越冬地における渡り鳥保全―支援意識の鍵は心理的つながり
発表日:2025.08.04
森林総合研究所・北海道大学ほか、国内外の9大学・研究機関からなる研究グループは、日本の代表的な渡り鳥であるキビタキとノビタキの渡り経路を明らかにするとともに、越冬地である東南アジアでの保全活動に対する日本人の支払い意志額に影響する要因を調査した。
渡り経路の解明には、小型の照度計「ジオロケーター」を用い、北海道で装着した個体のうち、帰還したキビタキ18個体、ノビタキ13個体からデータを回収した。解析の結果、キビタキは南西諸島・フィリピンを経由してボルネオで越冬し、春にはインドシナ半島・中国を経由して日本へ戻る「時計回りの環状経路」を示した。一方、ノビタキはインドシナ半島と日本の間を中国経由で往復しており、従来知られていなかった本州経由の南下ルートも確認された。
また、東南アジアでの森林・湿地保護や環境保全型農林業に対する支払い意志額を、日本人を対象にオンラインアンケートで調査した。その結果、支払い意志額に最も強く影響していたのは、回答者の「自然との心理的つながり」であり、渡り経路の提示や保全団体の写真提示はほとんど効果がなかった。保護区への支払い意志額は環境保全型農林業よりも高かったが、東南アジアでは人間活動との両立が求められるため、後者の社会的認知度向上が課題とされた。
本成果は、リリースの原題「遠くの自然を守るには、近くの自然とのつながりが大切」および副題「渡り鳥の越冬地における保全活動への支払い意志額に影響するもの」が示すように、地理的に離れた地域での生物多様性保全に対する社会的支持を高めるには、人々が幼少期から自然に触れる体験を通じて、自然との心理的なつながりを育むことが重要であることを示している。――なお、本研究は、渡り鳥の渡り経路に関する生態学的分析と、越冬地での保全活動に対する支払い意志額に関する社会科学的分析の2つの成果から構成されており、それぞれの論文が2025年4月4日に『Animal Conservation』誌、5月27日に『Journal of Ornithology』誌に掲載されている。
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