除染のジレンマを初評価・植生回復の速さがポイント 筑波大など
発表日:2022.07.15
筑波大学を中心とする研究グループは、除染による土壌侵食や河川下流域への土砂供給に及ぼす長期的な影響を包括的に評価した。東京電力福島第一原発事故後、国は放射性物質汚染対処特措法(全面施行:2012年1月1日)等に基づき、原発周辺2市6町3村を除染特別地域に指定し、国直轄除染を進めてきた。2012~2017年にかけて農地における「表土剥ぎ取り」等が順次進められ、放射性セシウム(137Cs)の低減が確認された市町村は避難指示解除に至っている。除染を巡っては、技術の不確実性や、地域の自然の多様性への配慮などを指摘する科学者も少なくなかった。137Csのリスクが低減した今日、農地除染等が行われた地域の環境影響評価が喫緊の課題となっている。同研究グループは、2013~2018年までの各種データセット(政府の除染データ、高解像度の衛星画像、同時河川モニタリング結果)と、土地被覆・侵食ポテンシャル・河川の土砂供給(濁度など)の解析に係わる知見を組み合わせ、これまで類のない包括的な除染影響評価を行った。評価対象範囲は、福島県相馬郡の飯舘村と、同村西部を源とし、南相馬市を経て太平洋に注ぐ新田川(にいだがわ)の流域とした。飯館村では2013~2016年にかけて、約2,400 haの農地を含む大規模な面的除染が行われている。今回の解析により、上流域(飯舘村)で土壌の侵食量が増え、下流への浮遊土砂の流出量が2倍(2012年以前比)になったにもかかわらず、懸濁態137Csの濃度が大幅に低下していたことが明らかになった。この現象は、除染によって発現した137Cs低減効果に起因するものと考えられた。また、浮遊土砂の下流域(南相馬市側)への流出量増加はわずか1~2年で収まっていたことが分かった。多角的な解析結果を照らした結果、この現象は、降水量が多く、植生の回復が比較的速やかに進んだこと(以下「自然回復条件」)によって生じたと考えられた。総じて、除染のマイナス効果(土砂流出増)が間接的なプラス効果(懸濁態137Csの低減)によって相殺されるメカニズムにより、海洋に流出する137Csの総量に有意な変化は認められなかった。本研究では、除染などの土地改変を事前評価(計画)する際に、「自然回復条件」を考慮することや緑化対策を準備することが必要であると提言している。河川下流域の「持続可能性」に及ぼす負荷の最小化、に資する知見であるという(掲載誌:Nature Sustainability、DOI: 10.1038/s41893-022-00924-6)。
▲ページ先頭へ
新着情報メール配信サービス
RSS