環境技術解説

風力発電

風力発電は世界で急速な拡大を続けています。日本でも大きな期待が集まり、導入が進んでいますが、課題も少なくありません。ここでは、風力発電の動向や課題、技術開発のテーマなどについて紹介します。

※掲載内容は2016年3月時点の情報に基づいております。
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1. 導入が進む風力発電

風力発電の導入量は日本でも世界でも急速に拡大しています。なお導入量とは、実際に発電された電力量(単位はWh)ではなく、発電できる最大量を表す設備容量(単位はW)を意味します。

1.1 世界の風力発電導入量

風力発電は19世紀末に欧米で実用化された後、デンマークを中心に着実な研究開発が続けられ、第一次石油危機後の1977年に同国で大規模風力発電プロジェクトが開始されました。1990年代以降は有力な自然エネルギーとして急速に注目が集まり、世界的に活発な開発・導入が進みました(図1)。

2000年代に入ってからも拡大は続きますが、2010年代からはアジア地域、特に中国での急伸により拡大のペースが増しています。2014年末の段階で、世界全体では約3.7億kW(累計)の風力発電設備が導入されています(図2、図3)。

図1 世界全体の風力発電導入量(累計)の推移
出典:世界風力会議(GWEC)「Global Wind Report 2014」(2015年3月)(p.11)

図2 地域別の風力発電導入量(2006~2014)推移
出典:世界風力会議(GWEC)「Global Wind Report 2014」(2015年3月)(p.11)

図3 世界全体と上位10か国の2014年の導入量(左)と累計導入量(右)
出典:世界風力会議(GWEC)「Global Wind Report 2014」(2015年3月)(p.8)


1.2 日本の風力発電導入量

日本の風力発電導入量は、2014年3月末に294万kW、設置基数は2,034基となっています(図4)。

発電出力でみると、2003年度以降は1,000kWクラス以上が7割を超えていましたが、2010年度以降は2,000kWクラス以上が大部分を占めています(図5)。また、立地では、2014年度の設備容量では青森県が、設置基数では北海道がもっとも多くなっています(図6)。

導入量の拡大は、環境意識の高まりに加え、政府や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による導入促進政策、FIT(固定価格買い取り制度)などの施策が講じられたためと考えられます。

一方、電力量供給比率では風力発電は日本の全電力の0.5%(2014年)にすぎません。世界における導入量比率で見ても、日本は0.8%(2014年末時点)で、世界第19位となっています。

図4 日本における風力発電導入量の推移(2015年3月末現在)
出典:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「日本における風力発電設備・導入実績」日本における風力発電導入量の推移

図5 出力階層別導入基数の推移(2015年3月末現在)
出典:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「日本における風力発電設備・導入実績」出力階層別導入基数の推移

図6 都道府県別発電導入量(2015年3月末現在)
出典:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「日本における風力発電設備・導入実績」都道府県別風力発電導入量


2. 風力発電を支える技術

現在主流の大型風車(一般に1,000kW以上が大型とされる)は、ほとんどがプロペラ式風力発電システムです。以下に構成例(図7)と、機器別の機能や技術的背景(表1)を示します。

図7 プロペラ式風力発電システムの構成例
出典:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「風力発電ガイドブック(2008年2月改訂第9版)」(p.60)

表1 おもな構成機器と、その機能や技術的背景
機器名 機能や技術的背景
ブレード
(風車の羽根)
風を受け回転運動に変換する。振動が起きにくく安定性の良い3枚が主流となっており、軽量で強度の高いGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)やCFRP(炭素繊維強化プラスチック)で作られる。航空機部品と共通する技術が多い。
増速器 発電機が発電を行うのに必要な回転数まで増速する。
発電機 回転運動を電気エネルギーに変換する。
ブレーキ装置 必要に応じてブレードの回転を停止させる。
ナセル 増速機や発電機、制御機器などを収納する。空気抵抗を減らす設計が必要。
タワー 風車の重量と風によって加わる力に耐えるよう作られる。内部には電力ケーブルや通信ケーブルが収められている。
可変ピッチ 風を最大限に受けるため、あるいは強風時に回転を停止するため、ブレードの角度を制御する。
ヨー駆動装置 風を最大限に受けるため風車の向きを制御する。

風のエネルギーから得られる機械的動力エネルギーの割合(出力係数)は、最大約60%とされています(Betzの理論)。しかし実際には、増速機・発電機における摩擦損失などがあるため、発電効率では30%程度とされています。

一方で、風車は一般に大型化するほど効率が上がります。大型化でブレードが長くなればタワーも高くなり、上空の安定した風を受けられるためメリットは増します。しかし、風車のブレードは、軽量で高強度であることが求められるため設計の難易度が高く、大型のブレードを一体成型で作る設備や技術も必要になります。さらにそのブレードをそのまま建設現場まで輸送しなければなりません。非常に難易度の高い長尺物輸送の技術も併せて必要となります。

