環境技術解説

PCB処理技術

 PCB処理技術とは、PCB(ポリ塩化ビフェニル)及びそれを用いた機器・廃棄物等を、安全に分解・処理する技術のことである。
 PCBは、工業的には有用だが有害であるため、昭和49年に製造・輸入・新たな使用が原則禁止された。しかしその後も、PCBを含有する廃棄物(PCB廃棄物)は、処理施設の整備が進まなかったため長期間保管され続け、紛失等による環境汚染が懸念されることとなった。
 これらのPCB廃棄物の処理を進めるため、平成13年にPCB廃棄物処理特別措置法が制定された。同法に基づき、事業者、国・都道府県、政府全額出資の特殊会社である日本環境安全事業(株)(JESCO)等が協力してPCB処理を進めることとなり、現在、専門家の評価を受けたPCB処理技術(脱塩素化等)により処理が進められている。
 下図は、JESCO北九州PCB廃棄物処理施設の処理工程図である。処理工程では、まず前処理として、PCB廃棄物を、機械部品等(PCB汚染物)と絶縁油(廃PCB)に分ける。その後、機械部品等に付着したPCBは、溶剤洗浄や真空加熱分離装置等により分離・回収され、前処理で抜き取った絶縁油(廃PCB)とともに、脱塩素化分解により無害化される。

北九州PCB廃棄物処理施設における処理工程図
出典:日本環境安全事業(株)「北九州事業所 処理方式(フロー)」
http://www.jesconet.co.jp/facility/kitakyushu/outline/outline_02.html

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1.背景

1) PCBとは

 PCB(polychlorinated biphenyl:ポリ塩化ビフェニル)は、無色透明(図1)で化学的に安定しており、熱で分解しにくく、電気絶縁性が高い等の性質を持っている。国内生産が開始された昭和29年以来、図2に示すような高圧トランス(変圧器)や高圧コンデンサ、安定器といった電気機器の絶縁油、熱交換器の熱媒体等として広く使用されてきた。

図1 無色透明なPCB
出典:豊田市「PCBの基礎知識」
http://www.city.toyota.aichi.jp/division_n/ae00/ae03/tanto/pcbkisotisiki/index.html

図2 代表的なPCB使用電気機器
上:高圧トランス 中:高圧コンデンサ 下:安定器
出典:日本環境安全事業(株)「PCB廃棄物処理事業について/PCBは何に使われていたのでしょうか?」
http://www.jesconet.co.jp/business/PCB/pcb_04.html

 PCBは、ベンゼン環が2つ結合したビフェニルに含まれる水素が塩素に置換した物質の総称で、置換した塩素の数や位置が異なる異性体が209種類ある。中でも、図3に示すようなコプラナーPCBは、ダイオキシンと同様の毒性を示すことが知られている。

図3 コプラナーPCBの模式図
出典:国立環境研究所 環境儀No.31「有害廃棄物の処理 アスベスト、PCB処理の一翼を担う分析研究」
http://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/31/04-09_5.html

2)PCBによる人体および環境への影響

 PCBは、絶縁油や熱媒体などとして工業利用が進んでいたが、昭和43年のカネミ油症事件で人体に対する毒性が問題となった。この事件は、食用油の製造工場内で、油を脱臭するための加熱工程に熱媒体として用いられていたPCB等が食用油に混入し、約1万3千人以上の人々に健康被害をもたらしたというものである。PCBによる主な症状には、塩素にきびや色素沈着等があるほか、内分泌かく乱作用や発がん性も報告されている。さらに、PCBは脂肪に溶けるため、母親から母乳を経由して子供に被害が及ぶ事例もあった。
 また、PCBは半揮発性、難分解性であるため、環境中で移動し、生物に蓄積する。実際、世界各地の魚類や鳥類からPCBが検出されており、地球規模の環境汚染となっている。こうした生物濃縮を経て、人間の健康に影響が及ぶ可能性もある。

