ニホンザルの二重消化戦略—季節に応じて腸内微生物の機能が適応
発表日:2025.09.26
京都大学生態学研究センターの半谷吾郎准教授とLee Wanyi特定助教らの研究グループは、屋久島に生息する野生ニホンザルの季節による食性変化に対応する腸内細菌叢の適応メカニズムを解明した(掲載誌:Ecology and Evolution)。
ニホンザルは果実や種子を好むが、冬季には葉や樹皮などの低栄養資源に依存する。これらの繊維質はサル自身の酵素では十分に消化できず、腸内細菌による発酵が不可欠となる。腸内細菌は繊維を分解し、短鎖脂肪酸(SCFA)というエネルギー源を生成する。これまで腸内細菌の組成が季節で変化することは知られていたが、消化機能との直接的な関係は十分に解明されていなかった。――研究グループは、1年間にわたり屋久島で行動観察と糞試料の採取を継続し、16S rRNA遺伝子解析によって腸内細菌叢の構成を把握。さらに、試験管内発酵実験を実施し、実際に摂取される葉や餌を基質として、腸内細菌の発酵能力を直接評価した。その結果、腸内細菌は季節に応じて機能を柔軟に変化させ、冬季には葉の発酵能力が高まり、果実・種子に対しては季節を問わず高い発酵能力を維持することが明らかとなった。
この二重戦略は、野生動物が厳しい環境を生き抜くための重要な適応機構であり、腸内細菌が宿主の生存戦略に深く関与していることを示している。今後は、メタゲノム解析や代謝産物解析を通じて機能の普遍性や多様性を検証し、他の霊長類や地域集団との比較研究を進める予定である。――本成果は、腸内細菌が野生動物の消化機能を支える「隠れた武器」として機能することを示すものであり、保全生態学や野生動物管理にも波及効果が期待される。本研究は、文部科学省科学研究費補助金、日本学術振興会特別研究員奨励費、大幸財団、京都大学野生動物研究センター共同利用・共同研究拠点事業の助成を受けて実施されたものである。