土壌・地下水汚染対策

 2003年2月に、市街地の土壌汚染を規制する「土壌汚染対策法」が施行されて以降、土壌や地下水の浄化技術の開発・実用化が急速に進んでいます。今回は、土壌汚染の現状、土壌汚染の特徴、土壌汚染の影響、土壌汚染対策技術の概要を整理し、今後随時、代表的な個々の処理技術についてご紹介していきます。

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1.土壌汚染の現状

 土壌汚染対策法が施行された背景には、近年、工場跡地などの再開発にともなって、重金属や揮発性有機化合物(VOC)などによる土壌汚染が顕在化してきたことがあげられます。
 環境省では、毎年、都道府県等が把握した土壌汚染事例数を公表していますが、土壌環境基準が制定された1991年(平成3年)以降増加傾向にあり、土壌汚染対策法が施行された2003年2月を含む2002年度(平成14年度)に急増していることがわかります(図1)。

グラフで示す土壌汚染調査・対策事例数の推移

図1 土壌汚染調査・対策事例数の推移
(環境省「平成16年度土壌汚染対策法の施行状況及び土壌汚染調査・対策事例等に関する調査結果」より)

 2003年度(平成16年度)末までに都道府県等が把握した土壌汚染事例は累計で6,686件、このうち調査を実施した事例が3,677件、調査したなかで環境基準値を超えた事例は1,906件となっています。超過事例1,906件を土地利用別にみると、工場や事業場の敷地・跡地が6割を超えています。
 超過事例の内訳を物質別にみると、揮発性有機化合物(VOC)ではトリクロロエチレン、テトラクロロエチレンにかかわる事例が多く、重金属類では鉛及びその化合物、砒素及びその化合物にかかわる事例が多くなっています(図2)。

グラフで示す規制物質別の超過事例数(累計)

図2 規制物質別の超過事例数(平成3年度~16年度累計)
(環境省「平成16年度土壌汚染対策法の施行状況及び土壌汚染調査・対策事例等に関する調査結果」より)

2.土壌汚染の特徴

 土壌は、いったん汚染されると、有害物質が蓄積され、汚染が長期にわたるという特徴があります。揮発性有機化合物(VOC)は土壌中で分解されにくく、ベンゼンを除くと比重が水よりも重いため地下に深く浸透して、いつまでも土壌や地下水中に残留します。地下水の流れにのって汚染が拡散したり、広域化してしまうことがあります。また、重金属は水に溶けにくく、土壌に吸着しやすいので地表近くの土壌中に存在します。自然由来で元から下層の土壌に存在している場合や六価クロムなど移動しやすい物質を除いて、地下水汚染を引き起こす可能性はあまり高くありません(図3)。これらの物質以外にも、硝酸性窒素や亜硝酸性窒素、PCBやダイオキシン類などが、土壌や地下水の汚染物質となっています。
 土壌では重金属や、揮発性有機化合物、ダイオキシン類による汚染が問題となります。また、地下水では硝酸性窒素や亜硝酸性窒素、揮発性有機化合物、砒素などの移動しやすい物質が問題視されます。
 これらの汚染は、汚染物質の不適切な取り扱いによって漏れ出たり、これらの物質を含んだ排水が地下に浸透することが主な原因と考えられます。この他、重金属は自然源からも発生しますし、硝酸性窒素や亜硝酸性窒素は農地や市街地が発生源となっています。

図3 重金属と揮発性有機化合物による土壌汚染の特徴

3.土壌汚染の影響

 土壌汚染による影響としては、人の健康への影響や、農作物や植物の生育阻害、生態系への影響などが考えられます(図4)。
 土壌汚染の環境リスクの大きさは、土壌が有害物質で汚染されている程度と、汚染された土壌に接した量(暴露量)によって決まります。汚染されている土壌にふれることがないとか、汚染された土壌から有害物質が地下水に溶け出さなかったり、たとえ溶け出していても、汚染された地下水を飲んでいない場合、すなわち暴露量がないと考えられる場合は、土壌汚染による環境リスクは問題にならなくなります。

図解土壌汚染の影響

図4 土壌汚染の影響
(環境省「土壌汚染対策法のしくみ」より)

4.土壌汚染対策技術の概要

 土壌汚染は、汚染物質の性状や地質、汚染の深さや規模、濃度がさまざまで、環境へ与える影響も異なります。こうしたことから、土壌汚染対策技術は、調査技術から汚染処理技術まで非常に多様であり、それぞれの汚染状況に対応した対策をとる必要があります。
 環境省の「土壌・地下水汚染に係る調査・対策指針」では、汚染対策を「応急対策」と「恒久対策」に分類しています。応急対策は、恒久対策をとることができない場合に行う対策で、立ち入り禁止柵や地下水飲用防止の指導、シートなどによる被覆など、汚染が広がることを防ぐ対策などです。
 また、土壌汚染の恒久対策は<表1>のように分類できます。浄化は、汚染土壌や地下水から汚染物質を除去する対策です。また、封じ込めは、汚染物質を含む汚染土壌を私たちが生活する環境から隔離して、汚染が広がることを防止する対策です。

