アスベスト対策技術

 アスベスト(石綿)は、1960年代から1990年代にかけて大量に輸入され、耐熱性、電気絶縁性などが高いことから、その大半が建材として建築物に使われてきました。しかし、アスベストによる健康被害が深刻な社会問題となり、吹付けアスベストが1975年から禁止されて以降、数次にわたってアスベストに関する製造や使用などの規制が強化されました。2006年9月からは一部の用途を除いて、アスベスト及びアスベストをその重量0.1%を超えて含有するすべての物の製造、輸入、譲渡、提供及び使用が禁止されています。
 アスベストはこれまでに約1,000万トンが輸入されています。アスベストが使われた建築物の老朽化が進み、建て替えや改修の時期を迎えているなかで、これらのアスベストを安全かつ早期に処理することが求められています。今回は、主に建築物に使われているアスベストの除去技術について、その概要をご紹介します。

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1.アスベスト製品

 アスベストの輸入は、図1のとおり40年以上の長期にわたって大量に行われてきました。

日本国内のアスベスト輸入量の推移

 これらは、耐薬品性、耐火性、断熱性、防火性、保温性、電気絶縁性、吸音性などに優れ、加工しやすく安価なことから、表1のように各種のアスベスト含有製品がつくられてきました。

 ところが、アスベストによる中皮腫やがんの発症など、健康被害の実態が明らかになり、これらアスベストを使った製品を早急に処理し、健康被害のリスクを低減することが求められていました。2006年10月には「石綿による健康等に係る被害の防止のための大気汚染防止等の一部を改正する法律」及び改正建築基準法施行令が施行され、アスベスト使用の規制強化やアスベスト飛散防止対策の推進が図られています。

表1 主なアスベスト含有製品

○鉄骨等の耐火被覆・結露防止としての吹付けアスベスト
○アスベスト含有吹付けロックウール
○アスベスト含有吹付けひる石(バーミキュライト)
○建築物の天井、壁、外壁、屋根材、煙突材としてのアスベスト含有窯業系建築材料
○ビニル床タイル
○自動車、鉄道車両、産業用(エレベーター、クレーン等)のブレーキ、クラッチ等のアスベスト含有摩擦材
○上下水道管用、温泉配管、給排水管としてのアスベスト管
○石油プラント、ボイラー・タービン本体及び配管へのアスベスト含有保温材、同塗材
○アスベスト含有パッキン・ガスケット
○防火カーテン等のアスベスト紡織品
○耐熱性を有する箇所の接着としての接着剤 など

※アスベストを含有する建材に関する情報については、石綿(アスベスト)含有建材データベースを参照してください。

2.建築物へのアスベスト使用状況の事前調査

 建築物に露出して使われた吹付けアスベストをそのまま放置すると、劣化等によってその繊維が飛散するおそれがあり、住民や利用者にとってばく露の危険性につながります。また、板状に固められたスレートボードや、天井裏・壁の内部にある吹付けアスベストからは、通常の使用状態では室内に繊維が飛散する可能性は低いと考えられていますが、建築物自体の老朽化によって解体、改修等が行われる際に、住民や利用者だけでなく工事作業者にもばく露の危険性が生じます。

グラフで示す土壌汚染調査・対策事例数の推移

 改正建築基準法によって、どこに吹付けアスベスト等が使用されていても既存不適格の建築物になります。また、2005年7月に施行された「石綿障害予防規則」では、建築物の解体・改修時に建材のアスベスト含有等の事前調査を行うことを義務付けています。なお、アスベスト使用の有無を判断する手段として表2のように、設計図書等によるもの、目視調査によるもの、分析調査によるものがあります。


表2 アスベスト使用有無の判断方法

  1. 設計図書等によるアスベスト使用有無の判断フロー
    1.設計図書等によるアスベスト使用有無の判断フロー
  2. 目視調査等によるアスベスト使用有無の判断
    アスベスト含有吹付け材には、吹付けアスベストやアスベスト含有吹付けロックウールなどがありますが、アスベストを含有しない吹付け材との見分けは実際には難しいので、明らかに判断できる場合以外は分析調査を行う必要があります。
  3. 分析調査
    設計図書等、あるいは目視調査等によるアスベスト使用有無の判断を行っても、その含有の有無が判定できない場合は、必要に応じて該当する吹付け材を採取しその試料を分析することになります。ただし、この分析は高度な技術が求められますので、専門の分析機関((社)日本作業環境測定協会のホームページ http://www.jawe.or.jpにも例示)に依頼する必要があります。

3.アスベストの飛散防止措置

 建築物の解体時には、原則として解体に先立って、吹付けアスベスト及びアスベストをその重量の0.1%を超えて含有する吹付けロックウール(以下、「吹付けアスベスト等」といいます。)を「除去」しなければなりません。また、吹付けアスベスト等のある既存建築物については、増改築、大規模な修繕・模様替えの際に、原則として吹付けアスベスト等を除去することとされますが、ある条件下では「封じ込め」あるいは「囲い込み」の措置も許容されます。
 アスベストの飛散防止措置としてあげられた「除去」「封じ込め」「囲い込み」の内容や特徴を整理すると次のようになります。

