クリーンディーゼル車(CDV)

クリーンディーゼル車(CDV:Clean Diesel Vehicle)とは、これまでのものより排出ガスに含まれている窒素酸化物(NOx)などを一層低減したディーゼル自動車のことを指します。ディーゼル自動車からの排出ガスについては、従来から対策が行われてきましたが、NOxやPM(粒子状物質)の問題が解決しなかったことから、1992年に自動車NOx法が制定され、2002年の改正で自動車NOx・PM法となりました。さらに2009年にはディーゼル車を対象とした「ポスト新長期規制」が制定され、ディーゼル自動車のさらなるクリーン化が求められることとなりました。

ディーゼル車から発生する大気汚染物質の低減対策としては、燃料の噴射時期の調節などによる燃焼改善、触媒の使用による汚染物質の酸化・還元、DPF(Diesel Particulate Filter:ディーゼル排気微粒子除去フィルタ)システムによるPMの除去などが考えられます。こうした要素技術を組み合わせたクリーンディーゼルエンジンの研究が進められており、新しい排出ガス規制に適合したクリーンディーゼル車が市場に投入されています。

クリーンディーゼル車は、微小粒子状物質(PM2.5)に対する規制の動きもあり、バス、トラックなどの重量車を中心に普及が進み、近年は乗用車も車種が充実しつつあります。

※掲載内容は2017年3月時点の情報に基づいております。
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1.背景

1)ディーゼル車の排出ガス規制の強化

日本では、自動車排出ガス対策として、1974年から一酸化炭素、炭化水素、NOx(ノックス:一酸化窒素や二酸化窒素などの窒素酸化物の総称)について排出規制が導入されました。さらに、1993年からディーゼル軽量車・中量車、1994年からディーゼル乗用車・重量車の排出ガスに含まれるPM(粒子状物質)の規制も追加されました。こうした対策の結果、NOx、PMともに全国レベルでは改善が進んできたものの、依然としてNOxの排出源の大半は自動車だったため(図1)、交通量の多い地域では、必ずしも十分な改善が進んでいませんでした。

図1 窒素酸化物排出源割合
出典:環境省「自動車NOx・PM法の手引き」パンフレット
http://www.env.go.jp/air/car/pamph2/

こうした流れを踏まえて、日本のディーゼル自動車排出ガス規制は図2に示すように段階的に強化されてきました。2005年4月には、中央環境審議会「今後の自動車排出ガス低減対策のあり方について(第8次答申)」において、2009年からディーゼル自動車排出ガスを更に低減することが正式に決定され、ディーゼル車にもガソリン車と同じレベルの排出ガス規制が適用されることになりました。これは「ポスト新長期規制」と呼ばれ、世界最高水準の排出ガス規制に適合するものです。

図2 ディーゼル乗用車の排出ガス規制の変遷
出典:国土交通省 報道発表資料(2008年7月31日)「クリーンディーゼル普及推進方策(クリーンディーゼル普及推進戦略 詳細版)」
http://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha10_hh_000006.html

以上の背景から、ディーゼル自動車のさらなるクリーン化が求められることとなり、こうした要請に応えるためのクリーンディーゼル車技術が重要になっています。

2)クリーンディーゼル車の普及促進に関する検討

近年、前述の自動車排出ガス対策に加えて、地球温暖化対策の重要性が高まっており、環境低負荷でCO2排出削減にも寄与する低公害車の普及が求められています。クリーンディーゼル車は、そうしたニーズに応える選択肢として、電気自動車、燃料電池自動車、ハイブリッド車などとともに普及が期待され、2008年7月には、経済産業省、国土交通省、環境省、北海道庁、日本自動車工業会、石油連盟の連名で「クリーンディーゼル普及推進方策」がとりまとめられました。それによれば、ディーゼル乗用車は、ガソリン乗用車よりも高速走行、市街地走行における燃費が2~3割良く、約30%のCO2排出削減が見込まれるとのこと(図3)。NOx、PMについても、ポスト新長期規制に対応したクリーンディーゼル車が普及することによって大きな改善が見込まれるとされています(図4)。

図3 ガソリン車とディーゼル車のCO2性能の比較
注) 緑:ガソリン車の燃料消費量、黄:ディーゼル車の燃料消費量
出典:国土交通省 報道発表資料(2008年7月31日)「クリーンディーゼル普及推進方策(クリーンディーゼル普及推進戦略 詳細版)」
http://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha10_hh_000006.html

