下水処理

 下水処理とは、人々の生活及び様々な産業活動によって発生した排水を処理するしくみのことで、下水を集めて処理施設へと流す下水管路網と、排水中の汚濁物質を処理し環境へと戻す処理施設とで構成される。
 下水処理では、物理的、化学的、生物学的な方法のすべてが用いられるが、我が国では、好気性生物処理法による下水処理が一般的である。好気性生物処理法は浮遊微生物法と生物膜法とに大別できるが、現在は浮遊微生物法の一つである標準活性汚泥法が最も主流である。下図は、標準活性汚泥法のイメージである。エアレーションタンクでは、下水に含まれる有機物を、活性汚泥中の微生物の同化作用によって分解する。その後、最終沈殿地で活性汚泥と処理水とを分離し、処理水を塩素などで処理した後に環境中へ放流する。有機物を同化して増加した活性汚泥は、一部は余剰汚泥として引き抜いて処分され、残りは返送汚泥として生物反応タンクへと戻される。
 このほか、小規模下水処理施設を中心に多様な手法が適用されている。また、近年では、活性汚泥法と膜を併用した効率的な固液分離技術の適用が拡大しているほか、富栄養化対策が急務の地域では高度処理の適用が進んでいる。
 下水処理には、いくつかの課題がある。その一つは、雨天時に未処理水が自然環境に放流される恐れのある、合流式下水道の改善である。下水道管の新たな埋設には莫大な費用がかかるため、代替技術が開発されている。また、先に述べた富栄養化対策として、高度処理の導入や環境基準の見直しなどが実施されている。

図 標準活性汚泥法の概念図

図 標準活性汚泥法の概念図
出典:各種資料をもとに作成

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1.下水処理の現状

 日本下水道協会によれば、平成18年度末の全国の下水道普及率平均は70.5%である。人口規模の大きな都市の下水道普及率は高く、100万人以上の都市では普及率98.4%である一方、人口5万人未満の市町村の下水道普及率は41.2%と、全国平均を大きく下回っている。
 日本には1,992ヶ所(平成16年末)の処理場があるが、処理方式別にみた処理場数は、表1に示すとおりである。一次処理とは、物理的・機械的な方法で下水から固形物(汚泥)を除去する処理である。二次処理とは、微生物によって下水中に含まれる有機物と浮遊固形物を除去する処理である。高度処理とは、有機物と浮遊固形物の除去性能をさらに向上させ、もしくはこれらの除去と同時に窒素やリンなどの栄養塩を除去する処理である。ここでは、二次処理を取り上げる。我が国における一般的な下水処理法は、標準活性汚泥法を中心とする好気性生物処理法である。

表1 日本の下水処理施設数~処理方式および処理水量別~(平成19年度末現在)

出典:(社)日本下水道協会『平成19年度版 下水道統計(第64号)』

2.下水処理技術の概要

 ここでは、表1に挙げた下水処理技術のうち、二次処理の要素技術を解説している。ただし、二次処理のうち高度処理(窒素およびリンを除去する処理および、有機物の除去性能をさらに向上させる処理)については、「富栄養化対策(発生源対応)」の解説を参照されたい。

1)好気性生物処理法:浮遊生物法

 好気性生物処理法には、表2に示すように、浮遊生物による処理と、固体表面に付着している微生物によって処理を行う生物膜法とがある。下水処理方法としては浮遊生物法が主流であり、その中でも標準活性汚泥法の採用が最も多い。しかし、処理場の規模や立地条件等に対応するため、長時間エアレーション法、オキシデーションディッチ法、回分式活性汚泥法等も実用化されている。
 活性汚泥とは、下水中の有機物を栄養分として成長する微生物の集合体のことである。バクテリア(細菌類)、原生動物、後生動物など、1μm程度から数百μm(1μmは1mmの1000分の1)までの様々な大きさの生物で構成されている。図1は、活性汚泥微生物の例である。左は、有機物を吸収、吸着して分解する細菌で、活性汚泥生物の中心的役割を担っている。右は、浄化状態が安定した頃に出現する原生動物である。
 活性汚泥微生物は、標準活性汚泥法において有機物除去の中心的な役割を担っており、下水処理場の運転条件は、活性汚泥に関する各種指標をもとに決められている。

