環境技術解説

水処理膜

 水処理膜とは、µm~nm(10-6~10-9m)規模の細孔を有する水処理用の特殊な膜で、水の中から細孔を通り抜けることのできない不純物を除去する膜の総称である。水処理膜には細孔の大きさによって、MF膜(精密ろ過膜)、UF膜(限外ろ過膜)、NF膜(ナノろ過膜)、RO膜(逆浸透膜)等の種類がある。各分離膜の種類と分離対象となるもの等の関係を下図に示す。
 実際の水処理では、水処理膜はモジュールと呼ばれる装置(ユニット)に組み込まれ、これらのモジュールが組み合わされて1つの処理装置あるいはプラントを構成する。この組み合わせと構造は多様であり、処理を行う原水の水質や用途に応じて、最適化を行うことで幅広い用途に活用されている。特に最近では、海水淡水化、工業排水処理・再生、下水処理・再生等の幅広い分野で適用が拡大しつつあり、今後、水資源の有効利用と水質保全を進めていく上で非常に重要な技術といえる。
 なお、水処理膜分野において、我が国メーカーは技術力、市場競争力ともに世界的に優位な位置にあると言われている。

様々な水処理膜の種類と適用範囲
出典:日東電工(株)「メンブレン(高分子分離膜)の基礎について」をもとに編集
https://www.nitto.com/jp/ja/products/group/membrane/about/

※外部リンクは別ウィンドウで表示します

1.技術の概要

 水処理膜技術は、1960年代以降に開発が進み、1980年代から普及しはじめた比較的新しい技術である。水処理膜では膜面の汚染が問題になるが、各メーカーにより膜面の汚染を抑えるための水処理膜素材の開発が進められ、また、より低圧での膜処理が可能になり、水処理コストが低減された。その結果、水処理膜は、海水淡水化、工業排水処理・再生、下水処理・再生等の幅広い分野で適用が拡大しつつあり、水関連ビジネスの分野で現在最も注目されている素材の1つとなっている。なお、本分野では、我が国メーカーが技術力、市場競争力ともに世界的に優位な位置にある。

1)水処理膜の適用範囲

 水処理膜は、膜の種類を変えることで幅広い分野で活用できる。膜による水処理は、主に純水製造等のプロセス水製造や上水分野で活用されてきたが、比較的高価であり、排水処理分野では再生水製造や有価物回収等の限られた用途に一部使われるのみであった。しかし、最近10年程の間に膜価格が低下してきたことを背景として、様々な水処理分野において、既存手法から膜利用手法へのシフトが始まっており、膜関連事業の拡大が予想される。環境省が実施した環境ビジネスの市場規模予測によれば、環境用途の膜の市場規模は2010年には約80億円で、2020年には約130億円に達するとされている(図1)。

図1 膜ビジネス(環境用途)の市場規模及び雇用規模の現状と将来予測についての推計
出典:環境省「わが国の環境ビジネスの市場規模及び雇用規模の現状と将来予測についての推計について」をもとに作成
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=4132

2)水処理膜の種類

 水処理用の膜は、分離可能な物質のサイズによって主に4種類に分けられており、粗い方からMF膜(精密ろ過膜)、UF膜(限外ろ過膜)、NF膜(ナノろ過膜)、RO膜(逆浸透膜)がある(図2)。
 MF膜は超純水製造や無菌ろ過、ウィルス除去等、UF膜は紙/パルプ工業の排水処理、油水混合物の分離等、NF膜は海水淡水化の前処理であるスケール成分除去、RO膜は海水淡水化等に使われる。なお、下水処理等の生物処理分野では、主にMF膜を水槽中に浸漬させる浸漬型膜分離活性汚泥法(MBR)が用いられる。
 図2は、膜の種類、分離方法と分離対象となるものの種類と大きさの関係を示している。以下に、膜の種類ごとの特徴や利用方法等を示す。

図2 様々な水処理膜の種類と適用範囲
出典:日東電工(株)「メンブレン(高分子分離膜)の基礎について」をもとに編集
https://www.nitto.com/jp/ja/products/group/membrane/about/

(1) MF膜(Micro-Filtration Membrane:精密ろ過膜)