表1 土壌・地下水汚染対策の分類
措置 分類 内容
浄化 原位置浄化 原位置分解 汚染土壌・地下水に含まれる汚染物質を地下(原位置)で分解する技術
原位置抽出 汚染地下水または土壌中の汚染物質を地上に取り除く技術
掘削除去 対象地から汚染土壌を掘削する技術
封じ込め 原位置封じ込め 現場の土壌を移動させずに原位置で汚染土壌を封じ込める技術
掘削除去後封じ込め 土壌を一度掘削してから、改めて汚染土壌を封じ込める技術

(環境省:土壌・地下水汚染に係る調査・対策指針運用基準より作成)

 恒久対策の実施状況をみると、重金属等は掘削除去の事例が多くを占めています。これは、重金属類は土壌に吸着しやすく、原位置での浄化が難しいことなどによるものと考えられます。揮発性有機化合物では原位置浄化が多く採用されています(図5)。

図5 グラフで示す土壌汚染対策の実施内容(2004年度までの累計)

5.汚染の拡散を防止する技術

 土壌汚染の拡散を防ぐ技術には、液状のセメントや水ガラスなどの固化剤を用いて土壌を固め、安定化する技術、薬剤を用いて土壌を溶けにくくし安定化させる技術、汚染土壌を加熱し固形化する技術があります(表2)。
 これらは汚染物質を除去する技術ではないため、適用後もモニタリングが必要になります。モニタリングで土壌溶出量基準を超える土壌汚染が見つかった場合には、遮断工、遮水工などの封じ込め対策が行われます(図6)。

図6 原位置での封じ込め措置
表2 土壌汚染の拡散防止技術
対策 技術例 対策物質 概要
VOC 重金属
拡散防止 固化 液状のセメントや水ガラスによって固化する
不溶化 硫酸第一鉄などの薬剤を使って不溶化する
溶融固化 高圧電流を通電し土壌を固形化する
封じ込め 遮断工、遮水工により封じ込める

6.汚染物質を分解・除去する技術

 汚染物質を分解・除去する技術には、「掘削除去」と「原位置浄化」に分けることができます。
 汚染された土壌は、固化、不溶化されるほか、洗浄、化学的処理、紫外線照射、熱分解、生物処理などが行われます。
 掘削除去後の処理は、埋め戻されたり、管理型最終処分場で再処理されますが、後者のほうが多いのが現状です。最終処分場の確保が難しくなっており、低コストで、汚染現場で土壌処理が可能な技術が求められています。
 掘削せずに汚染物質を除去・分解する「原位置浄化」技術には、分解技術と抽出(除去)技術があります。<表3>は、現在実際に採用されていたり実用化されている技術例を整理したものです。

表3 原位置浄化の技術例
対策 技術例 対策物質 概要
VOC 重金属
分解 酸化分解 地下水系に酸化剤を直接注入し、VOCを分解する
鉄粉法 汚染された土壌や地下水に鉄粉を混合し、VOCを分解する
バイオレメディエーション 微生物がもつ有害物質の分解能力を利用して浄化する
反応性バリア法 汚染地下水の下流域に鉄粉を含む透過壁(バリア)を設置して分解する
抽出(除去) 土壌ガス吸引 地表面と地下水面の間(不飽和帯)に存在する汚染物質を真空ポンプなどで吸引し、除去する
地下水揚水 汚染地下水を揚水し、汚染物質を分離し、活性炭などに吸着させることで浄化する
エアースパージング 土壌中や地下水中に空気を注入してVOCの気化を促し、浄化を促進する
電気泳動 重金属類を地中に装入した電極から電流を流し、除去する
高圧洗浄揚水ばっ気処理 土の粒子に吸着している汚染物質を高圧水と空気で洗浄、ばっ気し浄化する
ファイトレメディエーション 汚染物質を蓄積・分解する植物の能力を利用して浄化する

 土壌汚染対策法が施行され、土壌汚染事例が急増しているなか、土壌・地下水浄化は環境ビジネスとして成立しており、数十兆円の市場規模であるといわれ、各社の技術開発競争も激化しています。今後、個々の処理技術をご紹介する際には、表3の技術例から採用実績が高い技術や注目技術をクローズアップしていきます。

引用・参考資料など

1)環境研究技術ポータルサイト内の関連情報
環境技術情報ナビ>水・土壌環境
2)土壌汚染対策技術のデータベース
(財)地球環境センター「土壌・地下水汚染の調査・対策技術」
3)環境省 水・大気環境局
「平成16年度土壌汚染対策法の施行状況及び土壌汚染調査・対策事例等に関する調査結果」
4)環境省「地下水をきれいにするために」
(揮発性有機化合物による地下水汚染対策に関するパンフレット)
5)環境省「土壌汚染対策法のしくみ」
(パンフレットPDF)
6)
有田正光編著 『地圏の環境』 東京電機大学出版局
7)「科学技術動向2002年3月号」
-汚染された土壌環境の対策技術の動向 宮本和明
文部科学省科学技術政策研究所科学技術動向研究センター
(2006年11月現在)