リモートセンシングとは、対象物に触れることなく、離れたところから物体の形状や性質などを観測する技術である。人工衛星や航空機などに搭載したセンサー(測定器)を用いて、地表面・水面・大気中の様々な物質による太陽光の反射波や、物質そのものからの熱放射、センサーから発射したマイクロ波の反射波などを観測し、物体ごとの電磁波の反射・放射特性(分光特性)を利用して、物体の識別を行う。最近では、UAV(無人航空機:ドローン)や車両、船舶による観測など多様であり、目的に応じて様々なセンサーが開発されている。気象や地球環境などの人工衛星による広域な観測から、都市や地域など陸上の限られた範囲まで様々なスケールで観測することが可能になっている。
図1 いろいろなリモートセンシング
出典:地球空間情報技術ミュージアム
出典URL:http://mogist.kkc.co.jp/history/development/04/index.html
※掲載内容は2019年3月時点の情報に基づいております。
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リモートセンシングは、人工衛星や航空機などを用いて、大気や地表の状況を広域的かつ短時間に観測できるという特長がある。そのため、環境観測のための重要な手段になっており、植生分布の把握、地表面形状の観測、水域の水質・水温の観測、雲や雨などの気象状況の観測など、幅広い分野に適用されている。
初期のリモートセンシングは、気球や航空機を用いた航空写真であり、観測範囲は限られていたが、人工衛星の開発とともに地球規模での観測が可能になった。
1972年には「ランドサット(Landsat)1号機」が米国によって打ち上げられ、地球観測に使用された。日本でも最初の地球観測衛星「もも(MOS-1)」が1987年に打ち上げられた。その後、世界各国で多くの地球観測衛星が打ち上げられ、日本では「だいち2号(ALOS-2)、「しきさい(GCOM-C)」、「いぶき2号(GOSAT-2)」などが運用されている。
1980年代以降のデータ解析技術の進歩により、リモートセンシングで得られる大量の観測データは、迅速かつ効率的に解析することが可能になった。さらに、人工衛星や航空機などに搭載するセンサーの性能向上や、インターネットをはじめとする情報通信技術の進歩も加わって、リモートセンシングの利用分野は急速に拡大している。近年では、UAV(ドローン)やレーザーセンサーを搭載した船舶など衛星や航空機以外のリモートセンシングが増えている。
電磁波には人間の目に見える光(可視光)をはじめ、X線、紫外線、赤外線、マイクロ波などがある。地球上のあらゆる物体は、これらの電磁波が降りそそぐと、その物体を構成する物質の種類や状態に応じて、異なる波長の電磁波を反射、吸収あるいは透過する。
また、物体自身からもその温度に応じた電磁波を放射している(図2)。リモートセンシングでは、こうした物体ごとの電磁波の反射・放射特性(分光特性)や、形状に関する情報などを利用して、物体の識別を行う。
図2 各波長帯における植物、土、水の電磁波の反射と放射の強さ
出典:JAXA第一宇宙技術部門 リモートセンシング基礎講座
出典URL:https://www.eorc.jaxa.jp/hatoyama/experience/rm_kiso/mecha_howto.html
リモートセンシングのセンサーを搭載する機体を「プラットフォーム」という。プラットフォームには、人工衛星、航空機、UAV(ドローン)などの飛翔体、車両や船舶などが用いられる。また、地上に設置する固定式のプラットフォームなどがある。
センサーは地上や海洋、大気などから反射・放射される可視光線、赤外線、マイクロ波などを観測する受動型(受動センサー)と、電磁波を観測対象に向けて照射し、その反射波を観測する能動型(能動センサー)に大別される。観測目的に応じて波長の範囲をセンサーごとに設定しているため、観測できる波長の範囲はセンサーの種類によって異なる。
衛星のリモートセンシングでは、衛星の軌道やセンサーの性能、通信容量などの制約により、一度に観測できる観測幅(空間範囲)とその範囲をどの程度精密に観測できるかを示す空間分解能(空間単位)はトレードオフの関係になる(図3)。そのため、観測の対象や目的に応じて、適切な空間分解能や観測幅を選択することが重要になる。地球規模の環境観測では、空間分解能を抑え、観測幅を優先することで、広範囲を高頻度に観測できるようシステムを設計している。
図3 衛星リモートセンシングにおける観測幅と空間分解能
出典:国立環境研究所ニュース24巻4号
「衛星リモートセンシングによる地球環境観測」
出典URL:http://www.nies.go.jp/kanko/news/24/24-4/24-4-04.html
受動型センサーのうち、物体による太陽光の反射波を観測する可視・近赤外センサーは、多くの人工衛星に搭載されている。物体自身から放射される熱赤外線を観測する熱赤外センサーは、一般的に気象衛星に搭載され、海水面の温度分布や雲の温度の観測などに利用されている。また、太陽光が観測対象から反射された光を観測する、白黒のパンクロマティックセンサー、複数波長の光を観測するマルチスペクトルセンサー、超多波長の光を観測するハイパースペクトルセンサーなどがある。
能動型センサーにはレーザー光を使用したライダーやマイクロ波を使用したレーダーがある。ライダーはセンサー自身からレーザー光を照射し、対象物から反射して戻るまでの時間を観測することで、対象物までの距離を観測できる。近年では、反射強度や反射波も記録し、対象物の特徴を得ることも行われている。地表から上空の大気へのレーザーを照射することによって、大気中のエアロゾルなどを観測する方法や、航空機にセンサーを搭載し、森林の3次元観測を行う方法がある。