3)PCB対策の経緯

 このような状況を踏まえ、PCBは昭和47年から製造が禁止され、昭和48年に制定された「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(化審法)に基づき、昭和49年6月からは、その製造・輸入・新たな使用が原則禁止となった。
 しかしその後も、PCBを含有する廃棄物(PCB廃棄物)は、処理施設の整備が進まなかったため長期間保管され続け、紛失等による環境汚染が懸念されることとなった。
 平成13年に、PCBなど残留性有機汚染物質(POPs:Persistent Organic Pollutants)による環境汚染を防止するための国際的な対策として、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」が採択された(我が国は平成14年に同条約に加入)。この条約に基づき、PCB等POPsの汚染実態解析調査が、水域などの一般環境や生物等を対象に実施されている。
 我が国では、平成13年に「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法」(PCB特措法)を制定し、PCB廃棄物を保管している事業者に、保管状況の届出と平成28年までのPCB廃棄物処理を義務付けた。さらに、その後も各種ガイドライン等(「PCB廃棄物収集・運搬ガイドライン」(平成16年)、「ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理基本計画」(平成19年改訂)等)が制定された。
 現在は、全国5ヵ所(北海道、東京、豊田、大阪、北九州)で、政府全額出資の特殊会社である日本環境安全事業(株)(JESCO)のPCB処理施設が稼動しており、事業者、国・都道府県、JESCO等が協力してPCB処理を進めている。

表1 PCB関連年表
出来事
昭和29(1954)PCB国内生産開始
昭和43(1968)カネミ油症事件
昭和47(1972)PCBの生産・製造禁止、保管の義務化
昭和48(1973)「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(化審法)制定
昭和49(1974)PCBの製造・輸入・新たな使用が原則禁止
昭和62(1987)鐘淵化学工業にて液状PCBの高温分解処理(~1989)
平成9(1997)廃棄物処理法改正-PCB廃棄物が特別管理産業廃棄物に、また化学分解が処理法として指定される
平成13(2001)「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法」(PCB特措法)成立
平成16(2004)PCB廃棄物の本格処理開始

出典:国立環境研究所 環境儀No.31「有害廃棄物の処理 アスベスト、PCB処理の一翼を担う分析研究」をもとに作成
http://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/31/04-09_2.html

4)微量PCB混入廃電気機器等への対応

 PCB特措法制定後の平成14年に、PCBを本来使用していないはずの変圧器(トランス)などの一部の電気機器に、低濃度(数十ppm程度)のPCBが含まれていることが明らかになった。この原因は、平成元年以前に製造された機器や再生絶縁油等にPCBが混入していたためだと推測されている(再生絶縁油は平成2年に生産が中止された)。
 これら微量PCB混入廃電気機器等の総量は、電気機器が約120万台、OFケーブル(oil filled cable:絶縁油を用いた地中送電線)が約1,400kmにのぼるとの推計があり、わが国におけるPCB廃棄物の濃度基準(0.5ppm)を超えることから、その処理対策について検討が進められている。

2.技術の概要

 従来、PCBの処理技術としては、高温焼却(1,100℃以上、2秒以上滞留)が定められていた。しかし、高温焼却は、炉の運転・維持管理に労力を要するとともに、処理温度によってはダイオキシン類の発生が懸念されたため、処理施設の設置が進まなかった。
 一方、脱塩素化分解などの化学処理法は、ダイオキシン類の生成がない、運転管理が容易、事故時の対応が取りやすい等の特長がある。そのため、高温焼却に代わる安全なPCB処理技術として採用されるようになった。
 以下で、PCB廃棄物の分類と、国が設置した委員会(PCB等処理技術調査検討委員会)で技術評価されたPCB廃棄物処理技術を解説する。あわせて、実用化されている処理方法も紹介する。

1)PCB廃棄物の分類

 PCB特措法においてPCB廃棄物は、『ポリ塩化ビフェニル、ポリ塩化ビフェニルを含む油又はポリ塩化ビフェニルが塗布され、染み込み、付着し、若しくは封入された物が廃棄物(廃棄物処理法第二条第一項に規定する廃棄物をいう。)となったもの(環境に影響を及ぼすおそれの少ないものとして政令で定めるものを除く。)をいう』と、定義されている。この定義を踏まえ、本解説ではPCB廃棄物を以下の4種に分類し、それぞれの処理方法を解説する。

