国内ニュース


 4℃シナリオ下の田んぼ…農薬の悪影響が増し、トンボはほぼ不在に!?

発表日:2023.11.30


  近畿大学、国立環境研究所、弘前大学およびシドニー大学の研究者らは、水田水温の上昇に伴って浸透移行性殺虫剤「フィプロニル」の悪影響が一層強まる可能性があると指摘した。フィプロニルは神経伝達を遮断することで殺虫効果をもたらす化学物質。日本では約30年前に農薬として登録され、稲の害虫防除に広く利用されている。EUではミツバチに対する強い毒性が指摘され、2013年に農業における使用が全面的に禁止されている。本邦でもトンボ類の発生に負の影響をおよぼすことが確認されている(Kasai, A. et al., 2016)。また、農薬などの化学物質が水生生物等に与える影響は高温下ほど強くなるといった報告もある。本研究はフィプロニルの生態リスクを巡る“複数の要因を野外環境で再現”することに主眼を置き、デザインされている。実際の水田に近い環境を再現した実験用水田での影響評価(メソコズム影響評価試験)を基本とし、フィプロニルの散布と水田水温の4℃上昇によるトンボ類の幼虫(ヤゴ)の個体数密度をモニタリングした(期間:6月後半~10月後半、頻度:2週に1回)。4つの処理区を設け、比較対照した結果、水田の水温上昇によりヤゴに対する殺虫剤の影響が強くなり、個体数が大幅に減少することが明らかになった。また、フィプロニルや水温上昇の影響は分類群間(トンボ科、ヤンマ科、イトトンボ類)で異なることが分かった。生物多様性の損失に歯止めがかかっておらず、主な要因とされている温暖化と化学物質汚染によるストレスの低減がネイチャーポジティブ(自然再興)の鍵になる。単一の指標生物を室内で評価する手法はしばしば実態と乖離した予測結果を導き出すという問題に触れつつ、“複雑性を考慮した環境影響評価の契機”となり得る成果、と位置づけている(DOI:10.1016/j.envpol.2023.122831)。

情報源 近畿大学 NEWS RELEASE
国立環境研究所 報道発表
弘前大学 TOPICS
機関 近畿大学 国立環境研究所 弘前大学 シドニー大学
分野 地球環境
自然環境
キーワード 農薬 | 指標生物 | 生態リスク | トンボ | フィプロニル | ネイチャーポジティブ | 浸透性殺虫剤 | 水田水温 | メソコズム影響評価試験 | 4℃シナリオ
関連ニュース

関連する環境技術