レーダーは、衛星から発射したマイクロ波に対する対象物の散乱の強さ(後方散乱係数)を測定するものである。地球観測衛星に搭載した合成開口レーダーにより、天候条件や昼夜問わず地表面の状態や地形の変化、森林伐採、災害状況の把握などに使用される。
人工衛星に各種観測センサーを搭載して、地球を観測する。陸域や海域、雲などからの反射、あるいは自らが放射した電磁波を観測する。近年では、超小型から大型のものまで非常に多くの人工衛星が打ち上げられており、搭載しているセンサーの空間能や観測幅も多様化している。
[1]地球表面の観測
光学センサーやレーダーなどで、陸域や海域など地球の表面の画像を得ている。地形や地表の土地利用などがわかる。陸域観測技術衛星「だいち2号(ALOS-2:合成開口レーダーなどを搭載)」、「しきさい(GCOM-C:多波長光学放射計などを搭載)」などのデータを利用する。
[2]地球環境の観測
二酸化炭素など大気中の温室効果ガスの濃度が観測されている。「いぶき(GOSAT)」および「いぶき2号(GOSAT-2)」は温室効果ガス観測技術衛星である。GOSATは、地表面や大気から届く赤外線を観測し、二酸化炭素やメタンが特定の波長の光を吸収する性質を利用してそれらの量を算出する。TANSOという観測装置が搭載され、TANSOは温室効果ガス観測センサー(TANSO-FTS)と雲・エアロソルセンサー(TANSO-CAI)から構成されている。TANSO-FTSは光の干渉を利用したセンサーで、地表面で反射した太陽光や、地表や大気自体から放射される赤外線のスペクトルを観測する。TANSO-CAIは、温室効果ガス測定の誤差の要因になる雲やエアロゾルを観測し、温室効果ガスの観測精度を向上させる。
図4 「いぶき(GOSAT)」による観測の概念図
出典:GOSATプロジェクトウェブサイト
出典URL:http://www.gosat.nies.go.jp/index.html
[3]気象観測
赤外放射などの強度を測定し、雲の分布を観測する。また、大気層の温度や湿度を測定し、降水状況を観測する。気象衛星には静止気象衛星と極軌道気象衛星があり、世界各国で打ち上げられている。静止気象衛星「ひまわり」は可視光、赤外線などから大気や海洋などを観測する。
航空機センサーでは、デジタル航空カメラとライダーが普及している。これらのセンサーは本来測量を目的としたものだが、近年は多方面で活用されている。デジタル航空カメラでは、マルチスペクトルセンサーと同様の画像が得られる。ライダーは、地形の面的な把握以外にも植生の立体構造などの分析に利用されている。
UAV(ドローン)は、数十メートルあるいはそれ以下の低い高度から各種センサーを用いて高解像度の画像を迅速に取得できる。災害調査や農地診断、農薬散布など農業の作業効率化に用いられている。
地上では、可視・熱赤外画像やレーザーセンサーなどが、土木構造物の劣化診断などに利用されている。また、デジタルカメラを用いた定点観測により、生態系のモニタリングが行われている(図5)。自動車などの車両では、GPS、三次元レーザーセンサー、GPSなどを搭載して移動しながら観測するモバイルマッピングシステムが急増している。道路やその周辺の映像や三次元データが取得できる。
図5:山小屋に設置したカメラの例
出典:国立環境研究所地球環境研究センターニュース27巻4号
出典URL:http://www.cger.nies.go.jp/cgernews/201607/307003.html
水中では音波を用いて、海底や水底の地形が観測されてきたが、近年では高分解能のナローマルチビームが導入され、短時間で広範囲、高密度の画像データが得られるようになっている。ナローマルチビームは音響ビームを扇状に発射、受信しながら海底地形を測量する。また、海洋短波レーダーは電波を発信、受信しながら数十キロメートル四方の海水面の流れなどを観測できる。これらは航行安全、漁場調査、海洋環境保全などに利用されている。水中でもカメラ技術が活用され、ロボット船舶に取り付けた水中カメラによる海底などの観測が行われている。
リモートセンシングは長い歴史をもつ一方で、急速に多様化、高度化している。近年では、デジタル通信技術の発展により、デジタルカメラやビデオカメラを利用したリモートセンシングが増えている。今後は、デジタルカメラやスマートフォン、ロボットなどを利用して観測対象に近づき、人工衛星よりも高頻度の観測と高い解像度の画像による観測ネットワークが広がっていくこと、データの解析にAIが利用されることが予想される。
・村井俊二「改訂版 図解リモートセンシング」(社)日本測量協会
・日本リモートセンシング学会「基礎からわかるリモートセンシング」理工図書
・国立環境研究所 環境儀
37号「科学の目で見る生物多様性-空の目とミクロの目」
69号「宇宙と地上から温室効果ガスを捉える-太陽光による高精度観測への挑戦」
・国立環境研究所ニュース
24巻4号「衛星リモートセンシングによる地球環境観測」
26巻1号「人工衛星から大気中の温室効果ガスの量を測るには」
26巻4号「浅海底自動観測システムの紹介」
31巻2号「新しい分光リモートセンシング技術の開発」
27巻4号『「地球温暖化の事典」に書けなかったこと14-デジカメの観測網で植物フェノロジーの長期変動を探
・国立環境研究所プレスリリース(2018年11月30日)「リモートセンシングによって観測可能な光学データによる植物の光合成速度推定方法の開発」