小規模排水処理技術

 わが国の公共用水域における水質の現状をみると、BODやCODなどの環境基準の達成率は、いまだ良好とはいえません。今後さらに水質改善を図るためには、排水規制の対象となっていない小規模な事業場においても、排水処理技術を積極的に導入・利用していくことが期待されています。今回は、小規模排水処理技術の現状を紹介します。

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1.小規模排水処理技術の重要性

 わが国の公共用水域における水質の現状をみると、有機汚濁の代表的な水質指標であるBOD(生物化学的酸素要求量)やCOD(化学的酸素要求量)の環境基準の達成率は、これまでかなり改善されてきているとはいえ、けっして良好な水準にあるとはいえず、今後とも水質改善に向けた努力が必要とされています(図1)。
 公共用水域の水質に影響を及ぼす排水の発生源として、水質汚濁防止法や瀬戸内海環境保全特別措置法に基づく届出が行われた特定事業場の数は、平成19年3月末現在で29万近くあります。しかしこの中で、BODなどの生活環境項目にかかる一律排水基準が適用される事業場(1日あたり平均排水量50m3以上)は4万にも満たず、特定事業場の大半は、排水規制のない小規模な事業場(1日あたり平均排水量50m3未満)となっています(表1)。

図1 環境基準達成率(BODまたはCOD)の推移

図1 環境基準達成率(BODまたはCOD)の推移
注1)河川はBOD、湖沼及び海域はCODである。
2)達成率(%)=(達成水域数/類型指定水域数)×100
(出典:環境省「平成19年版環境・循環型社会白書」)
出典URL:http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h19/html/hj07030301.html#3_3_1

表1 排水量規模別特定事業場数(平成19年3月末現在)
区分全特定事業場数1日あたりの平均排水量
50m3以上の事業場数
1日あたりの平均排水量
50m3未満の事業場数
水質汚濁防止法上の特定事業場284,97332,297252,676
瀬戸内海法上の特定施設を設置する工場、事業場4,1183,842276
合計289,09136,139252,952

(出典:環境省「平成18年度水質汚濁防止法等の施行状況」をもとに編集)
出典URL:http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=10826&hou_id=9324

 水質汚濁防止法等に基づく排水規制により、1日あたりの平均排水量が50m3以上となる比較的大規模な工場や事業場からの排水については、これまでに一定の成果があがっています。しかし、旅館業や畜産農業、飲食店業、食品製造業などに多い小規模事業場については、まだ十分な排水処理対策が行われているとはいえず、水質汚濁の要因として無視できない状況となっています。そのため、今後さらに公共用水域の水質改善を図っていくためには、従来からの排水規制とともに、これらの小規模事業場からの排水を適正に処理することが重要となっています。

2.多様な小規模排水処理技術

 小規模事業場における排水処理対策を考える場合、新たな排水規制を設けることは費用や効果の面からなじみにくいと考えられています。このため、具体的な対策としては、既存の排水処理施設に後付けできたり、メンテナンスが容易にできるなど、小規模事業場が自主的に導入できるような、安価で小規模な排水処理技術の普及が期待されています。
 これまでに開発された小規模排水処理技術には様々なものがありますが、基本的には表2に示す一般的な排水処理方法を適用したものとなっています。
 例えば、有害物質を含む排水については、排出量に関係なく処理が必要となります。その際、人体に有害な成分は、浄化用の微生物にとっても阻害性があるため、沈降分離装置や膜分離、イオン交換などの物理化学的処理方法が利用されています。
 一方、食堂・厨房や食品工場などから排出される排水は、生物処理が可能なものが多く、生物化学的処理を主体とした処理方法が用いられています。また、油分が含まれた排水も多いため、これを浮上させて除去する処理方法もみられます。
 その他、物理化学的処理と生物化学的処理を組み合わせた方法、あるいは事業場排水と家庭排水の処理系統の一本化など、個別処理だけでなく排水処理システムとしての改善を図る方法などもあります。

