底生生物が二役を担う!?「持続的な水産養殖」へのアプローチ 理研と水研機構など
発表日:2022.08.10
理化学研究所、水産研究・教育機構ほか3大学からなる共同研究グループは、養殖場に生息する底生生物の代謝調節機能を電気化学的にモニタリングする技術を確立した。世界人口の増加に伴う未曾有の食糧危機が危惧されている。世界で消費される魚介類の過半が養殖場から供給されており、生産ポテンシャルも高いことから、水産養殖は食料安定供給の“切り札”と見られている。他方、いけすやいかだなどの施設を使う養殖(海面養殖)をはじめ、現在、沿岸域で行われている養殖による環境負荷の増大が懸念されている。慣行的に行われている「過剰な給餌」が有機物の蓄積をもたらし、底生生態系に悪影響をおよぼすことから、持続可能性の観点における養殖の評価は決して高くない(評価指標項目:富栄養化状態、赤潮の発生頻度など)。このようなことから、同研究グループは、生体機能触媒・環境代謝分析と底生動物の環境浄化能力に関する知見を融合し、ユニークな課題解決手法を考案した。海面養殖場の底質に年間を通じて生息している海産貧毛類「ヒメナイワンイトミミズ(学名:<i>Thalassodrilides cf. briani</i>)」を用いて、底生生態系の「レドックス恒常性」を把握するものである。レドックス恒常性とは、生体内の酸化還元状態に応じてタンパク質の酸化還元状態を調節することにより代謝系を制御する仕組み。先行研究の成果を踏まえ、さまざまな工夫を施し、ヒメナイワンイトミミズ(以下「モデル底生生物」)が作り出す電気シグナルを計測した。その結果、栄養添加に伴うレドックス恒常性の応答追跡が可能となり、「過剰な給餌」による底質の変化や、微生物が関与する底質のヘドロ化をモニタリングできることが明らかになった。本研究ではさらにモデル底生生物の代謝系を解析し、給餌による環境電位の増減に伴う呼吸方法や行動の変化を明らかにしている。同種は、電位が正ならば尻尾を海水に突き出し、負ならば底質に体全体を埋める。このことから、同種の行動と代謝を人為的に制御できる可能性が示唆され、底生生物を環境監視・環境浄化の両面で活用できると考えられた。SDGs目標2、6、14に貢献するグローバルな応用展開が期待できるという。
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