ホームエネルギーマネジメントシステム(HEMS)

 家電機器や給湯機器など住宅内のエネルギー消費機器をネットワーク化し、自動制御する「HEMS」。民生部門における省エネルギーと地球温暖化への対策技術として期待が寄せられ、商品やシステムも市場に出ています。こうした中、生活見守り機能との統合サービスの実用化に向けた検討など、新しい取り組みが始まっています。今なぜHEMSなのか? 普及のカギは何か? 現状と課題、展望をレポートします。

※外部リンクは別ウィンドウで表示します

1.なぜ今、HEMSなのか?

 エネルギーは国民生活や経済活動の基盤をなすものであり、その安定的な確保は、エネルギー安全保障の上で重要なテーマです。二度の石油ショックを経験した日本は、エネルギーの安定需給を図るため、石油に代わるエネルギーの検討・導入や、省エネルギーの推進などの対策を進めてきました。
 一方、主に化石燃料に由来する二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスによる地球温暖化問題が深刻化しており、日本も京都議定書で約束した6%の削減目標を達成するための対策を各方面で取っています。特に、民生部門における省エネルギー対策が、今後重要になると指摘されています。
 近年、民生部門における省エネルギーと地球温暖化への対策技術として、業務用のBEMS(Building and Energy Management System:ビルエネルギーマネジメントシステム)」や、家庭用のHEMS(Home Energy Management System:ホームエネルギーマネジメントシステム)が注目されています。BEMSとHEMSは、建物全体のエネルギー供給や需要の状況を総合的に把握し、機器や設備の運転を効率的に行い、総合的に省エネルギーを実現するためのシステムのことです。
 このうち、HEMSは、住宅のエネルギー消費機器である複数の家電機器や給湯機器を、IT技術の活用によりネットワークでつなぎ、自動制御する技術です。家庭でのエネルギー使用量や機器の動作を計測・表示して、住人に省エネルギーを喚起するほか、機器の使用量などを制限してエネルギーの消費量を抑えることができます(図1)。

図1 ホームエネルギーマネジメントシステム(HEMS)の概要

図1 ホームエネルギーマネジメントシステム(HEMS)の概要
(出典:資源エネルギー庁「2006年版エネルギー白書、第1部第2節 省エネルギーの推進」)
出典URL: http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2006EnergyHTML/html/i1220000.html

 2002年に見直された政府の「地球温暖化対策推進大綱」では、民生部門における地球温暖化対策としてのHEMSの重要性を認め、家庭におけるエネルギーを適切に管理するため、「家庭内の主要機器を最適制御することができる、家庭用エネルギーマネジメントシステム(HEMS)の開発・普及を図る」としています。また、政府の地球温暖化対策本部が2005年4月に策定した京都議定書目標達成計画でも、HEMSの普及を図るために実証実験を行うとしています。

2.HEMS技術の種類と特長

 (独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、「NEDO」)では、「エネルギー需要最適マネジメント推進事業」を2001年度から行いました。モニター住宅にHEMSを構築、設置して実証試験を行う事業を支援するもので、それによる省エネルギー効果の評価解析成果報告書を公表しています。
 NEDOによると、国内のHEMS関連製品・サービスは、エネルギー使用のモニタリングを主とした「表示系」と、エアコン・照明等の家電製品の遠隔制御を主とした「制御系」に大きく分けられます。
 具体的には、表1のようなHEMS関連製品・サービスがあります。

表1 HEMS関連製品・サービスの特長と課題
分類特長課題HEMSとの関連
ウェブサイトによるエネルギー使用量等の情報提供エネルギー供給事業者のウェブサイト上で、過去1~2 年間のエネルギー使用量・支払料金等を確認する。類似世帯との比較も。無料。リアルタイム性がない。能動的に情報を得ようとするユーザーに限定される。提供媒体の多様化(郵送等)により、能動的に情報を取得しようとしないユーザーへの対応が期待される。各種世帯のエネルギー使用量が把握できる。
モニタリングによるエネルギー使用量等の情報提供エネルギー供給事業者や住宅用発電設備メーカーがエネルギー使用量等をモニタリングし、ユーザーに提供。ユーザーの負担はほとんどない。独立のサービスでは成立しにくく、他のサービスとプラットフォームを共用する、アフターサービスの一環と位置づけるなど、事業者側の工夫が必要。能動的に情報を取得しようとしないユーザーへの訴求力も課題。エネルギー供給事業者が把握している家全体のエネルギー使用量を利用するため、HEMSの計測部分のコストを低減できる。
ピークカット機能付き分電盤電気の使いすぎを知らせ、一時的にエアコン等を自動的に遮断する機能を持つ。家電・機器の消費電力などに関する生活者の理解が深まる効果も期待される。とくになし必ずしも省エネルギーではないが家庭内のエネルギー需要を管理するというコンセプトはHEMSと共通する。
エネルギー使用量等表示装置「省エネナビ」など、リアルタイムにエネルギーの使用量等を表示することで、省エネルギー行動を喚起する。現在商品化されている製品の価格と、一般家庭が支払っても良いと考える価格に乖離があり、自立的な普及を目指すならば、低コスト化が必須と考えられる。情報提供機能に特化した簡易版のHEMSと位置づけられる。
ホームネットワーク関連サービス遠隔地から家電・機器の操作を可能とするほか、見守り、防犯等のニーズに応える。ホームネットワークを利用した魅力あるサービスの開発、ニーズの掘り起こし、ビジネスモデルの構築が必要。各種のサービスにHEMS機能を追加することで、安価にHEMSを実現できる。

