野尻湖における外来魚と在来魚の水草利用戦略
発表日:2025.05.23
富山大学を中心とする研究グループは、長野県野尻湖において、水草が魚類の行動や生態系に与える影響を調査した。野尻湖では1990年代以降、外来魚であるコクチバスが定着しており、在来魚への捕食圧が問題視されている。研究では、ラインセンサスと水中ビデオ観察を用いて、水草の密度と魚類の分布・行動の関係を分析した。
調査の結果、水草の密度が高い場所では、在来・外来を問わず魚類の密度が増加する傾向が確認された。一方で、水草が多い環境では、魚類全体の採餌回数が減少することも明らかとなった。特に注目されたのは、当歳魚(ヨシノボリとブルーギル)の行動変化である。捕食者が存在しない場合、これらの稚魚は水草の上層で活発に採餌していたが、コクチバスのような捕食者が存在すると、水草の茎に近づき、採餌頻度を下げる行動に移行した。
この結果は、水草が魚類の採餌活動を抑制する一方で、特に小型魚にとっては捕食回避のための重要な隠れ場所となっていることを示唆している。また、外来魚であるブルーギルの稚魚も水草を利用しており、さらにはコクチバスが水草群落を待ち伏せの場として活用している様子も観察された。
研究グループは、水草による生息空間の複雑化が在来魚にとって有益であると同時に、外来魚にも利用され得るという二面性を指摘している。今後は、魚種や栄養段階ごとの水草利用の違いを踏まえた長期的なモニタリングが、生態系管理において重要になると考えられる。
本研究成果は、2025年5月22日付で国際誌『Freshwater Biology』に掲載された。