社会参加しないと「損」!高齢未経験者へのナッジ効果1.5~2倍
発表日:2025.07.09
東京都健康長寿医療センターは、高齢者の社会参加を促すための効果的なメッセージ設計について、行動経済学の「ナッジ」理論を応用した観察研究を実施した。――ナッジとは、人々の行動を自然に促す手法であり、同センターでは健康診断の受診率向上や食生活改善、公共政策分野での活用を中心に研究を進めている。
本研究では、65歳以上の高齢者1,524人を対象に、社会参加活動に関する異なるメッセージ(①個人利得、②個人損失、③地域利得、④対照群)を提示し、参加への態度・意欲・印象への影響を検証した。
分析の結果、社会参加活動の未経験者においては「社会参加しないと損をする」と訴える②個人損失メッセージが有効であることが判明した。対照群に比べて社会参加への関心が1.96倍、開始意向が1.74倍、印象が1.56倍と有意に高まることが明らかになった。こうした結果は、人間が持つ「損失回避バイアス」に基づくものと考えられた。"得られる利益よりも失うことへの恐れ"が行動を強く動機づける傾向があることを示している。
一方、すでに社会参加活動を行っている高齢者には、いずれのメッセージも大きな影響を与えなかった。これは、既に高い意欲を持っている層にはナッジの効果が限定的であることを示唆している。
本研究は、社会参加促進におけるメッセージ設計の実証的根拠を示した国内初の大規模研究であり、今後の自治体広報や介護予防事業において、低コストかつ高効果なナッジの活用が期待される。研究チームは、損失訴求型パンフレットによる大規模介入試験も実施しており、近くその結果も公表するという。