環境技術解説

バイオレメディエーション

 バイオレメディエーションとは、微生物や植物を利用して、土壌や地下水の汚染を修復(remediate)する技術であり、1970年代に米国で石油の分解に微生物を利用したのが始まりである。バイオレメディエーションは、下図のように、汚染土壌にもともと生育している微生物に水、酸素、栄養物質を供給して汚染物質の分解を促進させる方法(バイオスティミュレーション)と、汚染物質の分解菌を新たに導入する方法(バイオオーグメンテーション)の2種類に大別される。
 バイオレメディエーションは、物理化学的な処理プロセスに比べて処理に時間がかかるが、温和な条件のもと低コストで汚染を処理できるというメリットがある。現在、主として、ガソリン等の燃料油やその成分であるベンゼン、トルエン、その他の石油系炭化水素、トリクロロエチレン等の炭化水素系溶剤などの浄化に実用化されている。このほか、ダイオキシンや塩素系の残留農薬などへの応用研究も活発に行われている。
 日本では、平成14年に土壌汚染対策法が制定され、平成15年から施行された。同法では、指定基準(カドミウム、鉛、ヒ素、六価クロム、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ベンゼン等25項目)を上回って汚染された工場や事業場の跡地などを都道府県知事が指定し、土壌汚染により健康被害が生ずる恐れがある場合には、汚染の浄化や封じ込め等の必要な措置を命じることができる。これにともない、低コストで汚染を除去できるバイオレメディエーションへの期待が高まっている。

バイオレメディエーションのイメージ
出典:国立環境研究所 「微生物による環境浄化―バイオレメディエーションに関する研究─」
出典URL:https://www.nies.go.jp/kanko/news/18/18-3/18-3-04.html

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1.バイオレメディエーションとは?

 バイオレメディエーション(bioremediation)は、生物を表すバイオ(bio)と修復を表すレメディエーション(remediate)を合成してできた言葉で、生物を用いて土壌や地下水等の汚染を修復する技術の総称である。微生物を用いて汚染を浄化する方法が主流であるが、植物を利用する方法もあり、植物を用いた方法を特に指す場合は、ファイトレメディエーション(ファイト、phytoは植物の意味)という用語が用いられることがある。以下の解説では、微生物を用いたバイオレメディエーションについて説明する。
 微生物によるバイオレメディエーションは、1970年代に米国で、パイプから漏れた石油による汚染を修復するために微生物を用いたのが始まりで、その後、有機溶剤や残留農薬など、他の汚染物質の浄化にも利用されるようになった。
 バイオレメディエーションは、高温高圧のプロセスを利用する物理化学的な浄化方法とは異なり、温和な条件のもと低コストで汚染を処理できる特徴がある。土壌・水質汚染対策へのニーズの高まりとバイオテクノロジーの進展により、これからの利用拡大が期待されている。

2.バイオレメディエーションの概要

1)対象物質

 バイオレメディエーションの対象となる物質を表1に示す。バイオレメディエーションは、ガソリン等の燃料油やその成分であるベンゼン、トルエン、その他の石油系炭化水素、トリクロロエチレン等の炭化水素系溶剤などの浄化に実用化されている。このほか、ダイオキシンや塩素系の残留農薬などへの応用研究も活発に行われている。
 なお、重金属の場合は、分解ではなく、化学的な存在形態を変化させ、より水に溶けやすい形態や逆に溶けにくい形態に変えて汚染を除去するなどの方法がとられている。

表1 バイオレメディエーションの対象となる化学物質
種類物質
石油系炭化水素ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン多環芳香族炭化水素(ナフタレン、フェナントレン)等
炭化水素系溶剤トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタン、四塩化炭素等
殺虫剤・防腐剤ペンタクロロフェノール、ベンゼンヘキサクロライド(BHC)
その他残留性有機汚染物質ポリ塩化ビフェニル(PCB)、ダイオキシン
重金属等六価クロム、シアン、ヒ素、水銀等

