環境技術解説

下水道

下水道は、人々の生活及び様々な産業活動によって発生した汚水および家や道路に降った雨水を流す下水管路網と、下水管路網で集めた下水(汚水と雨水を合わせて下水と言います)を処理して環境へと戻す処理施設(下水処理場)とで構成されます。

下水処理の方法は、日本では主に好気性生物を利用する標準活性汚泥法が用いられているほか、小規模下水処理施設を中心に多様な手法が適用されています。また、近年では、活性汚泥法と膜を併用した効率的な固液分離技術の適用が拡大しているほか、富栄養化対策が急務の地域では高度処理の適用が進んでいます。

一方で、下水処理には、いくつかの課題があります。その一つは、雨天時に未処理水が自然環境に放流される恐れのある、合流式下水道の改善です。また、下水管の新たな埋設には莫大な費用がかかるため、代替技術が開発されています。さらに、先に述べた富栄養化対策として、高度処理の導入や環境基準の見直しなどが実施されています。

※掲載内容は2017年3月時点の情報に基づいております。
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1.下水道の現状

日本下水道協会によれば、平成26年度末の全国の下水道普及率平均は77.6%です。人口規模の大きな都市の下水道普及率は高く、100万人以上の都市では普及率99.1%。一方、人口5万人未満の市町村の下水道普及率は49.6%と全国平均を大きく下回っていますが、平成17年度末の39.3%と比べると整備が進んできました。

日本には約2,200カ所(平成22年末)の下水処理場があります。下水処理場での処理は、一次処理、二次処理、高度処理からなります。

一次処理
下水から固形物を除去する処理で、大きなゴミなどを網や柵で取り除くスクリーン、砂を沈めて除去する沈砂池、泥などを沈めて除去する最初沈殿池があります。
二次処理
微生物によって下水中に含まれる有機物を除去する処理です。
高度処理
有機物と浮遊固形物の除去性能をさらに向上させ、もしくはこれらの除去と同時に窒素やリンなどの栄養塩を除去する処理を指します。

日本の下水処理場における一般的な二次処理方式は、比較的大規模(計画晴天時日最大処理水量(※)1万m3/日以上)の下水処理施設では標準活性汚泥法を中心とする好気性生物処理法、比較的小規模(同1万m3未満)ではオキシデーションディッチ法です。また、二次処理と同時に高度処理を行う嫌気無酸素好気法も導入されています。

※合流式下水道は、雨天時には雨水が流入し水量が増加するため、下水処理場は雨水を含まない晴天時の汚水量を基準として計画します。

2.下水処理技術の概要

ここでは、下水処理技術のうち、二次処理の要素技術を解説します。

[環境技術解説] 富栄養化対策(発生源対応)
高度処理(窒素およびリンを除去する処理および、有機物の除去性能をさらに向上させる処理)については、こちらの解説を参照してください。

1)好気性生物処理法:浮遊生物法

好気性生物処理法とは、下水中の有機物を栄養分として成長する微生物の作用により、有機物を吸収・分解して除去する方式です。下水中の有機物を栄養分として成長する微生物は、バクテリア(細菌類)、原生動物、後生動物など、1μm程度から数百μm(1μmは1mmの1000分の1)までの様々な大きさの生物で構成されています。

好気性生物処理法には、表1に示すように、浮遊生物による処理と、固体表面に付着している微生物によって処理を行う生物膜法とがあり、下水処理方法としては浮遊生物法が主流です。

[環境技術解説] 浄化槽
生物膜法については、こちらの解説を参照してください。

表1 主な好気性生物処理方式の分類
分類 生物処理法
浮遊生物法 標準活性汚泥法
活性汚泥変法 ステップエアレーション法
酸素活性汚泥法
長時間エアレーション法
オキシデーションディッチ法
回分式活性汚泥法
活性汚泥変法(高度処理) 循環式硝化脱窒法(窒素除去)
消化内生脱窒法(窒素除去)
嫌気無酸素好気法(窒素・リン除去)
嫌気好気法(リン除去)
固着生物法(生物膜法) 回転生物接触法
散水ろ床法
接触酸化法
好気性ろ床法
固定化微生物法