(出典:(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構「平成18年度一般家庭におけるHEMS導入実証試験による省エネルギー効果の評価解析成果報告書」(2006年12月))
出典URL: http://www.tech.nedo.go.jp/index.htm (入手、閲覧には登録が必要)

 「ウェブサイトによるエネルギー使用量等の情報提供」は、電力会社や都市ガス会社が家庭用の顧客に対し、自社のウェブサイト上で過去1~2年間のエネルギー使用量に関する情報を提供するサービスです。世帯員数や住宅の種類が同じ家庭の使用量と比べられる機能を提供している会社もあります。
 「モニタリングによるエネルギー使用量等の情報提供」は、パソコンから電気の使用量などを15分間隔程度のリアルタイムで閲覧できるサービスで、エネルギー消費量などの表示装置と同等の機能を、電力量センサや専用の表示端末なしで実現できるのが特長です。全電化マンションが対象です。
 「ピークカット機能付き分電盤」は、専用端末に電気の使用レベルを表示し、電気の使用量が契約容量を超えると、音声で使い過ぎを知らせるとともに、ピークカット回路に接続されているエアコンなどの機器の電源を自動的に遮断する機能があります。機器の運転は、電気の使用量が減ると自動的に再開されます。全電化住宅などの新築住宅や、電気の使用量が増えても幹線容量不足で契約容量を上げられない既築の集合住宅などにニーズが見込まれています。
 「エネルギー使用量等表示装置」は、リアルタイムの使用量や概算料金などを表示することで、省エネルギー行動を促す装置です。(財)省エネルギーセンターが「省エネナビ」として登録しており、NEDOは補助金支給にあたり省エネナビの利用を義務づけています。
 「ホームネットワーク関連サービス」は、ホームネットワークを利用して家電機器の遠隔操作などのサービスを提供するものです。

3.主なHEMS技術の事例と効果

 表示系と制御系それぞれのHEMS技術を使った、製品・サービスの事例を、図2に示します。

図2 表示系(上)と制御系(下)HEMSの事例

図2 表示系(上)と制御系(下)HEMSの事例
(出典:(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構
「人の好みや行動パターンに応じたHEMS/BEMS技術の研究開発」(2007年6月))
出典URL:  http://www.tech.nedo.go.jp/index.htm (入手、閲覧には登録が必要)

 表示系のHEMSでは、電力だけをモニターする商品や、ガス給湯器やソーラーシステムと組み合わせた商品などがあります。一方、制御系のHEMSでは、エアコンや給湯器など機器単独で省エネルギー運転や学習制御を行う機能を持つ技術があります。
 HEMSの導入効果はどれほどのものなのでしょうか。NEDOの平成18年度成果報告書によると、HEMS導入実証試験で収集されたデータをもとに、省エネルギー効果の評価とエネルギー消費の分析を行った結果、香川県のモニター世帯における電力消費量の省エネルギー率(減少率)は、導入前と比べて約11%となりました。

4.快適な生活を提供できる機能を付加し、市場を拡大

 HEMSの機能を省エネルギーに特化したものではなく、快適な生活を提供できる機能を付加したものにすることで、より広い普及を図れるのではないかという考え方が注目されています。
 NEDOが2006~2007年度に、(社)人間生活工学研究センターに委託して行った「人の好みや行動パターンに応じたHEMS/BEMS技術の研究開発」は、わが国が抱える大きな社会問題である少子高齢化問題に着目。今後増加する高齢者の単独世帯と高齢者を見守る世帯が安全・安心に暮らせる機能を持った、HEMS機能と生活見守り機能の統合サービスを検討したものです。
 具体的には、言葉のやり取りなどの双方向的な働きかけによって、高齢者を含む生活者の好みに合った省エネルギー情報を提示し、その内容を自動的に操作する機能を持つ「インタラクティブHEMS」を提案しています(図3)。

