バイオエタノールとは、サトウキビやトウモロコシ、木材などのバイオマスを発酵させて製造するエタノールのことです。バイオマスは、生物資源(バイオ)の量(マス)を意味し、上記のような植物の他、わらやもみ殻、家畜糞尿、下水汚泥、廃食用油など、動植物由来のエネルギー源として利用もしくは再利用できる有機系資源を指します。バイオマスから生成される燃料がバイオ燃料で、バイオエタノールはこの一種です。
化石燃料の消費により、大気中の二酸化炭素(CO2)濃度が上昇。それによる地球温暖化が大きな問題になっていますが、バイオエタノールは、化石燃料に比べてライフサイクルにおけるCO2排出量が少ないことから、輸送用のエコ燃料として期待されています。ここでは、バイオエタノールの特徴や研究開発の動向などについて紹介します。
※掲載内容は2017年3月時点の情報に基づいております。
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自動車用バイオエタノールなどの輸送用エコ燃料について、京都議定書目標達成計画(2005年4月閣議決定)や、バイオマス・ニッポン総合戦略(2002年12月閣議決定、2006年3月改定。生物系資源の持続的活用を目指したわが国のバイオマス活用の国家戦略)などで、政府としての導入目標を位置づけました。
バイオエタノールは、気候変動枠組条約では「カーボンニュートラル」として位置づけられ、使用時にCO2排出量には計上されません。これは、バイオエタノールの原料となる植物はもともと、光合成によって大気中からCO2を吸収しているため、燃焼によりCO2を排出しても、全体としてCO2量を増加させないという考え方に基づいているからです。化石資源由来の燃料をバイオエタノールで代替すれば、CO2排出量の削減につながります。
その後、2009年6月には「バイオマス活用推進基本法」が制定。これに基づき、バイオマス・ニッポン総合戦略を引き継ぐ形で、翌2010年12月に「バイオマス活用推進基本計画」が閣議決定され、さらに2016年9月には、バイオマス産業の拡大を受けて、経済性の確保や地域が主体となった推進を目指して新しい基本計画が策定されました。
また、2009年7月に「エネルギー供給構造高度化法」が成立し、この中で、バイオエタノールの利用目標量が定められました。2011年度の21万kL(原油換算)から始まり、2017年度には50万kL(同)まで強化する内容になっており、2016年2月の時点において、約3,240カ所のサービスステーションでバイオエタノール混合ガソリンが販売されています。
京都議定書の第1約束期間(2008~12年)の後、日本は第2約束期間(2013~20年)には参加せず、カンクン合意に基づいた排出削減目標を設定していましたが、2020年以降の新たな国際的な枠組みとして、2015年12月にパリ協定が採択されました(2016年11月に発効)。日本は2030年度までに26%削減(13年度比)するという高い目標を掲げており、この実現に向け、さらなる努力が求められています。
バイオエタノールは輸送用バイオ燃料の一つとして位置づけられます。バイオエタノールの他、バイオエタノールを元に製造されるバイオETBE(エチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)もあり、どちらもガソリンに混合して利用されます。
名称 | 概要 | 主な特徴 |
---|---|---|
バイオエタノール | 農作物、木材・古紙などの植物の多糖から作られる液体アルコール(C2H5OH) |
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バイオETBE | エタノールとイソブテンを合成して製造 |
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バイオエタノールの原料は主に、トウモロコシやサツマイモ、ムギ、タピオカなどのデンプン質原料と、サトウキビやテンサイなどの糖質原料が使われ、これらの植物に含まれる糖分を微生物によって発酵させ、蒸留してエタノールを作ります。石油などから作られる合成エタノールと、物理化学的性状はまったく同じです。
日本では、地域資源の活用と地域の活性化、循環型社会の形成を絡めて、さまざまな原料を用いたバイオエタノール生産の実証試験が進められてきました。
地域 | 実施主体 | 主な原料 |
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北海道十勝地区 | 十勝圏振興機構 | コムギ、トウモロコシ |
山形県新庄市 | 新庄市・玉川大学 | ソルガム(コウリャン) |
大阪府堺市 | バイオエタノール・ジャパン・関西(株)、大阪府 | 建築廃木材 |
岡山県真庭市 | 三井造船、岡山県、真庭市 | 製材所端材、風倒木 |