図4 自動車排出ガス規制の強化による環境負荷削減効果(09年規制=ポスト新長期規制)
出典:環境省「今後の自動車排出ガス低減対策のあり方について(第八次答申)」
http://www.env.go.jp/council/toshin/t07-h1702.html

クリーンディーゼル車など、環境低負荷の次世代自動車の普及を促進するために、国は補助金制度を設けています。また自治体によっては、自動車税を優遇している例もあります。

3)クリーンディーゼル車の普及見通し

環境省は、低公害車の普及促進に向けた検討の一環として、2009年5月に「次世代自動車普及戦略検討会報告書」を取りまとめ、クリーンディーゼル車(バス、トラックなどの重量車)の普及見通しについて、図5のように予測しています。

同報告書では、従来の貨物車・バス(ディーゼル重量車)市場を代替する低公害車として、クリーンディーゼル車のほかに、ディーゼルハイブリッド重量車(DHV)、ディーゼル代替NGV重量車(NGV:Non-Gasoline Vehicle、天然ガスなどの非ガソリン燃料車)の3種類を想定した予測も実施。DHV、NGVの販売台数シェアを、2020年度で24.8%、2050年度で46.3%とし、残りをクリーンディーゼル車が占めるとしました。

図5 クリーンディーゼル車の普及見通し
出典:環境省「次世代自動車普及戦略検討会報告書」2009年5月
http://www.env.go.jp/air/report/h21-01/index.html

また乗用車では、2台に1台がディーゼル車と言われる欧州に比べ、日本では長らくディーゼル車の販売が低迷していましたが(2005年のシェアは0.04%)、2010年代になって拡大を開始。走行性能の向上や車種の充実もあり、今後も増加が期待されています。

図6 クリーンディーゼル乗用車の国内販売台数の推移
出典:一般社団法人 次世代自動車振興センター
http://www.cev-pc.or.jp/lp_clean/

2.技術の概要

1)ディーゼル車の原理

自動車のエンジンは、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの大きく2種類に分けられます。ガソリンエンジンは、シリンダー内部に空気と気化ガソリンとを吸入・混合した後、圧縮して点火、燃焼させる方式。ディーゼルエンジンは、シリンダー内部の空気を圧縮して高温にし、そこに燃料を噴射して自然発火、燃焼させる方式です。

エンジンは一般的に、シリンダー内の圧縮比が高い方が燃費は良くなります。ディーゼルエンジンが圧縮するのは空気だけなので圧縮比を高くすることが可能ですが、ガソリンエンジンの場合は空気と燃料の混合気体を圧縮するため、圧縮比を高くし過ぎると点火前に自然発火する恐れがあります。

空気と燃料の混合割合のことを空燃比(空気/燃料)、完全燃焼時の空燃比を理論空燃比といいます。ガソリンエンジンは、空気が過剰になると混合した気体に点火できないため、巡航時でも理論空燃比(14.7)程度の値(概ね20以下)です。一方、ディーゼルエンジンは、高温のシリンダー内に燃料を噴射したとき、燃焼する条件が整ったところから発火が始まるため、過剰な空燃比でも作動し、巡航時では理論空燃比(14.9)より過剰に大きい値(20~60程度)でも走行が可能です。

以上のことから、ディーゼル車は、ガソリン車と比較して熱効率に優れ、結果として燃費が良くなるため、CO2の排出が抑えられることが分かります。しかし、空気が過剰だとNOxが発生し、逆に空気が不足すると燃え残った燃料が煤(すす)となるなど、ディーゼル車は、排出ガス中に含まれる有害物質(CO、H2、NOx)を除去する三元触媒の採用が一般的であるガソリン車に比べて、NOxとPMの同時排出抑制が難しいという特徴があります。これらを低減するための、技術的な対策は以下のようになります。また、これらを搭載したエンジンのイメージが図7です。

  • 燃料の噴射時期の改善などにより、燃焼が良好に行なわれるようにする。
  • 触媒により汚染物質の酸化・還元を促進することで、環境負荷を低減する。
  • 排出ガス再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation)装置により、不活性な排出ガスを吸気系統へ導入し、燃焼温度を低下させることで 、NOxの発生を抑制する。
  • DPF(Diesel Particulate Filter:ディーゼル排気微粒子除去フィルタ)システムにより、PMを除去する。

