生態系の環境アセスメント

環境保全において生物多様性への配慮が重要となっており、環境アセスメントの手順でも、生態系の全体像や事業実施に伴う影響を把握する技術の確立が求められています。今回は、環境アセスメントの現状と、生態系のアセスメント技術の考え方を整理しました。


※掲載内容は2015年3月時点の情報に基づいております。
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1.環境アセスメントとは

ダムや道路、空港の建設といった開発事業による環境への悪影響を防止するためには、事業の内容を決めるに当たって、環境の保全についても配慮することが重要となります。このような考え方から生まれたのが環境アセスメント(環境影響評価)です。

環境アセスメントは、開発事業が環境にどのような影響を及ぼすかについて、事業者自らが調査・予測・評価を行い、その結果を公表して地域住民や専門家などから意見を聴き、環境保全の観点からよりよい事業計画を作り上げていこうという制度です。

図1

図1 環境アセスメントの目的 (出典: 環境アセスメント制度のあらまし[1]

環境アセスメントの基礎を知りたい

環境アセスメント入門 (環境省)
環境アセスメントって何? という基礎情報を、ガイドやパンフレット、江戸時代の裏長屋を舞台とした物語を通して紹介しています。

2.環境アセスメントの考え方の変遷

1969年にアメリカで「国家環境政策法」が制定されて以来、環境アセスメントは世界各国で導入されてきました。日本では、1972年に環境アセスメントが公共事業に導入され、1984年に「環境影響評価の実施について」が閣議決定されました(閣議アセス)。その後、1993年に制定された「環境基本法」に基づき1997年に「環境影響評価法」(アセス法)が制定されました。「閣議アセス」から「アセス法に基づくアセス(法アセス)」への移行では、以下の変更がありました。

  1. 生物環境の評価対象項目として「植物」と「動物」に「生態系」が加えられ、評価視点として「生物の多様性の確保及び自然環境の体系的保全」が重視されるようになりました。
  2. 自然利用空間の評価対象項目が「野外レクリエーション地」から「触れ合い活動の場」に代わり、評価視点として「人と自然との豊かなふれあい」が重視されるようになりました。
  3. 評価の考え方として、環境基準などの保全目標を達成できたかだけでなく、環境影響を回避・低減するための最善の努力がなされたかが加えられました。
  4. スコーピングと呼ばれる「環境影響評価の検討範囲の絞り込み」を行う方法書の手続が導入され、地域住民や専門家などの意見の反映や地域特性に応じた評価が重視されるようになりました。
図2

図2 環境アセスメントで対象項目となる環境要素の範囲自然との触れ合い分野の環境影響評価技術(I)[2]をもとに作成)
2013年の環境影響評価法の改正により、放射性物質に関する適用除外規定が削除され、放射性物質に関する環境影響評価の手法について検討が進められています。

生態系が環境アセスメントの評価対象項目として加えられた背景として、第四次環境基本計画における重点分野「生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する取組」などで指摘されているように、生態系が多様な価値をもつとともに一度劣化した後の回復の困難さが明らかにされてきたことが挙げられます。

法律について知りたい

[環境法令ガイド] 環境影響評価法(環境アセス法)
法律概要や関連する法令・解説などの資料へのリンクから、様々な切り口の情報につながることができます。

3.環境アセスメントの手続

環境影響評価法による環境アセスメントは、道路、ダム、鉄道、飛行場、発電所など13種類の事業を対象にしており、必ず環境アセスメントの手続を行う第1種事業と、環境アセスメントの手続を行うかを個別に判断する第2種事業に分かれています。

環境アセスメントの手続の流れは、まず事業者が事業の計画段階で環境保全に配慮すべき事項を検討します(配慮書の手続)。次に環境アセスメントで評価する項目や方法を選定します(方法書の手続;スコーピング)。そして、選定された項目や方法に基づいてアセスメント(調査・予測・評価)を実施します。アセスメントが終わると、結果について意見を聴く手続(準備書の手続、評価書の手続)を経て事業計画に反映します。事業終了後には、環境保全措置等の実施状況についてまとめた報告書を作成します(報告書の手続)。

図3

図3 環境アセスメントの手続の流れ(出典:環境アセスメントガイド[3]拡大画像↗

環境アセスメントの手続について知りたい

環境アセスメントの手続(環境省)
環境アセスメントの情報をわかりやすく紹介する「環境アセスメントガイド」の中で、環境アセスメントの一般的な手続の流れや各種手続について紹介しています。

