当事者性学習論:環境・福祉・多文化共生に向き合う学びを紐解く
発表日:2025.07.01
神戸大学大学院人間発達環境学研究科の後藤聡美助教は、日本の福祉教育やボランティア学習の実践に根ざした新たな学習理論「当事者性学習論」に関する論文を発表した(掲載誌:International Journal of Lifelong Education)。この理論は、学習者が社会的課題との関係性を持ち、その関係性が変容するプロセスを学びの契機と捉えるものである。
「当事者性(tojisha-sei)」とは、学習者が特定の社会的テーマや問題に対してどのような距離や関係性を持つかを示す概念であり、後藤氏はこれを固定的な属性ではなく、変化し得る関係性として再定義した。学習者は複数の当事者性を持ち、他者との偶発的な出会い(邂逅〈かいこう〉)によってその関係性が変化することが、学びの深まりにつながるとされる。
この「当事者性の邂逅」は、ESD(持続可能な開発のための教育)や多文化共生、開発教育などの現場において、異なる価値観を持つ人々が同化や棲み分けではなく、葛藤を抱えながらも学び合う場づくりに貢献する可能性がある。震災や公害問題、地域づくりなどの実践においても、当事者性学習論を用いることで、より深い分析と実践的な展開が期待される。
当事者性学習論は、日本の社会的・文化的文脈に根ざした独自の理論である。一方で、「当事者性」という概念そのものは、国際的な教育理論にも類似の発想が見られる。たとえば、変容的学習論や批判的教育学、参加型アクションリサーチなどは、個人の経験や社会との関係性を重視する点で共通している。
当事者性学習論により、環境問題への取り組みや環境保全活動の成り立ちを理論的に説明することが可能となる。環境課題は典型的な社会的課題であり、学習者が当事者として関わることで、関心や行動が変化する可能性がある。――偶発的な「当事者性の邂逅」が市民の参加を促す契機となり、環境学習における理解の深化につながることが期待される。
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