図7 排出ガス規制適合ディーゼルエンジンの例
環境再生保全機構「大気環境の情報館」をもとに作成

2)排出ガス浄化のための要素技術

(1)PMの低減

DPFはPM粒子をフィルタで物理的に捕集するもので、すでにPM対策の有効な手法として実用化されています。PMをDPFで捕集していくと、捕集量の増加とともに排出ガスの排出が困難(圧力損失の増加)になり、最終的には車両の安定運転に支障をきたすことになるため、捕集・堆積したPMを除去し、フィルタを再生する技術が必要です。連続再生式のDPFシステムには、NO2による酸化方式と、酸化触媒を添加する方式があり、どちらもPMを燃焼させることで、フィルタから除去します。

(2)NOxの低減

尿素添加型NOx選択還元触媒
ディーゼルエンジンからのNOx削減方法として、尿素添加型NOx選択触媒還元法と呼ばれる方法の導入が重量車を中心に実用化され、乗用車にも導入が進んでいます。この方法では、尿素を還元剤として添加し、発生するアンモニア(NH3)によりNOxを還元します(図8)。現在、尿素水溶液を排気管路中の触媒上流に噴射することでNH3を得る方法が主流となっています。この方法だと、ディーゼルエンジンの排出ガスのような酸素濃度が高い雰囲気下でも、効果的にNOxの還元を行うことができます。

図8 尿素添加型NOx選択還元触媒の原理

NOx吸蔵還元触媒法
NOx吸蔵還元触媒は、通常運転時はNOxを硝酸塩の形で触媒中に吸蔵し、間欠的に還元雰囲気中でNOxを浄化する方式の触媒です(図9)。NOx吸蔵還元触媒は、燃料軽油中の硫黄分(S)により触媒が被毒・劣化し吸蔵性能が低下するため、触媒を定期的に高温化し、硫黄の除去・再生(被毒回復制御)を行う必要があります。ただ国内では、2007年より軽油に含まれる硫黄分が10ppm以下に規制されており、触媒の性能低下は抑えられています。

図9 NOx吸蔵還元触媒法の原理
出典: 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「よくわかる!技術解説:クリーンディーゼル車」

上記のような触媒を使う方法は、コストが大きくなるという問題がありました。マツダは、シリンダー内の圧縮比を下げることで燃焼を均質化し、高価な装置を使わずにNOxの発生を抑えられる「SKYACTIV-D」を実用化しています。

3)中長期的なクリーンディーゼルの研究開発

クリーンディーゼル車の技術は、中長期的にはハイブリッド車、ガソリンエンジン、軽油代替新燃料の技術と融合されると考えられています。

ハイブリッド車との融合については、2009年および2011年に国土交通省において、非接触給電式ハイブリッドバス(外部から充電することで電気走行の割合を増加させたディーゼルハイブリッドバス)の技術開発・実証試験が行われました(図10)。このバスは、底部にコイルを搭載。停車中に、路面の給電装置からの電磁誘導により、非接触式で車両側のリチウムイオンバッテリを充電できます。このバスは実証試験の中で、実際に東京都の都営バスとして運行しました。

図10 非接触給電式のディーゼルハイブリッドバス
出典:国土交通省「非接触給電ハイブリッドバスが東京都営バスとして走行します」(2009年4月6日)
http://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha10_hh_000031.html
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha08/09/090206_3/01.pdf

3. 技術を取り巻く動向

1)ディーゼル排気による健康影響に関する研究

クリーンディーゼル開発の背景には、ディーゼル排出ガスが健康に与える影響についての懸念がありました。国立環境研究所では、1980年台の末頃から継続して「ディーゼル排気による微小粒子状物質曝露がアレルギーと呼吸・循環機能に及ぼす影響」についての研究を実施してきました。具体的には、ディーゼル排気がアレルギーの悪化に関与すること、心疾患に影響することなどを調べています。

アレルギーに関する研究では、オスのモルモットを清浄な空気またはディーゼル排気に5週間曝露し、その間1週間おきに計6回抗原を点眼投与して、アレルギー性結膜炎の症状を調べました。その結果、ディーゼル排気曝露下でのアレルギー症状を数値化した累積値は(濃度0.1~1.0mg/m3)、清浄な空気を曝露した対照群に比べて増加がみられました(図11)。

このようなアレルギー症状の悪化は、ディーゼル排出ガス中の物質が鼻の上皮に障害を与え、鼻や結膜が刺激に関して過敏な状態になり、アレルギー反応の元となる抗原に対する抗体産生が亢進することが原因として考えられます(図12)。

図11 ディーゼル排出ガスがアレルギー性結膜炎に与える影響
ディーゼル排気曝露が繰り返し抗原投与による結膜への血漿漏出に及ぼす影響
出典:国立環境研究所「環境儀 NO.22 微小粒子の健康影響 アレルギーと循環機能」
http://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/22/10-11.html