4.生態系の環境アセスメントの考え方

生態系の環境アセスメントでは、事業を実施する地域の生態系の特徴を表す生物種・生物群集を、地域特性に応じて選定することが基本になります。

環境アセスメントを適切に行うためには、対象となる環境要素の現状と影響の程度を明らかにする必要がありますが、生態系の全体像を把握することは現在の科学的知見では困難であることが多く、手法も確立しているとはいえません。したがって、評価に当たっては、事業特性や地域特性を十分に把握した上で個別に検討する必要があり、対象となる生態系への影響をどの側面から捉えるかといった視点が重要となります[4]

環境省では、以下の方針を示しています。

生態系の上位に位置するという「上位性」、生態系の特徴をよく表すという「典型性」、特殊な環境等を指標するという「特殊性」の観点から、注目される生物種等を複数選び、これらの生態、他の生物種との相互関係及び生息・生育環境の状態を調査し、これらに対する影響の程度を把握する方法、その他の適切に生態系への影響を把握する方法によるものとする。(平成9年12月12日環境庁告示第87号)

5.調査・予測・評価手法の選定(スコーピング)

事業者は、地域住民や専門家などの意見を踏まえ、事業が生態系に及ぼす影響について検討し、何を評価すべきかを明確にして調査・予測を進めることが重要です。調査・予測・評価手法の選定に当たっては、まず地域の環境特性、地域のニーズ、事業の特性からみた保全上重要な環境要素、環境保全の基本的な方向性等について検討を行います[4]。この検討結果を踏まえ、注目される生物種等を選定します。そして、対象とする生態系のどのような側面への影響に重点を置くべきかを検討し、調査・予測・評価の手法を選定します。

図4

図4 ダム事業の影響フロー図の例環境影響評価技術検討会平成12年度第2回陸水域分科会資料[5]をもとに作成) 拡大画像↗
調査・予測・評価手法の選定では、事業の内容ごとに影響を予想し、整理しておくことが重要です。事業が環境の類型や生物種・群集にどのような過程を経て影響を与えるかを影響フロー図に示しておくと、影響要因と環境要素や生物との関係をわかりやすく示すことができます[6]

6.調査内容と影響予測

スコーピングで選定した手法に基づき、アセスメントの実施段階に入ります。調査・予測の手順では、調査によって得られる情報をもとに項目および手法を再検討するとともに、より詳細に実施方法を検討しながら進めていきます[7]

図5

図5 調査・予測の手順 (環境アセスメント技術ガイド[7]をもとに作成)

[1] 基盤環境と生物群集の関係に関する調査と影響予測

地形、地質、土壌などの基盤環境と生物種・群集の関係を調査し、生態系の特徴を把握した上で、事業が基盤環境に及ぼす影響を予測することにより、生態系への影響を予測します。

[2] 注目種・群集に関する調査と影響予測

類似の事例や既存の知見、現地調査結果を参考に、注目種・群集の生息に重要な基盤環境や生息場所への影響と、それが注目種・群集の生息に与える影響を予測します。また、注目種・群集に影響が生じた場合に他の生物種・群集を予測することにより生態系の構造や機能の変化を把握し、生態系への影響を予測します。

[3] 生態系の機能に関する調査と影響予測

生物生産、物質循環、水質浄化など、事業を実施する地域の生態系が持つ機能が事業によりどのような影響を受けるかを調査します。例えば、調査対象とした生態系機能の指標(物質生産量や水質浄化量など)と関連する環境要素(水質、底質、動植物など)を調査項目として、スコーピングで作成した影響フロー図に基づき、数値モデルを使って予測を行います。

7.評価と事後調査

生態系に関する評価は、調査・予測の結果に基づき環境保全のための対策(環境保全措置)を検討し、この対策がとられた場合に予測された影響を十分に回避または低減し得るか否かについて、事業者の見解を明らかにすることにより行います。また、地方公共団体などが環境保全のために定めた環境基本計画や環境保全条例・指針などとの整合性についても、見解を示すことになります。評価の結果は、地域住民や専門家などの意見を踏まえ、事業計画に反映します。

なお、事業による生態系の影響予測の不確実性が高いと判断された場合や、環境保全措置の効果・影響が不確実と判断された場合などには、工事中および事業の供用後の環境の状況や環境保全措置の効果について事後調査を実施します。事後調査の結果によっては追加的措置を講じることになります。2011年の環境影響評価法改正で、事後調査や環境保全措置の状況について報告・公表する規定も設けられました。