(1)廃PCB等
 廃PCBおよび、廃PCBを含む油(PCBを用いた絶縁油など)

(2)PCB汚染物
 PCBが塗布され、染み込み、付着し、もしくは封入された各種廃棄物(熱交換器、トランス、PCB汚染汚泥、感熱紙など)

(3)PCB処理物
 廃PCB等およびPCB汚染物の処分後に、PCB濃度が基準値(0.5ppm未満)を満たしていない廃棄物

(4)微量PCB混入廃電気機器等
 微量のPCBに汚染された電気機器等が廃棄物となったもの(再生絶縁油を用いたトランスなど)

2)PCB廃棄物の処理方式および処理技術

 1)で分類した各PCB廃棄物について、その処理方式を一覧にしたものが表2である。表中の”脱塩素化分解”等の各処理方式は処理技術の分類の名称であり、それらの中にさらにいくつかの処理技術がある。例えば、脱塩素化分解は、利用する触媒の違いなどで、異なる処理技術に分かれている。
 表3は、表2の各処理方式の概要および特徴をまとめたものである。(1)~(6)は、PCBそのものやPCBを含む絶縁油等に対して適用される処理方式である。トランスやコンデンサの容器・部品などPCB汚染物に対しては、(7)~(8)のように、PCBをPCB汚染物ごと処理する方法や、(9)洗浄や(10)分離のように、汚染物からPCBを除去する方式が採用されている。
 各処理方式は、JESCOの全国5箇所のPCB処理施設や、PCBを使用している機器を多数保有する電力会社などで実用化されている。

表2 PCB廃棄物の処理技術
 PCB廃棄物
廃PCB等PCB汚染物PCB処理物微量PCB混入廃電気機器等
・紙くず
・木くず
・繊維くず
・廃プラ
・金属くず
・陶磁器くず
・廃油
・廃酸
・廃アルカリ
・紙くず
・木くず
・繊維くず
・廃プラ
・金属くず
・陶磁器くず
その他
処理方式(1)脱塩素化分解
(2)水熱酸化分解
(3)還元熱化学分解
(4)光分解
(5)プラズマ分解
(6)高温焼却
(7)機械化学分解
(8)溶融分解
(9)洗浄
(10)分離

○:国の技術認定を受けている方式
-:該当していない方式
※:法制度上は、“廃PCB等”および“PCB汚染物”で認定されている技術が適用可能。

出典:豊田市ウェブサイト「PCBの基礎知識」および環境省の各種資料を基に作成
http://www.city.toyota.aichi.jp/division_n/ae00/ae03/tanto/pcbkisotisiki/index.html#01

表3 PCB処理方法(廃PCB等の分解)
処理方式処理方式概要特徴
(1)脱塩素化分解薬剤等と十分に混合し、脱塩素化反応により分解する方法主たる生成物は脱塩素化された処理済油。触媒分解も含む。
(2)水熱酸化分解高温高圧の水中において分解する方法PCBを含む有機物を、二酸化炭素、水、塩類の無機物にまで分解する。
主たる生成物は処理済水。
(3)還元熱化学分解還元雰囲気の高温下において分解する方法主たる生成物は、メタン、一酸化炭素等の還元ガス。
(4)光分解光化学反応により分解する方法PCBを光分解により低塩素化し、反応終了後の混合物を触媒等による脱塩素化分解又は生物分解により処理する。
主たる生成物は処理済油又は処理済水。
(5)プラズマ分解プラズマによる高温下で分解する方法主たる生成物は一酸化炭素、二酸化炭素、塩化水素、水素等である。
(6)高温焼却微細な液滴としたPCBを炉に噴霧し焼却する方法コスト面から有効な方法であるが、焼却により燃焼ガスが発生する。
(7)機械化学分解メカノケミカル反応の原理を活用し、機械的エネルギーを付与する粉砕操作で分解する方法非加熱分解方法であり、試薬として添加した生石灰や塩化カルシウムなどが回収される。
(8)溶融分解処理対象物を千数百℃以上の高温で溶融分解する方法有機物は分解・ガス化され、無機物はガラス固化体及び金属体となる。
(9)洗浄容器・部品などから、溶剤などでPCBを洗浄抽出する方法処理方法によっては、溶剤の再利用が可能。
(10)分離真空に近い条件で物質を加熱しPCBを蒸発させる方法内部構造が複雑な電気機器に対しても、適用可能。

