CO2回収・貯留(CCS)

温室効果ガスの代表格であるCO2(二酸化炭素)は、世界で年間約326億トン(2012年)が排出されています。太陽光や風力などの代替エネルギーの開発やエネルギー利用の効率化でCO2排出量を減らす努力が進められる一方で、化石燃料由来のCO2を大気に放出するのではなく、地中や海底などの別の場所に隔離し閉じ込める「CO2回収・貯留」(以下、CCS =Carbon dioxide Capture and Storage)に関心が集まっています。

2006年に改正された海洋汚染の防止を定めた国際条約「ロンドン条約96年議定書」では、CO2が廃棄物等の海洋投棄の例外とされ、日本も2007年に海洋汚染防止法を改正して、この条約を批准しました。

2008年のG8北海道洞爺湖サミットの首脳宣言でも、「2010年までに世界的に20の大規模なCCSの実証プロジェクトが開始されることを強く支持する」と重要性が強調されました。2011年には京都議定書の第7回締結国会合で、CCSのCDM(クリーン開発メカニズム)化のプロセスが採択され、関心がさらに高まっています。

現在、世界では稼働中のものから計画・構想中のものまで加えると、60件近くの大規模なCCSプロジェクトが報告されており、日本でも2016年度から「苫小牧プロジェクト」が操業を開始します。

ここでは、高い温室効果ガス削減効果が期待されるCCSの技術と課題、そして展望について紹介します。

※掲載内容は2016年3月時点の情報に基づいております。
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1. CO2の分離・回収

CO2の隔離では、発電所や製鉄所、石油精製工場などで発生するCO2濃度の高い排ガスに含まれるCO2を、アルカリ性溶液に吸収させることで、他の成分と分離して回収する「化学吸収法」が多く用いられます。

また、回収のタイミングで大別すると、前述のような排ガス(燃焼後)の分離のほか、事前に燃料を改質し、燃焼前に炭素を分離する方法(燃料電池などに適用)や、燃焼室に排ガスを循環させ、別に製造した酸素を加えながら燃焼を続けさせ、排ガス中のCO2濃度を高めて回収する方法もあります。

分離の手法もアルカリ性溶液を用いる方法だけでなく、多孔質の固体に吸着させたり、凝縮温度の違いによって分離(分留)する方法など複数あります。

開発や研究が進められている主な手法について以下に表で示します。

表1 主なCO2分離・回収方法
技術名 技術の概要
化学吸収 CO2を選択的に溶解できるアルカリ性溶液との化学反応によって、CO2を分離します。吸収されたCO2を取り出す際には多量の蒸気が必要です。アルカリ性溶液として、アミンや炭酸カリ水溶液などが使われます。
物理吸収 高圧下でCO2を大量に溶解できる液体に接触させ、物理的に吸収させます。そのあと、減圧(加熱)してCO2を回収します。
膜分離 多孔質の気体分離膜にガスを通し、孔径によるふるい効果や拡散速度の違いを利用してCO2を分離させます。
物理吸着 ガスを活性炭やゼオライトなどの吸着剤と接触させて、その微細孔にCO2を物理化学的に吸着させ、圧力差や温度差を利用して脱着させます。
深冷分離 ガスを圧縮冷却後、蒸留操作により相分離でCO2を分離します。

また、分離の過程での環境負荷を極力少なくする「環境配慮型CCS」という考え方にもとづき、アミン溶液を用いた分離・回収プロセスについて、漏出のリスク評価や環境負荷の把握などに関わる調査研究が進められています。環境負荷評価や、回収効率やエネルギー効率の評価などを通じ、対象に応じて適切な手法を選択することが重要となっています。

2. CO2の隔離

CO2の隔離先としては、地底や海洋底の地層の中が考えられています。

2.1 地中貯留への期待

CO2の貯留においては、隔離したCO2の大気中への漏出をどう避けるかが課題です。地中貯留に期待が寄せられる背景には、「化石燃料や地下水を長期間封じ込めていたような安定した地層ならば、CO2の隔離も長期間可能なはずだ」という考え方があります。