表2 主な好気性生物処理方式の分類
分類 生物処理法
浮遊生物法   標準活性汚泥法
活性汚泥変法 ステップエアレーション法
酸素活性汚泥法
長時間エアレーション法
オキシデーションディッチ法
回分式活性汚泥法
活性汚泥変法(高度処理) 循環式硝化脱窒法(窒素除去)
消化内生脱窒法(窒素除去)
嫌気無酸素好気法(窒素・リン除去)
嫌気好気法(リン除去)
固着生物法(生物膜法) 回転生物接触法
散水ろ床法
接触酸化法
好気性ろ床法
固定化微生物法

出典:各種資料をもとに作成

図1 活性汚泥微生物の例

図1 活性汚泥微生物の例
左:Zooglea ramigera(ゾーグレア ラミゲラ) 細菌類 1.0~1.5μm
右:Thecamoeba verrucosa(テカアメーバ ベルルコーサ) 肉質虫類・アメーバ目 100~200μm
出典:(社)日本下水道施設業協会「活性汚泥動物園 動物園入り口 (一覧表)」
http://www.siset.or.jp/doc/doubutsu/top.htm

(1)浮遊生物法:標準活性汚泥法
 標準活性汚泥法のプロセスを図2に示した。下水中の有機物を活性汚泥により酸化分解するためのエアレーションタンク(曝気(ばっき)槽)と、活性汚泥を重力分離するための沈殿池とを組み合わせたプロセスが基本となる。エアレーションタンク内での流入下水の滞留時間は6~8時間に設定され、その値を基にエアレーションタンクおよび最終沈殿池の面積等が設計される。
 エアレーションタンクでは、下水と活性汚泥の混合が行われ、浮遊固形物の吸着と溶存有機物の微生物体内への吸収により、下水中の有機物が活性汚泥中に取り込まれる。そして、曝気によって供給される溶存酸素を利用して、取り込んだ有機物の酸化と微生物の増殖が起きる。増殖した細菌などは自己酸化(体内に取り込んだ有機物を呼吸によって消費し、菌体量が減少すること。内生呼吸ともいう)するとともに原生動物等によって捕食される。
 活性汚泥は微生物が生産する高分子によって凝集し、最終沈殿池における重力沈降によって清澄な上澄みの処理水と分離される。最終沈殿池に沈降した汚泥は、エアレーションタンク中の活性汚泥濃度を一定に保つためにエアレーションタンク内に返送され、残りは余剰汚泥として系外に排出される。処理水は、適切な処理をした後に工業用水として再利用されるか、塩素などで処理した後に環境中へ放流される。
※ 下水汚泥の処理・資源化について:「汚泥処理・資源化」参照
※ 下水再生について:「雨水・再生水利用」参照

図2 標準活性汚泥法の概念図

図2 標準活性汚泥法の概念図
出典:各種資料をもとに作成

(2)浮遊生物法:長時間エアレーション法
 長時間エアレーション法とは、エアレーションタンク内での滞留時間を16~24時間と長く設定することにより、活性汚泥の自己酸化を促進させ、結果的に余剰な活性汚泥の発生を減少させることを目的とした方法である。維持管理の手間が少ないため、小規模下水処理場に適用される。

(3)浮遊生物法:オキシデーションディッチ法
 オキシデーションディッチ法のイメージを図3に示した。周回水路に下水を注入し、機械攪拌で循環させながら好気的に処理する方法で、通常、最初沈殿池は設置しない。流入下水の量・質の変動に影響を受けにくく、維持管理が容易である反面、広い敷地が必要であることから地方都市等の規模の小さな処理施設での採用が多い。

図3 オキシデーションディッチ法のイメージ

図3 オキシデーションディッチ法のイメージ
出典:(株)神鋼環境ソリューション「オキデーションディッチ」
http://www.kobelco-eco.co.jp/product/gesui/ditch.html

(4)浮遊生物法:回分式活性汚泥法(SBR; Sequencing Batch Reactor)
 回分式活性汚泥法のイメージを図4に示した。エアレーションタンクと最終沈殿池の機能を1つの反応槽に集約したもので、活性汚泥の入った反応槽に下水を流入し、[1]曝気、[2]沈降分離、[3]上澄み処理水の排水、[4] 沈殿汚泥の排汚泥を順次行う。流入下水の質や量の変動に対応して反応時間を自由に設定できるのが特徴である。また、曝気・停止を繰り返すという処理プロセスに対応して、目詰まりのない水中曝気装置や、沈殿汚泥を巻き上げない上澄水排出装置が開発されている。