出典:(財)産業廃棄物処理事業振興財団『PCB処理技術ガイドブック』 を基に、環境省の作成した資料を編集

(1)脱塩素化分解
 この方式は、化学反応により、PCB分子(図3)中の塩素原子を水素等に置き換え、ビフェニルなどのPCB以外の物質に変化させるものである。反応条件や、使用する試薬の違いによって、幾つかの方法があるが、金属ナトリウム等のアルカリ金属を触媒として使用することが多い。
 図4は、同方式の一つであるアルカリ触媒分解法(BCD法:Base Catalyzed Decomposition)である。BCD法では、PCBを含む絶縁油にアルカリと添加剤(PCBの分解を促進させる薬品)を添加し、窒素雰囲気下(火災発生防止のため)で、約300~320℃に加熱して脱塩素化分解する。同法は、もともと米国EPAで開発された技術であり、その後、国内に技術導入され、実証試験を経て実用化された。
 国内の電力会社が設置した絶縁油リサイクルセンターでは、BCD法によって低濃度PCB絶縁油を処理し、PCB濃度が基準値以下であることを確認した上で、リサイクル油として出荷している。

図4 BCD法の原理
出典 中部電力(株)「絶縁油リサイクルセンター/処理工程・原理」
http://www.chuden.co.jp/torikumi/kankyo/action/ze_process.html

(2)水熱酸化分解
 高温高圧下での水の反応性の高さを利用して、PCBを完全分解する方法である。反応生成物は、自然界に普通に存在する水、二酸化炭素、塩化ナトリウムである。超臨界水(高温(約370℃以上)・高圧(約22MPa以上)条件下で、液体と気体の区別がなくなった状態の水)に酸素を導入して物質を酸化分解させる超臨界水酸化法や、380℃、27MPaの条件下で熱水を溶媒として炭酸ナトリウムを用いて物質を分解する水熱分解法などがある。図5は、水熱分解法の概要である。

図5 水熱分解法の概要
出典:前田ほか(2002)『PCB 無害化処理技術の開発と自家処理への適用』三菱重工技報 Vol.39,No.5
http://www.mhi.co.jp/technology/review/pdf/395/395278.pdf

(3)還元熱化学分解
 酸素のない還元的な状態の高温下で、PCBを脱塩素化(還元反応)し、分解する方式である。図6は、同方式の一つである、気相水素還元法(エコロジックプロセス法)の概要である。無酸素水素雰囲気中、常圧下850℃以上にPCBを加熱することで、数秒の反応時間にて、無触媒で脱塩素化される。反応生成物として、メタン、一酸化炭素、二酸化炭素、塩化ナトリウムができる。

図6 気相水素還元法(エコロジックプロセス法)の概要
出典 豊田市「PCBの基礎知識」
http://www.city.toyota.aichi.jp/division_n/ae00/ae03/tanto/pcbkisotisiki/index.html

(4)光分解
 紫外線を照射することで、PCB中の塩素を脱離させる方法である。
 PCBとイソプロピルアルコール及び水酸化ナトリウムを、60℃以下の常圧で混合し、紫外線(波長250~300nm)を照射することによりPCBを脱塩素化し、ほとんどのPCBを分解させる。残ったPCBを分解するためのプロセスを後段に設ける。
 後段のプロセスが化学反応の場合には、75℃に加温し、触媒を加えて化学反応を行うことで、脱塩素化処理を行う。反応生成物は、水、塩化ナトリウム、ビフェニル、アセトンである。
 図7は、後段のプロセスに微生物処理を加えた例である。紫外線でPCBの脱塩素処理を行い、2段階の微生物処理にて、二酸化炭素、水、塩化水素に分解する。