出典:三菱総合研究所作成

2)微生物の利用方法

 微生物によるバイオレメディエーションでは、微生物の利用・管理方法で大きく2種類の方法がある(図1)。

(1) バイオスティミュレーション(biostimulation)

 汚染された土壌には、その汚染物質を分解する性質をもった微生物が存在していることがある。バイオスティミュレーションでは、そうした性質をもつ有用な微生物を刺激(stimulate)して増殖させ、汚染物質の分解を促進する。目的とする微生物が増殖できるように、外部から水、酸素、栄養物質など、微生物の増殖を促す物質を加えることが多い。例えば、石油系炭化水素による汚染の場合、増殖を促進するために、栄養素である窒素やリン、また、微生物が増殖するために必要な空気などを供給する。

(2) バイオオーグメンテーション(bioaugmentation)

 汚染地点に汚染物質の分解能力を持った微生物が少ないか、あるいはわずかしか存在しない場合、大量培養した微生物を外部から投入し、汚染物質を分解する方法である。バイオスティミュレーションと同様に、分解微生物の増殖を促進させ、分解活性を高めるために、空気や窒素、リン、炭素源などを添加することもある。

図1:バイオレメディエーションのイメージ
出典:国立環境研究所 「微生物による環境浄化―バイオレメディエーションに関する研究─」
出典URL:https://www.nies.go.jp/kanko/news/18/18-3/18-3-04.html

 汚染物質の分解に利用される微生物は、汚染場所やその他の自然界から分離された微生物が利用される。また、遺伝子組換え微生物を使って浄化を行おうとする研究も行われている(図2)。

図2 バイオレメディエーションに用いられる微生物 左:遺伝子組換えによって開発された水銀除去菌
右:VOC分解用に土壌から分離されたVOC分解菌(清水建設(株)提供)

3)汚染の修復場所による分類

 バイオレメディエーションは、汚染地点と浄化を行う場所との関係によっても2種類に大別される。

(1) in situ (原位置)バイオレメディエーション

 in situはラテン語で「その場所で」という意味をもつ。in situのバイオレメディエーションは、汚染された土壌を掘り返したり、地下水をくみ上げたりせずに、そのままもとの場所(原位置)で浄化を行う方法である。原位置環境修復と呼ばれることもある。一般にバイオレメディエーションという場合は、in situでのレメディエーションを指すことが多い。

(2) ex situ または on siteバイオレメディエーション

 汚染された土壌を掘り出して、汚染現場とは別の場所に運搬して浄化を行う方法は、in situバイオレメディエーションに対して、ex situ(「場所の外で」の意味)バイオレメディエーションと呼ばれる。この方法の1つとして、掘り出した汚染土を現場の近くに積み上げて浄化を行う方法をon siteのバイオレメディエーションと呼ぶことがある。

 これらの方法の組み合わせ、変形として、汚染土壌を掘削し、肥料を添加後、耕転する方法(ランドファーミング)、地下水中に空気を投入して汚染を浄化する方法(バイオスパージング)、汚染土壌に水や栄養塩などを加え、スラリー化して生物浄化する方法(スラリーリアクター)等、様々な方法がある(図3)。図4はランドファーミングでの耕転の状況である。

図3 バイオレメディエーションの様々な手法(清水建設(株)提供)

図4 土壌汚染現場の修復の様子(ランドファーミングにおける耕転の工程)(清水建設(株)提供)

 バイオレメディエーションでは、汚染の原因物質、汚染場所の状況に応じて、上記の様々な方法の中から最適なものを選択して浄化を行う。実際の浄化では、汚染が高濃度の状態では物理化学的処理を行い、修復が進み、汚染が低濃度になった段階でバイオレメディエーションを組み合わせることが多い。