表2 排水処理方法の分類例
処理方法処理対象
物理化学的処理固液分離沈降分離装置汚泥、SS(浮遊物質)、色度、リン、BOD、COD、TOC(有機体炭素)
浮上SS、油分、BOD、COD、TOC
ろ過SS、濁度、汚泥
遠心分離汚泥
中和、pH調整pH
酸化BOD、COD、TOC、色度
吸着活性炭吸着 BOD、COD、TOC、色度
膜分離SS、BOD、COD、TOC、濁度、色度、イオン
イオン交換イオン
生物化学的処理好気性処理活性汚泥法
生物膜法
BOD、COD、TOC、色度
嫌気/好気生物学的硝化脱窒法窒素、リン
嫌気性処理メタン発酵法BOD、COD、TOC
上記両処理の組み合わせ好気性処理+凝集沈殿処理SS、BOD、COD、TOC、濁度、色度、リン
好気性処理+膜分離SS、BOD、COD、TOC、濁度、色度、リン

(参考文献:「紙パルプ排水への新しい排水処理技術の適用」中野淳,紙パ技協誌Vol.58(2004)No.10,紙パルプ技術協会)
出典URL:http://www.jstage.jst.go.jp/article/jtappij/58/10/1366/_pdf/-char/ja/

 小規模事業場のなかでも、一定程度の規模をもつ食堂・厨房や食品工場などでは、接触ばっ気や活性汚泥法の設備を備えた施設が少なくありません(図2)。また、物理化学的な処理装置を併設する場合もあります。ただし、排水の水質を確保・維持するためには、設置費用や設置スペース、管理要員の確保、メンテナンス経費など、事業場への負担も少なくないため、排水処理設備の効率化、省力化、省コスト化を図ることが課題となっています。

図2 標準活性汚泥法の概念図

図2 標準活性汚泥法の概念図
(出典:「膜分離活性汚泥法について」長岡裕,『ベース設計資料』no.132土木編,建設工業調査会)
出典URL:http://www.kenkocho.co.jp/pdf/132_09nh.pdf

 より小規模な食堂・厨房や食品工場では、グリストラップ(飲食業店舗などの厨房からの排水に含まれる油脂類を水と分離して収集する装置)を設置しています。グリストラップは、比較的簡便で安価である反面、適正な管理を怠ると、油脂分や残さが浮上して硬化したり、沈殿物の過度の堆積、悪臭の発生、害虫の発生、汚濁排水の流出などにつながるという課題があります。

3.環境技術実証モデル事業

 環境省による環境技術実証モデル事業は、平成15年度から開始されました。この事業は、すでに適用可能な段階にありながら、客観的な評価がなされていないために利用者が安心して使うことができず、普及が進んでいない先進的な環境技術について、その環境保全効果などを第三者機関(地方公共団体、公益法人など)が客観的に実証するものです。
 これまでに、酸化エチレン処理技術や山岳トイレ技術、ヒートアイランド対策技術などの技術分野を対象に実証事業が進められてきました。小規模な排水処理技術についても、平成15年度から実証事業(小規模事業場向け有機性排水処理技術)として実施され、表3のとおり20の技術について実証試験を終え、試験結果報告書が一般に公表されています。また、平成19年度には合計6件の申請があり、技術の先進性や環境保全効果の観点などから検討された結果、「固形有機物分解システム『ジャリッコ排水処理システム』((株)マサキ設備)」と「電解式汚水処理装置(DZ101KC)((株)エヌティ・ラボ)」の2件が実証技術対象に選定されています。
 この技術分野における実証項目は、「水質実証項目(pH、BOD、COD、SS、油分(n-HEX)など)」と「運転及び維持管理実証項目(環境影響、使用資源、運転及び維持管理性能)」に分けられており、それぞれの技術特性を適切に実証できるよう実証項目が決定されています。

表3 「小規模事業場向け有機性排水処理技術」実証済技術一覧(平成15~18年度)

