イワナの多様性から悠久の分水嶺を読み解く!
発表日:2023.01.05
摂南大学、北海道大学、京都大学および岐阜県水産研究所からなる共同研究グループは、イワナ亜種群とそれらの地理的隔離に関する「生物地理学」的アプローチの成果を発表した。イワナは河川源流に棲息し、釣りの対象として人気が高い。全身に散りばめられた白い斑点の違いから、複数の亜種に区分されている。他方、河川の流路はダイナミックな(動的な)地形変化の影響を受ける。とりわけ源流域では「河川争奪(stream capture)」に伴う水系の再編成が起きやすく、流れの変化とともに水生生物の遺伝子拡散も進行する。本研究では、典型地形などにおけるイワナのサンプリング戦略を考案し、分子生物学的な手法を組み合わせて未知の河川争奪の検出に迫っている。遺伝的集団構造は、ゲノム網羅的(ゲノムワイド)な多型解析を用いて分析した(ベイズ型クラスタリングアプローチ)。その結果、本州(中部以西)のイワナ亜種群を初めて遺伝的に分離し、慣習的な呼び名が付されているニッコウイワナ(日本海型)、ヤマトイワナ(太平洋型)に加え、「琵琶湖型」の判別に成功した。また、現在は日本海に注ぐ水系に生息するイワナ個体群が「琵琶湖型」に属していること、すなわち河川争奪が「水系を越えたイワナの分布拡大」に寄与している証拠をつかまえた。また、現在の源流間距離が2,000 m未満、または現在の地形で標高差が200 m未満の多くの地点で、過去の河川争奪事象を示唆するデータが得られた。本成果は、魚類在来個体群の自然分布から地形形成史を紐解くことができることを実証したものであり、水生生物調査の一環として、さらには学際的研究スキームへの展開などが期待できる。
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