このため、部材や機器の力学的・電気的な改善や材料の選定などが、実データを使った解析やシミュレーションによる検討などを通じて進められています。


3. 風力発電の課題

風力発電にはさまざまな課題もあります。ここでは、課題解決に向けた技術開発や対策について紹介します。

3.1 系統連系対策

風力発電は「風況」によって発電出力が変動します。風況とは、平均風速、瞬間風速、風向や風速の乱れなど、その場での風の状態や性質を意味する用語です。

「系統連系」とは「電力網への接続」を意味する電力業界用語です。発電出力が大きく変動すると、連系する電力系統の電圧や周波数に変動を引き起こし、電力品質に影響を与えることが懸念されるため、出力変動に対する対策が必要とされています。この問題と対策については、別項[4.系統連系対策]で詳説します。

3.2 騒音対策

騒音の主因は、増速機の歯車からの機械音と、ブレードの風切り音とされています。これらの騒音は固有の周波数(音程)を持ち、高調波成分や低周波振動を伴うことなどから、音の強さ(音圧)が下がっても耳障りとなる可能性があり、増速機やブレードの改良などだけでなく、設置場所の選択も含め対策が必要とされています。

3.3 強風対策

過去に、強風のためにタワーが基礎ごと倒壊したり、ブレードやナセルカバーが破損・飛散したりした事故がありました。特に、複雑な地形の山岳地域では風速や風向の変動が大きいなどの理由から、ブレードの機械的疲労による損傷の懸念もあります。さらに、台風や強風時には安全に風車を停止させるなどの対策も必要です。

NEDOでは、日本の自然特性(地形、気象条件)に起因する被害を低減させるため、「日本型風力発電ガイドライン」[参考]を策定し、風条件の設定や評価方法などについて、「台風・乱流対策編」としてまとめています。

3.4 落雷対策

風力発電機への落雷はまれなことではありません。落雷の衝撃によってブレードが構造上のダメージを受けたり、電気・制御部品の損傷で運転中断を余儀なくされたりすることがあります。これに対し、構造・材質や避雷設備、表面被覆などを含めた落雷対策が必要とされます。

NEDOでは、「日本型風力発電ガイドライン」において、日本の雷被害の実態やリスク低減対策などについて、「落雷対策編」としてまとめています。

3.5 その他の対策

着雪や着氷、塩害、砂塵、耐震性などに対する対策が必要とされる場合があります。


4. 系統連系対策

前項の課題のうち、最大の懸案は系統連系(送電網への接続)対策です。

4.1 なぜ対策が必要か

現在、日本では東日本50Hz、西日本60Hzの周波数の交流電力が供給されています。電力の需給アンバランスは電源の電圧や周波数の変動となって表れるため、発電・送電システム間の緊密な保護や協調によって、変動が一定の幅に収まるよう管理されています。

そうして供給される高品質の電力は、製造設備などの安定的な運転を通じて高品質の工業製品をもたらし、日本の産業競争力の一部となっています。

一方、風力発電は風況によって出力変動が避けられず、発電した電力を電力系統に送る場合には、配慮が必要です。

通常、発電所と直接接続される基幹電力系統では、火力発電所の運転・停止や揚水発電所の運転などで変動を吸収し、需給をバランスさせ周波数を維持しています(図8)。

ウィンドファームやメガソーラー(大規模太陽光発電所)のような出力の大きな発電設備の系統連系では、周波数維持のための負担(変動の吸収量)も大きくなります。

図8 風力発電の課題
出典:四国電力「風力発電の特徴」

4.2 どのような対策が可能か

こうした背景から、電力会社は「連系可能量」として、風力発電施設や太陽光発電施設から系統への連系上限値を設定し、接続を制限しています。これが電力量供給比率が全体の0.5%(2014年)、総発電設備容量の2%にとどまっている理由のひとつとなっています。

対策としては、2015年1月以降に新設される風力発電と太陽光発電施設には、発電出力を調整する「遠隔出力制御システム」の取り付けが義務化されました。また、出力変動を吸収する大規模なバッテリーシステム「系統蓄電池」の実証試験[参考]も始まっています。

日本と事情は異なりますが、風力発電先進国のデンマークでは、国内の電力需要の30%超が風力発電によってまかなわれています。気象予報などから出力変動を予測し、既存の発電所の運転を調整するなど、国全体の電力システムを風力発電に最適化することで、このような高い水準が実現しています。風力発電のさらなる普及のためには、一層の技術開発に加え、制度面での配慮、運用上の工夫が求められています。




5. 立地をめぐる課題と期待

風力発電設備は、安定した風が恒常的に吹く風況の良い場所に設置するのが望ましいですが、一方で周囲の環境にインパクトを与えるため、立地にあたっては事前の調査や合意形成など、きめ細かな準備が求められます。ここでは陸上と洋上に分けて、それぞれの課題と対策を紹介します。

