小規模排水処理技術

日本の公共用水域における水質の現状をみると、BODやCODなどの環境基準の達成率は、いまだ良好とはいえません。今後さらに水質改善を図るためには、排水規制の対象となっていない小規模な事業場においても、排水処理技術を積極的に導入・利用していくことが重要です。今回は、小規模排水処理技術の現状を紹介します。

農村生活排水処理施設の図

小規模な生活排水処理施設の一例

※掲載内容は2018年3月時点の情報に基づいております。
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1. 小規模排水処理技術の重要性

日本の公共用水域における水質の現状をみると、有機汚濁の代表的な水質指標であるBOD(生物化学的酸素要求量)やCOD(化学的酸素要求量)の環境基準の達成率は、かなり改善されてきているとはいえ、未だにけっして良好な水準にあるとはいえず、今後とも水質改善に向けた努力が必要とされています(図1)。

公共用水域の水質の汚濁を防止するため、「水質汚濁防止法」と瀬戸内海の環境の保全を目的とした「瀬戸内海環境保全特別措置法」では、人の健康を害するおそれのあるもの、または生活環境に対して害をもたらすおそれのあるものを含んだ水を流す施設を「特定施設」として定めています。特定施設が設置される工場や事業場は、水質汚濁防止法にもとづく各種届出や排水基準の遵守を義務付けられています。

水質汚濁防止法や瀬戸内海環境保全特別措置法に基づく届出が行われた特定事業場の数は、平成27年3月末現在で26万近くあります。しかしこの中で、BODなどの生活環境項目にかかる一律排水基準が適用される事業場(1日あたり平均排水量50 m3以上)は3万ほどで、特定事業場の大半は、排水規制のない小規模な事業場(1日あたり平均排水量50 m3未満)になっています(表1)。

環境基準達成率(BODまたはCOD)の推移の図

図1 環境基準達成率の推移(河川はBOD、湖沼及び海域はCOD)
注)達成率(%)=(達成水域数/類型指定水域数)×100
出典:環境省「平成29年版環境・循環型社会・生物多様性白書」


表1 排水量規模別特定事業場数(平成28年3月末現 在)
出典:環境省「平成27年度水質汚濁防止法等の施行状況」

環境省「平成27年度水質汚濁防止法等の施行状況」10pの図

特定事業者である比較的大規模な工場や事業場からの排水については、環境基準達成に関してこれまでに一定の成果があがっています。しかし、旅館業や畜産農業、飲食店業、食品製造業などに多い小規模事業場からの排水については、規制がなく、十分な排水処理対策も進んでいないため、水質汚濁の要因として無視できない状況となっています。特に畜産業の施設の9割は排水規制のない小規模施設であり、対策が遅れています。今後さらに公共用水域の水質改善を図っていくためには、従来からの排水規制とともに、これらの小規模事業場からの排水を適正に処理することが重要です。

2.多様な小規模排水処理技術

小規模事業場における排水処理対策を考える場合、具体的な対策としては、既存の排水処理施設に後付けできるものや、メンテナンスが容易にできるなど、小規模事業場が自主的に導入できるような、安価で維持管理が容易な排水処理技術の普及が期待されています。

排水処理技術とは、排水に存在するBODやCODなどとして検出される粒子や溶解物質(有機物など)を水から分離するか、無害な安定した物質(例えばCO2など)に変化させて除去する手段を指し、処理方法は物理処理、化学処理、物理化学処理、生物処理に分けることができます。これまでに開発された小規模排水処理技術には様々なものがありますが、基本的には表2に示す一般的な排水処理方法を利用しています。

例えば、重金属などの有害物質を含む排水については、排出量に関係なく処理が必要となります。その際、人体に有害な成分は、浄化用の微生物の作用を阻害するため生物処理は用いられず、沈降分離装置や膜分離、イオン交換などの物理化学処理を使います。

一方、食堂・厨房や食品工場などから排出される排水は、BODやCODとして検出される生物処理が可能な有機物を豊富に含むため、生物処理が主に用いられています。また、油分が含まれた排水も多いため、これを浮上させて除去する処理方法もみられます。
その他、物理化学処理と生物処理を組み合わせた方法、あるいは事業場排水と家庭排水の処理系統の一本化した排水処理システムなどもあります。


小規模事業場のなかでも、一定程度の規模の食堂・厨房や食品工場などでは、活性汚泥法の設備を備えた施設があります(図2)。活性汚泥法とは、現在広く用いられている代表的な生物処理法で、活性汚泥(酸素を利用して有機物をCO2に酸化する微生物)を用いて排水中の有機物を処理する方法です。活性汚泥には有機物を分解する細菌、細菌を捕食する原生動物など多様な微生物が含まれます。

活性汚泥処理法の基本的な原理。汚水槽(最初沈殿槽とも呼ばれる)では排水中の大きなごみや砂を沈殿させて分離します。排水はばっ気槽に送られ、活性汚泥と混合されます。ばっ気槽に空気(酸素)を送り込む事で、好気性微生物の作用により有機物が分解された排水は、沈殿槽に送られます。沈殿槽では、活性汚泥を沈殿・分離させ浄化された処理水を得ます。
沈殿した活性汚泥はばっ気槽に戻されます。