 一般に0.1µm~1µmの範囲の粒子や高分子を阻止する分離膜で、細菌等の懸濁物質、超微粒子の除去、ウィルス・バクテリアの除去、ワイン・ビールなどの無菌ろ過、半導体製造用の超純水製造等に用いられる。また、上水、下水排水の処理再利用等、比較的大量処理を要する分野で活躍している。膜の素材によって高分子膜、セラミック膜等の無機膜に分けられる。
 国内では浄水場における高度水処理技術としての導入が多いが、海外では下水・排水施設での採用が増加している。
 なお、下水処理等の生物処理分野では、図3に示すようなMF膜を水槽中に浸漬させる浸漬型膜分離活性汚泥法(MBR)が用いられる。従来の活性汚泥法では、処理水と活性汚泥の分離を沈殿によって行うが、沈殿による分離効率は活性汚泥の性状によって大きく変動する。MBR法では、処理水と活性汚泥の分離をMF膜によって行うため、汚泥を効率的に分離できるとともに、処理水質も向上するため、下水の再利用が容易になる。また、沈殿槽が不要になり、設備が簡略化できるメリットもある。特に、水不足の深刻な地域で下水・排水再利用ニーズが高まっており、MBRの利用が増加傾向にある。現在では欧米や中国、韓国等が主要な市場だが、今後は中東での普及も期待されている。

図3 従来の下水処理方法とMBR法のフローの比較
出典:前澤工業(株)「膜分離活性汚泥法」

(2)UF膜(Ultra-Filtration Membrane:限外ろ過膜)

 0.1µm~2nmの範囲の粒子や高分子を阻止する分離膜で、MF膜よりも細かい物質を分離することができる。たんぱく質、酵素、細菌、コロイド高分子の除去、繊維・紙・パルプ工業の排水処理、工業用超純水製造等に用いられる。MF膜と同様、高分子膜、無機膜がある。
 MF膜やRO膜市場に比べて規模は小さいが、我が国では、浄水場の高度ろ過、純水・超純水の製造等の分野で利用されている。なお、UF膜は、単独での使用は少なく、RO膜、MF膜との組み合せで利用されることが多いため、今後、MF膜、RO膜の需要拡大に伴ってUF膜の需要も増加すると予想される。
 UF膜の利用は拡大傾向にあるが、他の膜と同様、価格競争が激化している。なお、日本メーカーの多くは大きな市場であるMF膜やRO膜分野への注力度を高めつつあり、世界における日本メーカーのUF膜のシェアは他の膜に比べて小さい。

(3)NF膜(Nano-Filtration Membrane:ナノろ過膜)

 2nmより小さい粒子や高分子を阻止する液体分離膜で、硬度成分の除去、硫酸イオンの除去、海水淡水化のスケール成分除去等に用いられる。MF膜と同様、高分子膜、無機膜がある。

(4)RO膜(Revwerse Osmosis Membrane:逆浸透膜)

 主に塩類の分離除去(脱塩)に用いられる液体分離膜であり、図4に示すように、膜を介して一方に低濃度溶液を、反対側に高濃度溶液を置き、高濃度側に液体の浸透圧よりも高い圧力を加えることにより、溶質(塩類等)は通さず、溶媒だけを透過することができる。海水淡水化、ジュースの脱水、無機塩の分離等が代表的な利用分野である。膜素材は高分子製が一般的だが、耐熱性、耐薬品性に優れた無機材料の製品開発も期待されている。

図4 RO膜の原理
出典:日東電工(株)ニュースリリース(2006年7月14日)

 RO膜市場は最近大きな伸びを見せており、今後も、水資源が限られた地域における海水淡水化事業の増加により、さらなる拡大が予想されている。すでに各社とも海水淡水化用RO膜の増産を開始しており、今後、海水淡水化分野での価格競争、技術開発競争が激化するものと考えられる。海水淡水化における利用実例として、沖縄県の北谷(ちゃたん)浄水場(図5、図6)が挙げられる。
 図5は、同浄水場において海水淡水化処理を行っている逆浸透設備である。写真中の円筒の一つひとつが、独立したRO膜モジュールである。同施設は1日当たり4万m3の水が生産可能である。

図5 海水淡水化施設の心臓部にあたる逆浸透設備
出典:沖縄県企業局「沖縄の水」平成20年度版
http://www.eb.pref.okinawa.jp/jigyou/index.html

 図6は、同浄水場における海水淡水化処理のフローである。原水となる海水は、RO膜によるろ過の前に濁質を取り除いておく(1次ろ過、2次ろ過)。2次ろ過水に圧力(50気圧程度)をかけることで、淡水を造る。海水から造った水はpHが低いため、苛性ソーダを注入してpHを調整する。こうして得られた淡水は硬度が低いため通常は硬度の調整が必要であるが、同施設で造られている河川を水源とする浄水が硬水であるため、ブレンドすることで適切な硬度及びアルカリ度をもった飲料水となっている。

図6 海水淡水化の流れ
出典:沖縄県企業局「沖縄の水」平成20年度版
http://www.eb.pref.okinawa.jp/jigyou/index.html

 また、今後は、下水再生や工業排水再生分野での需要も期待されている。二次処理水の再生プロセスでは前述のMBR(膜分離活性汚泥法)とRO膜の組み合わせが主流となっており、MBRと連動したRO膜利用の拡大も予想される。
 RO膜のメーカーは世界でも限定的であり、日本企業が世界でも大きなシェアを有する。RO/NF膜の世界市場は日本企業と米国企業でほとんどが占められ、日本企業のシェアは世界の約5割を占める。

