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 北大など、北極海に生息する動物プランクトン2種が対照的な生活史をもつことを解明

発表日:2022.04.25


  北海道大学、米国ウッズホール海洋研究所およびロード・アイランド大学からなる研究グループは、北極海には成長速度や再生産様式が異なる2タイプの「肉食性カイアシ類(橈脚類)」が居ることを明らかにした。海洋に生息する動植物プランクトンは、食物連鎖の低次栄養段階の物質循環を担い、世代時間が短いことから、温暖化の影響を最初に反映する生物と考えられている。近年、北極域における気候変動研究の一環として、動植物プランクトンに焦点を当てた調査研究が盛んに行われているが、 北極海は冬期間に結氷するため、通年での試料採集は難しく、とりわけ「動物プランクトン」の再生産タイミングやその後の成長は十分に理解されていなかった。同研究グループは、年間を通して採集された数少ない動物プランクトン試料セット(SHEBA試料)に着目した。SHEBA試料は、1997年~1998年にかけてカナダの砕氷船を氷上定点の基地として採集された時系列採集試料(4%ホルマリン海水固定)。今回、同試料中の動物プランクトンに摂餌様式の異なる「肉食性カイアシ類」2種が優占することが明らかになった。それらの発育段階や再生産状態ごとに同定計数を行ったところ、両種の再生産タイミングは日照の無い「極夜(12月下旬前後)」に共通してあることが分かり、極夜の生物生産が従来考えられていたよりも活発であることが示された。一方、両種のその後の成長速度は大きく異なっており、体サイズの大きいパラユーキータ・グラシアリス(採餌様式:待ち伏せ型、産卵様式:大型で少数の卵を孵化するまで抱卵)の成長は遅く、体サイズが比較的小さいヘテロラブダス・ノルベジカス(採餌様式:毒針を使用し大型個体を餌とすることが出来る、産卵様式:小型で多数の卵を水中内に産み落とす)の成長は速いことが明らかになった。SHEBA試料を用いた既往調査では、植物プランクトンなどを摂餌する動物プランクトンの生活史が報告されている。本研究は、それらを捕食する肉食性カイアシ類2種の生活史を明らかにしたものである。また、低次生産が魚類など高次生物に受け渡される際の仲介者としての役割をはたす肉食性動物プランクトンの生活史が種により大きく異なることから、今後の環境下でどちらの種が優占するかによって、動物プランクトン群集内での被食・捕食関係のバランスや、高次生物へのエネルギー転送経路の変化をもたらすことを指摘している。北極海の海洋生態系の変化を評価する上で、重要な新知見であるという。

情報源 北海道大学 プレスリリース(研究発表)
機関 北海道大学 Woods Hole Oceanographic Institution University of Rhode Island
分野 地球環境
自然環境
キーワード 北極海 | 食物連鎖 | 海洋生態系 | 動物プランクトン | 肉食性カイアシ類 | 採餌様式 | 再生産 | SHEBA試料 | 極夜 | 被食・捕食関係
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