また、実際の石油井・ガス井でも、可採量を上げるため、地層中に天然ガスから分離したCO2や他の液体の注入が行われており、そのための技術も確立しています。地質調査技術なども含め、石油資源開発の技術体系が活用可能であることも、地中貯留に関心が集まる理由となっています。以下に地中貯留の種類を列記します。

帯水層貯留
CO2をタンカーやパイプラインで輸送して、地下の帯水層へ圧入し、貯留します。帯水層とは、粒子間の空隙が大きい砂岩等からなり、水あるいは塩水で飽和されている地層のことです。将来の貯留可能量が大きいと期待され、地中貯留のなかで最も有望視されています。

図1 帯水層貯留の概念図
出典:公益財団法人地球環境産業技術研究機構「CO2地中貯留プロジェクト」

炭層固定
CO2を地中の石炭層へ注入し、それによってメタンの回収を促進するとともにCO2を吸着貯留します。回収されたメタンは発電所などで利用します。
石油・ガス増進回収
CO2を石油・ガス層へ圧入し、それによって石油・天然ガスの回収を促進するとともにCO2を貯留します。回収された石油・天然ガスは発電所などで利用します。
枯渇油・ガス層貯留
CO2を枯渇した石油・ガス層へ圧入し、それによってCO2を貯留します。

2.2 海洋隔離の検討

かつては、CO2を海水に溶けこませたり、高い圧力が加わる深海底に液体の状態で送り込んでその場にとどめる「海洋隔離」も検討されました。

海洋汚染防止のための国際条約「ロンドン条約」は、廃棄物等の海洋投棄を原則禁止しています。同条約の1996年の取り決め(ロンドン条約96年議定書)の2006年11月の改正で、CO2が「海洋投棄を検討することができる廃棄物」として追加されました。日本も2007年に海洋汚染防止法を改正して、この条約を批准しました。これによりCO2は禁止廃棄物の例外となったわけですが、同議定書附属書Iでは「海底下地層への地中貯留に限定」としており、事実上の地中貯留のみが容認されている状態です。海水中にCO2を送り込む海洋隔離については、生態系への影響など未解明な部分が多く、さらなる影響評価や技術開発が必要とされています。

3. CCSの実証事例

3.1 世界の実証事例

海外においては、すでに実用規模のCO2地中貯留プロジェクトが実施されています。主な事例を以下に紹介します。

図2 大規模CCSプロジェクトの概観
出典:Global CCS Institute
http://www.globalccsinstitute.com/projects/large-scale-ccs-projects

スライプナー・プロジェクト
ノルウェーの石油・天然ガス採掘を行う企業が、1996年から北海で実施しています。海底下地層から採掘された天然ガスと一緒に発生するCO2を分離・回収し、年間100万トンを近傍の海底下帯水層に貯留しています。世界の大規模プロジェクトの中でもパイオニア的存在です。
ワイバーン・プロジェクト
2000年9月から、カナダのワイバーン油田において、CO2の圧入を実施しています。これはCO2を用いた石油増進回収を目的としたもので、325km離れた米国の石炭ガス化工場で発生したCO2をパイプラインで輸送し、圧入しています。2012年末までに累計で2450万トン、現在も年間300万トン規模での圧入を行っています。

3.2 日本の実証事例

日本でも過去には新潟県長岡市で実証実験が行われ、2016年度からは北海道苫小牧市で分離回収・輸送・圧入を一貫して行う設備が操業を開始します。

長岡での実証事例
新潟県長岡市の南長岡ガス田で、地球環境産業技術研究機構(RITE)によるCO2の帯水層貯留の実証試験が、経済産業省の補助事業として2000年度から実施されました。2003年7月から18か月間で合計約1万トンのCO2が地下約1100mの帯水層に貯留され、観測井などによる漏出モニタリングが行われました。
苫小牧プロジェクト
経済産業省の委託を受けた日本CCS調査は、2016年度から北海道苫小牧市で日本初の本格的な大規模実証試験を実施します。出光興産北海道精油所の水素製造装置から発生するオフガス(未利用で放出されるガス)からCO2を分離し、苫小牧沖の海底下・深度1100~1200mと、同2400~3000mの2つの貯留層に、年間10万トン以上を圧入する計画です。