平成15年度
実証済技術名申請者実証機関
微生物油脂分解・間欠式全面ばっ気法(株)ゲイト石川県
微生物油脂分解・生物処理法アムズ(株)
酵素反応・流動床式接触ばっ気法(株)水工エンジニアリング大阪府
油脂分解菌付着固定床式接触ばっ気法コンドーFRP工業(株)
複合微生物活用型・トルネード式生物反応システム(株)バイオレンジャーズ
凝集反応・電解浮上分離法(有)リバー製作所
浮上油等の自動回収処理システム広和エムテック(株)広島県
活性汚泥併用接触ばっ気法(株)アクアメイク
平成16年度
実証済技術名申請者実証機関
粉末凝集剤を用いた加圧浮上法(株)トーエネック広島県
浮上油自動回収システム(株)丸八
振動フィルター併用凝集加圧浮上法(株)御池鐵工所
担体流動槽式食堂排水処理装置フジクリーン工業(株)埼玉県
傾斜土槽法による厨房排水の高度処理装置(株)四電技術コンサルタント
膜分離活性汚泥法(株)クボタ香川県
生物膜(回転接触体)法積水アクアシステム(株)
微生物製剤添加型ハイブリッド生物処理法(株)エス・エル大阪府
揺動床式生物処理法デンセツ商事(株)
微生物共生材を使用した有機性排水の処理常磐開発(株)福島県
平成18年度
実証済技術名申請者実証機関
垂直重力式油水分離器(VGS)日東鐵工(株)大阪府
食品残さ簡易回収システム『ラクッちゃ~』(有)KOMATSU

4.地域における実用化技術の開発事例

 研究開発を軸とした地域経済の活性化を図るため、経済産業省では、「地域新規産業創造技術開発費補助事業」や「地域新生コンソーシアム研究開発事業」を通じて、産学官の共同研究体制による実用化技術の開発や、中堅・中小企業やベンチャー企業によるリスクの高い実用化技術の開発を支援しています。
 島根大学生物資源科学部・(株)イズコン・帝人エンジニアリング(株)・クリオン(株)による「中・小規模排水処理施設用高性能リン除去・回収装置の開発」が、平成18年度に地域新生コンソーシアム研究開発事業に採択されました。事業期間は平成19年度までで、(財)しまね産業振興財団が管理法人となって、開発が進められています。
 島根県には、全国有数の汽水湖である宍道湖・中海があり、平成17年にはラムサール条約に登録されています。また、同年には水質保全対策を総合的かつ計画的に推進するために、第4期宍道湖・中海湖沼水質保全計画が作成されています。
 この技術開発は、高性能リン吸着剤を用いて、中・小規模排水処理施設用の高性能リン除去・回収装置を開発するものであり、宍道湖・中海などの閉鎖性水域における富栄養化の抑制に効果を発揮することが期待されています。
 研究グループでは、汚泥を発生させずに排水中からリンを除去・回収・再資源化することができ、維持管理が容易で、かつコンパクト・省エネ型のリン除去・回収装置をめざしています。具体的には、処理水量が1日100m3で、大規模排水処理施設に匹敵する高いリン除去能力(全リン濃度 0.5mg/L以下)を有し、メンテナンスは従来の中・小規模排水処理施設のレベル(2週間に1回程度)で対応できることを目標としています。
 この装置の技術的特徴は、高いリン吸着力をもつ無機層状イオン交換体であるハイドロタルサイト(HT)が活用されていることです。HTは、アルミニウムとマグネシウムで形成する基本層の層間に、水中のリン酸イオンを選択的に大量に吸着することができ、イオン態でリンを吸着することから汚泥の発生もありません。さらに、塩化物イオンを加えると、吸着したリン酸イオンと入れ替わり、容易にリンを回収できるほか、HTを再利用することもできます(図3)。今回のプロジェクトでは、HTを繊維に内包させたHTCF(HT担持繊維)が用いられています。また、リンはリン鉱石の主成分であるヒドロキシアバタイト(HAP)として回収されます(図4)。