北九州市 | 新日鉄エンジニアリング | 食品廃棄物木 |
沖縄県宮古島 | りゅうせき | サトウキビ |
沖縄県伊江島 | アサヒビール、九州沖縄農業研究センター | サトウキビ |
一方ETBEは、ガソリンの精製過程などで副生されるイソブテンと、エタノールとを化学合成させて製造します。ETBEの化学式はC2H5OC(CH3)3。バイオエタノールを使って製造されたETBEは特にバイオETBEとも呼ばれます。
デンプン質原料や糖質原料からは、比較的簡単な工程でエタノールを取り出すことができますが、原料となるトウモロコシやサトウキビは食料でもあるため、燃料としての消費が増えた場合、食料価格の高騰を招くという問題があります。
この問題を避けるため、セルロース系原料を利用する第2世代バイオエタノールの開発が進んでいます。木材やワラなど、食用ではないバイオマスを原料とするため、食料との競合が発生しません。セルロースは簡単に分解できないため、工程は複雑になりますが、発酵による生化学プロセスや、ガス化・合成による熱化学プロセスなどが考えられています。
さらに、藻類などを原料とする第3世代バイオエタノールの研究開発も進んでいますが、こちらは低コスト化が大きな課題となっています。
また、バイオブタノールも次世代バイオ燃料として注目されています。エタノールはガソリンに比べて熱量が小さく、高い燃費効率が得られないという問題がありましたが、ブタノールの熱量はガソリンに近く、この問題がほとんどありません。エタノールのような吸湿性も無く、ガソリン以外に、軽油にも混合して利用することができます。
エタノールは金属の腐食やゴムの劣化を招くことが懸念されるため、「揮発油等の品質の確保に関する法律(品確法)」で使用が規制されていましたが、2003年の法改正により、体積比で3%までの混入が認められました。これは、エタノールを3%混合したガソリンであれば、既存車両でも自動車の安全性、環境への影響がないことが確認されたからです。
通常、バイオエタノールを3%混合したガソリンをE3と呼び、10%混合したものをE10と呼んでいます。日本では、通常のガソリン自動車でE3の利用が認められている他、E10も対応車に限り、利用が可能となっています。海外ではE5やE20など、さまざまな混合率のものが使われています。
なお、エタノールは水に溶けやすいため、ガソリンと混合する際に一定量以上の水分が混入すると、エタノールが水分と混和し、ガソリンと分離してしまい、燃料性状が確保できなくなるおそれがあります。このため、バイオエタノール混合ガソリンを使用する場合、水分混入を防止することが必要とされています。
一方ETBEは、オクタン価を高める添加剤として使われます。水分混入による分離がなく、腐食性もないため、石油連盟はバイオエタノールではなくバイオETBE方式を採用しました。これを配合したガソリンを「バイオガソリン」と名付け、販売を行っています。ETBEはガソリンに馴染みやすく、7%程度まで混合しても自動車の性能に影響がないことが確認されています。
ただ、ETBEは「化学物質の審査及び製造などの規制に関する法律(化審法)」の第二種監視化学物質と判定されているため、分解性や人に対する長期毒性、動植物への毒性などについてリスク評価を行い、リスク低減対策を行う必要があります。
前項でみたように、E3までならば既存車両に何も改良を施さなくともバイオエタノールを燃料として使うことができますが、それ以上に混合率が高まった場合には一定の対策が必要です。E10に対する対応として次のような対策が考えられています。
部位 | 対策 |
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燃料配管 | 材質と表面処理の変更 |
高圧燃料ホース | 材質の変更 |
低圧燃料ホース | 材質の変更 |
エバポ系部品 (ホース、O-リング、ガスケット) |
材質の変更 |
機能部品 (レギュレータ、ダンパー) |
材質と表面処理の変更 |
エンジン制御系 | エミッション及び運転性補償のための空燃比制御、燃料圧力などの調整 |
これらのうちエンジン制御系については、バイオエタノールの混合率によって低温始動性への影響や空燃比、出力などが変化するので、安定した動力性能や燃費、排出ガスの維持が必要とされています。なお、ブラジルや米国、カナダ、オーストラリアなどでは、ガソリン車はすべてE10対応車となっています。
自動車メーカー各社は、ガソリンとバイオエタノールとの比率が0~100%まで対応できるFFV(Flexible Fuel Vehicle、フレックス燃料車)の開発・改良にも力を入れており、特にバイオエタノールの利用が盛んなブラジルでは普及が進んでいます。
世界のバイオエタノールの生産量は、2000年代以降、急速に増えています。特に米国とブラジルでの生産が突出しており、世界の生産量に占める両国の割合は約7割となっています。
