京大、絶滅したはずの水生昆虫を再発見!系統的位置も特定
発表日:2022.07.12
京都大学は、絶滅したと思われていた水生昆虫「キイロネクイハムシ(学名:<i>Macroplea japana</i>)」を「琵琶湖」で再発見した。キイロネクイハムシは1885(明治18)年に新種として記載された体長4ミリ程度の甲虫。クロモなどの沈水植物を餌とし、一生を水中だけで過ごす。関東以西の4県で採集された記録が残っており、主な生息場所は「平野部の水草群落の発達した池沼(以下『低湿地生態系』)」と考えられている。1950年代に琵琶湖でカモの仲間に捕食された成虫が見つかっている。しかし、1960年代以降は生息を確認できる証拠が得られていなかった。環境省レッドリスト(RL)の初版(1991年刊行)では絶滅危惧種、第3次環境省RL以降(2007年~)のカテゴリーは「絶滅(我が国ではすでに絶滅したと考えられる種)」とされている。今回、ユスリカ幼虫の研究を目的として、琵琶湖から持ち帰ったクロモやセンニンモから、キイロネクイハムシが3個体見つかった。本研究では、約70年ぶりに再発見された個体からDNAを抽出し、世界に分布するキイロネクイハムシ族の分子系統解析を行っている。日本ではユーラシア大陸に広く分布するキタキイロネクイハムシの生息が確認されており、<i>M. japana</i>の系統的な位置・分類は不鮮明であった。今回あらためて解析したところ、ユーラシアと北米の近縁種との系統関係(最尤法による系統樹)が明らかになり、琵琶湖で再発見された<i>M. japana</i>はデータベースに登録されているキイロネクイハムシ(中国産)と同種であることが明らかになった。また、大陸に分布するキイロネクイハムシ族の遺伝的距離など、新たな知見を得ることもできた。<i>M. japana</i>は、水質の悪化に対して脆弱であり、高度成長に伴う埋立や水質汚染などの影響で生息環境が失われ、絶滅の危機に瀕したと考えられる。今回の成果は、キイロネクイハムシが生存し得る「低湿地生態系」が奇跡的に琵琶湖に残されていたことを示唆するものであり、日本列島の低湿地生態系における生物多様性を未来に残す「一縷の望み」を与えてくれた、と論文著者がコメントを添えている(掲載誌:Entomological Science、DOI: https://doi.org/10.1111/ens.12517)。
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