図3 インタラクティブHEMSのイメージ

図3 インタラクティブHEMSのイメージ
(出典:(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構
「人の好みや行動パターンに応じたHEMS/BEMS技術の研究開発」(2007年6月))
出典URL: http://www.tech.nedo.go.jp/index.htm (入手、閲覧には登録が必要)

 生活見守り機能を持ったHEMSは、生活者の好みや行動パターンを反映し、「がまんしない省エネルギー」を実現することを目指している点で、現代の生活者のライフスタイルに合っているといえます。
 また、従来のHEMSと違い、機器やシステムの販売ではなく、サービスの提供としてとらえることができます。

5.HEMSの課題と展望

 資源エネルギー庁の総合資源エネルギー調査会・省エネルギー部会は、2004年7月にまとめた「今後の省エネルギー対策のあり方について」の中で、2010年度のHEMSの普及率は約17%になると推測しています。現在、関連技術・システムの開発や商品化が進んでいますが、今後さらに普及を進めるためには、いくつかの課題が考えられます。
 第一に、これまでHEMSは省エネルギーを単独の目的としての技術開発が行われ、市場に出されてきたことがあげられます。現在のところ、表示系のHEMSには具体的な省エネ効果に直結する機能はなく、エネルギーの総使用量を示して前月と比べることなどによる省エネルギー行動の喚起にとどまっています。
 次に、HEMSの対象機器がエアコンや照明などの家電製品に限定されているため、制御系のHEMSに家庭内の機器全体の省エネルギー性を配慮して統合制御するシステムはありません。今後、家電製品だけでなく、エネルギー負荷の割合が大きいガスや灯油による暖房機や給湯器をHEMSの対象にすることが必要です。
 第三に、HEMSを単体で商品化するための課題として、コスト削減があります。(財)電力中央研究所が2005年度に一般の消費者などを対象に行った意識調査によると、HEMS導入費用の回収が保証されないことを前提とした場合、年間に支払う意思がある額についての回答では、1万円程度が7割を超えています(図4)。

図4 HEMS導入費用に対するHEMS導入率

図4 HEMS導入費用に対するHEMS導入率
(出典:(財)電力中央研究所「意識調査に基づくHEMSの普及可能性評価」(2006年5月))
出典URL: http://criepi.denken.or.jp/jp/kenkikaku/cgi-bin/rep_details.cgi?rep_num=Y05022&host=

 それだけに、4.で紹介した生活見守り機能を持ったHEMSなど、新たな機能を付与したサービスに期待がかかります。NEDOでは、生活見守り機能付きHEMSの市場が、2030年には約2000億円になると試算しています。
 一方、NEDOの平成18年度成果報告書によると、海外でもHEMSのようにエネルギー消費状況を表示する装置が商品化されており、安いものでは140ドル(約1万5000円)程度で入手できます。
 また、米国では、カリフォルニア州などでピーク電力負荷を抑制する動きがあり、欧米諸国やオーストラリアでは、エネルギー供給事業者がエネルギー消費に関する情報を提供する「スマートメーター」の導入を進めています。これは、ピーク料金制度などの時間帯別の料金制に対応した仕組みです。
 経済産業省は、2007年12月に公表した「グリーンITイニシアティブ」の中で、HEMSをエネルギー革新技術の一つとしてあげています。また、資源エネルギー庁も、2007年4月に公表した「省エネルギー技術戦略2007」の中で、HEMS単体での技術開発はもとより、地域コージェネレーション技術や自然エネルギーなどの新エネルギー利用との連携が必要であると指摘しています。
 国内におけるHEMS関連特許の出願件数(1995年~2004年)は、大半が2000年以降に集中しており、技術開発の動きが強まっていることをうかがわせます。今後も、新たな技術やシステム、サービスの登場が期待されます。

引用・参考資料など

1)(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構
「平成18年度一般家庭におけるHEMS導入実証試験による省エネルギー効果の評価解析成果報告書」(2006年12月))
(「成果報告書データベース」:入手、閲覧には登録が必要)
2)(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構
「人の好みや行動パターンに応じたHEMS/BEMS技術の研究開発」(2007年6月))
(「成果報告書データベース」:入手、閲覧には登録が必要)
3)資源エネルギー庁
「2006年版エネルギー白書」第1部第2節 省エネルギーの推進
4)環境省
「平成19年版環境・循環型社会白書」第4節 身近にある対策技術
5)(財)電力中央研究所
「意識調査に基づくHEMSの普及可能性評価」(2006年5月)
6)経済産業省
「BEMS/HEMSの課題と今後の方向」(産業構造審議会環境部会第18回地球環境小委員会配付資料、PDF)(2004年4月)
7)経済産業省
「住まい方による省エネ HEMS展開のヒント」(松下電工(株)PDF)(2007年5月)
8)四国電力
「OpenPLANET/HEMS紹介」
(2008年2月現在)