5.1 陸上における課題と対策

陸上では、風力発電施設の導入量拡大に伴い、風況の良い土地の確保が困難になりつつあります。陸上で残された適地として、山岳地帯や国立・国定公園内への立地を求める事業者も少なくありません。しかし、すでに述べた技術的課題をはじめ、系統連系のための送電線容量の問題や、部材輸送・メンテナンスに伴う道路整備の問題、防災・景観に関する問題、バードストライクや生態系への影響に関する問題など、クリアすべき課題は少なからず存在しています。

こうした中、環境省と資源エネルギー庁は2007年に「風力発電施設と自然環境保全に関する研究会」を4回にわたって開催し、野生生物保護や景観保護の観点から、立地選定や合意形成プロセスまで踏み込んで論点を整理しました。


図9 風況マップ(全国)
出典:環境省 風況マップ(全国)
地上高80m地点における、過去20年間の年間平均風速、最大/最小値、16方位の風向及び出現頻度などを500mメッシュ・1時間刻みで提供する、環境省の「風況変動データベース」。「平成25年度再生可能エネルギー導入拡大に向けた系統整備等調査事業委託業務」などにおいて作成したもの。


5.2 洋上風力に対する期待

近年では洋上風力発電に対する関心も高まっています。

5.2.1 洋上風力のポテンシャル

日本の洋上風力発電の「賦存量」(理論的に可能な発電総量)は、いくつかの研究によると、最小でも936億kWh/年、大きく見積もったもので7,080億kWh/年とされ、2014年度の日本の電力需要である8,230億kWh(電力10社合計)と比較しても、極めて大きなポテンシャルが示されています(図10)。

図10 洋上風力の導入ポテンシャル
出典:環境省「再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書」(2011年3月)(p.107)
※前出の「風況マップ」を基に推計された風速6.5m/s以上のメッシュを合計した「賦存量」に、社会条件として「離岸距離」「推進」「法規制区分」を重ね合わせて「洋上風力の導入ポテンシャル」が求められた。


5.2.2 洋上風力の研究開発

NEDOでは、風力発電の中長期の導入目標を設定し、その導入促進を図るために「風力発電ロードマップ」を策定しています。このロードマップの中で、洋上風力発電導入のシナリオとして、沿岸域(低水深エリア、着床型)への導入と、近海域(高水深エリア、浮体上設置のフローティング型)への大規模導入を前提としたうえで、2030年の導入目標に、合計1,300万kW(着床型は300万kW、フローティング型は1,000万kW)を設定しています。

こうしたなかで、洋上風力発電に関するさまざまな研究も進められています。 東京大学と東京電力では、軽量の浮体構造の開発とあわせて、風車の耐久性に悪影響を与える波による浮体動揺量を低減化する研究や、動揺量や構造強度を高精度に評価できる数値解析プログラムの開発などを行っています。

九州大学では、浮体式レンズ風車を利用した洋上発電の実証実験を、2011年12月から博多湾で始めています。

出典:九州大学応用力学研究所 浮体ファーム

また、発電した電力を陸上に送るのではなく、海水を電気分解することで水素などを製造する洋上電解工場の構想もあります。


5.2.3 洋上風力の大規模実証プロジェクト

前述の東京大学で実施されてきた研究を踏まえ、福島県において「東日本大震災の復興に向け、再生可能エネルギーを核とした新産業創出を通じ、福島が風車産業の一大集積地となることを目指す」という目的のもと、大規模な洋上風力発電の実証研究が2011年から始まっています。

正式名称は「福島復興・浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業」であり、総合商社、大学、造船、鉄鋼、機械、ゼネコン、銀行によるコンソーシアムが作られ、観測・予測技術、発電・変電技術、浮体設計や鋼材開発、環境評価、漁業との共存など、さまざまな側面で研究課題が設定されています。

福島沖合約20kmの海域で2013年11月に稼働を始めた発電能力2,000kWの風車「ふくしま未来」に続き、2015年12月からは「ふくしま新風」と名付けられた世界最大の浮体式超大型風車(ローター中心高105m、ローター最高点188.5m、発電能力7,000kW)が発電を始めています。

将来の風力発電の主力と期待され、洋上風力の実現や高度化に向けた研究開発は、今後もいっそう積極的に進められるとみられています。


引用・参考資料など

・世界風力会議(GWEC) Global Wind Report 2014. 2015-03.

・国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「日本における風力発電設備・導入実績」

・国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「風力発電ガイドブック(第9版)」

・国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) 「日本型風力発電ガイドライン策定事業の最終報告書」

・国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「スペインで蓄電池システムによる系統安定化の実証実験を開始 ―変電所に可搬式蓄電池システムを設置―」

日本風力開発(株) 「風力発電について」

四国電力「風力発電の特徴」

・環境省「風況マップ」

・環境省「再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書(2011)」

・電気事業連合会2014年度分 電力需要実績(確報)

・九州大学応用力学研究所 九州大学発 世界初!浮体型複合洋上発電 「レンズ風車」を利用した複合洋上発電ファーム

・福島洋上風力コンソーシアム 世界最大の浮体式洋上風力発電設備「ふくしま新風」が実証海域に到着


<コンテンツ改訂について>
2008年8月:初版を掲載
2016年7月:改訂版に更新