バラスト水処理技術

バラスト水に運ばれる外来種から生態系を守る

バラスト水とは、大型船舶が航行時のバランスをとるために船内に貯留する海水のことである。到着港で放出される際、バラスト水中に含まれる様々な海洋生物(動植物プランクトンや海藻の断片など)も一緒に放出されることになる。放出された海洋生物が定着するようになると、「外来種」として生態系をかく乱するなどの悪影響を及ぼすことがあり、世界各地で問題となっている。この問題に対して、2017年に国際海事機関(IMO)の「バラスト水管理条約」が発効した。この国際条約にもとづき、世界ではバラスト水の管理が進んでいる。ここではバラスト水を管理するための仕組みや技術を紹介する。

写真1 大容量のバラストタンクを装備した大型貨物船
国立環境研究所ウェブサイト「いま地球がたいへん!」より
出典URL:http://www.nies.go.jp/nieskids/qa/project2/kosyou/q04.html

※掲載内容は2019年3月時点の情報に基づいております。
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1.背景

1)バラスト水と外来種問題

人間活動の規模と範囲が拡大し、物流がグローバル化している中、コンテナ船やタンカーなどの大型貨物船は物資の輸送手段として大きな役割を果たしている。一般に、これら大型船舶の多くでは、積荷が空(から)または少ない状態になる航海では、航行時のバランスをとるための「おもし」として出発地となる荷卸し(におろし)港内で海水を汲み上げ、船内の専用のバラストタンク内に貯留して、到着地の港で、荷物の積載とともに放水している(図1)。このように利用される水は「バラスト水」と呼ばれる。

図1 バラスト水による水生生物の移動
出典:国土交通省 報道発表資料(平成16年2月16日)
出典URL:http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha04/10/100216/01.pdf

バラスト水には、動植物プランクトン、海藻の断片、底生生物や魚類などの幼生や卵などが混入することがある。またバラスト水とともに港湾の底泥(動植物プランクトンの耐久性・休眠性胞子が多数含まれている)も取り込まれることがある。バラストタンク中の海洋生物の大部分は輸送中に死滅するものの、一部の生き残った生物は、到着した港でバラスト水とともに放出される。このようにして人為的に長距離を移動した生物が移動先で定着するようになると、本来その地域に生息していない「外来種」として生態系をかく乱するなど、地域の環境に悪影響を及ぼすことがあり、実際に世界各地で問題となっている。

1982年に、北米原産のクシクラゲがバラスト水により黒海に侵入し、アンチョビーの生息数に影響を与えたとの報告をはじめ、1988年には本来欧州に生息しているゼブラ貝が北米の五大湖周辺の内陸水域で異常繁殖し、発電所の冷却水の取水口を詰まらせてしまい発電所を停止させた事例は有名である。それ以外にも、麻痺性貝毒を持つ有毒プランクトンがバラスト水によって持ち込まれ、水産業に被害を引き起こした事例や、海藻やヒトデがバラスト水で移動、移動先で定着して、現地の生態系に影響を与えるなどの報告がある。

2)バラスト水管理のための国際条約

このようなバラスト水の問題について、1980年代から、IMOが中心となって国際的な議論が進められ、2004年2月にロンドンで開催された会議において、「船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理のための国際条約(バラスト水管理条約)」が採択された。

バラスト水管理条約の発効条件は、30カ国以上の国が受諾し、かつその合計商船船舶量が世界全体の35%以上に達してから12カ月後に発効するというものである。2016年にフィンランドが締約国になり、ようやく発効条件が達成され、2017年9月8日に発効した。

同条約は、本文と附属書に加え、条約の実施に必要な技術的催促を定めたガイドラインから構成されており、船舶におけるバラスト水排出基準(表1)を示すとともに、バラスト水処理装置の定期的検査や寄港国による外国船舶の監督(ポートステートコントロール)が義務付けられた。新造船だけでなく、2019年9月8日以降に定期点検を行う就航船もIMOのガイドラインに従ってバラスト水処理システムを搭載し、無害化して排出することが義務付けられている。

表1 バラスト水排出基準
対象生物 基準 備考
動物プランクトン 10個体/m3未満 外洋の1/100程度
植物プランクトン 10個体(細胞)/ml未満
細菌 コレラ菌 1cfu /100 ml未満 海水浴場並み
大腸菌 250 cfu /100 ml未満
腸球菌 100 cfu /100 ml未満

※cfu: Colony Forming Unit(コロニー形成単位)。細菌を培地で培養し、生じたコロニー(集団)数のことで、細菌検査に広く用いられている。

出典:国土交通省 報道発表資料(平成16年2月16日)
出典URL:http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha04/10/100216_.html

2.技術の詳細

1)バラスト水処理技術

バラスト水の処理技術は、いくつかの水処理技術を組み合わせて、バラスト水および底泥の沈殿物中に含まれる水生生物を分離・除去、あるいは死滅させるものである。まずフィルターにより、バラスト水中の大きな微生物や浮遊物をフィルターで取り除き、次に紫外線照射などによる殺菌処理を行うという2段階のシステムが使われることが多い。フィルター処理すると、その後の処理効率がよくなる。処理システムにはいろいろなものがあるが、寄港地や貨物、船舶の大きさなどに応じて最適なものを選ぶことになる。IMO承認済みの処理システムでは、フィルターとUVを組み合わせたものが多い。さらに、フィルターと電気分解あるいは薬剤処理を組み合わせたものが続く。

