ビオトープ

 ビオトープは、工業の進展や都市化などによって失われた生態系を復元し、本来その地域にすむ生物が生息できるようにした空間のことです。ドイツなどのヨーロッパから始まったこの動きは日本にも広がり、各地で国や自治体、学校、NPO/NGO、企業などによるさまざまな取り組みがみられます。身近な自然環境であるビオトープ普及の現状と、関連技術について紹介します。

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1.ビオトープとは

 ビオトープは、本来その地域にすむさまざまな野生生物が生息することができる空間のことで、「生物の生息空間」と訳されます。ギリシャ語で「生物」を意味する「bios」と「場所」を意味する「topos」の合成語で、ドイツの動物地理学者であるフリードリヒ・ダールが造った言葉であるとされます。
 ビオトープの本場であるドイツでは、工業化などに伴う環境問題が深刻化した1970年代頃からビオトープが注目されるようになりました。1976年に制定された連邦自然保護法にビオトープの保護、維持、発展、回復が盛り込まれ、生態系保全を意識した地域づくりが進められています。わが国でも、種の保存法(1992)*1環境基本法(1993)、改正河川法(1997)*2、自然再生推進法(2002)、外来生物法(2004)*3などが制定され、自然を復元、再生するための制度的な土台が整いつつあります。

*1: 正式名称「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」
*2: 正式名称「河川法の一部を改正する法律」
*3: 正式名称「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」

2.ビオトープの種類と評価

 日本では、20世紀末からビオトープが各地でつくられるようになり、干潟、湿地、湖沼、河川などの水域や、里山林、草原など、地域の自然を生かしたさまざまなビオトープが整備されています。ビオトープのタイプについて、人々との関わりから捉えた事例として参考になるのが、国土交通省の平成17年度近畿地方整備局技術研究発表会で、同地方整備局・近畿技術事務所調査試験課が発表した「ビオトープの評価手法の検討について」です。この論文では、現地踏査やヒアリングの結果をもとに、ビオトープを1)自然型、2)保全型、3)公園型、4)教育型、5)憩い型の5つのタイプに分類しています(写真1)。

写真1

写真1 人々との関わりから見た、さまざまなタイプのビオトープ
(左から自然型、保全型、公園型、教育型、憩い型)
(出典:国土交通省・近畿地方整備局近畿技術事務所三宅淳市氏発表論文「ビオトープの評価手法の検討について」平成17年度近畿地方整備局技術研究発表会論文集より)
出典URL: http://www.kkr.mlit.go.jp/plan/kannai2005/02.html

3.国によるビオトープ整備事例と技術の動向

 具体的なビオトープ整備事例をみると、国によるものでは、国土交通省がダムや河川、道路の整備などの公共事業の実施に伴って、各地で地域の自然を復元するビオトープの創出に取り組んでいます。
 このうち、青森県で2002年度に暫定2車線で全線開通した青森環状道路の建設地では、絶滅危惧Ⅱ類に指定されているメダカの保護への配慮が求められたため、青森河川国道事務所が同年「共生の郷メダカ郷和国」を開園。「メダカビオトープ」を整備しました。メダカビオトープは、進行中の工事からの影響を避けるため、道路事業区域内の専用道と一般道の合流部に残地として形成される三角地帯を利用してつくられました(写真2)。

写真2

写真2 メダカビオトープ(2007年8月、左から、橋から上流方向、同下流方向、ビオトープ全景)
(出典:国土交通省・青森河川国道事務所「共生の郷メダカ郷和国」)
出典URL: http://www.thr.mlit.go.jp/bumon/J72101/homepage/medaka/hensen/index.html

 ビオトープの造成にあたっては、生物の習性に合った空間づくりが求められます。メダカビオトープでは、縦断水路に、透水性があり泥が堆積しやすく水草も根付きやすいポーラスコンクリートを粗骨材としたポーラスコンクリートベンチフリュームが採用されました。また、集水桝や横断水路の接続桝は水深を深くしてメダカの避難場や越冬場になるような形が採用されました(以上図1)。メダカビオトープでは、学識者や住民の参加による自然観察会や生息調査、手入れ作業などが行われており、前に述べた分類によれば、教育型の色合いが濃いビオトープといえるでしょう。