図3 分離・回収/圧入基地のライブ映像
苫小牧プロジェクトでは、分離・回収/圧入基地のライブカメラ映像も公開しています。
出典:日本CCS調査株式会社
http://www.japanccs.com/?library_category=livecam

4. 地中貯留の開発テーマと課題

2006年に経済産業省が立ち上げた「二酸化炭素回収・貯留(CCS)研究会」での議論では、CCSの実施に向けての課題として、以下が挙げられました。

  • CCSの環境影響評価や監視システム
  • CCSの地球温暖化対策としての有効性評価
  • CCSのコスト削減
  • 分離・回収、輸送、貯留・隔離技術の開発・改良
  • 貯留・隔離地点の選択
  • 国際的な合意、国民の理解
  • 法制度の整備

これらの中には引き続き検討課題となっているものもあれば、大きな進展や変化が見られた課題もあります。

たとえば、法律や制度面からCCSを推進しようという動きは世界的な傾向となっています。欧州では2009年4月に「EU CCS指令」が採択され、各国にCCS関連の法律整備が求められています。英国では、新設される一定規模以上の発電所にCCSレディ(関連設備が追加可能)であることを求め、とくに石炭火力発電所については、より厳しい条件を課しています。こうした動きは北米や豪州でも見られます。

日本では、2012年4月に閣議決定された「第4次環境基本計画」において、「2020年頃までのCCS技術の実用化をめざす」としており、2016年度にスタートする苫小牧プロジェクトに期待が寄せられています。

一方、技術的側面から見ると、CO2に圧力をかけて地下に注入する際には、圧縮や移送のために多くのエネルギーが必要であり、その際に必要となるエネルギーの量を低減し、効率を上げるための技術開発は、依然として課題として残されています。

また、漏洩が少なく長期間安定して貯留できる場所をどのように探すかも、大きな技術開発のテーマとなっています。

さらに、CO2は放射性物質などと違って、もともと大気中にも存在している物質です。隔離されていたCO2が漏洩しても、それが隔離されていたものか、もともと大気中にあったものなのかを見分けるのは難しく、漏洩経路の確定も困難です。地中貯留が長期間にわたり安定した隔離となるかどうか、より厳密な検討が求められる理由です。

また将来、これら多くの課題が克服されCCSが実用化されたとしても、「CCSがあるから、化石燃料を多く燃やしてもかまわない」というものではないことも忘れてはなりません。

引用・参考資料など

[1] 全国地球温暖化防止活動推進センター. "世界のCO2排出量". EDMC/エネルギー・経済統計要覧. 2015, http://www.jccca.org/chart/chart03_01.html, (参照 2016-01-20).

[2] 日本CCS調査株式会社. http://www.japanccs.com/, (参照 2016-01-20).

[3] 経済産業省. ロンドン条約と96年議定書. http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g71121d11j.pdf, (参照 2016-01-20).

[4] キヤノングローバル戦略研究所. CCS(二酸化炭素の回収と貯留)の現状と展望. 2015, http://www.canon-igs.org/research_papers/energy/20150218_2962.html, (参照 2016-01-20).

[5] Global CCS Institute. http://www.globalccsinstitute.com/, (参照 2016-01-20).

[6] 経済産業省. "[CCSのあり方に向けた有識者懇談会」- 配布資料". 2013-07-03, http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sangi/ccs_kondankai/001_haifu.html, (参照 2016-01-20).

[7] 環境省. 平成26年度環境配慮型CCS導入検討事業委託業務報告書. 2015, http://www.env.go.jp/earth/ccs/h26_report.html, (参照 2016-01-20).

(2016年3月現在)
2006年12月:掲載
2016年9月12日:改訂版に更新