図7 紫外線処理と微生物処理によるPCB分解処理技術
出典:酒井ほか(1999)『微生物を用いたPCB分解処理技術』三菱重工技報 Vol.36,No.3
http://www.mhi.co.jp/technology/review/pdf/363/363150.pdf

(5)プラズマ分解
 アルゴンのプラズマを発生させ、3,000℃以上の高温プラズマ中にPCBを噴霧注入することにより、PCBを炭酸ガスや水、塩化水素、水素などに分解させる方法である。
 三菱化学(株)四日市事業所は、過去にPCBを製造していた三菱モンサント化成(株)が保管していたPCB968t(PCB濃度約50%)を、プラズマ分解法により約1年間(平成16年4月~平成17年5月)で無害化処理した。図8は、四日市事業所に設けられた処理設備における処理フローの概要である。熱分解筒に導入された液体状のPCBは、超高温のアルゴンプラズマによって、瞬時に原子レベルにまで分解される。PCBは分解後、一酸化炭素、二酸化炭素、塩化水素ガス、水素ガス、水蒸気になる。これらは食塩、炭酸塩として固形化回収され、気体成分は排ガス処理工程において浄化される。

図8 プラズマ分解によるPCB処理フローの概要

(6)高温焼却
 1,100℃以上の高温で焼却することで、ダイオキシン類の生成を防ぎつつ分解する。欧米諸国では、主に高温焼却によってPCBが処理されており、既に自国内のPCB処理がほぼ終了している。しかし日本では、同方式に対する周辺住民の不安の声が強く、かつてPCBを製造していた鐘淵化学工業での実績があるのみである。
※高温焼却の解説は、「焼却処理」も参考にされたい。

(7)機械化学分解
 メカノケミカル反応の原理を活用し、機械的エネルギーを付与する粉砕操作で、固相状態で化学反応をおこさせる非加熱分解方法で、代表的な技術として、ラジカルプラネット法がある。有機塩素化合物を生石灰と共に密閉容器に入れ、機械エネルギーを付与し、脱塩素することにより生じた塩素を生石灰と化学反応させ、CaCl2やCa(OH)Clとして除去する。

(8)溶融分解
 処理対象物を千数百℃以上の高温で溶融分解する方法である。PCB汚染土壌に対しても適用される方法である。同方式にはプラズマ溶融法やジオメルト法がある。有機物は分解・ガス化され、無機物はガラス固化体及び金属体となる。
※ジオメルト法の解説は、「POPs処理技術」を参照のこと。

(9)洗浄
 PCB汚染物(トランス、コンデンサ等)を解体し、各部材を溶剤によって洗浄する方法である(図9)。溶剤は、回収後に溶剤中のPCBを分離・除去した上で、再利用される。PCBは化学処理によって無害化処理する。使用する溶剤や洗浄法により、種々の方法が存在する。

図9 洗浄のイメージ
出典 豊田市「PCBの基礎知識」
http://www.city.toyota.aichi.jp/division_n/ae00/ae03/tanto/pcbkisotisiki/index.html

(10)分離
 PCBで汚染された電気機器などから、PCBを分離回収する技術である。代表的な技術として、真空加熱分離(Vacuum Thermal Recycling:VTR)法が挙げられる(図10)。
 VTR法には、複雑な構造物から容易にPCBを回収できるという利点がある。例えば、液状PCBが付着、混入した電気機器(柱上トランス、コンデンサーなど)は、内部構造が複雑であるため、解体せずにPCBを完全に取り出すことが困難である。同法は、真空加熱炉内でPCB汚染物からPCBを蒸発させることによって取り除くため、PCBを容器内に残すことなく取り除くことが可能である。
 処理後は容器のみが残るので、スクラップなどとしてリサイクルが可能である。また、分離したPCBは冷却して液体として回収した後、化学処理によって無害化処理する。

図10 真空加熱分離法の概要
出典:ゼロ・ジャパン(株)「PCBについて」
http://www.zero-japan.co.jp/technology/pcb.php