また、物理化学的な処理装置を既存の設備に併設する場合もあります。ただし、排水の水質を確保・維持するためには、設置費用や設置スペース、管理要員の確保、メンテナンス経費など、事業場への負担も少なくないため、排水処理設備の効率化、省力化、省コスト化を図ることが課題となっています。より小規模な食堂・厨房や食品工場では、グリストラップを設置しています。グリストラップは、飲食業店舗などの厨房からの排水に含まれる油脂類を水と分離して収集する装置です。この装置は、比較的簡便で安価である反面、適正な管理を怠ると、油脂分や残さが浮上して硬化することや、沈殿物の過度の堆積、悪臭の発生、害虫の発生、汚濁排水の流出などにつながるため注意が必要です。

3.省エネ化・低コスト化技術の動向

水処理の分野では、省エネルギー型・低コスト型の新技術が次々に開発されています。ここでは、それらの技術のうち実際の施設に導入・実用化されている7つの技術を紹介します。

1)マイクロ・ナノバブル技術

直径数10マイクロメートルから数100ナノメートル程度の微小な気泡のことをマイクロバブル、あるいはナノバブルといいます。マイクロバブル等をばっ気槽に送ると微生物が活性化し、汚泥物質の分解効率の向上による省エネ効果の発現が期待されます。

参考技術情報:マイクロ・ナノバブル(MNB)発生装置による省エネルギー排水処理(株式会社ナック)

2)油水分離技術、浮上油回収技術

排水処理の初期段階で排水から油分を分離し、生物処理、膜処理などの後段の排水処理過程を軽減します。

参考技術情報:油水分離装置(株式会社日建)

3)活性汚泥処理の処理能力増加技術

活性汚泥を保持する担体を反応タンクに投入し、活性汚泥法により排水を処理します。活性汚泥を高濃度に保持した担体は反応タンク内のみで滞留するので、反応タンク内の活性汚泥を高濃度に保持でき、効率よく処理できます。

参考技術情報:担体投入活性汚泥法/LINPOR PROCESS(一般社団法人日本下水道施設業協会)

4)嫌気性処理

排水を酸素の無い嫌気状態に維持し、嫌気性微生物のみが活動できる環境をつくります。嫌気性微生物によって汚濁物質をメタンや二酸化炭素に分解させます。そのため、好気性処理(活性汚泥法)で必要となるばっ気が不要になるため、排水処理の消費電力を削減出来ます。

5)気液界面放電技術

酸素ガスと接する水の表面に放電することにより「OHラジカル」を発生させ、それにより界面活性剤や農薬など、分解しにくい「難分解性物質」を除去します。OH ラジカルは強力な酸化作用があり、難分解性物質に触れると、CO2 や水(H2O)に分解します。

参考技術情報:気液界面放電技術(三菱電機株式会社)

6)イオン交換膜

イオン交換体を用いて、排水中の溶存イオンを交換し、重金属化合物、アンモニア性窒素、リン酸化合物などの汚染物質を除去したり、有価物を回収したりします。

参考技術情報:イオン交換樹脂とは(三菱ケミカル株式会社)

7)めっき排水からの亜鉛回収

亜鉛めっき 1 次水洗排水の分別処理を行い、亜鉛の濃度の高い排水のみを取り出し、中和沈殿処理により高品位亜鉛スラッジを回収する装置が開発されています。

参考技術情報:平成25年度「福岡県工業技術センター概要と成果」(福岡県)

4.技術の普及に向けて

小規模事業場からの排水の水質を改善することは、公共用水域の水質浄化のために不可欠です。

環境省は、環境技術実証事業を実施し、企業などが開発した技術の普及を図っています。この事業は、すでに適用可能な段階にありながら、客観的な評価がなされていないために利用者が安心して使うことができず、普及が進んでいない先進的な環境技術について、その環境保全効果などを第三者機関(地方公共団体、公益法人など)が客観的に実証するものです。環境技術実証は平成28年11月にISO14034として国際標準化されました。これまでに、再生可能エネルギーや自然地域トイレ、閉鎖性水域の環境改善などの技術分野を対象に実証事業が進められてきました。小規模な排水処理技術についても、平成15年度から実証事業(小規模事業場向け有機性排水処理技術)として実施され、現在は有機性排水を適正に処理する総合的な排水処理技術のほか、特定の汚濁物質の除去を目的とした排水処理技術、汚泥に関する技術などについての実証事業が進められています。

こうした実証事業のほか、行政による広報や支援などにより、水質改善の重要性に対する意識啓発や、事業場の自主的導入が促進されることが期待されています。

引用・参考資料など

<コンテンツ改訂について>
2008年8月:初版を掲載 
2016年7月:改訂版に更新
2019年4月:改訂版に更新