図4 回分式活性汚泥法のイメージ

図4 回分式活性汚泥法のイメージ
出典:鹿島建設(株)「下水道施設 回分式活性汚泥法」
http://www.kajima.co.jp/tech/water/gesui/wat-2-2.html

2)好気性生物処理法:生物膜法

(1)生物膜法:好気性濾床(ろしょう)法
 生物膜法では、活性汚泥法と異なり、汚泥微生物が反応槽内に保持されるため、汚泥返送が不要であるほか、自己酸化の促進によって系外に排出される汚泥が少ない等のメリットがある。生物膜処理には、好気性濾床法、回転円板法、及び接触酸化法などの好気性処理と嫌気性濾床法などの嫌気性処理とがある。
 生物膜法の中で最も一般的な好気性濾床法では、粒状濾材を充填した濾床に槽上部から下水を流入させ、槽下部から処理水を得る。濾過によって下水中のSS(浮遊物質)を除去できるほか、濾材に付着した微生物によって溶存有機物の生物処理が行われる。SSの流出が少ないため、最終沈殿池は不要だが、微生物の増殖等による充填槽内の閉塞を回避するため、一定間隔での逆洗が必要となる。反応タンクの水質管理が不要なため維持管理が容易であるほか、反応時間が短いこと等が特徴で、主に小規模下水処理場に適用が進んでいる。

(2)生物膜法:散水濾床法
 最も古典的な生物膜処理装置で、近年では新設はほとんどない。反応タンク内の充填材の上部から排水を散水することにより、充填材表面の微生物に、基質と酸素を供給して処理する手法である。濾床に自生する微生物群は幅広い生物相から構成されるため、汚泥発生量は少ないが、ハエや臭気の発生に留意が必要である。

(3)生物膜法:回転生物接触法
 回転生物接触法で用いられる回転円板のイメージを図5に示した。欧州を中心に普及している技術で、日本では合併浄化槽、廃棄物埋立処分場の浸出水処理施設、各種産業排水処理施設の分野を中心に採用されている。本法は回転する円板に生物膜を付着させるもので、回転円板の約40%が液中に浸漬している、円板の大きさは直径2~5mで、円板の回転速度は1~5rpmとゆっくりである。大気中で酸素を取り込み、液中では回転による攪拌力で基質や酸素の拡散を容易にして生物学的な浄化を進行する。生物膜は微生物の増殖によって肥大化し、微生物に寿命が来ると、生物相が変わり、剥離・更新される。
 なお、回転円板は、法律上は下水道ではなく浄化槽であり、浄化槽法の適用を受ける。

図5 回転円板の断面イメージ

図5 回転円板の断面イメージ
出典:ジャペックス(株)「STK回転円板」
http://www.jpex-net.co.jp/page2.htm

(4)生物膜法:接触酸化法
 充填材を水槽内に沈めて、散気装置により充填材表面の微生物に酸素を供給して処理する。円筒系の水槽が二重筒状に仕切られている構造が代表的で、内筒部に原水流入口と空気挿入口、外筒部にハニカムチューブである担体が充填されている。

3)その他関連技術

(1)固液分離法:膜分離活性汚泥法(Membrane Batch Reactor; MBR)
 最も一般的な下水処理方法は活性汚泥法であるが、活性汚泥法では汚泥と処理水との固液分離を重力沈降によって行う。この固液分離プロセスをMF膜やUF膜を用いた膜分離プロセスに置き換えたものが膜分離活性汚泥法(MBR)である(図6)。沈殿処理に膜分離処理を加えることで、[1]高濃度の活性汚泥が分離できるため、エアレーションタンク(図では曝気槽)の活性汚泥濃度を高めて自己消化(活性汚泥微生物の死滅および分解)を促進させることで余剰汚泥の発生量を低減できる、[2]SS由来のBODやCODも除去できるため、処理水質が良好、[3]確実な固液分離ができるため、バルキングの心配がなく運転管理が容易である、等のメリットがある。
 近年、MBRは世界市場で適用事例が増えており、下水再生水の利用目的でも活用されている。なお、水処理膜については「水処理膜」の解説を参照のこと。

※(参考)BOD-MLSS負荷
 膜分離活性汚泥法は、標準活性汚泥法と比較して活性汚泥濃度を高くできるため、同じ排水を処理する場合、活性汚泥量あたりの有機物量が少なくなる。すなわち、以下の式で表されるBOD-MLSS(Mixed Liquor Suspended Solid;活性汚泥浮遊物)負荷量が小さくなる。(分子が同じなら、分母が大きいと値は小さくなる。)

