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 広域カエルマップを迅速作成~水田生態系保全の新しい目標を発見 東邦大と国環研

発表日:2022.11.10


  東邦大学と国立環境研究所の研究グループは、「関東平野(広さ:約1万7,000 km2)」におけるカエルの分布状況を効率的に調べ、複数の空間スケールを考慮した解析を行い、“健全な水田生態系の維持”に資する基礎的な知見を得ることに成功した。本研究は保全生態学の視座から組み立てられており、近年の生物多様性喪失に歯止めをかけるためには、生息地の環境をより不均一なものとすることが望ましいという考え方に立脚している。他方、生物の種数や個体数は空間スケールによって捉え方が異なり、空間スケールには包括関係・階層性があると考えられている。水田生態系の場合、圃場は大きな農業地域の一部に属し、河川や水路、他の圃場とネットワーク化されているため、圃場の種数等は地域全体の「環境要因」などの影響を強く受けることになる。同研究グループは、こうした特性を踏まえ、水田に生息する生物の分布に影響をおよぼす景観的要因(ランドスケープ)の不均一性の解明に取り組んだ。複数の空間スケールでの検証を実現・効率化するために、「繁殖期のカエルの鳴き声(アドバタイズメントコール)」調査法を採用している。この手法は野外における生物調査として普及しており、ICレコーダーを用いて録音する簡便な手法であるため専門家・熟練者以外の協力も得やすい。関東平野の標高180m以下の200地点において、2018年5月・6月の夜間に各地点あたり月1回ずつの鳴き声調査を行った結果、ニホンアマガエル、トウキョウダルマガエル、シュレーゲルアオガエル、ヌマガエル(西日本からの国内移入種)、ウシガエル(特定外来生物)の5種の鳴き声が検出された。生物統計学・ニッチモデル・個体数モデルを駆使して、ウシガエルを除く4種の鳴き声データを解析した結果、3つの空間スケール(河川流域、景観、水田)における各種の分布パターン、個体数の「空間的不均一性」および環境選好の違いが明らかになった。空間解析の一環として地図化を行い、他の地図と重ね合わせ、関東平野全域における各種の存在確率と相対的な生息数の多さを解析した結果、周囲に森林が多い水田環境を選好しやすいシュレーゲルアオガエルは平野の中央部に少なく、平野部の辺縁や丘陵地といった森林が多い地域に分布し、生息地内の水田環境の特徴(湛水時期)に影響を受けやすいトウキョウダルマガエルは主に平野の中央付近に分布することが明らかになった。すなわち、この2種の存在をもって空間的な不均一性を説明できることが示唆された。種数や生息数は関東平野の東側の方が多いという大きな傾向も見い出されている。本手法は地域的な生息環境の違いや移入種・絶滅危惧種の検出などの広域的なモニタリングにおいても有効であるという。

情報源 東邦大学 プレスリリース
国立環境研究所 報道発表
機関 東邦大学 国立環境研究所
分野 自然環境
キーワード 生物多様性 | ランドスケープ | 関東平野 | 水田生態系 | 保全生態学 | 空間スケール | 景観的要因 | 沖積平野 | カエルの鳴き声 | 不均一性
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