図1 メダカビオトープの水路

図1 メダカビオトープの水路(左から縦断水路、横断水路、各種ます)
(出典:国土交通省・青森河川国道事務所「共生の郷メダカ郷和国」)
出典URL: http://www.thr.mlit.go.jp/aomori/medaka/waterway/sentei.html#POLUS

 また、北海道開発局の帯広開発建設部では、アクア・グリーン・ストラテジー(AGS)という考え方に基づいて、川の安全確保と、水辺の自然環境の保全と再生をめざし、自然型のビオトープを採りいれた川づくりを進めています。
下頃辺(したころべ)川では、洪水に対する安全性を高めるための低水路拡幅工事の際に、直線的にならないように石を置くなどして川の流れに変化を付け、瀬や淵を造ってあります。また、河岸部の護岸を覆土することで緑の再生を図った結果、野鳥や魚類が多数生息しています(写真3)。

写真3

写真3 下頃辺川・低水護岸の変遷
(出典:北海道開発局・帯広開発建設部「多自然川づくり─AGS事業─」)
出典URL: http://www.ob.hkd.mlit.go.jp/hp/tisui/t1.html

 同じく十勝川では、堤防工事にともなう土取場の跡地をあえて整地せずに、同地の歴史や自然環境を踏まえて造成を行うことで、自然型の「湿地ビオトープ」を実現しました。ここでは、土を掘削した場所をそのまま窪地として残し、1) 流水ビオトープ、2) 止水ビオトープ(浅)、3) 止水ビオトープ(深)、4) 中島タイプビオトープの4タイプ合計9個の池を造成しました(図2)。その結果、新たな湿地が形成され、湿地にすむ生物の生息も確認されるようになりました。

図2 十勝川における湿地ビオトープ

図2 十勝川における湿地ビオトープ
(出典:国土交通省・帯広開発建設部池田河川事務所五十嵐幸雄氏ほか発表論文「礼作別湿地ビオトープの生態系について」平成14年度年度北海道開発局技術研究発表会論文集より)
出典URL: http://www.hkd.mlit.go.jp/topics/gijyutu/pdf_files/02kasen/kas-16.pdf

4.自治体やNPOなどの取り組み

 一方、地方自治体やNGO/NPOなどが中心となって地域にビオトープをつくり、管理する事例もあります。東京都の足立区にある「桑袋ビオトープ公園」は、工業化などの影響で一時は国内の一級河川の中で最も汚染がひどかった綾瀬川流域の桑袋小学校跡地につくられています。園内に綾瀬川や身近な生物について学べる施設もあり、保全型に近い教育型のビオトープといえます(写真4)。同園には水質浄化施設が併設され、毎秒220リットルの水を浄化しています。

写真4

写真4 桑袋ビオトープ公園(左:全景、右:水質浄化施設の図)
(出典:足立区「桑袋ビオトープ公園」)
出典URL: http://www.adachi.ne.jp/users/biotop/index.htm

 また、埼玉県の行田市では、市がNPOや学校、商工会議所などと協働で、総合公園内に浮島式のビオトープを設置する事業を進めています。特長は、浮島の素材として間伐材や炭を使うことで、林産物の利用と水質浄化、水辺の自然再生などを図っています。同様の取り組みは千葉県や石川県などでも行われており、教育型のビオトープとして注目されます。
 このほか、(独)都市再生機構(UR都市機構)は、環境共生実験ヤード内にビオトープ実験区(図3)を整備して、都市型住宅地でビオトープの創出を図るための緑化技術や管理手法などを研究しています。実験ヤード内には、緑地(約1,000m2)、池(約400m2)、せせらぎ(約30m)などが整備され、住宅地の身近な生活空間でのビオトープを想定したモニタリング調査や、設計、施工、維持管理についての実験研究が行われています。

図3 UR都市機構の環境共生実験ヤード内にあるビオトープ実験区

図3 UR都市機構の環境共生実験ヤード内にあるビオトープ実験区
(出典:(独)都市再生機構「環境共生実験ヤード―ビオトープ―」)
出典URL: http://www.ur-net.go.jp/rd/corner-p/pdf/ur2006rd002-01.pdf