図12 ディーゼル排気曝露が鼻アレルギーを悪化させる機構
出典:国立環境研究所「環境儀 NO.22 微小粒子の健康影響 アレルギーと循環機能」
http://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/22/10-11.html

2)PM2.5の規制動向

環境省は、大気中の粒子状物質のうち、直径2.5μm(ミクロン)以下のPM2.5と呼ばれる微小粒子状物質の健康影響について検討を行い、2008年4月に「微小粒子状物質健康影響評価検討会報告書」をとりまとめました。PM2.5は、硫酸イオンや元素状炭素などを主な成分とし、その発生源は、工場のばい煙やディーゼル車などの自動車排出ガス、火山の噴煙、大陸からの黄砂などがあります。PM2.5の規制については、米国で1997年に導入され、世界各国もそれぞれ環境基準を定めました。日本では2009年9月に環境基準が制定されました。

PM2.5は非常に小さいため、肺の奥まで入り込みやすいという問題があります。呼吸器系および循環器系への影響が懸念されており、環境省は2013年2月に「PM2.5に関する専門家会合」を開催し、注意喚起のための暫定的な指針を示しました(図13)。まだ健康への影響について知見が十分ではないため、この指針の数値は今後必要に応じて見直される予定ですが、将来的には、大気汚染防止法に基づく緊急時の措置(注意報など)として位置付けることも視野に入れて取り組むことが重要と考えられます。

図13 注意喚起のための暫定的な指針
出典:環境省微小粒子状物質(PM2.5)に関する情報
http://www.env.go.jp/air/osen/pm/info.html

コラム◆船舶の対策

船舶のエンジンは、燃費に優れるディーゼルエンジンが主流です。陸地から遠く離れた海上を航行する船舶では、排出ガスの規制が自動車よりも遅れていましたが、船舶用ディーゼルエンジンでも規制を導入すべきという声が高まり、2000年に、国際海事機関 (IMO)による最初の規制が制定されました。

その後、自動車と同じように、段階的に規制が強化されており、2016年には3次規制を実施。この規制は北米沿岸の指定海域では特に厳しくなっていて、NOxは1次規制に比べ、80%も削減されます。これに対応するために、尿素添加型NOx選択還元触媒が開発されており、2009年にはセメント運搬船を使った実証試験が行われました。

引用・参考資料など

[1] 環境省. "自動車NOx・PM法の制定の背景". 自動車NOx・PM法の手引き". 2002,
http://www.env.go.jp/air/car/pamph2/, (参照 2017-01-25)

[2] 環境省. "今後の自動車排出ガス低減対策のあり方について(第8次答申)". 2005,
http://www.env.go.jp/council/toshin/t07-h1702.html, (参照 2017-01-25)

[3] 環境省. "次世代自動車普及戦略検討会報告書". 2009,
http://www.env.go.jp/air/report/h21-01/3.pdf, (参照 2017-01-25)

[4] 環境省. “微小粒子状物質健康影響評価検討会報告書”. 2008,
http://www.env.go.jp/air/report/h20-01/, (参照 2017-01-25)

[5] 環境省. "微小粒子状物質(PM2.5)に関する情報",
http://www.env.go.jp/air/osen/pm/info.html, (参照 2017-01-25)

[6] 国土交通省. "報道発表資料:クリーンディーゼル普及推進方策(クリーンディーゼル普及推進戦略 詳細版)". 2008,
http://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha10_hh_000006.html, (参照 2017-01-25)

[7] 国土交通省. "報道発表資料:非接触給電ハイブリッドバスが東京都営バスとして走行します". 2009,
http://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha10_hh_000031.html, (参照 2017-01-25)

[8] 一般社団法人日本自動車工業会.
http://www.jama.or.jp/, (参照 2017-01-25)

[9] 国立研究開発法人海上技術安全研究所. 船と海のサイエンス. 2011-Winter. 2011,
http://www.nmri.go.jp/main/publications/newsletter/fy2011/2011-winter-m.pdf, (参照 2017-01-25)

[10] 国立環境研究所."ディーゼル排気による微小粒子状物質曝露がアレルギーと呼吸・循環機能に及ぼす影響". 環境儀No.22. 2006,
http://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/22/10-11.html, (参照 2017-01-25)

[11] 国立環境研究所."微小粒子の健康影響 アレルギーと循環機能".環境儀 NO.22. 2006,
http://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/22/02-03.html, (参照 2017-01-25)

(2017年3月現在)
2012年11月:掲載
2017年7月4日:改訂版に更新