生研ら、全球海洋モデルでALPS処理水のトリチウム分布を予測
発表日:2025.07.02
東京大学生産技術研究所(生研)、福島大学、海洋研究開発機構(JAMSTEC)および国立極地研究所の研究グループは、福島第一原子力発電所から放出される処理水に含まれるトリチウムの海洋中濃度分布を、全球海洋モデルを用いて長期的にシミュレーションした結果を発表した(掲載誌:Science of the Total Environment)。
本研究では、東京電力が公表しているALPS処理水の放出計画を踏まえ、全球海洋大循環モデル「COCO4.9」を用いて、2023年から2099年までのトリチウムの移流・拡散を予測している。その結果、放出地点から25km以遠では、自然由来や他の人為的発生源による背景トリチウム濃度が0.03〜0.2 Bq/Lであるのに対して、ALPS処理水由来の濃度上昇は0.1%以下と極めて小さく、検出限界以下であることが示された。さらに、地球温暖化による海洋循環の変化や、海洋渦による拡散促進効果を加味した予測においても、それらの濃度への影響は限定的であり、WHOの飲料水安全基準(10,000 Bq/L)を大きく下回る水準にとどまることが確認された。
発表者のコクヮン アレクサンドル特任助教は、宇宙線と大気の相互作用による天然トリチウムの研究を通じて、今回のモデルが日本の放射性物質の挙動にも応用可能であると述べており、今後は大気と海洋の相互作用を含めた水循環全体の理解を目指すとしている。