4)バイオレメディエーションによる海洋の油汚染の分解

 バイオレメディエーションは、土壌、地下水だけでなく、タンカーなどから流出した油で汚染された海洋の浄化にも利用できる。
 国立環境研究所では、海域の油汚染に対する環境修復のためのバイオレメディエーション技術と生態系影響評価手法の開発を、平成10年度から15年度にかけて実施している。この研究では、平成9年に日本海で発生したナホトカ号油流出事故により被害を受けた兵庫県の日本海沿岸部、及び種子島の太平洋沿岸部に実証実験場を設置し、流出油バイオレメディエーション技術の現場における有効性と安全性について研究を行った。
 兵庫県での実験(図5)では、アルカン類やナフタレン類などの原油中の半揮発性化合物が微生物により分解されることが確認され、さらに、肥料物質を添加することで、分解が促進されることも確認された(図6)。

図5 兵庫県城崎郡香住町佐古谷海岸における重油バイオレメディエーション実証試験現場全景上:海岸全体図、下:実験装置設置箇所
出典:国立環境研究所特別研究報告(SR-53-2003)
http://www.nies.go.jp/kanko/tokubetu/pdf/sr53.pdf

図6 兵庫県での現場試験における原油中有の半揮発性物質の分解
出典:国立環境研究所特別研究報告(SR-53-2003)
http://www.nies.go.jp/kanko/tokubetu/pdf/sr53.pdf

3.バイオレメディエーションを取り巻く動向

1)バイオレメディエーションの利用における安全確保

 バイオレメディエーションのうち、環境中に微生物を投入するバイオオーグメンテーションについては、「微生によるバイオレメディエーション利用指針」(平成17年経済産業省、環境省告示第4号)により、生態系等に影響を与えない方法で行うことが必要とされている。浄化事業の実施者は、あらかじめ経済産業省、環境省に指針にもとづいて浄化作業計画を提出して、確認申請を行い、審査の結果、病原性など、生態系や人の健康への影響がないと判断された微生物のみが浄化に利用される(図7)。浄化の実施中はモニタリングを行い、人や動植物の健康等に影響を与える緊急事態が発生していないことを確認することとされている。

図7 微生物(非遺伝子組換え微生物)によるバイオオーグメンテーションの実施フロー
出典:環境省中央環境審議会 水環境・土壌農薬合同部会 バイオレメディエーション小委員会資料
http://www.env.go.jp/council/23wat-doj/y231-02/mat04_2.pdf

2)微生物の利用とその影響評価等に関する研究動向

 国立環境研究所では、有機塩素化合物や油等を分解・除去する微生物の探索、機能の解明及び強化を行うとともに、これら有用微生物等の生態系への影響の解析と、その評価手法の開発を進めている。

3)日本での実用化状況

 現在、日本では、バイオスティミュレーションを中心にバイオレメディエーションによる浄化が行われており、バイオオーグメンテーションについては、数例の事業計画のみが経済産業省・環境省の統一指針による承認を受けている。また、最近では日本企業が中東(クウェート)など海外でバイオレメディエーションを行う例も出てきており、そのフィールドは海外にも及んでいる。
 国内での土壌汚染調査件数及び汚染判明事例件数は年々増加傾向で推移しており、2007年度は732件の土壌汚染が都道府県等で把握された。バイオレメディエーションは、現場の汚染物質や状況等にもよるが、低コストの原位置浄化方法の一つとしての利用が期待される。

引用・参考資料など

1)国立環境研究所におけるバイオレメディエーションの研究情報
2)TCEサイトのバイオオーグメンテーション実証試験結果 岡村和夫ほか、バイオサイエンスとインダストリー Vol.59, No.3, 2001
3)微生物による汚染土壌の修復実例 岡村和夫、BIO INDUSTRY、Vol.19、No.1, 44, 2002
4)バイオセーフティデータベース「微生物を用いたバイオレメディエーション」
5)環境省ホームページ「土壌汚染対策法について(法、政省令、告示、通知)」
http://www.env.go.jp/water/dojo/law.html
6)環境省中央環境審議会 水環境・土壌農薬合同部会 バイオレメディエーション小委員会資料
http://www.env.go.jp/council/23wat-doj/y231-02/mat04_2.pdf
(2009年6月現在)