(1日あたりの下水流入水中の有機物量[kg/日])/(エアレーションタンクの活性汚泥量[kgMLSS])

 この値は、「1日に単位体積当たりの活性汚泥微生物に与えられる有機物量」と解釈できる。従って、活性汚泥濃度が高いほど、この値が小さくなり、排水中の有機物の摂取および分解が速やかに進む。分解する有機物が無くなった活性汚泥は、自己酸化し、さらには自己消化して、体積が減少する。

図6 膜分離活性汚泥法のイメージ(上)活性汚泥法(下)MBR

図6 膜分離活性汚泥法のイメージ (上)活性汚泥法 (下)MBR
出典:東レ(株)より提供
http://www.toray.co.jp/

(2)嫌気性下水処理技術
 日本の下水処理は活性汚泥法を中心とする好気性生物処理が主流だが、活性汚泥法では余剰汚泥の処理が課題となっており、余剰汚泥が少ない嫌気性処理による代替が研究されている。現在、嫌気性下水処理技術は、食品工場排水のような高いCOD濃度(数千mg/l、一般的な下水流入水は200mg/l程度)を持つ排水に対して適用されている。
※嫌気性下水処理技術の概要および実際の適用例については、「工業排水処理」の解説を参照のこと。

(3)酸化池・ラグーン
 酸性池・ラグーン(安定池)とは、素掘りの池に下水、下水二次処理水等を貯めて、自然界に存在する様々な浄化作用(微生物による分解、植物による栄養塩の取り込みなど)を活用して浄化する施設である。
 広大な敷地面積を必要とする一方、建設費、維持管理費が他方式に比べて圧倒的に安価である。日本では適用例がほとんどないが、広大な面積を有するアメリカや、アジア圏の小規模自治体で一般的な手法である。なお、ラグーンは、生物処理の形態によって、好気性、嫌気性、好気性-嫌気性に分けられる。

4)下水の高度処理

 近年、湖沼や湾等の閉鎖性水域における富栄養化防止のため、そのような水域に処理水を放流する下水処理場では、高度処理が進められている。平成17年度末の時点で、高度処理人口普及率は14.0%であるが、さらなる普及拡大が目指されている。高度処理の詳細は、「富栄養化対策(発生源対応)」の解説を参考にされたい。
 また、高度処理水は、水洗トイレ用水、親水公園のせせらぎ用水、融雪用水、電車の洗浄などに再利用可能であり、近年、水資源有効利用の観点から普及が進んでいる。高度処理水への再生のしくみや用途については、「雨水・再生水利用」の解説を参考にされたい。

3.技術を取り巻く動向

1)下水処理の課題

(1)合流式下水道雨天時越流水(CSO)への対応
 東京都のように、1970年以前に下水道整備をした都市では、合流式下水道が多い。これは、下水と雨水が同じ管を通って下水処理場に流入し、処理されるという方式である。この方式は、一本の管で下水と雨水を処理できるので、工事費用を抑えることができた。
 しかし、雨天時には下水処理場の処理能力を超える水量が一時的に発生してしまうため、排水に簡易な処理を施しただけ(あるいは未処理)で環境中へ放流しなければならない。この中には、家庭や事業所からの排水に含まれる油分や汚物が下水管に付着した固形物が含まれているため、雨天時に放流先の環境水質が悪化していた。なお、これらの固形物が放流・漂着されたものが、オイルボール(図7)と考えられている。
 1970年に下水道法が改定され、「公共用水域の水質の保全」が明文化されたことで、それ以後整備された下水道はほとんどが分流式である。しかし、それ以前に整備した合流式下水道を分流式に変更することは、莫大な工事費用や、新たな管(雨水管)を埋設する場所の確保、宅地の排水の分流化などが必要になることから、実現が難しい。そこで、分流式下水道への変更以外の方法での改善事業も進められている。
 図8は、東京都の改善方法である。雨水が集まる「雨水吐室」内の越流せきをかさ上げし、雨天時に未処理で放流される排水の量を減らしている。一時的に水再生センター(下水処理場)での処理量を超える分の排水は、地下の貯留施設に溜め込み、降雨後の余裕があるときに水再生センターへ送って処理する。さらに、未処理下水及び簡易処理水に対して、短期間で消毒ができる臭素消毒設備を整備するなど、未処理水の環境流出を極力抑えている。
 しかし、改善事業はまだ途上であり、国土交通省は、合流式下水道を有する191都市のうち80都市が「改善事業が計画通りに進んでいない」(平成20年)と評価している。