2.水処理膜の技術開発動向

1)水処理膜に関する技術開発要素

 水処理膜は膜が決定的に重要であることから、膜のメンテナンスと寿命を含めた耐久性の向上が重要である。膜素材やモジュール構造の工夫のほか、膜で補足した濁質の除去方法の改良も進められている。膜そのものではなく、システム全体としての効率化を達成すべく、前処理、併設発電技術(濃度差発電等)等の検討も盛んに行われている。
 なお、日本では1980年から(財)造水促進センターが中心となって、海水淡水化技術の研究開発を進めた。その結果、現在、我が国の有するRO膜に関する技術力は世界的に見ても高いレベルに到達している。今後のさらなるRO膜の性能向上に向け、世界各国の膜メーカーや研究機関が開発競争を展開しており、日本、米国、欧州、シンガポール等、国家プロジェクトとして産学官連携による大規模研究を実施する国も多い。
 また、1991年から進められた「膜を利用した高度浄水システム開発研究(MAC21計画)」により、膜処理の適用範囲が、浄水・下水・排水分野へと大きく広がった。

2)水処理膜モジュールの種類

 通常、水処理膜の実用にあたっては、複数の膜を組み合わせて作った膜モジュールといわれる単体構造物を装置に設置する。装置規模に応じて、膜モジュールの数を増減させるのが一般的である。膜モジュールには用途に応じて以下のような種類がある。表1に各膜モジュールの特徴を示す。

表1 膜モジュールの特徴
項目平膜型チューブラー型スパイラル型中空糸型
耐SS許容性
膜の洗浄性
膜充てん密度(比表面積)
モジュール構成要素のシンプルさ
膜交換の容易さ
用途例高濃度SS含有水同左かん水、海水脱塩同左

出典:『図解 よくわかる水処理膜」日刊工業新聞社

 耐SS許容性は、処理水の中に含まれるけん濁物質(SS)による膜の閉塞の起こりにくさ(つまりにくさ)に関する指標で、後述する平膜型、チューブラー型が優れている。膜の洗浄性は、洗浄による膜の汚れの除去の難易度に関係する。膜充填密度は、モジュール内にどれだけ膜を集積できるかに関係し、充填密度が高いほど装置の小型化も可能になる。

(1)平膜型

  シート状の分離膜を多数重ねて組み立てた構造で、最も早く実用化された。膜の取り替えが用意だが、高い圧力での運転を必要とすることから大型化は難しく、乳業製品、製糖工業等の工業分野で一部利用されている。

(2)チューブラー型

 円筒形の支持体の内側(もしくは外側)に分離膜を接着したもので、食品、塗料回収等の工業分野で用いられている。

(3)スパイラル型

 シート状の膜2枚でシート状支持体をはさみ、円筒状に成型したもので、海水淡水化や超純水製造に用いられている。膜と膜の間に非常に狭い原水の流路があり、微細粒子のつまりを防止するためには前処理での濁質除去が必要である。

(4)中空糸型

 中空糸の形状で製造された膜を束ねて耐圧容器に充填したもので、海水淡水化や超純水製造に用いられている。膜支持体が不要なため、膜モジュールに充填できる膜面積が大きく、コンパクトである。

図7 水処理膜のモジュールの種類
出典:旭化成ケミカルズ(株)「膜の基礎知識」
http://www.asahi-kasei.co.jp/membrane/microza/jp/kiso/kiso_7.html

引用・参考資料など

  • 日東電工(株)「メンブレン(高分子分離膜)の基礎について」
    https://www.nitto.com/jp/ja/products/group/membrane/about/
  • 環境省「わが国の環境ビジネスの市場規模及び雇用規模の現状と将来予測についての推計について」
    http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=4132
  • 前澤工業(株)「膜分離活性汚泥法」
  • 日東電工(株)ニュースリリース(2006年7月14日)
  • 沖縄県企業局「沖縄の水」平成20年度版
    http://www.eb.pref.okinawa.jp/jigyou/index.html
  • 『図解 よくわかる水処理膜」岡崎稔・谷口良雄・鈴木宏明著,2006年9月,日刊工業新聞社
  • 旭化成ケミカルズ(株)「膜の基礎知識」
    http://www.asahi-kasei.co.jp/membrane/microza/jp/kiso/kiso_7.html
  • (独)新エネルギー・産業技術総合開発機構「水ストレス地域における水資源ビジネスの可能性と技術開発課題に関する調査事業」,平成19年3月,委託先:(株)三菱総合研究所
  • 環境技術交流バーチャルセンター「水処理における膜分離技術」(尾崎博明)
(2009年6月現在)