図1 世界のバイオエタノール生産量の推移
出典:農林水産省「海外食料需給レポート(Monthly Report) 2015年3月」
ブラジルでは主にサトウキビを原料としてバイオエタノールを生産しています。2014年の時点で400カ所程度にエタノール製造工場があり、世界で唯一、バイオエタノールの輸出余力を持っています。なお、日本では輸送燃料としてバイオETBEを導入していますが、この製造用にブラジルからバイオエタノールを輸入しています。
米国では主にトウモロコシを原料としています。再生可能燃料基準(RFS2)によって一定量の再生可能燃料をガソリンに混入することが義務付けられており、2009年~2022年の目標量はこの基準によって決定。食料との競合を避けるため、次世代バイオエタノールの導入拡大も目指しており、2014年の時点で、4基のパイオニアプラント、1基の実証プラント、5基のパイロットプラントが稼動しています。
欧州ではムギ類を中心に、テンサイなどを原料として生産しています。欧州最大のバイオエタノール消費国はドイツで、2013年の実績は777,730トン(石油換算)。次いで多いのは英国とフランスです。2009年に再生可能エネルギー指令(RED)が導入され、2020年までに輸送燃料の10%をバイオ燃料とすることが義務づけられています。
国 | 導入形式 | 原料 | 導入目標/義務 | 導入実績 | 今後の見通し |
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米国 | E10(一部E15) | トウモロコシなど | 2020年に輸送燃料の20% | 0.53億kL(2013年) | 1.36億kL(2022年) |
EU | E5/E85/ETBEなど国により異なる | 小麦など | 2020年に輸送燃料の10% | 533万kL(2013年) | 725万kL(2020年) |
ブラジル | E100/E25 ※時期により変動 |
サトウキビなど | ガソリン混合率の指定 | 2,153万kL(2013年) | 国内需要:4,780万kL(2023年) 輸出量:320万kL(同) |
日本 | ETBE | ブラジルからの輸入エタノール | 2017年度に50万kL(原油換算) | 51万kL(2014年) | 83万kL(2017年度) ※原油換算50万kL |
日本のバイオエタノールの導入目標は原油換算で50万kL(2017年度)ですが、これはガソリン全体の需要量(5,000万kL程度)のおよそ1%に過ぎず、さらなる拡大が必要と考えられます。
普及に向け、まず課題としてあげられるのは経済性です。原油価格は大きく変動するものの、2010年代前半までの高騰時に比べると低水準で安定しており、バイオエタノールとの価格差は開いています。国内の事業者は規模が小さく、高コスト体質であることから、普及の拡大にはつながっていません。
農林水産省は2007年度より、国産バイオエタノールの事業化を目指し、全国3地区(北海道2地区、新潟県1地区)で助成を行ってきたものの、十分なコスト削減ができず、2014年に事業化を断念、支援を打ち切りました。
結果として、現在は供給のほとんどをブラジルからの輸入に頼っています。米国や欧州に比べ、日本のバイオエタノール自給率は極端に低く、これはエネルギー安全保障上のリスクにもなっています。自給率を上げるためにも、今後、低コスト化のための技術開発が期待されます。
図2 各国のバイオエタノール自給率
出典:平成26年度石油産業体制等調査研究(バイオ燃料に関する諸外国の動向と持続可能性基準の制度運用等に関する調査)報告書
また、食料との競合を避けるために、第2世代バイオエタノールへの転換も世界的な急務となっています。この実用化に向けた技術開発も積極的に推進する必要があるでしょう。
・資源エネルギー庁 エネルギー供給構造高度化法について
・農林水産省 海外食料需給レポート(Monthly Report)
・三菱総合研究所 平成26年度石油産業体制等調査研究(バイオ燃料に関する諸外国の動向と持続可能性基準の制度運用等に関する調査)報告書
・バイオ燃料生産拠点確立事業検証委員会 バイオ燃料生産拠点確立事業検証委員会報告書(平成26年5月)
・環境省 第5回エコ燃料利用推進会議 議事次第・資料
・日本政策投資銀行 新エネルギーの導入・拡大に向けた動き
・総合資源エネルギー調査会石油分科会石油部会 燃料政策小委員会ETBE利用検討ワーキンググループ「ETBE利用検討ワーキンググループとりまとめ」
・東大総研 バイオマス情報ヘッドクォーター
※バイオマス・ニッポン総合戦略に基づき作成された日本政府のバイオマス公式ホームページ
・バイオマス産業社会ネットワーク「バイオマス白書」
・国立環境研究所 廃棄物系バイオマスのWin-Win型資源循環技術の開発
・資源エネルギー庁「品確法の施行規則改正及び告示制定について」