浮遊生物法では、活性汚泥と呼ばれる微生物の集合体を下水中に浮遊させ、下水中の有機物を吸収・分解させます。活性汚泥が成長し大きくなると下水中を沈降する速度が速まり、沈殿により分離することができます。こうして下水中の有機物は活性汚泥として分離され、沈殿後の上澄み水は有機物が取り除かれた処理水となります。

図1は、活性汚泥微生物の例です。左は、有機物を吸収、吸着して分解する細菌で、活性汚泥生物の中心的役割を担っています。右は、浄化状態が安定した頃に出現する原生動物です。

図1 活性汚泥微生物の例
左:Zoogloea ramigera (ゾーグレア ラミゲラ) 細菌類 1.0~1.5μm
右:Thecamoeba verrucosa(テカアメーバ ベルルコーサ) 肉質虫類・アメーバ目 100~200μm
出典:日本下水道施設業協会「活性汚泥動物園」
http://www.siset.or.jp/doc/doubutsu/top.htm

浮遊生物法のうち、最も多く採用されているのは「標準活性汚泥法」ですが、処理場の規模や立地条件などに対応するため、「長時間エアレーション法」、「オキシデーションディッチ法」、「回分式活性汚泥法」なども実用化されています。

標準活性汚泥法

標準活性汚泥法のプロセスを図2に示します。下水中の有機物を活性汚泥により酸化分解するためのエアレーションタンク(曝気(ばっき)槽)と、活性汚泥を重力分離するための沈殿池とを組み合わせたプロセスが基本となります。エアレーションタンク内での下水の滞留時間は6~8時間に設定され、その値を基にエアレーションタンクおよび最終沈殿池の面積などが設計されています。

図2 標準活性汚泥法の概念図

エアレーションタンクでは、下水と活性汚泥の混合が行われ、浮遊固形物の吸着と溶存有機物の微生物体内への吸収により、下水中の有機物が活性汚泥中に取り込まれ、空気の泡を送り込むエアレーションによって供給される溶存酸素を利用して、取り込んだ有機物の酸化と微生物の増殖が起きます。増殖した細菌などは自己酸化(体内に取り込んだ有機物を呼吸によって消費し、菌体量が減少すること。内生呼吸ともいう)するとともに、原生動物などによって捕食されます。

活性汚泥は微生物が生産する高分子によって凝集し、最終沈殿池における重力沈降によって清澄な上澄みの処理水と分離されます。最終沈殿池に沈降した汚泥は、エアレーションタンク中の活性汚泥濃度を一定に保つためにエアレーションタンク内に返送され、残りは余剰汚泥として系外に排出されます。処理水は、塩素などで殺菌した後に環境中へ放流されるか、一部は工業用水などとして再利用されています。

[環境技術解説] 汚泥処理・資源化
下水汚泥の処理・資源化については、こちらの解説を参照してください。

[環境技術解説] 雨水・再生水利用
下水再処理水の再利用については、こちらの解説を参照してください。

長時間エアレーション法

長時間エアレーション法とは、エアレーションタンク内での滞留時間を16~24時間と長く設定することにより、活性汚泥の自己酸化を促進させ、結果的に余剰な活性汚泥の発生を減少させることを目的とした方法です。維持管理の手間が少ないため、比較的小規模な下水処理場に適用されます。

オキシデーションディッチ法(OD; oxidation ditch)

オキシデーションディッチ法のイメージを図3に示しました。周回水路に下水を注入し、機械攪拌で循環させながら好気的に処理する方法で、通常、最初沈殿池は設置しません。流入下水の量・質の変動に影響を受けにくく、維持管理が容易ですが、広い敷地が必要であることから地方都市などの規模の小さな処理施設で多く採用されています。

図3 オキシデーションディッチ法のイメージ
出典:神鋼環境ソリューション「オキデーションディッチ」
http://www.kobelco-eco.co.jp/product/gesui/ditch.html

回分式活性汚泥法(SBR; Sequencing Batch Reactor)