2)主な殺菌法

[1]紫外線による処理
紫外線の殺菌作用により微生物を死滅させる。薬剤を使用せず、淡水での使用も可能である。

[2]電気分解による処理
バラスト水を電気分解することで生成した塩素ガスや次亜塩素酸により微生物を殺菌する。

[3]薬剤による処理
バラスト水中の大きな微生物や浮遊物をフィルターで取り除いたのち、次亜塩素酸ナトリウムやジクロロイソシアヌル酸ナトリウム水溶液を専用のパイプで注入し、殺菌する。排水時に中和処理が必要である。

[4]オゾンによる処理
空気中の酸素からオゾンを発生させ、バラスト水に注入する。オゾンの強い酸化力により殺菌する。排水時に中和処理が必要である。

[5]凝集剤による処理
凝集剤に水生生物を取り込み、分離除去する。薬剤は不要だが、凝集剤を安定して供給することが必要である。


図3 フィルターとUV処理を組み合わせたシステムの例
出典:住友電工SEI WORLD (vol. 443)
出典URL:https://www.sei.co.jp/newsletter/2014/08/info01.html

3)バラスト水処理装置の承認

IMOでは、バラスト水管理システムの要件を定めたガイドライン(バラスト水処理装置の承認に関するガイドラインG8、条約に付随)を制定し、ガイドラインに適合する技術の基本承認をしている。日本では国土交通省海事局がバラスト水処理システムを審査し、型式承認が与えられたものをIMOに登録する。承認を得るためにはガイドラインに定められた要件が満たされていることを確認するための陸上試験や船上試験を行う必要がある。陸上試験では、承認対象の処理装置を用いて200m3の試験水を処理、一定時間後に分析し、排出基準値を満たしているかどうかを確認する。また、船上試験では1隻以上の船舶で通常のバラスト水の漲水および排水操作を行いながら、バラスト水処理装置を6ヵ月間作動させ、性能試験を3回行うことになっている。その際には、対象となる水生生物のサイズ計測や生死判定などに留意する必要がある。

4)寄港国検査(ポートステートコントロール)

寄港国では、バラスト水を積載する外国船舶を対象として、検査官がガイドラインにもとづいて、タンク内のバラスト水をサンプリングし、バラスト水中の微生物や細菌などの数を計測する。基準値に適合しているかどうかを調べ、適切に処理されているかを確認する。書類検査、簡易検査、詳細検査の流れで行う。

3.課題と展望

これまで様々な原理や方式によるバラスト水処理技術が開発されており、積載する船の大きさや構造に応じて適切なシステムを選択できるようになっている。船の中のバラスト水を処理するスペースは限られていることから、装置のコンパクト化が今後の課題となっている。また、処理装置を導入、設置するための初期投資ばかりでなく、処理に必要な薬剤等のコストや定期的なメンテナンス費用がかかるのも課題である。効率よく、低コストにバラスト水を処理できるよう技術の改善が求められている。また、米国には独自の規制があり、米国を通過する船は米国と最終到着地の国の両方の規制に対応することが求められている。

バラスト水管理条約によりバラスト水の管理が進んだが、一方で貝類や海藻類などの船体付着生物の移動、拡散の問題は依然として残っている。IMOでは2011年に「侵入水生生物の越境移動を最小化するための船舶の生物付着の管理及び制御のためのガイドライン」(IMO船体付着生物の管理ガイドライン)を出しているが、付着生物の管理や制御はまだ自主的対応に頼っている状態である。今後、付着生物をどう管理するかは大きな課題である。

引用、参考資料など

・国土交通省 報道発表資料 「『船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理のための国際条約』の採択について」(平成16年2月16日)

・住友電工広報誌SEI WORLD (vol. 443) 「バラスト水処理装置ECOMARINE® UV国土交通省よりG8承認取得」

・笹川平和財団海洋政策研究所 Ocean Newsletter第396号「船舶バラスト水管理条約の発効と課題」

・日本海難防止協会情報誌「海と安全」No.571 (2016)「バラスト水管理条約の発効に備えて」

・武田克己ら「バラスト水管理条約の概要」日本海水学会誌(70)3-9(2016)

・日本船舶用品検定協会「バラスト水管理システムの承認の際の生物分析方法(第2回改訂版)」

・斎藤英明「バラスト水規制管理条約 2017年の発効に向けて」笹川平和財団 第138回海洋フォーラム資料

・国立環境研究所ウェブサイト「いま地球がたいへん!」(湖沼や海の水質汚染:Q4)

・国際海事機関(IMO)「GloBallast Partnerships」

・一般財団法人日本海事協会「バラスト水処理装置最新承認状況」

・水浄化フォーラム(環境技術学会連携サイト)「船舶-バラスト水の処理技術と評価選定」

・Marine Environment Protection Committee (MEPC)2011 Guidelines for the control and management of ships' biofouling to minimize the transfer of invasive aquatic species (Biofouling Guidelines) (resolution MEPC.207(62))

<コンテンツ改訂について>
2009年6月:初版を掲載 
2019年4月:改訂版に更新