図7 お台場に漂着したオイルボール

図7 お台場に漂着したオイルボール
出典:東京湾再生プロジェクト「東京湾再生プロジェクトの経緯」
http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KANKYO/TB_Renaissance/RenaissanceProject/Background.htm

図8 合流式下水道の改善イメージ

図8 合流式下水道の改善イメージ
出典:東京都下水道局「東京都の下水道2003―これからの下水道事業の取組方針(合流式下水道の改善)」
http://www.gesui.metro.tokyo.jp/kanko/kankou/s_of_tokyo/11.htm

(2)富栄養化化学物質への対応
 東京湾や瀬戸内海、琵琶湖のような閉鎖性水域では、河川から流入する窒素およびリンが、富栄養化をもたらす主な原因のひとつとして問題となっている。富栄養化が急速に進むことで植物性プランクトンが増殖し、赤潮やアオコなどにより漁業への被害や水質・景観の悪化など問題が起こっている。
 標準活性汚泥法では窒素およびリンの除去は難しいため、法的規制と併せて下水処理施設の高度化により対応している。
 窒素およびリン除去については、「富栄養化対策(発生源対応)」の解説を参照のこと。

2)新たな技術への取組み(国立環境研究所)

(1)バイオ・エコエンジニアリング研究施設
 国立環境研究所のバイオ・エコエンジニアリング研究施設(図9)では、微生物を利用した排水処理等の生物処理工学(バイオエンジニアリング)と、水耕栽培による水質や土壌浄化等の生態工学(エコエンジニアリング)を最適に融合させた新たな技術、すなわちバイオ・エコエンジニアリングについて研究を行っている。
 この技術は、水質浄化に有効な微生物の能力を最大限に利用する技術であり、下水処理にとどまらず、様々な環境水に対して低コスト、省エネルギーの浄化方法になると期待される。低コスト、省エネルギーという特徴を活かして、発展途上国向けの水質浄化方法としても期待が大きい。

図9 バイオ・エコエンジニアリング研究施設の概要

図9 バイオ・エコエンジニアリング研究施設の概要
出典:国立環境研究所 研究施設紹介「バイオ・エコエンジニアリング研究施設」
http://www.nies.go.jp/cycle/bioeco/labo1.html

(2)汚泥の減量化
 バイオ・エコエンジニアリング研究の要素技術として、汚泥の減量化がある。生物処理では、発生する余剰汚泥の処理・処分の負担を軽減するために、汚泥の発生量をできる限り少なくするプロセスの確立が求められている。
 同研究施設は、食物連鎖を長く設定することで汚泥の減量化を図ることができるか検討した。排水処理施設の最終沈殿池に汚泥を捕食するグッピーとそれを捕食するナマズなどの肉食魚を生息させ、生物処理全体としての食物連鎖を長く設定することで、どの程度汚泥を減量化できるか調査した。生物に取り込まれる有機物は、成長と呼吸に利用される(図10(左))。一般に、食物連鎖の上位に位置する生物(肉食の生物)ほど、栄養効率(変換収率=生物の成長量÷有機物の摂取量)は低くなると考えられており、それら肉食の生物を汚泥の減量化に利用したのである。最終沈殿池に生息する、食物連鎖の各段階の生物の栄養効率を調べたところ、図10(右)のように、段階的に栄養効率が低下することが分かった。
 このことから、活性汚泥中微生物の成長量を、肉食魚類の呼吸による消費量に置き換えることで、汚泥の減量化が可能であることが明らかとなった。細菌・菌類・微小動物などが中心の生物学的処理に、小型魚類、肉食魚類、鳥類など、生態系でより上位を占める生物群を加え、食物網を複雑にして安定した食物連鎖を形成させることが生態工学の応用として重要な視点となる。

図10 食物連鎖と各段階の栄養効率

図10 食物連鎖と各段階の栄養効率
(左)食物連鎖による汚泥処理の効率化、(右)細菌を基準とした場合の栄養効率
出典:国立環境研究所 環境儀No.7 「バイオ・エコエンジニアリング 開発途上国の水環境改善をめざして」
http://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/07/10-11.html

引用・参考資料など

(2010年1月現在)