表3 アスベストの飛散防止措置の種類と特徴
項目 除去 封じ込め 囲い込み
内容 吹付けられたアスベスト等をすべて除去して、他のアスベストを含有しない建材等に代替する方法 吹付けられたアスベスト等の表面に固化剤を吹付けることにより塗膜を形成すること、または吹付けられたアスベスト等の内部に固化剤を浸透させ、アスベスト繊維の結合力を強化することにより吹付けられたアスベスト等からの発じんを防止する方法 アスベスト等が吹付けられている天井、壁等を、アスベストを含有しない建材で覆うことにより、アスベスト等の粉じんを室内等に発散させないようにする方法
適用できる例
  1. 損傷、劣化の程度の高い場合(脱落・繊維の垂れ下がりが多いものなど)
  2. 基層材との接着力が低下している場合(吹付け層が浮き上がっているものなど)
  3. 振動や漏水のあるところに使われている場合
  4. エアコンダクト内にある場合
  5. 空気中のアスベスト粉じんの濃度が高い場合
  6. 他の防止技術が適当でない場合
  1. 除去作業が困難か、不適当な場合
  2. 基層にしっかり接合している場合
  3. 損傷を受けにくい場合
  4. 構造物の耐用年数が短い場合
  5. 定期点検が十分であり、目で見てすぐわかる場合
  1. 除去工事が極端に困難な場合
  2. アスベスト繊維が囲い込みの中に完全に密封できる場合
  3. アスベスト含有吹付け材等の大部分に近づけない場合
  4. 囲い込む場所が狭くては入れないか、中に入ることがまったくできない場合
適用できない例
  1. アスベスト含有吹付け材等が複雑に組み込まれており、表面に近づけない場合
  2. 除去作業が極端に困難で、他の満足すべき代替技術がある場合
  1. アスベスト含有吹付け材等が老化・剥離しかけている場合
  2. 薬剤の使用によって建材に損傷を与えるおそれがある場合
  3. 漏水・振動によって損傷を受けるおそれがある場合
  4. アスベスト含有吹付け材等の損傷範囲が大きい場合
  1. 囲い込みが原因で損傷を受けるおそれがある場合
  2. 漏水による損傷を受けるおそれがある場合
  3. アスベスト含有吹付け材等の全面を完全に囲い込みができない場合
長所
  1. 危険性が除去される
  2. それ以上の対策が不要である
  3. 措置後の使用・利用者等のアクセスに対して配慮をしなくて済む
  1. 工事期間が短くて済み、短期的には経済的である
  2. 一般的にはアスベスト廃棄物が発生しない(ただし養生材等の処理は必要)
  1. 建築物居住者への工事に伴う粉じんばく露のおそれが除去より少ない
  2. 一般的にはアスベスト廃棄物が発生しない(ただし養生材等の処理は必要)
短所
  1. 除去作業の従事者に直接汚染の危険が高まる
  2. 建築物内でのその他の作業に支障がある
  3. 一般的に工費が高く、複雑で工事期間が長くなる
  4. アスベスト除去によって建築物の防耐火性等が減少するので、代替品が必要になる
  5. アスベスト廃棄物の処理が必要となる
  6. 除去作業が不完全な場合は、建築物全体や周辺環境へ汚染を引き起こすおそれがある
  1. 危険性は依然として残る
  2. アスベスト含有吹付け材等の劣化・損傷の程度が大きい場合や、下地との接着性が不良な場合は実施が困難である
  3. 建築物の使用におけるアスベスト管理計画を立て、処理後の維持管理に留意する必要がある
  4. 処理後の使用・利用者等のアクセスに対する配慮が必要となる
  5. 除去工事が必要となったとき、工事がより難しく、費用がよりかかるようになる
  6. 粉じん飛散防止処理剤の防耐火性等の検討が必要です
  7. 処理後に当該部位が損傷を受けないことが前提である
  1. 危険性は依然として残る
  2. 建築物の使用におけるアスベスト管理計画を立て、処理後の維持管理に留意する必要がある
  3. 囲い込み材料の貫通するダクト、配管等の周辺処理に留意する必要がある
  4. 除去工事が必要となったとき、囲い込み施設も撤去しなければならない
  5. 囲い込み材料の防耐火性等の検討が必要である

4.除去の方法

 吹付けアスベスト等の除去方法は、開発、施工会社によって使用する処理剤の違いや工法など種々さまざまです。ここでは、「建築物の解体等に係る石綿飛散防止対策マニュアル2007」((社)日本作業環境測定協会)に記載されている、アスベスト含有吹付け材等の除去作業手順を紹介しますが、具体的な除去の方法は各事業者によって工夫されています。

(左)写真2 アスベスト除去作業、(右)写真3 ウォータージェット工法 アスベスト除去作業の手順
吹付けアスベスト等の除去等における隔離養生の例

5.アスベスト粉じん飛散防止処理技術の現状と今後

 アスベスト粉じんの飛散防止処理技術は、これまでに数多く開発されています。これらの技術のうち、(財)日本建築センターが建設技術審査証明事業に基づいて審査・証明した技術については、「吹付けアスベスト粉じん防止処理技術一覧」に紹介されています。このほか、研究機関、建設業、化学工業などさまざまな分野の企業が、現在も処理技術の研究開発に努めています。
 現在、粉じん飛散防止処理剤も不燃性の高い無機系のものが開発されたり、ドライアイスや砂などの研磨剤を空気噴射する除去方法なども開発されています。今後もさらに、住民や利用者、工事作業者などの安全を確保し、確実にアスベストを除去できる処理剤や工法、廃棄アスベストの処理方法などについて、一層の研究・開発が期待されています。

引用・参考資料など

1)環境省のアスベスト関連情報
「石綿(アスベスト)問題への取組をご案内します」
2)厚生労働省のアスベスト関連情報
「アスベスト(石綿)情報」
3)国土交通省のアスベスト関連情報
「アスベスト問題への対応について」
4)文部科学省のアスベスト関連情報
「アスベスト対策について」
5)住まいの情報発信局「住宅とアスベスト」
6)(財)日本建築センター「アスベスト情報のページ」
7)中皮腫・じん肺・アスベストセンターのホームページ
8)『改訂 既存建築物の吹付けアスベスト粉じん飛散防止処理技術指針・同解説』(財)日本建築センター
(2007年10月現在)