3)PCB廃棄物処理の実際

 平成16年12月より、JESCOの北九州PCB廃棄物処理施設(第1期)が稼動している。JESCO北九州事業所の処理対象物は、中国、四国、九州、沖縄の17県の、高圧トランスおよび高圧コンデンサ等の電気機器である。この処理施設での処理工程を、図11に示した。
 処理工程では、まず前処理として、PCB廃棄物を、機械部品等(PCB汚染物)と絶縁油(廃PCB等)に分ける。その後、PCB汚染物は、解体されて溶剤洗浄され、“卒業判定”を経て適切に処理される。卒業判定とは、PCB処理物のPCB濃度が基準値を満足しているかを判定するものであり、不合格となったものは、真空加熱分離等によるPCBの分離・回収が行われる(図11右上)。一方、廃PCB等は、PCB汚染物の廃洗浄液や真空加熱分離等で回収したPCBとともに脱塩素化分解し、無害化される(図11下)。
 同施設は、運転時の環境安全対策や異常時への的確な対応、周辺環境のモニタリングなどが十分に施され、安全に配慮しながら、操業を続けている。

図11 北九州PCB廃棄物処理施設(第1期)における処理工程図
出典:日本環境安全事業(株)「北九州事業所 処理方式(フロー)」
http://www.jesconet.co.jp/facility/kitakyushu/outline/outline_02.html

3.技術を取り巻く動向

1)PCB処理の課題

(1)現状のPCB処理状況
 PCBは昭和47年までに約59,000tが国内で生産され、そのうち約54,000tが国内で使用された。一部は処理されているものの、依然、約20,000t余りが保管されている。これらは、前述のJESCOが整備したPCB廃棄物の拠点的な広域処理施設(全国5ヶ所)で処理されている。図12は北九州に次いで操業を開始した豊田PCB廃棄物処理施設の全景で、この施設では1.6t/日のPCBを処理している。
 これら5施設のPCB処理能力は合計で10t弱/日である。PCB特措法では、PCB廃棄物を保管している事業者に、平成28年までにPCB廃棄物を適正に処理することを義務付けており、技術のさらなる高度化・低コスト化が求められている。

図12 豊田PCB廃棄物処理施設
出典:日本環境安全事業(株)「豊田PCB廃棄物処理施設のご案内」
http://www.jesconet.co.jp/facility/pdf/toyotapamp.pdf

(2) 微量PCB混入廃電気機器等の処理
 環境省は、微量PCB混入廃電気機器等の処理体制の整備に向け、既存の産業廃棄物処理施設において微量PCB混入廃電気機器等が安全かつ確実に処理できることを確認するための実証試験を行っている。対象は、PCBの処理技術として認証されている、高温焼却(燃焼温度1,100℃以上)が可能な施設である。また、850℃以上の燃焼温度で焼却した場合の実証試験を行っており、確実かつ周辺環境へ影響を及ぼすことなく安全に分解されることが確認されている。無害化処理認定に向け、さらなる実証が進められている。

2)PCBの分解メカニズムとPCB処理技術の安全性に関する研究(国立環境研究所)

 国立環境研究所循環型社会・廃棄物研究センターでは、PCBの化学処理におけるPCBの分解メカニズムとPCB処理技術の安全性について研究を行った※。その結果、化学処理の方法によってPCBの分解経路や毒性の減少速度に違いがあり、各方法の特徴を把握して適切な分解方法を選ぶことにより、分解処理の安全性向上に役立つことがわかった。
※詳細は、『国立環境研究所 環境儀No.31「有害廃棄物の処理 アスベスト、PCB処理の一翼を担う分析研究」』を参照のこと。

3)生物学的処理

 化学処理以外にも、PCBを分解する微生物を利用した処理方法(バイオレメディエーション)や、PCBで汚染された土壌からPCBを植物によって吸着除去する方法(ファイトレメディエーション)が研究されている。これらの手法については、「バイオレメディエーション」の解説を参照されたい。

引用・参考資料など

(2010年1月現在)