約7,300年前の巨大噴火後にヤクシカの遺伝的多様性が増加
発表日:2025.11.28
北海道大学北方生物圏フィールド科学センターと同大学大学院地球環境科学研究院の研究グループは、屋久島に生息するニホンジカ固有亜種「ヤクシカ」の遺伝的多様性を全島規模で解析し、数千年前の巨大噴火による火砕流が遺伝構造に影響したことを明らかにした(掲載誌:Scientific Reports)。
約7,300年前、屋久島北西沖の鬼界カルデラで海底火山の巨大噴火が発生した。この噴火は島の大部分を火砕流で覆い、ヤクシカ個体群は「壊滅的な減少(ボトルネック)」を経験したと推定される。一方、屋久島に同所的に生息するヤクシマザルは遺伝的多様性が低く、噴火の影響が長期的に残った可能性が指摘されていた。
研究グループは、2004年から2017年に採集したシカの糞からミトコンドリアDNAを抽出し、変異速度の速い制御領域894塩基対を解析した。303サンプルから18種類の遺伝タイプを確認し、島内の集団は北部と南部の二つに大別された。北部は火砕流の影響が大きかった地域、南部は比較的小さかった地域に対応していた。また、西部海岸部は火砕流の影響を強く受けながらも、他の8地域と異なる独自の遺伝的特徴を示した。さらに、ボトルネックの後に、北部集団は急速に個体数を回復し、南部より高い遺伝的多様性を獲得したことが示唆された。この回復時期は約4,900〜6,500年前で、植生の再生期と一致する。
研究者らは、地域差が現在の遺伝構造に反映されていることを強調し、特に西部海岸部の集団保全が重要であると述べている。