化槽の清掃後に搬出される汚泥(浄化槽汚泥)は、し尿処理施設(最近では「汚泥再生処理センター」という)で処理し、処理後の脱水汚泥は、堆肥などとしてリサイクル、または適正に処分されることになっています。

合併処理浄化槽は、河川や湖沼などの水質保全に寄与するという社会的便益を有することから、国及び地方公共団体による様々な助成制度が設けられています。助成制度の内容は地域により異なるため、各市町村の環境部局又は清掃部局などに問い合わせが必要です。

図6 助成措置の例
出典:環境省「浄化槽管理者への設置と維持管理に関する指導・助言マニュアル」 https://www.env.go.jp/recycle/jokaso/data/manual/manual03.html

5. トピックス

1) 小規模事業場への合併処理浄化槽技術の導入

事業場の事業系排水(トイレなどの従業員の生活排水以外の、事業により発生する排水)には水質汚濁防止法上のBOD成分などに関する規制が適用されますが、一日の排水量が50m3以上の特定事業者(条例によって引き下げられている場合がある)が対象で有り、規模の小さな事業場には適用されません。水環境保全の観点から、そうした小規模事業場からの汚水は合併処理浄化槽で対応できるようにすることが効果的です(従来、事業場系の排水を浄化槽に入れることは禁止されていました)。平成12年からパン・菓子製造業など一部の業種の排水については、合併処理浄化槽で処理してもかまわないとされていますが、排出源の特性に柔軟に対応できる合併処理浄化槽を開発し、適用範囲の拡大などを図る必要があります。

2) 大規模災害時の仮設住宅への合併処理浄化槽の設置

地震などの大規模災害が発生した際、下水道と異なり分散設置されている浄化槽は被害が少なく、被害があっても復旧が早いなどの特長を有しており、今後も更なる耐震性向上が期待されています。

また仮設住宅などを設置する際、下水道の区域外である場合や、下水道施設の被災により下水道が使用できないことがあります。合併処理浄化槽は仮設住宅などに機動的に設置可能で、トイレの水洗化、雑排水による河川などの水質悪化防止に役立つことから、東日本大震災では仮設住宅の約半数にあたる26,278戸で合併処理浄化槽が使われました。

今後は、避難所などへの適用を見据えた自家発電セットを備えたエネルギー自立型の浄化槽や、浄化した排水の再利用に対応した浄化槽の開発が期待されています。

3) 開発途上国など、海外への展開

開発途上国などにおいては、生活排水による水質汚濁への対応が必要とされていても、大規模な下水処理場の整備は長期間を要し、経済的にも困難である場合がありますが、日本独自の技術である合併処理浄化槽は、開発途上国などにおける生活排水処理施設の整備に役立てることができます。

この際、日本国内で製造されている合併処理浄化槽は外気温や排水の水質など、日本における使用を前提として開発が行われていることから、導入する国の状況に適合させた製品を開発する必要がありますし、浄化槽助成制度だけでなく、維持管理の仕組みも一緒に展開していくことが重要です。

4) 地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出削減

合併処理浄化槽は汚濁物質の分解過程で、メタンや亜酸化窒素という温室効果ガスを排出します。またブロワやポンプを駆動する電力の発電などでも二酸化炭素が発生します。近年では、電力消費量を削減した省エネ型浄化槽が普及してきており、二酸化炭素の排出量は減少していますが、引き続きライフサイクル全体にわたって温室効果ガスを削減する検討が進められています。

5) バイオ・エコエンジニアリング研究施設

国立環境研究所のバイオ・エコエンジニアリング研究施設では、生活排水、生ごみなどの液状・有機性廃棄物を対象とした高度処理・低炭素型の浄化槽技術、資源・エネルギー回収技術、生態工学技術などについて、温暖化対策や海外展開、災害時の対応などを含めた開発・評価研究が行われています。

引用・参考資料など

[1] 環境省. 浄化槽による地域の水環境改善の取組み,
https://www.env.go.jp/recycle/jokaso/basic/pamph/water_improvement.html, (参照 2017-02-20)

[2] 環境省. 快適な生活と美しい環境をつくる 合併処理浄化槽,
http://www.env.go.jp/recycle/jokaso/basic/pamph/index.html, (参照 2017-02-20)

[3] 蛯江美孝. "分散型の生活排水対策としての浄化槽" 国立環境研究所ニュース26巻2号. 国立環境研究所. 2007,
http://www.nies.go.jp/kanko/news/26/26-2/26-2-04.html, (参照 2017-02-20)

[4] ジャペックス(株). "STK回転円板",
http://www.jpex-net.co.jp/page2.htm, (参照 2017-02-20)

[5] 環境省 廃棄物・リサイクル対策部浄化槽推進室. "設置工事と浄化槽の種類". 浄化槽管理者への設置と維持管理に関する指導・助言マニュアル,
https://www.env.go.jp/recycle/jokaso/data/manual/pdf_kanrisya/chpt3.pdf,(参照 2017-02-20)

[6] 環境省. "東日本大震災における浄化槽の活用". 浄化槽における災害対策,
https://www.env.go.jp/recycle/jokaso/pamph/pdf/dcfj_full.pdf, (参照 2017-02-20)

[7] 池野憲一."膜処理型合併浄化槽に使用している膜の維持管理について". 月刊浄化槽.(社)浄化槽システム協会, (参照2017-02-20)

[8] 環境省. "今後の浄化槽の在り方に関する「浄化槽ビジョン」について". 中央環境審議会 廃棄物・リサイクル部会浄化槽専門委員会(第24回). 2007,
https://www.env.go.jp/recycle/jokaso/data/pdf/070115.pdf, (参照 2017-02-20)

[9] 環境省. "「今後の浄化槽の在り方に関する懇談会」提言~浄化槽が輝く未来へ~" .2016 ,
https://www.env.go.jp/recycle/jokaso/data/pdf/arikata.pdf,(参照 2017-02-20)

[10] 国立環境研究所. "バイオ・エコエンジニアリング研究施設". 所外実験施設,
http://www.nies.go.jp/cycle/bioeco/index.html, (参照 2017-03-30)

[11] 徐開欽. "バイオ・エコエンジニアリング研究施設における研究概要". 資源循環・廃棄物研究センターオンラインマガジン. 2015,
http://www-cycle.nies.go.jp/magazine/genba/201508.html, (参照 2017-03-30).

(2017年3月現在)
2009年9月:掲載
2017年11月7日:更新