回分式活性汚泥法のイメージを図4に示します。これはエアレーションタンクと最終沈殿池の機能を1つの反応槽に集約したもので、活性汚泥の入った反応槽に、[1]下水流入、[2]ばっ気処理、[3]沈殿分離、[4] 上澄み(処理水)の排水を順次行います。流入下水の質や量の変動に対応して反応時間を自由に設定できるのが特徴です。また、曝気・停止を繰り返すという処理プロセスに対応して、目詰まりのない水中曝気装置や、沈殿汚泥を巻き上げない上澄水排出装置が開発されています。

図4 回分式活性汚泥法のイメージ
出典:畜産環境技術研究所「回分式活性汚泥法」
http://www.chikusan-kankyo.jp/osuiss/kiso/0033.htm

2)その他関連技術

固液分離法: 膜分離活性汚泥法(MBR; Membrane Bio Reactor)

最も一般的な下水処理方法は活性汚泥法ですが、活性汚泥法では汚泥と処理水との固液分離を重力沈降によって行います。この固液分離プロセスをMF膜やUF膜を用いた膜分離プロセスに置き換えたものが膜分離活性汚泥法(MBR)です(図5)。沈殿処理に代えて膜分離処理を導入することで、[1]高濃度の活性汚泥が分離できるため、エアレーションタンク(図では曝気槽)の活性汚泥濃度を高めて自己消化(活性汚泥微生物の死滅および分解)を促進させ、余剰汚泥の発生量を低減でき、[2]浮遊物質も除去できるため、処理水質が良い、[3]確実な固液分離ができるため、バルキングの心配がなく運転管理が容易である、などのメリットがあります。

図5 膜分離活性汚泥法のイメージ(上)活性汚泥法(下)MBR
出典:東レ(株)より提供
http://www.toray.co.jp/

近年、MBRは世界市場で適用事例が増えており、処理水質の良さから再生利用の目的でも活用されています。

[環境技術解説] 水処理膜
水処理膜については、こちらの解説を参照してください。

(参考)BOD-MLSS負荷

膜分離活性汚泥法は、標準活性汚泥法と比較して活性汚泥濃度を高くできるため、同じ排水を処理する場合、活性汚泥量あたりの有機物量が少なくなります。すなわち、以下の式で表されるBOD-MLSS (Mixed Liquor Suspended Solid;活性汚泥浮遊物)負荷量が小さくなります (分子が同じなら、分母が大きいと値は小さくなる)。

(1日あたりの下水流入水中の有機物量[kg/日])/(エアレーションタンクの活性汚泥量[kgMLSS])

この値は、「1日に単位重量当たりの活性汚泥微生物に与えられる有機物量」と解釈できます。従って、活性汚泥濃度が高いほど、この値が小さくなり、排水中の有機物の摂取および分解が速やかに進み、分解する有機物が無くなった活性汚泥は、自己酸化し、さらには自己消化して、体積が減少します。

酸化池・ラグーン

酸性池・ラグーン(安定池)とは、素掘りの池に下水、下水二次処理水などを貯めて、自然界に存在する様々な浄化作用(微生物による分解、植物による栄養塩の取り込みなど)を活用して浄化する施設です。

広大な敷地面積を必要とする一方、建設費、維持管理費が他方式に比べて圧倒的に安価であるという特徴があります。日本では適用例がほとんどありませんが、広大な面積を有するアメリカや、アジア圏の小規模自治体で一般的な手法です。なお、ラグーンは、生物処理の形態によって、好気性、嫌気性、好気性-嫌気性に分けられます。

3.技術を取り巻く動向

1)合流式下水道雨天時越流水(CSO; Combined Sewer Overflow)への対応

東京都のように、1970年以前に下水道整備をした都市では、合流式下水道が多くなっています。これは、下水と雨水が同じ管を通って下水処理場に流入し、処理されるという方式です。この方式は、一本の管で下水と雨水を処理できるので、工事費用を抑えることができますが、雨天時には下水処理場の処理能力を超える水量が一時的に発生してしまうため、排水に簡易な処理を施しただけ(あるいは未処理)で環境中へ放流しなければなりません。この中には、家庭や事業所からの排水に含まれる油分や汚物が下水管に付着した固形物が含まれていたため、雨天時に放流先の環境水質が悪化していました。なお、これらの固形物が放流・漂着されたものが、オイルボール(図6)と考えられています。

