2年間の短期データで30年間の海岸線季節変動を高精度予測
発表日:2025.09.18
(国研)海上・港湾・航空技術研究所 港湾空港技術研究所と京都大学防災研究所の共同研究チームは、2年間の短期データによるモデル学習によって高精度な「海岸線の季節変動予測」を実現する手法を開発した(掲載誌:Geophysical Research Letters)。
海岸線は波浪や海流などの外力によって常に変化する動的な指標であり、侵食・堆積傾向の把握や防災計画において重要な役割を果たす。従来の数値モデルでは、長期間の観測データを用いたキャリブレーションが一般的であるが、異なる時間スケールの変動が混在することで、季節変動や長期トレンドの再現精度が低下するという課題があった。
本研究では先ず、茨城県波崎海岸の波浪データと海岸線変動データに関して、クロススペクトル解析(CPSD)と離散ウェーブレット変換(DWT)を用いて時間スケール別に変動を分離。次いで、波浪に起因する季節的な海岸線変動を抽出し、2年間の短期データでモデルをキャリブレーションすることで、約30年間(1986〜2015年)にわたる季節変動を高精度に再現することに成功した。
この「時間スケール分離型キャリブレーション手法」は、モデルが特定の周期に焦点を当てることを可能にし、予測性能を大幅に向上させるとともに、必要なデータ量を削減できる利点がある。特に、衛星画像などによる短期観測が主流となりつつある現代において、数年分のデータから信頼性の高い予測が可能となる点は、データが限定的な沿岸域における海岸管理や防災計画に大きく貢献する。
研究チームは、今後この手法を他の海岸線モデルにも適用し、複数の外力要因を考慮した包括的な予測モデルの開発につなげる方針だ。「気候変動に伴う熱帯低気圧の強度増加が予測される中、波浪による季節変動の正確な予測は、沿岸防災の高度化に不可欠である」と述べている。
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