図3 ハイドロタルサイト(HT)によるリンの吸着と再資源化

図3 ハイドロタルサイト(HT)によるリンの吸着と再資源化
(出典:「中・小規模排水処理施設用高性能リン除去・回収装置の開発
経済産業省中国地方整備局『地域づくり施策集・事例集/商工業の振興・産学官連携:事例一覧』)
出典URL: http://www.cgr.mlit.go.jp/chiiki-sesaku/shoko/shoko_jirei/shoko08.pdf

図4 プロジェクトにおけるリン除去・回収の流れと装置

図4 プロジェクトにおけるリン除去・回収の流れと装置(島根大学佐藤利夫教授提供)

5.小規模排水処理技術の開発傾向

 小規模事業場が排水設備を設置する際に求めるものは、適切な排水水質の確保とその維持・向上は当然のことながら、衛生や臭気問題のクリア、簡便な操作性や小型化、低コスト、メンテナンスの容易さなど多岐にわたっています。
 こうした要請に対して、排水処理技術の開発企業では、従来の排水処理技術に改良を加えたり、新規の処理技術を考案するなど、事業場の規模や排出水量、除去すべき対象物質の種類などに応じたさまざまな処理技術を提供しています。近年の技術開発の傾向を概観すると、表4のように整理できます。

表4 近年の小規模排水処理技術の内容と主な効果
処理方法技術の内容主な効果
物理化学的処理傾斜土槽によるろ過処理水質の改善
粉末凝集剤の開発と投入余剰汚泥の減量化
電気分解発生気泡による浮上分離固液分離の向上
排水の落下処理による混合・攪拌装置の目詰まり防止
既存グリストラップの流入部にネットの取り付け油脂分離効率の向上
生物化学的処理特殊な油脂分解菌の開発とばっ気槽などへの装着や投入油脂分解効率の向上
同一槽内での複数処理方法(例:活性汚泥法+生物膜法)の組み合わせ油脂分解効率の向上
浄化槽の前段階への油脂分解槽の設置油脂分解効率の向上
新規ろ材の開発と充填や装着油脂分解効率の向上
リン吸着剤の開発と装着リンの除去・回収
生物膜法(回転円板式)の応用設備の小型化
既存グリストラップに油回収装置の付加設置油脂回収効率の向上
既存グリストラップに油脂分解槽の付加設置油脂分解効率の向上
両処理の組み合わせ既存の活性汚泥法設備への膜分離槽の後付け処理水質の改善
その他合併排水と事業場排水との併合処理排水処理系統の一本化

6.普及に向けて

 小規模事業場からの排水の水質を改善することは、公共用水域の水質浄化のために不可欠です。近年、こうした小規模事業場向けの排水処理技術の開発・改良が多くの企業によって進められており、その普及を図る施策も続けられています。今後はさらに、行政による広報や支援などにより、水質改善の重要性に対する意識啓発や、事業場の自主的導入が促進されることが期待されています。

引用・参考資料など

1)環境省
「環境技術実証モデル事業」
2)環境省(平成20年2月8日 報道発表資料)
「平成18年度水質汚濁防止法等の施行状況について」
3)東京都
「社会福祉施設管理者のための環境衛生設備自主管理マニュアル」
4)(社)浄化槽システム協会
「浄化槽システム協会のホームページ」
5)長岡裕(武蔵工業大学准教授)(ベース設計資料no.132土木編,建設工業調査会)
「膜分離活性汚泥法について」
6)中野淳(住友重機械工業(株))(紙パ技協誌Vol.58(2004)No.10,紙パルプ技術協会)
「紙パルプ排水への新しい排水処理技術の適用」
7)泉忠行((株)ダイキアクシス)(月刊浄化槽2007年4月号)
「小規模事業場の排水処理」
8)経済産業省中国地方整備局
「地域づくり施策集・事例集」
(2008年3月現在)