5.学校ビオトープなどさまざまな広がり

 身近なところでビオトープ空間を創出する可能性を考えたとき、日本のビオトープの普及と整備に大きく貢献してきたのが、小・中学校などを基点として行われている学校ビオトープの取り組みです。学校ビオトープは、子どもたちの最も身近にある学校の屋外空間を体験活動の場として活用するためにビオトープを整備するもので、教育型のビオトープの代表格です。各地でさまざまな取り組みが行われており、(財)日本生態系協会が主催する「全国学校ビオトープ・コンクール」は2008年で10周年を迎えます。また、横浜市では、2002年の調査によると、73の小中学校でビオトープが整備され、環境教育が展開されています(図4)。

図4 横浜市内小中学校ビオトープ分布図(73校)

図4 横浜市内小中学校ビオトープ分布図(73校)
(出典:横浜市環境創造局「学校ビオトープに関するアンケート調査」、2002年)
出典URL: http://www.city.yokohama.jp/me/kankyou/mamoru/eco/gakkouchousa/index.html

 一方、農村におけるビオトープ空間の創出にも期待が寄せられています。2007年11月に公表された「第3次生物多様性国家戦略」では、河川や湿原などの保全や再生を進めていくために、耕作放棄地や休耕田を活用したビオトープづくりなどに努めるとしています。千葉市では、市内を流れる坂月川沿いの休耕田を使った市民との協働によるビオトープ整備事業を2005年度から行っています。
このほか、工場の敷地内にビオトープを整備する企業も増えています。

 ビオトープは、基本的な部分の施工を除けばあまり人の手を入れず、「自然にまかせて」創出することが原則です。しかし、ビオトープ内で自然の生態系を成立させるには、単に生物が住めるだけでなく、その地域特有の生物が繁殖し、成長できる環境でなくてはなりません。また、環境教育や市民の憩いの場とするなど、目的に合った施設づくりが必要です。さらに、せっかくビオトープをつくってもきちんとした手入れがなされなければ、地域の環境に悪い影響を与えかねません。

6.ビオトープネットワークの形成をめざして

 これまでみてきたように、わが国では国、自治体、市民など多様な主体によって、さまざまなビオトープがつくられ、関連技術の開発も進みつつあります。しかし、いくらビオトープが増えても、小さな地域の中で孤立してしまっては、生物の生息空間としての役割を十分果たしているとはいえません。生物の中には、トンボのように成長に応じて異なる生息環境が必要な生物や、産卵や繁殖の時だけ移動する生物がいます。また、同じ種が1つの生息空間の中だけで交配を繰り返すと、遺伝的な問題が生じやすいと考えられています。
 こうした生物の習性に対応するため、同じようなビオトープを基本単位にして広域的につなげたものがビオトープネットワークです。ビオトープネットワークの手法としては、里山林や公園などを緑の回廊でつなぐことや、公園と公園の間に「踏石」となる小ビオトープを造るなどして、生物が移動できるようにすることなどがあげられます(図5)。
 今後、全国に点在するビオトープを、生物多様性の保全の観点からネットワーク化していくことが求められます。

図5 踏石ビオトープによるネットワーク化概念図

図5 踏石ビオトープによるネットワーク化概念図
(出典:文部科学省・環境を考慮した学校施設に関する調査研究協力者会議「環境を考慮した学校施設(エコスクール)の現状と今後の整備推進に向けて」、2002年)
出典URL: http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shisetu/006/toushin/020302.htm

引用・参考資料など

1)環境省
「おしえてビオトープ」
2)環境省
「生きものと共生する地域づくり」
3)(財)日本生態系協会
「ビオトープ管理士資格試験」
4)日本ビオトープ管理士会
日本ビオトープ管理士会ホームページ
5)国土交通省・荒川上流河川事務所
「三ツ又沼ビオトープ」
6)国土交通省・青森河川国道事務所
「メダカビオトープ」
7)足立区
「桑袋ビオトープ公園」
8)行田市
「水と緑のふるさとぎょうだ再生計画」(PDF)
9)千葉市
「坂月川ビオトープ」
10)藤沢市
「藤沢自然だより6」
11)ビオトープを考える会
ビオトープを考える会ホームページ
12)ドイツ環境情報のページ
「ビオトープ/Biotop」
(2008年1月現在)