図6 お台場に漂着したオイルボール
出典:東京湾再生プロジェクト「東京湾再生プロジェクトの経緯」
http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KANKYO/TB_Renaissance/RenaissanceProject/Background.htm

1970年に下水道法が改定され、「公共用水域の水質の保全」が明文化されたことで、それ以後整備された下水道はほとんどが下水と雨水を分ける分流式です。しかし、それ以前に整備した合流式下水道を分流式に変更することは、莫大な工事費用や、新たな管(雨水管)を埋設する場所の確保、宅地の排水の分流化などが必要になることから、実現は難しくなります。そこで、分流式下水道への変更以外の方法での改善事業も進められています。

図7は、東京都の改善方法です。雨水が集まる「雨水吐室」内の越流せきをかさ上げし、雨天時に未処理で放流される排水の量を減らしています。水再生センター(下水処理場)での処理量を一時的に超える分の排水は、地下の貯留施設に溜め込み、降雨後の余裕があるときに水再生センターへ送って処理します。さらに、未処理下水及び簡易処理水に対して、短期間で消毒ができる臭素消毒設備を整備するなど、未処理水の環境流出を極力抑えています。

図7 合流式下水道の改善イメージ
出典:東京都下水道局「東京都の下水道2003―これからの下水道事業の取組方針(合流式下水道の改善)」
http://www.gesui.metro.tokyo.jp/business/kanko/kankou/2003tokyo/11/

2) 高度処理による富栄養化物質への対応

東京湾や瀬戸内海、琵琶湖のような閉鎖性水域では、河川から流入する窒素およびリンが、富栄養化をもたらす主な原因のひとつとして問題となっています。富栄養化が急速に進むことで植物性プランクトンが増殖し、赤潮やアオコなどにより漁業への被害や水質・景観の悪化など問題が起きています。標準活性汚泥法では窒素およびリンの除去は難しいため、そのような水域に処理水を放流する下水処理場では高度処理が進められています。

[環境技術解説] 富栄養化対策(発生源対応)
窒素およびリン除去については、こちらの解説を参照してください。

3) 高度処理水の再利用

高度処理水は、水洗トイレ用水、親水公園のせせらぎ用水、融雪用水、電車の洗浄などに再利用可能であり、近年、水資源有効利用の観点からも普及が進んでいます。

[環境技術解説] 雨水・再生水利用
高度処理水への再生のしくみや用途については、こちらの解説を参照してください。

引用・参考資料など

[1] 財務省. "総括調査票(33)下水道事業". 平成28年度予算執行調査結果. 2016,
http://www.mof.go.jp/budget/topics/budget_execution_audit/fy2016/sy2806/33.pdf, (参照 2017-02-20)

[2] 国土交通省. "下水道事業の現状",
http://www.mlit.go.jp/common/000233247.pdf, (参照 2017-02-20)

[3] 高度処理ナレッジ創造戦略会議. "高度処理ナレッジ集~既存施設を活用した段階的高度処理の取り組み~". 2013,
http://www.mlit.go.jp/common/001033454.pdf, (参照 2017-02-20).

[4] 日本下水道協会. "下水道の情報共有ページ".
http://www.gk-p.jp/gkp2/index.html, (参照 2017-02-20)

[5] 日本下水道施設業協会. "活性汚泥動物園 動物園入り口(一覧表)",
http://www.siset.or.jp/doc/doubutsu/top.htm, (参照 2017-02-20).

[6] 神鋼環境ソリューション. "オキデーションディッチ",
http://www.kobelco-eco.co.jp/product/gesui/ditch.html, (参照 2017-02-20).

[7] 畜産環境技術研究所. "回分式活性汚泥法",
http://www.chikusan-kankyo.jp/osuiss/kiso/0033.htm, (参照 2017-03-30).

[8] 東京湾再生プロジェクト. "東京湾再生プロジェクトの経緯",
http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KANKYO/TB_Renaissance/RenaissanceProject/Background.htm, (参照 2017-02-20).

[9] 東京都下水道局. "東京都の下水道2003―これからの下水道事業の取組方針(合流式下水道の改善)",
http://www.gesui.metro.tokyo.jp/business/kanko/kankou/2003tokyo/11/,(参照 2017-02-20).

(2017年3月現在)
2010年1月:掲載
2017年11月7日:更新