宇宙から浅海域のクロロフィルαを推定する新手法
発表日:2026.03.23
産業技術総合研究所(産総研)と、公立大学 名桜大学(所在地:沖縄県名護市)の研究グループは、国際宇宙ステーション(ISS)に搭載されたハイパースペクトル観測装置「HISUI(Hyperspectral Imager Suite)」のデータを用いて、沿岸の浅海域におけるクロロフィルα濃度を推定する新たな反射スペクトル解析手法を示した。従来の可視波長に基づく手法では、海底反射や陸域由来物質の影響が大きい沿岸域においてクロロフィルα濃度の推定が困難であったが、本研究は近赤外域のハイパースペクトル情報に着目することで、この課題への対応可能性を示した(掲載誌:Journal of Geophysical Research: Biogeosciences)。
HISUIが取得する可視~近赤外域の連続スペクトルをデータマイニングによって解析した結果、沿岸の浅海域において、710 nm付近および800 nm付近に二つの反射ピークが同時に現れる特徴的なスペクトルパターンが検出された。本研究ではこれを「ダブルピーク」と定義し、浅海域におけるクロロフィルα濃度との関係を検討した。多重散乱モデルによるシミュレーションでは、クロロフィルα濃度が高まるにつれて、675 nm付近で吸収が強まるとともに、植物プランクトン由来の散乱・吸収特性と海底反射の影響によって、710 nmおよび800 nm付近に反射ピークが形成されることが示された。
このシミュレーション結果を基に、沖縄本島沿岸を対象としたHISUIデータに解析手法を適用したところ、ダブルピークを示す反射スペクトルは沿岸全体に一様に分布するのではなく、特定の入江やサンゴ礁周辺の浅海域に集中的に分布することが確認された。これらの地点では、現地における分光測定でも同様のダブルピークが観測されており、衛星観測と現地測定との整合性が示された。一方、浅海域であってもダブルピークが検出されない地点では、現地測定においても同様の特徴は確認されなかった。
さらに、複数の沿岸地点で採取した海水試料についてクロロフィルα濃度測定を行い、ダブルピークの強度との関係を比較したところ、クロロフィルα濃度が高い海域ほど、710 nm付近のピーク(ピーク1)の強度が、800 nm付近のピーク(ピーク2)に対して相対的に大きくなる傾向が明らかとなった。ピーク2の強度が主に水深に依存するのに対し、ピーク1はクロロフィルα濃度と水深の双方の影響を受けることから、両者の関係を用いることで水深の影響を分離し、クロロフィルα濃度を指標化できる可能性が示唆された。
本研究は、710 nmおよび800 nm付近に現れるダブルピークを用いることで、従来手法では困難とされてきた沿岸浅海域におけるクロロフィルα濃度推定を、衛星ハイパースペクトル観測により実現できることを示した点に特徴がある。近赤外域の詳細な分光情報を活用することで、外洋向けに設計された従来のクロロフィル推定手法の適用範囲を沿岸域へ拡張する新しい解析アプローチを提示した研究成果と位置付けられる。