国立環境研究所は、研究プロジェクト報告「水資源量に基づく乾燥・半乾燥牧草地の利用可能量とその脆弱性の評価（平成30～令和2年度）」を刊行した。乾燥・半乾燥牧草地は、気候変動と人間活動に敏感かつ脆弱であるため、その環境の維持と持続的な利用は、人々の生活を支える生態学的安全保障と見なされている。既存の研究では、気候変動に伴う永久凍土の融解や乾燥化などによって、土壌表層から植物への水分供給が減少し、植物の成長が遅れ、家畜の生育不良を引き起こし、凍害発生時には甚大な被害を生むことが指摘されていた。本研究は、過放牧の規模拡大が散見され、牧草地を取り巻く人為的な攪乱が深刻化しているにも関わらず、水資源や牧草地の利用可能量に及ぼす影響が十分に理解されていないという視座に立っている。モンゴルの代表的地域を選出し、気候変動や人為的攪乱の影響を評価した結果、放牧規模の拡大、特に都市化や鉱山開発に伴う水資源の需要量の大幅な増大ならびに過度な地下水汲み上げが、都市や鉱山周辺域の水循環に大きな影響を及ぼしていることを明らかになった。また、同国で市場経済が導入されてから、特に2000年以降に、周辺域の放牧圧が牧草地の環境容量を大幅に上回っており、牧草地の脆弱性が一層高まっていることが示唆された。本報告書は、同研究所ホームページで閲覧することができる（48ページ・カラー、PDF形式・9.6 MB）。