九大✕山形大、300℃で世界最高のプロトン伝導率達成~SOFCの低温運用に迫る
発表日:2025.08.08
九州大学エネルギー研究教育機構の山崎仁丈教授らの研究グループは、山形大学および科学技術振興機構(JST)との共同研究により、300℃で世界最高のプロトン伝導率を示す安定酸化物を開発した(掲載誌:Nature Materials)。
同研究グループが開発した安定酸化物は、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の中温動作(300℃)に適した電解質材料となり得るもので、スズ酸バリウム(BaSnO₃)およびチタン酸バリウム(BaTiO₃)にスカンジウム(Sc)を高濃度で置換した酸化物である(BaSn₀.₃Sc₀.₇O₃₋δおよびBaTi₀.₂Sc₀.₈O₃₋δ)。これらの酸化物は、SOFCの電解質に求められるプロトン伝導率0.01 S/cm以上を300℃で初めて達成した。従来のSOFCは700~800℃で動作し、高価な耐熱材料が必要であったが、動作温度を300℃程度に下げることで、より安価な材料の使用が可能となり、家庭用や車載用などへの多用途展開が期待される。また、CO2耐久性を評価した結果、98%CO2雰囲気下で398時間の安定性が確認された。
さらに、共同研究者である山形大学の笠松秀輔准教授らが機械学習ポテンシャルを用いた分子動力学シミュレーションを実施したところ、ScO₆八面体が連結した原子配列が高速なプロトン移動を可能にしていることが明らかになった。これは、1981年のプロトン伝導性酸化物の発見以来、課題とされてきた「プロトントラップ」の回避方法を初めて提案・実証した成果となる。
本研究は、JSTのCREST、GteX、創発的研究支援事業、SPRINGなど複数の支援を受けて実施されており、スーパーコンピュータ「富岳」も活用された.
SOFCの低温動作化と多用途化を加速する要素技術として、今後の応用展開が期待される。