8.今後の展開

諸外国で導入されてきた戦略的環境アセスメント(SEA)の考え方が日本にも導入されました。「SEA導入ガイドライン」(2006)、「公共事業の構想段階における計画策定プロセスガイドライン」(2008)、「最終処分場における戦略的環境アセスメント導入ガイドライン(案)」(2009)が取りまとめられています。2011年の環境影響評価法改正により、事業の立地や規模検討段階での環境配慮を可能とするための配慮書の手続が導入されましたが、政策・計画立案の早期の段階に環境アセスメントを一層進めることや、個別事業の環境アセスメントで十分に対応できない広域的・複合的影響への配慮も検討することなどが課題になっています。

戦略的環境アセスメントについて知りたい

【環境問題基礎知識】 「戦略的環境アセスメント」 Strategic Environment Assessment (国立環境研究所ニュース32巻5号)
生態系に関する知見を開発の適切な計画に役立てるための手続が戦略的環境アセスメントです。戦略的環境アセスメントが近年注目を集めている背景を説明しています。

9.もっと知りたい方のために

環境儀No.15 「干潟の生態系 その機能評価と類型化」(国立環境研究所)
干潟の環境アセスメントの実施などで求められる「干潟の有用性」の定量的な評価を目的に、全国の代表的な干潟を調査・評価するとともに、これを基にした干潟版の生態系機能評価モデルの開発に取り組んだ研究成果を中心に紹介しています。

環境儀No.30 「河川生態系への人為的影響に関する評価-よりよい流域環境を未来に残す」(国立環境研究所)
河川横断構造物(例えばダム)の築造、河川改修等が河川生態系に及ぼす影響を定量的に評価する手法の開発研究や、人為的改変による河川生態系への影響についての欧米・メコン川流域・日本での取り組みについての基本的な考え方などを紹介しています。

国立環境研究所ニュース32巻5号 「特集 メコン流域ダム貯水池の生態系機能評価」(国立環境研究所)
南アジア6か国を流れるメコン川流域の生態系機能評価を通して、メコン川流域のダム開発についての科学的知見の提供を目指した研究を紹介しています。

戦略的環境アセスメント技術の開発と自然再生の評価 (国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター)
アジアの代表的な生物多様性ホットスポットとして知られる日本列島とメコン川流域またその周辺地域の湿地生態系を対象として、戦略的環境アセスメント技術を開発し、それらの技術を用いた河川流域の総合的環境管理に資する研究を行っています。

参考文献

[1] 環境省. 環境アセスメント制度のあらまし. 2012. http://www.env.go.jp/policy/assess/1-3outline/img/panph_j.pdf,(参照 2015-01-29).

[2] 環境庁. “環境影響評価法の概要”. 自然との触れ合い分野の環境影響評価技術(I)スコーピングの進め方について(自然との触れ合い分野の環境影響評価技術検討会中間報告). 1999. http://www.env.go.jp/policy/assess/4-1report/02_sizen/1/chap1.html,(参照 2015-01-29).

[3] 環境省. “環境アセスメントの手続”. 環境アセスメントガイド. http://www.env.go.jp/policy/assess/1-1guide/2-1.html,(参照 2015-01-29).

[4] 環境省. “生態系に関する環境影響評価について”. 独学研修マニュアル. http://www.env.go.jp/policy/assess/4-5kensyu/pdf/nendo/h21_dokugaku_03.pdf,(参照 2015-01-29).

[5] 環境庁. “これまでの検討経緯と今後の検討の進め方”. 環境影響評価技術検討会(生物の多様性分野)平成12年度第2回陸水域分科会. 2000. https://www.env.go.jp/policy/assess/5-2tech/1seibutsu/tayousei_rikusui12-2/s1.html,(参照 2015-02-23).

[6] 環境庁. “陸域生態系の環境影響評価の手法”. 生物多様性分野の環境影響評価技術(II)生態系アセスメントの進め方について(生物の多様性分野の環境影響評価技術検討会中間報告). 2000. http://www.env.go.jp/policy/assess/4-1report/03_seibutsu/2/chap_1_1_3.html,(参照 2015-01-29).

[7] 生物の多様性分野の環境影響評価技術検討会編. 環境アセスメント技術ガイド 生態系. 自然環境研究センター. 2002. 277p.

(2015年3月現在)
2015年4月23日:掲載